「FIFAワールドカップカタール2022」でベスト16入りを達成した日本代表。日本中が湧いた昨年末の白熱の試合は、多くの人にとってまだ記憶に新しいはずだ。
選手やスタッフの移動・宿泊を手配した西鉄旅行にとっても、ワールドカップはひとつの“決戦”だった。
試合の裏側ではどんな動きがあったのか? W杯日本代表を支えた西鉄旅行の奮闘に迫る!
第一支店と第二支店合わせて34名の社員で構成される西鉄旅行スポーツ営業部。今回のワールドカップでは、そのうち8人が、そして西鉄旅行全体では15名が現地カタールへ飛んだ。
初めにカタールに到着したのは10月下旬。最も早く現地入りした報道・メディアのチームのアテンドから仕事は始まる。決勝戦の行われる12月18日まで、長い人は2カ月間近く現地に滞在したことになる。
宿泊については、世界各国の関係者が同じ出場国の出揃う前に手配することになる。つまり、理想の環境は「早い者勝ち」。そんな“世界大会”で、西鉄旅行はいかにして勝利しているのか。
西鉄旅行でスポーツチームの遠征支援事業などの業務に従事する都市圏営業本部スポーツ営業部の長谷川英司さんと、前大会から継続して代表チームに帯同した髙橋健一さんに話を聞いた。
長谷川さんと髙橋さんは、今回どんな動きを?
私は日本で対応していました。
ぼくはずっと現地で選手たちのそばでサポートをしていました。
万一の時は誰かが代わりに動かなきゃいけないので、パスポートは常に携帯していましたよ。夜は電話を枕元に置いてね。幸い何もありませんでしたが。
今回、西鉄旅行さんでは何名分の手配を手掛けたのでしょうか?
選手や監督、その他メディアなどなど500名弱です。例年に比べると少なかったかな。
それでも500名!
今回は私たちのほうで観戦チケットを販売できなかったので一般の方向けのツアーが少なく、メディアや選手関係者の手配が主でした。逆に、2010年の南アフリカ大会の時はツアーじゃないと一般の方は観戦に行けなかったのでもっと多くの方の旅のサポートをしましたね。開催年によってそのあたりの事情が違うんですよ。
▼前回の記事はこちら
「日本代表の移動や宿泊などは西鉄旅行が支えている!世界的スポーツイベント舞台裏」
https://nnr-nx.jp/article/detail/14
日本から約8,000キロも離れた今回の開催地、中東カタール。東京からの飛行時間は12時間30分だ。
しかも、イスラム教が国教であるカタールでは、女性の服装には一定の基準があり、飲酒と豚肉はタブーとされている。
日本とは文化が大きく違うカタール、今回のお仕事、大変だったのでは?
まぁ、どこに行っても大変なんですけどね(笑)。今回はむしろ比較的スムーズでした。
なぜスムーズだったんですか?
直行便がありますし、何と言っても開催場所の条件が抜群に良かった。グループリーグと決勝トーナメントで開催都市が変わることもなかったし、国内8つのスタジアムはすべて首都ドーハから約1時間でアクセスできるという、過去にない好条件でしたから。
開催場所について、過去と比較してそんなに良かったんですか?
これほど移動が少ない大会は、選手も初めてだったと思います。移動が少ない分ストレスが減り、時間も有効に使えるので、かなり恩恵を受けたのではないかと。
ドーハのホテルに到着すると、ホテルスタッフたちによる「ウェルカムセレモニー」が開かれた。
Jリーグに所属する選手中心の国内組が現地入りした11月8日。ホテルのロビーには日本代表チームのテーマソングが流れ、日本国旗が飾られる中、民族舞踊や豪華な料理で歓迎を受けた。
うれしかったですね。海外組が合流した時も盛大なセレモニーを開いてくれて。毎回、ホテルのスタッフさんたちが200人くらい集まってくださいました。終始あたたかな雰囲気で、安心して滞在できました。
滞在したのはどんなホテル?
「ラディソン・ブルー・ホテル・ドーハ」という、ドーハの歴史のあるホテルです。
ホテルは2棟に分かれていて、部屋は日本に比べると広めでした。
宿泊や移動について、森保監督からのリクエストはありましたか?
出場が決まる前からチームホテルに関しては選定が行われており、また移動に関しても出場が決まってからすぐに手配に移りましたので、現地では特段ありませんでした。
ホテル、練習場、会場の行き来はどのように?
FIFAから各チームへ、専用の大型バス1台、バン、セダンなど決まった車両が供給されます。日本チームはこれ以外に、バンを1台追加で依頼しました。
警察の車による先導があるので、選手など関係者はスムーズに移動できます。ホテルと練習場は10分ほど。スタジアムは場所によりますが、日本は幸い近いスタジアムだったので約20分あれば移動できる距離でした。
それは便利ですね。
通常、ドーハは渋滞がひどいらしいのですが、大会中はナンバープレートごとに規制があったようで、混雑を感じることはありませんでした。
11月23日午後4時(日本時間同10時)から、ドーハの「ハリファ国際競技場」で行われた1次リーグE組初戦。強豪国・ドイツと対戦した日本は、1点ビハインドで前半を折り返した。
攻撃を仕掛けた後半、途中出場の堂安、そして浅野がゴールを決める。そのまま2-1で試合が終了し、日本は歴史的な大波乱を起こしたのだった。
すごい試合でしたが、実は私が会場にいたのは前半まで。勝利の瞬間には立ち会えなかったんですよ。
なんと!残念でしたね。
厳しい展開の前半を終えた頃、食事の準備や他の仕事のために、シェフといっしょにホテルに帰りました。タクシーがなかなかつかまらず時間を取られたので、タクシーに乗っている間にスマホで状況をみていて、1点返したことを知りました。
ホテルに帰ると、スタッフが「よくやったな!」と声を掛けてくれて。それで日本が勝ったことを初めて知りました。
どんなお気持ちでしたか?
グループでも強豪国であるドイツを破ったということは、決勝進出の可能性が高まったということ。なので、喜びとともに、次の展開を少しずつ頭の中で考えはじめていました。
あとは、移動中で後半を観れなかったので、それなら最初からホテルのテレビで観戦しておけばよかったな、と(笑)。
たしかに……(笑)。
移動・宿泊の手配は試合結果に左右されるので、あらゆる可能性を考慮しながら仕事を進める必要がある。
ゆっくり試合を観戦できることは、ほとんどありません。今回は初戦に勝利したことで、これまで以上にあらゆる可能性を考えなければなりませんでした。グループリーグが終わるギリギリまで展開が見えないと、ドキドキ、ヒヤヒヤです。
選手関係者やメディアなどさまざまな方の手配を手掛けているので、旅程はもちろんそれぞれで異なります。なので、1件1件確認しながら、変更すべき場合はなる早で手を打ちます。
もちろん、急な変更もありますよね?
試合の結果次第ですね。例えばサポーターの方で、当初はグループリーグが終わったら帰国する予定でも、決勝トーナメントに進めばやっぱり決勝まで見届けたくなりますよね? そうした変更にも、現地で迅速に対応します。
グループリーグ第2節は、11月27日の対コスタリカ戦。ドイツ戦での勝利を受けてさらに注目が集まった。この試合に勝てば、グループリーグ突破はほぼ確実。しかし、日本は0対1でコスタリカに惜敗してしまう。
コスタリカ戦は、業務を進めながらホテルの食事会場のスクリーンで観戦しました。1試合を通して観たのはこの試合だけですね。
ここで勝っていれば、というところだったと思いますが。
なかなか思い通りにはいきませんね。「これで展開がわからなくなったね」とシェフたちと話しながら、ホテルに戻ってきたチームを迎えました。
第3節が開催されたのは12月1日。強豪・スペインを相手に、サムライブルーは2対1で見事に勝利を飾り、グループEを首位で通過した。
日本代表の健闘で、現地のファンが少しずつ増えてきたと感じていました。この日、選手たちが乗ったバスがホテルを出発する際に集まったファンは、これまでで一番多かったですね。スペイン戦にも期待が高まったのだと思います。
うれしいことですね。
ともあれ、私たちは勝利を喜ぶのも束の間で……。旅程の確認や変更などの手配で大忙しでした。
試合終了後、休まずに手配に動くのでしょうか?
試合が終わったのが現地時間の0時。文字通り、寝る間もなく業務にあたります。
なんと! 髙橋さん以外の社員さんや他の渡航者も、同時に旅程を変更していくわけですよね?
決勝トーナメントの1回戦、ラウンド16は現地時間の12月5日18時からだったので、敗戦のパターンも想定して準備を考えると、試合を終えて帰国するには7日のフライトが理想的です。
東京とカタールを結ぶ直行便は1日1便。スペイン戦までは7日のフライトはまだ空席があったのに、スペインに勝った後は席がどんどん埋まっていって……。
各社の争奪戦ですね!
現地で情報交換をしながら、日本のスタッフとも連絡を取り合って。社内でも取り合いですよ。みんな自分のお客さまを優先したいので(笑)。
社内でも!
もちろん、最終的には社内で調整を入れますよ。現地時間0時は、日本時間だと朝の6時。私たち国内組の関係社員は会社の近くに宿泊するか、自宅待機で準備するなどして、迅速に動けるようにしていました。
す、すごい。
カタール側と日本側で連携しながら、それぞれフライトを変更していくんです。でも、最初に話したように、開催地がドーハ1カ所なので手配は比較的シンプルですよ。
ラウンド16以降の開催地が大きく変わると現地でもかなり大変だったと思いますが、今回は本当に移動が少なくて済みました。
代表チームにはコーチやトレーナーのほか、さまざまなスタッフが帯同する。移動・宿泊に次いで欠かせないのが、食事の準備を担当するシェフの存在だ。
シェフの西芳照さんは、2004年から日本代表の専属シェフを務めることになった。
西さんが大切にするのは、選手たちの目の前で調理するライブクッキングのスタイル。3日前は「ハンバーグ」、2日前は「西京焼き」、前日は「うな丼」。試合後には「カレー」が提供されるのがお決まりだ。
髙橋さんも選手たちと同じメニューを召し上がるんですよね?
ええ。ぼくたちスタッフは選手たちが食事を終えた後、食事をとるんですけどね。
他にも定番のメニューってありますか?
そう言えば西シェフは、おかず用に「なめ茸」を必ず持参されています。
なめ茸?! 意外なチョイスです。
選手たちはけっこう食べているみたいですよ。毎回、かなり減ってますから。
髙橋さんは2大会連続の帯同ですが、西シェフはもっと長いんですね。
ワールドカップは2006年のドイツ大会からです。もっと長いのはキットスタッフ(用具係)の麻生英雄さんですね。練習前後の準備や片付け、用具管理を担当されています。日本が過去出場した7大会すべてに同行した唯一のスタッフですね。
ワールドカップ期間、日本代表のロッカールームの片づけが海外のメディアで注目を浴びましたが、麻生さんがまさにその中心人物です。
ラウンド16 、対クロアチア戦が開催されたのは12月5日18時(日本時間は12月6日0時)。試合は同点で拮抗したが、PK戦で1対3と惜しくも敗れた。
試合を終えた日本代表のうち、国内組は12月7日夜に帰国。海外組はそれぞれの拠点に戻っていった。全員を送り出した髙橋さんは庶務を済ませ、8日午前に荷物の集荷を見届けて空港へ。無事に帰国して拠点に戻った。
今回のお仕事を振り返ってみていかがですか?
本当に今回はスムーズでした。トラブルやおもしろいことがあれば記事が盛り上がったと思うのですが、特にありませんでしたね。
いやいや、十分です! 興味深いお話をたくさん聞けましたし、トラブルはないに限りますから。
私も、最後の仕事が無事に終わって何よりです。
えっ、最後?!
そうですね。代表チームの帯同はこれが最後です。2023年1月からはJFAに出向して、これまでとはまったく別の仕事に就いています。
通常はワールドカップのタイミングに合わせて、4年に一度は担当替えしています。髙橋は先方からも信頼していただき、2大会連続担当することになったので、例外的な人事だったんです。
継続して指名されたということは、信頼の証拠ですね。すごい、かっこいいです。
チームにも馴染んでいましたからね。
まあ、ぼくだから特別にってことはないですよ。
大会が始まる前に異動のことはわかっていたんですよね? チームや他のスタッフさんにはお別れを告げたのでしょうか?
いえいえ、誰にも言ってなかったので、いつも通りですよ。みんな「またどうせ近いうちに会うんでしょ」って思っているはずです(笑)。
大役を終えた今の気持ちは?
2大会、8年弱もの長い間担当させていただきました。私にとっても、このワールドカップがひとつの節目だと感じています。今まではゆっくり試合を観たことがなかったので、次からは家でビールでも飲みながら、リラックスしてテレビを眺めていたいですね。
さみしくないんですか?
試合を観たら思い返すこともあるかもしれませんが、今はまださみしい気持ちはないですね。長い間ありがとうございましたという感謝のみです。
次にSAMURAI BLUEに会えるのは、2023年3月24日(金)に国立競技場で開催される「キリンチャレンジカップ2023」。 エヌカケルでは次なる「髙橋さん」にもぜひお会いして話を聞きたいと思います!
西鉄旅行株式会社
都市圏営業本部 スポーツ営業部 部長
1994年入社。 国際線の団体予約を担当後、2002年のFIFAワールド杯以降サッカーの仕事に従事。事務局員や役員の手配を主に手掛けてきた。東京スポーツ支店、東京スポーツ第一支店(業務拡大による分割)の支店長を経て、2022年4月から営業部長。
西鉄旅行株式会社
スポーツ営業部 東京スポーツ第一支店 支店長
2007年入社。1年目は法人企業の出張手配を担当。2年目以降はスポーツプロモーション支店に異動。2010年10月~2012年9月まで2年間JFAへ出向。2015年からサッカー日本代表チームを担当し、2022年4月から東京スポーツ第一支店の支店長。2023年1月より公益財団法人 日本サッカー協会へ出向。
▼前回の記事はこちら
「日本代表の移動や宿泊などは西鉄旅行が支えている!世界的スポーツイベント舞台裏」
https://nnr-nx.jp/article/detail/14