福岡の3大うどんと言われる「ウエスト」「牧のうどん」「資さんうどん」。その人気はもはや全国区だが、みなさんは「博多やりうどん」のことを忘れてはいないだろうか?!
熱々のスープは力強く、かつ上品に香りを放つ。ツヤのある麺はやや細めで、ふんわりとした口当たり。もっちりと艶やか、そのうえコシも兼ね備えている。このおいしさにはいったいどんな秘密が隠されているのか。福岡を代表する老舗うどん店の魅力に迫るために、エヌカケル編集部は現場へ向かった。
株式会社西鉄ストア
商品本部 商品開発部 課長代理
兼 フード事業本部 営業第一部 商品開発課 課長
レストラン事業部で「レストランプラザ」や「ぎおん茶屋」等、数々の店舗を歴任後、商品開発担当に。
株式会社西鉄ストア
営業第一部 営業第二課 課長
入社以来、約20年ミスタードーナツ事業に携わる。2019年より博多やりうどんを担当。
株式会社西鉄ストア
フード事業本部 営業第一部 営業第二課
博多やりうどん福岡店 店長
リンガーハット、きどりやの店長を経て博多やりうどん福岡店の店長に。
丼からはみ出す特大のごぼ天や、「白いカレーうどん」。「博多やりうどん」と言えば、インパクトあるビジュアルの商品が思い浮かぶ。「白カレーうどん」のSNS人気をきっかけに、若い世代のファンも増えてきたようだ。
1967(昭和42)年に開業してから55年。福岡の老舗の実力と魅力を、あらためて掘り下げるぞ! さっそく、エヌカケル編集部は西鉄福岡(天神)駅改札すぐにある「博多やりうどん 福岡店」へ。店舗を運営する株式会社西鉄ストアの3名に詳しく話を聞いた。
「博多やりうどん」の魅力についてあらためて知りたいと思っています。さっそくですが、麺とスープについて教えてください。
うどん麺は外部の工場に製造をお願いして、冷凍で仕入れています。福岡県産の「ニシホナミ」を使ったオリジナルの配合です。この配合にたどり着くまでにはけっこう試行錯誤しましたよ。
スープはどうしているんですか?
スープはですね、実は店内仕込みですよ。ねっ、店長?
ええ、そうですね。うちで作っています。
えっ! ここで?!
そうですよ。毎朝6時ごろから昆布やかつお節でだしを取って、できたてのスープを提供しています。
「チェーン店=工場仕込み」のイメージが強かったので驚きました。店内で丁寧にダシをとっているんですね。
まずは昆布を漬け込んで、40分かけてゆっくりだしを取ります。同じように、かつお節も20分間。それぞれの一番だしを、独自の配合のあごだしと合わせています。
どんな素材を使っているのでしょうか?
長崎・平戸産の焙煎焼きあごや鹿児島・枕崎産のカツオ、熊本・天草産のウルメイワシや熊本・牛深産のサバなど、九州産の素材を厳選しています。
めちゃくちゃこだわってますね。それにしても、毎朝店舗でスープを取るって大変じゃないんですか?
正直に言うと……けっこう大変です(笑)。でも、やはりこうじゃないと今の味は出ないんです。
日によって味がブレることはないんですか?
作り方が決まっているので、時間さえきちんと測っておけば味のブレはほとんどありません。現場が大変なのはわかっていますが……。お客さまにおいしいスープを届けたい。その一心です。
特大の「ごぼ天」についても聞かせてください。この形状は昔から?
「博多やりうどん」は2016年にブランドリニューアルを実施しました。この「ごぼ天」はその際に誕生した新名物です。
そうでしたか。それにしても……長いですよね?!
32cmあります。
そもそも、なぜ「やり」なんですか?
福岡藩の武士たちが歌っていたとされる「黒田節」の一節に、「酒は呑め呑め呑むならば 日の本一のこの槍を 呑みとるほどに呑むならば これぞまことの黒田武士」とあります。これにちなんで槍を模した「名物!博多やりうどん」が誕生し、その後「天下三槍うどん」が登場しました。
黒田藩が由来だったんですね!
母里太兵衛(もりたへえ)が福島正則から呑み取った名槍「日本号」の長さが10尺6分余(321.5cm)だったことから、やりうどんのごぼ天(槍)もこの長さを1/10にしようと決まりました。
なるほど、だから32cmなんですね。ちなみに、ごぼうはカットした状態で仕入れるのでしょうか?
いえいえ、1本の状態のまま仕入れて、すべて店でカット・調理しています。
やはり、店内仕込みなんですね……。それも手がかかりますよね?
はい。ごぼうって固いので、切るのにかなり力がいるんですよ。大量に仕込んでいると手や腕がけっこう疲れます(笑)。
仕込みの様子が気になるので、調理している様子を見せてもらってもいいですか?
もちろん、いいですよ!
ごぼうをきれいに洗った後、定規で長さを合わせてカットします。32cmにカットした後は、さらにそれを3、4本に分けます。
ごぼ天専用の定規! 何本に分けて切るかは、正確には決まってないんですか?
ごぼうの太さによって切り方を調整しているので、仕入れ次第なんです。ごぼう自体は1年を通して全国から仕入れていますが、太さはバラバラなので……。
ごぼう1本1本に合わせて、切り方を変えているんですね……。
この後も手作業は続きます(笑)。カットしたごぼうに天ぷら粉をまぶして、1本ずつ揚げていきます。
揚げ置きはしないんですか?
基本的には、どの料理も注文が入ってから調理に入ります。食事のピーク時はある程度ストックすることもありますが、その場合でも必ず2度揚げして熱々の状態で提供しています。
スープとごぼ天だけでもかなりの驚きだが、「博多やりうどん」の徹底ぶりはこれだけではなかった。
まさか、サイドメニューも手作りされているとか……?
セットで提供するかつ丼のかつや天丼の種も、素材を仕入れて店内で仕込み、衣をつけて調理しています。いなり寿司やかしわおにぎりも店内調理です。
なんと!となると、おつまみメニューも?
「厚焼き玉子」は1本ずつていねいに巻いて、「きゅうりの1本漬け」も店内で漬けこんでいます。
ここまで徹底した努力を続ける理由は?
サイドメニューのかつ丼と天丼は、一時メニューから外したこともあったんです。でも、常連のお客さまから復活のご要望がたくさん届いてですね……。やっぱり、お客さまの声にはかないませんよ。私たちも、おいしいものを食べていただくのがいちばんですから。
現場は大変ですが、スープは特に香りが命です。その他のメニューもお客さまの笑顔やうれしい声を糧に、毎日お店に立っています。
店内仕込み・手作りを貫く味への想いと企業努力。これこそ「博多やりうどん」の最大の魅力に違いない。これぞ福岡。やっぱり、博多やりうどんが大好きです。
自慢のだしを使った定番のうどんはもちろん、「博多やりうどん」には季節限定メニューも登場する。SNSで若い世代に話題となった「白いカレーうどん」もそのひとつ。「博多やりうどん」のメニュー開発についても話を聞いた。
商品開発は何名くらいのチームで?
課には数名いますが、基本私が店長と相談して決めることが多いですね。
まさかの少数精鋭!
「白いカレーうどん」はどのようにして生まれたのでしょうか。
最初にヒントを得たのは上司の韓国出張の際の情報です。それから東京でもいくつかのヒット商品を研究し、何かおもしろい商品を作れないかと考えました。白いクリーム部分は一見スイーツのようにも見えますが、実はマッシュポテト。このギャップを楽しんでもらおうと思いました。
うどんにマッシュポテトって、すごいアイディア。おもしろいですね。
販売を開始したのは2018年です。SNSをきっかけにメディアでも多数取り上げてもらいました。
さすが、田中店長です。大ヒット商品になりました。
写真を撮ってアップしてくれる若い女性客が増えるなど、新たな客層にお店を知ってもらえるきっかけになりました。
このほか、宮崎名物の辛麺と韓国料理をヒントに開発した「旨辛饂飩」(760円)は、期間限定ではあるが2年前からすでに数回登場。チーズや揚げもちのトッピング、10段階の辛さ変更(最大+70円)も好評だ。
私はもっぱら「10辛」です。辛い者好きの方にぜひ試してほしいですね。あと、欠かせないのが「追い飯」です。かけうどんを頼む時も、雑炊みたいに味わえるので、2度楽しめます。
1967(昭和42)年12月、西鉄北九州線折尾駅で開業した「やりうどん」は、実は「ウエスト」「牧のうどん」「資さんうどん」より長い歴史を持つ老舗。
1969(昭和44)年8月に西鉄天神大牟田線福岡(天神)駅に出店。久留米・花畑や北九州・三ヶ森などにも出店し、ピーク時の1974年には北九州・福岡で17店舗を展開していた。
現在運営するのは株式会社西鉄ストアだが、昨年経営統合するまでは、売店・レストラン事業をおこなっていた西鉄プラザが運営にあたっていた。西鉄プラザは「やりうどん」とは別にうどん店「はち屋」を経営していたが、2016年の店舗リニューアルを機にブランドを一本化。
店舗・商品を一新し、西鉄福岡(天神)駅にある「やりうどん福岡店」と福岡空港ターミナルビルにある「博多やりうどん別邸」として生まれ変わった。「博多やりうどん別邸」では、博多華味鳥を使ったメニューや福岡の地酒なども楽しめる。
なお、西鉄久留米駅にあった「博多やりうどん 久留米店」は、駅舎の耐震補強工事に伴い、
2022年8月28日(日)に一時閉店。工事完了後、2023年夏再オープンの予定だ。
徹底した店内仕込みに、一番だしの上品な香り。これだけでも十二分に魅力的な「博多やりうどん」だが、最後にもうひと押し。担当者のみなさんにもおすすめのメニューや食べ方について聞いてみることにした。
私のおすすめは「ごぼ天うどん」(520円)に「ごぼ天」(130円)をトッピングです。「やり」のごぼ天じゃなくて短冊切りの「ごぼ天」のほうですよ。
ごぼ天onごぼ天うどん! かなりツウな頼み方ですね。
長いごぼ天とは異なる食べごたえがあって好きですね。私のようにしっかり食べたい派の方には「肉ごぼう天」(770円)+「ごぼ天」もおすすめです(笑)。
商品開発担当としては、やはり新メニュー・限定メニューに注目していただきたいですね。今期は「健康」を商品開発のテーマにしていて、10月にはカゴメと共同で開発した「トマトうどん」が新しく登場したばかり。野菜をたっぷり使ったヘルシーな一杯です。
また、健康と言えば、七穀麺や糖質40%オフ麺に変更することもできます(+100円)。こちらもぜひ試してみてください。
糖質40%カット! 実際、味はどうなんですか?
正直、通常時に提供する小麦粉の麺とそれほど変わらないんですよ。
なんと! 今度試してみます。
私は「牛肉うどん」が好きですね。牛肉の煮込みはもちろん店内仕込みで、ボリュームたっぷり。常にトップを争う人気メニューです。
ちなみに、その他の人気メニューは?
普段使いされるお客さまに人気なのは「ごぼ天うどん」です。「ごぼ天」と「牛肉」は圧倒的な人気ですね。あとは、「ゆずごしょう」もおすすめです。味変アイテムとしてぜひ試してください。
もしかして、「ゆずごしょう」もオリジナルとか?
はい。大分のゆずを使用した液体ゆずごしょうで、さわやかな香りが特徴です。生の青唐辛子を使っているので辛味もフレッシュ。おつまみメニューを食べる時も大活躍で、お酒が進みますよ!
博多やりうどんは、うどんだけではなく、チョイ飲みメニューの充実も大きな魅力だ。
取材を終えた私たちは、そのまま「博多やりうどん」で乾杯~!
おつまみメニューは「ポテトサラダ」(180円)や「丸天揚げ」(280円)、「ちくわ磯部揚げ」(290円)、「宮崎産の鶏の炭火焼」(380円)など、ほとんどのメニューが180円から390円という、駅ナカとしては驚きの価格帯。あの32cmの「ごぼ天」も2本入りで楽しめるのだ。
ドリンクは生ビール・瓶ビール・ハイボールのほか、焼酎(芋・麦各410円)・日本酒(460円~)を用意。大きな盃で名槍・日本号を獲得した黒田武士にオマージュを捧げるとすれば、やはりここは日本酒か……?!
地酒は福岡の「繁枡」、佐賀の「東一」(各610円)、そのほか「雪中梅」(新潟)、「一ノ蔵」(宮城)、「九頭龍」(各460円)といった銘酒がお得な値段で味わえて得した気分!
もちろん締めには、温かいうどん。スープの香りと旨みが身体中に染みわたる……。飲みすぎた翌朝に「朝うどん」するのもいいな~。
西鉄福岡(天神)駅まで歩いてすぐ。安心して飲み過ぎないよう気を付けなければ!