九州最大の繁華街――、福岡・天神。この街の中心に位置する「西鉄福岡(天神)」駅は、始発から終電まで毎日10万人近くが行き来する主要駅だ。
ここから徒歩0分で直結しているのが、「ソラリアプラザ」と「ソラリアステージ」。
ソラリアプラザは開業以来、「天神一のファッションビル」として愛されてきた。九州でここにしかないお店もあり、県内外から多くのお客さまが訪れている。
そしてソラリアステージは充実した飲食店の選択肢の多さが魅力だ。今やグルメ観光地と化している「ひょうたんの回転寿司」に、福岡のカレー好きがこぞって通う「不思議香菜 ツナパハ+2」、博多うどんを代表する「因幡うどん」など……。福岡で指折りの名店が軒を連ね、ランチタイムやディナータイムにはどの店にも列ができている。
なぜここまでの人気店が集ったのか――。その裏には、テナント誘致に欠かせない西鉄社員・リーシング部隊の活躍があった。
西日本鉄道株式会社
都市開発事業本部 営業部
リーシング担当 係長
2013年入社。1、2年目は天神コアで営業を経験し、3年目からソラリアプラザのリーシングを担当。その後、福岡空港での店舗管理や西鉄本社での広報担当を経て、現在は天神エリアの商業施設リーシングを統括する係長として、ソラリアプラザ・ソラリアステージや旧大名小学校跡地の開発などに携わる。
西日本鉄道株式会社
都市開発事業本部 営業部
リーシング担当
2019年入社。最初の2年間は北九州や久留米、大橋などの西鉄沿線に位置する商業施設のリーシングを担当。2021年から天神チームに配属され、ソラリアステージを担当する。
そもそも「リーシング」の仕事とはどんなものなのか。天神地区のリーシングを担当している長瀬亜耶さんが話を聞かせてくれた。
ずばり、リーシングってどんな仕事ですか?
リーシングとは、商業施設の空き区画に入居するテナントを見つける仕事です。具体的には商業施設との相性の良いテナントを見つけ、契約条件など出店に向けての交渉をします。単純に空室が埋まれば良いということではありません。施設をご利用のお客さまが求めているモノやコトを優先し、施設自体の来客者数や売り上げ増加なども見込んでテナントを見つけています。
西鉄が運営を担う商業施設はソラリアプラザ・ソラリアステージのほかにどんな施設があるのでしょうか。
私が所属する『天神チーム』では、ソラリアプラザ・ソラリアステージのほかに旧大名小学校跡地の開発や施設内でのポップアップなどの催事のリーシングを担当しています。同じ課の中にもうひとつ『沿線チーム』があって、そこでは、大橋の『レイリア大橋』、久留米の『エマックス・クルメ』、小倉の『チャチャタウン小倉』のリーシングを担当しています。
どの施設も街ににぎわいを創出する大切な場所ばかりだ。リーシング担当は常にアンテナを張り、次のトレンドを読みながら、いかに時代と場所に最適なブランドを誘致できるかを考えている。リーシングは交渉に入る前段階のリサーチがとても重要なのだ。
コロナ禍以前、リーシングチームのメンバーは、週に一度の県外出張を行っていたらしい。東京や大阪に2日ほど滞在し出店頂きたいテナントとの商談や各エリアの商業施設を視察し、トレンド調査を行ってきた。ソラリアステージを担当する大神遼さんは、「コロナ禍で出張が難しくなったが、リモートでの商談や普段からSNSで情報をキャッチしている」と話す。
SNSは、マーケット調査にどのように役立っていますか。
全国にある商業施設の新規オープンやリニューアルオープンの情報をいち早くタイムリーに確認できるのはSNSの強みですね。どこにどんなテナントが入居したのかも、リンクやタグですぐに飛んで調べられます。
現地に足を運ぶ際はどういったことに気を配りますか?
商業施設に行くと、テナント構成を見たり、お客様の導線を考えたりします。プライベートの買い物中も空室のテナントが気になって、買い物どころでなくなったりもして……。これは職業病ですね(笑)
わかるよ、その気持ち!各テナントさんの客層とかも気になって見てしまいます。
他にはどんなツールを使ってリサーチしますか?
私は毎月、電子書籍で雑誌を購読しています。ソラリアプラザ・ソラリアステージはターゲット層も入居テナントのジャンルもかなり幅広いので、雑誌もあらゆるものにひと通り目を通すんです。そして、最後のほうにあるブランド一覧のページもチェックします。
リサーチの際に見ているポイントは?
特に大切にしているのは、『福岡でウケるのか』『施設やそのフロアのコンセプトに合うのか』の2点です。入居いただくからにはお客さまに長く愛されてほしいという思いがあります。普段からこの点を意識しリーシング先を検討しています。
テナントの空室が出てからリサーチをするわけでなく、日頃からアンテナを張り、タイミングが来た時に確実に動く。チャンスを逃さないための準備は一人ひとりの担当者が抜かりなく進めていた。
あらゆる視点から総合的に判断し、「ここだ!」という店舗が見つかれば、代表電話に連絡する飛び込み営業も珍しくない。
電話先で感触が良ければ、商談となるが、アポイントが決まってもまだ油断はできない。
「福岡に1店舗出店をしたいけど、博多と天神で迷っている」「天神がいいけど、ソラリアに出店するかどうかは検討中」といった感じで、商談が足踏み状態になることも。
商談の際、意識しているポイントは?
福岡のことをあまりご存じない方には天神の街について伝えるようにしています。例えば、天神は博多に比べて商業施設や百貨店の数が圧倒的に多くありますが、県外の方は意外とご存知ない方も多くいます。
なるほど。たしかに地元の人にとっては「買い物をするなら天神」と考える人が多そうですね。
そうですね。街に商業施設や百貨店の数が多いということは、複数の店を見て回り、価格やデザインなどを比較して購入を決定する『買い回り』がしやすいということ。地元の方が普段の買い物や外食で使いやすいと感じている場所は、天神エリアだと伝えています。
天神の商業施設のなかでも、ソラリアプラザ・ソラリアステージの強みは?
やはり交通アクセスがいいことです。西鉄福岡(天神)駅や西鉄天神バスセンターにも直結しておりこれほどの好環境はほかにはない最大の強みだと感じています。
商談を進めるなかで、個人的に大切にしていることは?
商談前には訪問先の情報を必ず調べて準備します。どこに出店していて、どんなお客さまがターゲットなのか下調べをメモに取って持って行くんです。企業によっては『うちのどこが良くてオファーをしてくれたのか』と聞かれることもあるので、しっかりと答えられるように戦略を練っていきます。
商談中に消費者の視点で見て感じた魅力を伝えたいので、飲食店であればその店の看板商品を食べてから行きたいし、物販店舗であればできる限り商品を試していくようにしています。
そんなリーシング担当の仕事ぶりは、商業施設に入るレストランや飲食店を見るとよくわかる。飲食店は施設全体にとって大きな集客装置となるからだ。
ソラリアステージに名店が集うきっかけとなったのは、開業から50年以上前の戦後復興期、1940年代に遡る。かつて、西鉄天神(福岡)駅の前には、60店舗が立ち並ぶ賃貸商店街「西鉄商店街(通称:西鉄街)」があった。もちろんなかには飲食店もあり、創業時の「因幡うどん」や「ちんめんあま太郎」などが軒を連ねていたという。
しかし、西鉄天神(福岡)駅の高架化に伴って商店街は解体。街の移り変わりとともに名店は移設することとなり、その一部が1999年に竣工したばかりのソラリアステージに入居することになる。
駅前から名店の味を絶やしたくない――。当時の西鉄の担当者の熱い思いが、きっとそこにはあったのだろう。地下2階フロアに地元の名店を集めた「レストラン味のタウン」が開業した。
以来、現在に至るまで、ソラリアステージには地元の人々が太鼓判を押す飲食店ばかりが入居。2014年のリニューアル時にはコンセプトを「福岡・九州の食」と定め、最近では川端商店街で50年以上愛される味噌ラーメンの人気店「博多川端どさんこ」やリーズナブルな価格で本格的な中華料理が楽しめる居酒屋「餃子屋弐ノ弐」、福岡市内で7店舗展開中のダイニングバル「パーラーコマツ」などが入り、新旧の食の名店が肩を並べている。
飲食店のリーシングについて聞くと、ファッションや雑貨のテナントの誘致とはまた少し違うことがあるという。賃料などの条件の交渉だけでなく、メニュー構成や客単価の相談もリーシング担当の仕事だと聞いて驚いた。
価格帯の交渉まで担当されているんですね。
ええ。既存テナントとあまりにも価格差がでないようになるべく範囲内に収まるようお願いをしています。
飲食店ならではの相談って?
先日オープンした味噌ラーメンの人気店『博多川端どさんこ』の出店準備時、『火力の問題で全メニューを展開してしまうと、求めている味が出せない』と店主から相談がありました。『お客さまに対して満足のいく食事を提供してほしい』と強く伝え、店主と一緒にメニュー構成を考えました。そして迎えたオープン初日、開店前からの行列の様子や食べているお客さまの笑顔と店主の方の笑顔を見た時は心の底から嬉しかったですね。
コロナ禍に見舞われた昨今は集客の減少から急な閉店が相次いだ。コロナの影響で新規出店を検討する企業自体も少なく、リーシングの苦戦が強いられた。ソラリアでも次の出店テナントが見つからず、空室があった時期があったという。
苦戦が強いられたということですが、どのくらいの数アタックされたのでしょう?
チームのみんなでかなりの数の営業をかけました。どのくらいだっけ……?
後で数えたら、約200件でした。最初からずっとダメだったわけではなくて、途中何度か決まりそうになったのに、結局契約までいかずという……。夢にも出てくるくらい、うなされましたね(笑)
そうそう(笑)。これほどアタックしたのは間違いなく過去最高。今となってはいい思い出です。
一筋縄でいかないリーシングの仕事には、行動力や忍耐力が必要不可欠。長瀬さんも大神さんも最初は電話をかけることにさえ抵抗があったそうだが、場数を踏んで成功体験を重ねてきた。
数年前から『絶対にソラリアプラザとの相性がいい』と確信しているブランドがあって、何度もアプローチをしていたのですが、お断りをされていました。それでも諦めきれず担当者の方にアタックを続け、タイミングがあったこともあるかと思いますが、ソラリアプラザの魅力や熱意が伝わってソラリアプラザへの出店を決めてくださったんだと思います。一度断られたら終わりではなく、めげずにアプロ―チを続けることが大事だと実感した経験です。
私も、前任の時からアプローチしていたブランドがあって、最近契約につながりました。出店につながったのは、『ソラリアステージのお客さまとの相性が良く、施設としての魅力が向上するテナント』だと思い、何度もアプローチを続けてきたこれまでの積み重ねがあったから。時にはタイミングよく出店テナントが決まることがありますが、自分で行動しないと結果はついてこないと考えています。
目の前の契約だけでなく、長い目で関係性をつくる姿勢が、未来の天神の街づくりに直結している。
最後にリーシングを通したまちづくりへの思いを聞いた。
これから天神をどんな街にしていきたいですか。
福岡県の田舎町で生まれ育った私にとっては、月に一度、天神に買い物に来る日が楽しみでたまりませんでした。当時、自分のなかで一番おしゃれだと思う服を着て街に来ていたんです。これからも、天神が誰かの憧れの町であってほしい。県内外の方々にそう思われるような街づくりがしたいですね。
入社してから、天神ビッグバンをはじめとする街づくり全体に西鉄が関わっていることに気付かされました。今後10年、人口増加が期待される天神は、周りからの期待値がかなり高いと思っています。その一部に、自分が携われていることが誇りです。天神の街づくりに貢献できることが仕事のやりがいにもつながっていて、故郷・福岡への恩返しにもなればと考えています。
「こんな挑戦をしてみたい!」ということがあれば教えてください。
いつか日本初上陸のブランドの1号店を福岡に誘致できれば、おもしろいですよね。
たしかに!それはかなり話題になりそう。これからも天神にもっと人が集まるような仕掛けができたらいいね。
天神をもっと楽しく、おもしろくしたい――。リーシングが生み出す話題性や集客の背景には、彼らの街を愛するからこそ滲み出る素直な思いがあった。