天神を歩いているとよく見かける「We Love 天神協議会」の文字。「協議会って、いったい何だ?!」と長年疑問に思っていたが、西鉄の事業について学ぶなかで、ついにその正体をつかむことができた。We Love 天神協議会事務局で、事務局長の荒牧正道さんとスタッフの上田光さんに話を聞いた。
We Love 天神協議会 事務局長
2002年に入社。自動車事業本部、総務部、都市開発事業本部などを経て天神開発本部へ。
We Love 天神協議会 事務局
2022年4月から事務局非常駐スタッフとして勤務。コミュニティやホスピタリティに関わる事業を担当。株式会社岩田屋三越の総務部・経営企画部で経営企画担当を務める。
率直にお尋ねします。「We Love天神協議会」って、どんな組織なんですか?
まちのさまざまな問題を解決し、より良い天神にしていこうと2006年に組織されました。「協議会」という名前はついていますが、それほど堅い集まりではありません。「自分たちのまちを自分たちで良くしていこう!」と意識をともにした仲間たちが集まり、天神のまちづくりについて企画したり、意見交換をしたりしています。
具体的にはどんなメンバーがいるのでしょうか?
天神を拠点とする民間企業を中心に、福岡市や各分野の専門家などさまざまな団体・個人で構成されています。地区会員、一般会員、特別会員を合わせると136会員(※2022年9月末時点)。ここにいる上田さんは、地区会員の岩田屋三越さんに勤める非常駐スタッフなんですよ。
岩田屋三越での業務と兼任で、We Love 天神協議会事務局にも通っています。コミュニティの運営やホスピタリティに関わる仕事など、百貨店で培ったノウハウも生かせる事業に携わっています。
百貨店からの非常駐スタッフがいらっしゃるとは驚きました。携わっている事業については、ぜひ後ほど詳しく聞かせてください。
さまざま事業を推進されていると思います。代表的な企画や取り組みを教えてください。
にぎわい創出を目的とした取り組みのひとつに「天神ストリートパーティ」があります。天神のきらめき通りを歩行者天国にする企画で、「歩いて楽しいまち」の実現に向けてスタートしました。また、博多駅と連動した冬のイベント「クリスマスマーケット」もよく知られているかと思います。
イベント以外の事業もあるんですか?
毎月第二木曜日の「天神クリーンデー」は環境美化活動です。毎月約100名の会員にご参加いただき、天神地区の清掃活動を行っています。
商業施設や企業のメンバーが浴衣姿で打ち水をする「天神打ち水大作戦」は、夏の風物詩として定着しましたが、コロナ禍で中止に。来年はぜひ開催したいですね。
ほかにも、サンタやトナカイの格好をした会員や商業施設のスタッフが、まち行く人々にお菓子をプレゼントしながら天神を回遊する「天神サンタ大作戦」など、にぎわいを作るためにさまざまな催しを続けてきました。
こうした取り組みを実施するうえでは自治体や企業、その他関係者との綿密な調整も欠かせません。一筋縄ではいかないこともありますが、皆さんのご理解・ご協力のもと成り立っていると言えます。
お買い物やまち歩き用には、ベビーカーの無料レンタルも実施。百貨店や商業施設に常備しています。施設ごとにわざわざ乗り換える必要がないので便利です。
最近始めた事業はありますか?
福岡市と共同で進めている「フリンジパーキング」は、車で天神に来られる方に向けた新しいサービスです。車で天神に移動すると、中心部は移動に時間がかかったり、駐車場に入れなかったりしますよね。そうした不便をなくし、都心部交通混雑緩和を目指すため、お得な「フリンジ割引」をつくりました。
天神近くにある指定の駐車場に車を停め、天神へ移動します。お買い物やお食事を楽しんだ後、指定の場所で割引処理をすると、駐車料金が最大500円に。駐車場までの移動のために、バス片道無料券も人数分発行しています。
2021年4月からサービスを恒常化し、アンケートの実施で天神での滞在時間が延びたり、買い回りが促進したりといった結果が得られました。
アンケートはどのようにして取られたのでしょうか?
利用者に対して、現地でヒアリングしました。福岡市の観光案内所が駐車券の受付所になっているので、交代でその場に立ち、利用者を見つけてはお声がけをするという……。
まさかの実地調査!
驚きですよね。
手を動かし、足を使うのがWe Love天神協議会です(笑)。何より、利用者の方々の声を直に聞けるので信ぴょう性が高い。確度の高い情報が集まった結果、実証実験から恒常的なサービスにつなげることができました。
上田さんが思い入れのある取り組みは?
私が担当している事業のひとつに、「天神コンシェルジュミーティング」があります。集まるのは、商業施設のインフォメーションや観光案内担当、ホテルのコンシェルジュなど、天神のさまざまな施設で案内業務に就いている方々です。天神のおもてなし力を向上させることを目的に毎回テーマを決め、情報や意見を交換しています。
どんなことを話すんですか?
今年6月に開催した回では、14団体17名の方々に参加していただきました。その際は「ベビーカーの貸出って、どのくらいありますか?」「マスク越しだと互いに声も表情も伝わりづらい。コミュニケーションを取りづらくて困ってます」「おすすめの休憩スペースは?」など、現場のリアルな声が集まりました。
こうした悩みや課題を全体で共有して、「私たちはこう対応しています」とか「こういうアイデアもあります」と意見を交換して、最後はみんなで「なるほど~!」と納得する(笑)。
初めて参加された時は、いかがでしたか?
私は百貨店の人間なので、商業施設の現場のことはよく知っています。なかでも、インフォメーションや受付に立つ方は、施設の顔であり、まちの顔でもある方々。想像以上にたくさんのコミュニケーションを、日常的にお客さまと取られています。
そのぶん疑問や悩みも多く、特にコロナ禍では困惑も多いはず。そんななか、共通の悩みを抱えたメンバーと施設の垣根を越えて意見を交わすことは、悩みや問題の解決につながります。日々の「もやもや」がなくなり、すっきりした表情で帰っていく参加者の姿を見ると、「開催してよかった。意義のある時間だった」と実感できます。
どのくらいの頻度で開催されているのでしょうか。
基本は年に3回のペースです。頻度はけっこう高いと思うのですが、毎回議論のテーマは尽きず、90分間みっちりと話し合います(笑)。初めて開催したのは2008年で、We Love天神協議会の中でも長く続いている事業のひとつです。事業がなくならず継続しているのは、天神で働く人々やまちに必要とされている証し。これから再開発が進むうえでも、より大切な機会になっていくのではないでしょうか。
非常駐スタッフは、上田さん以外にもいらっしゃるんですか?
はい。常駐スタッフは私を含めて5名、非常駐スタッフは8名で事務局を運営しています。(※2022年10月時点)
上田さんは、事務局スタッフとして動くようになっていかがですか? 率直な感想を教えてください。
「すごく楽しい!」のひと言に尽きます。私はこれまで百貨店のことしか知らなかったので、We Love 天神協議会に携わらなければ、活動内容も構成会員さまのことも知らず、連携や協業をすることはありませんでした。また、皆さんとの関わりを持つことから、催事だけではなく交通や治安など、さまざまな面から「天神」というまちを考えるようになりました。
商業施設が集積している天神で仕事をしていくうえで、上田さんのように現場を知る方の存在はものすごく大きいんですよ。「これってどう思いますか?」とか「こんな時、どうしてますか?」とか、迷ったときはよくご意見を伺います。見落としがちな「お客さま視点」で、つねに考え、行動されているからだと思います。
そんなにお役に立てていたとは、うれしいですね。
いつも隅々にまで目を配られていますよね。それに、踏み出すスピードがすばらしく速い!
「売り場で立ち止まっていらっしゃるお客さまを見つけたら、すぐにお声がけすること」。そう長年教えられてきましたから(笑)。だから、We Love天神協議会のイベントでも同じです。「反射的に身体が動く」と言うと大げさですが、私たちにとってはごく自然なことなんですよ。
We Love 天神協議会の活動が百貨店での仕事に生きることはありますか?
施設どうしのつながりができると、日ごろのコミュニケーションを取りやすくなります。例えば、岩田屋三越の受付で博多大丸さんのことについて質問された場合でも、すぐに博多大丸さんの受付に連絡を取り、お客さまの疑問にお答えできる。こうした横のつながりって、実はけっこうたくさんあるんですよ。
知りませんでした! 商業施設どうしってライバルでもあると思いますが、天神はみんな仲が良いんですね。
実はこんなに商業施設や企業どうし仲が良い都市って、全国でもまれだと言われています。
この感じが当たり前だと思っていたのですが、実は珍しいみたいですね(笑)。
理由はあるのでしょうか?
We Love 天神協議会設立以前から、天神には商業施設同士をつなぐ団体がありました。その先駆けが、1948年に発足した「都心界」です。天神にある11の商業施設や商店街で構成する親睦団体で、現在も活動を行っています。
2010年3月、「福岡パルコ」さんの出店に際し、天神地区の14商業施設が出店を歓迎する懸垂幕を各施設の外壁に掲げました。これに対して、「福岡パルコ」さんは「天神のみなさま、新入生のパルコです」と懸垂幕で応えてくださいました。
また最近では、2022年夏に閉館した「ノース天神」に向けて、各施設が懸垂幕やポスターを一斉に掲げました。こうしたメッセージのやりとりは「エール交換」と呼ばれ、今や天神の商業施設の習慣となっています。
We Love 天神協議会の活動を見学するために、全国の団体が視察に訪れていると聞きました。
ありがたいことに、毎月数団体よりご依頼をいただいています。視察をしながら都市開発やエリアマネジメントについて意見を交わしています。件数にして、年間10以上の団体を受け入れている計算です。
すごい数です。なぜそれほど多くの団体が視察に来るのでしょうか?!
ハード面の魅力もありますが、視察で尋ねられることが多いのはソフト面についてです。なかでも、設立時から掲げている「天神まちづくり憲章」や「天神まちづくりガイドライン」について、「どうやって作ったのか?」とよく質問を受けます。
ガイドラインには、We Love 天神協議会設立時に協議した現状と課題、将来の目標像、戦略と施策がまとめられています。例えば「目標像」は
1 上質に洗練され、いつも賑わいがある「歩いて楽しいまち」
2 環境にやさしく安心安全、だから誰もが「心地良く快適に過ごせるまち」
3 変化に対応し、アジアの中で「持続的に発展するまち」
の3つ。未来の「きらめき通り」と天神交差点などを描いたイラストも掲載されています。
コロナ禍は従来どおりの活動が難しかったのでは?
「密」を誘発する活動を避ける必要があったため、紹介したイベントは中止となり、ミーティングも思うように開催できませんでした。
これまでと変わったのはどんな点ですか?
多くの集客が見込める非日常のイベントから、日常の延長としての小規模な空間づくりへ。イベント企画の考え方が根本から変わりました。
一時的な賑わいづくりも大事ですが、恒常的にオープンスペースが利用でき、「まちをもっと歩きやすい憩いの場にしたい」という思いで、最近では、ウィズコロナに対応した「歩きやすく、日常的に憩いの場となるまち」を意識し、さまざまな施策に取り組んでいます。
また、イベント会場や新しい空間をつくる際はコロナ対策が当たり前。いかに安心して楽しんでいただけるか、毎回悩みながら試行錯誤しています。
「小規模な空間づくり」という点では、岩田屋本館にあるスペースでダンス用のステージをつくったことがありました。そうすると、お買い物に来たお客さまも通りがかりにステージが目に入ります。小さい子どもが踊っている姿を見て「かわいいね」と笑顔になられた様子を見た時、私自身もすごく心が和みました。日常のなかの、ちょっとした刺激ですよね。そのバランスがこれからも大切だと感じています。
今後の課題は?
コロナ禍を経て強く感じるのは、「リアルで会うことの大切さ」。会えない時期は、「さみしい」「つらい」といった声を、いろんな場所で耳にしていました。オンラインや電話、メールはもちろん便利ですが、大事なことは会って話したほうがちゃんと伝わる。これからは、コミュニケーションがもっと大切で貴重になると確信しています。
イベントやまち歩きでは「楽しい」。お買い物をすると「うれしい」。天神に来た人がそんな気持ちになっていただけるよう、これからもコミュニティやコミュニケーションの面でお手伝いができればと考えています。
事務局としては、これまでたくさんの活動を実施してきましたが、実績と効果が数値化しにくい点が最大の悩みです。拾ったごみの総重量や参加人数といった数字だけで評価しにくい面もあるので、どのようにまとめれば伝わりやすいのか、他団体の事例研究や専門家の先生方との検討を進めているところです。
「天神ビッグバン」でオフィス床が増えるなど、天神は変化を遂げようとしています。「歩いて楽しい」という要素だけでなく、SDGsやビジネスの観点からも求められる役割は増えるはず。進化した未来の天神に向けて、私たちWe Love天神協議会もさらに成長していけたらと思います。