フードデリバリーが日常的になってきた昨今。新型コロナウイルスの感染拡大直後からTwitterやInstagram上でにわかに賑わいを見せたのが、天神のテイクアウトグルメを紹介する「#おもちかえりなさい」プロジェクト。この一連の仕掛け人が西鉄グループのラブエフエム国際放送(愛称:LOVE FM)プロデューサー・下田浩之さんです。この他にも、地域のアーティストやカルチャーを盛り上げる仕掛けをたくさんおこなっている下田プロデューサーにお話を聞きました。
ラブエフエム国際放送株式会社
営業企画本部 ビジネスデザイン室 プロデューサー
2012年入社。ラジオ、ウェブ、イベントを組み合わせたメディアミックスの企画を日々行う。”本業を超えて愛するものを持つ人物”によるプロジェクト「Sticky Note」の立ち上げや、大阪発の国際アートフェアUNKNOWNASIAのレビュアーを務めるなど、アートや音楽といったエンタメを組み合わせながら企業の課題解決を行っている。
「このプロジェクトは、ちょうど2020年の4月ごろ、新型コロナが発生した直後に始めた企画です。当時は、天神で普段働いている人も、お買い物に来ていた人たちもみんな自粛モードになってしまって、街が閑散としていた状態でした。僕もなるべく自宅で自粛するようにしていましたが、もともと飲み歩くのが好きだったので、行きつけの居酒屋さんとかがどうなっているか気になって連絡を取り合ったりしていました。」
「そんな状況の中、緊急事態宣言やら時短営業要請やらがどんどん出だして、いろんな飲食店から悲鳴が聞こえるようになりました。そこで、何か自分にできることはないかと考えたときに、飲食店の皆さんが手探りで始めていたテイクアウトの情報をまとめてSNSで発信すれば、多くの人に届くんじゃないかと思って急いで企画を始めたんですよ。」
下田プロデューサーは早速、LOVE FMで運営している「天神サイト」上で「#おもちかえりなさい」プロジェクトの概要をリリース。テイクアウト販売をしている飲食店やユーザーがSNSで「#おもちかえりなさい」のハッシュタグをつけて投稿すると、タグ検索で簡単にテイクアウト実施している店舗を発見できる仕組みです。
「『がんばろう!飲食店』みたいな、同情を誘うような企画では人の行動を動かせないだろうなっていうのは初めから思っていました。お情け感とかではなく、本当にみんなにおススメしたい飲食店のテイクアウトをどういう風に発信したらいいかと考えたときに、ネーミングや見せ方を工夫しないといけないなと思って、ここには一番チカラを入れました。」
テイクアウトのまとめ記事はウェブ上にすでにあったと思いますが、この企画はそれとは違って、一般のユーザーがハッシュタグをつけて飲食店のテイクアウトメニューをおススメしたり、飲食店の方が『こんなテイクアウトの新メニューつくったよ!』と発信したり、そんなムーブメントが生まれていました。この企画に自ら応援して「#おもちかえりなさいMAP」を作った方など、世の中のために何かできないかと考える人たちを繋げていったプロジェクトでもあったようです。当時、テイクアウト情報のハッシュタグとしては日本で一番使われていたそうで、反響がものすごかったとか。新聞の一面に掲載されたり、テレビ局から取材のオファーがいくつもきて、フード関係の協会の方から『励まされました』とメッセージをいただくこともあったそうです。
「はい(笑) 普段は、西鉄グループのラブエフエム国際放送という福岡のFMラジオ局の社員として働いています。LOVE FMは北部九州をエリアとした、10言語で放送する多言語放送ラジオ局です。外国語のみの番組もあったりして、ラジオDJも国際色豊かで多様な人種がいますよ。」
福岡市中央区にある警固公園の目の前にあるファッションビル「ソラリアプラザ」1Fにスタジオがあり、これまでに大学ミスキャンパスがDJとなって放送される番組や韓国のK-POPを紹介する番組、ティーン向けにポップカルチャーを発信する番組など、他のラジオ局とは一線を画した番組を作ってきました。
「LOVE FMの源流のひとつである「天神FM」のころから、西通りや警固公園にいる若い人たちに刺さるような番組コンテンツを志向してきたと思います。コテコテのJ-POPを流すというよりトレンドの音楽を流すような。音楽のセレクトについてはLOVE FMへの期待値を高く持って頂いているというのは認識していて、ここは大事にしているところですね。海外では今も初めて聞く音楽はやっぱりラジオという文化なんですよ。アツいと思えるような音楽を、編成・DJ・ディレクターなどのスタッフ含めてできるだけきちんとお届けしていきたいです」
「色々とおもしろいことをやりたいと思っていますが、僕は基本的にFMラジオ局の会社員です(笑)。会社の売り上げや利益を考えないといけないし、クライアントと呼ばれる企業のマーケティング課題の解決に繋がる企画を提供しないといけない。そのためには、まず自分たちをおもしろい会社と思ってもらわないといけないし、LOVE FMは感度の高い放送局っていう自社ブランディングも大事ですよね。例えば、自社の名刺の裏がちょうど何も使われてなく空いていたので、今後、放送局としてお付き合いしていきたい地元のイラストレーターの方たちの挨拶的な仕事として、名刺の裏にイラストを提供してもらったりしています。」
ニューバランス福岡1周年プロモーションでは同社も企画に関わり、地元のクリエイターとコラボレーションさせた「~New Balance FUKUOKA 1stAnniversary Exhibition“REFLECTION”~」など多くの話題を生み出しています。「ニューバランスを新しい角度から映し出す」をコンセプトに有田焼のニューバランスなどを制作しました。
また先日ららぽーと福岡にオープンしたニューバランスの新店舗のプロモーションも担当。クリエイターと連携し、グレイのニューバランスをテーマに複数のアート作品を制作し展示しました。
「ミュージシャンの新曲プロモーション時期に、ターゲットが合致する商業施設とタイアップさせて、ビジュアル露出を最大化する仕掛けなどはよくやっています。数年前なんかは「今年は絶対にあのミュージシャンと仕事する!」と個人的な目標をお正月に立てて(笑)、自主提案を繰り返し、見事に成就させることができました。ソラリアプラザのエントランスドアをビジュアルでジャックし、ソラリアプラザの共通のメッセ―ジをオリジナルで掲出しました。
翌年のクリスマスは、売り出したい新曲が「ワンフレーズ聞いただけでシーンがわかる」印象的な曲だったので、夜景がきれいな西中洲の水上公園で立体的なモニュメントをつくって、QRコードを読み取るとミュージシャンが選曲した曲が聞ける仕掛けをしました。
「ぼくらはFMラジオ局なんですが、まずは若い人たちにカッコいいとか関わりたいと思ってもらえるようなメディアになりたいと思っています。そのため、できるだけ他局の事例にない企画を考えるようにしています。リスナーと良い連鎖反応を生みたいなと思っていて。例えば自分たちの友だちや知り合いの中にも感度が高い子っているじゃないですか。『この子が言うなら間違いない』みたいな。全員じゃなくてもいいんで、その人にどうやったら刺さる(企画)かというのを常に考えています。ミュージシャンやアーティストとのつながりとか、LOVE FMだからできること、若者とカルチャーと世の中をうまくブリッジさせていくというか。そんなことをいつも考えています。」
「今の若い人たちは環境が整っていると思うんです。例えば音楽がやりたいと思ったら打ち込みソフトがあるし、イラストが得意ならすぐに世の中に発信できるツールが無数にある。だから、誰かに頼って成功するというのがダサいというか少し物足りないと思ってるんじゃないですかね。TikTokもそうだし、自分で勝手に育っちゃいますよね。言い訳できない、やるかやらないか、むしろ今どきの子たちの方がハングリーかもしれません。福岡もイラストやアーティストとかも下支えするカフェが増えてきていますよね。もっとあるといいなと思います。LOVE FMとしても番組や場所なんかをうまく活用してもらって、おもしろいミュージシャンやイラストレーターなんかのアーティストをはもっともっと発掘して支えていきたいなと思っています。」
デジタルネイティブな若い世代にとって、情報とは自ら探しに行くものでなく、溢れる情報の中から選んで捨てるもの。感度の高い若い世代に対して、マスメディアからの一方的な発信ではなく、刺さるコンテンツを企画し、それを通して世の中とのコミュニケーションを図る姿勢がとてもカッコいいと感じました。ラジオ局社員の枠を大きくはみ出して活動を続ける下田プロデューサーの次の仕掛けに期待大!
LOVE FM下田プロデューサーのその他実績はコチラから
https://www.notion.so/Portfolio-201207-202206-b8d32c087ba84d6a81457bed3cde7146