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福岡県八女市に住む伊藤博紀さんは、現在36歳。15歳から提灯づくりに親しみ、大学卒業後は福岡市内の商業施設にて営業企画に携わる。2016年、26歳で地元に戻り、福岡・八女で200年以上続く提灯の老舗「伊藤権次郎商店」の8代目を継承した。
国指定伝統的工芸品である「八女提灯」の伝統を守り伝えながら、近年はクリエイティブ・ユニット「CRAFCULT(クラフカルト)」を設立。伝統工芸の枠を超えた空間演出やインテリアオブジェ作品としての提灯づくりにも取り組んでいる。
映画の美術セットへの提灯提供に、福岡空港やワンフクオカビルディングでの展示。国内外で活動の幅を広げるその姿は、西鉄グループのさまざまな事業を表現した2026年のCMテーマ「ひらけ、可能性。」をまさに体現している。そんな伊藤さんの職人としての信念に迫る——。
江戸時代、1815(文化12)年の創業以来、福岡県八女市で200年以上続く提灯屋「伊藤権次郎商店」。その8代目である伊藤博紀さんは現在36歳。15歳の頃から提灯づくりに親しみ、高校時代にはひと通りの技術を身につけていた。
しかし、大学卒業後に選んだ仕事は、大手ファッションビルのプロモーション職。企画や営業、販促などを現場で学んだ。
なぜ商業施設の営業企画の仕事に?

すぐに家業を継ぐよりも、まずは一般企業に就職しようと決めていたんです。伝統工芸の世界は「つくる」ことに全力を注ぐあまり、マーケティングやブランディングが後回しになりがちです。だからこそ、外の世界で多くの情報に触れ、仕事のスピード感や組織の仕組みを学んでから戻ろうと思いました。

その後、家業を継がれたのはいつ?

2016年、26歳のころです。伊藤権次郎商店の8代目として暖簾を守りながら、2021年には、伝統工芸の枠を越えた活動を広げるため、クリエイティブ・ユニット「CRAFCULT(クラフカルト)」を立ち上げました。
「CRAFCULT」ではどんな活動を?

「CRAFCULT」は「CRAFT」と「CULT」という2つの語からなる造語で、「工芸を崇拝する」という意味を込めた名前です。江戸時代から続く伊藤権次郎商店は、いわば守りの強い盾。その中で老舗として尖った挑戦をすると「伝統を守って」と言われることもあり、歯がゆさを感じていました。そこで、クラフカルトというユニットを別に立ち上げ、「POP工芸」という新しいジャンルを掲げて活動しています。神社仏閣やお祭りへの提灯奉納など伝統的な仕事は伊藤権次郎商店として、企画性のある展示や空間演出はクラフカルトとして、という使い分けをしています。


現在の1日の過ごし方を教えてください。

この1年は制作に充てる時間が多い状況ですね。ここ数年は依頼が増えていて、面白い内容であれば国内外問わずお仕事を引き受けています。通常、八女提灯づくりは制作と絵付けで担当者が分かれているのですが、僕はその両方を担当することもあります。加えて、営業や企画、打ち合わせなどすべての工程に携わっているので、ありがたいことに仕事が積み重なっている状態です(笑)。
八女提灯の特徴を教えてください。

八女提灯の特徴は、独自の製法にあります。京都や岐阜では、木型に竹ひごを一輪ずつ巻いていきますが、八女では和紙でつないだ数十メートルもの竹ひごを、職人が螺旋状に巻いて仕上げます。これが「一条螺旋式(いちじょうらせんしき)」と呼ばれる製法です。もうひとつの特徴は、竹ひごや手すき和紙まで地元でそろえられること。こうした環境があったからこそ、八女では提灯づくりが続いてきたんだと思います。
どんな点に、提灯の面白さがあると思いますか?

提灯は、実際に使われてこそ生きるものだと思っています。博多の山笠で男衆が提灯を手に持って走る、あの光景こそが提灯の魅力を表している。SNSで発信するときも、無地の背景に商品を置くだけではなく、人の営みや空間の中でどう存在しているかを撮るようにしています。
そうした中で、ご自身のスタイルの強みは?

ブランディングから企画、制作、プロモーションまでを一気通貫で自分で手がけられることが強みです。空間に合わせてデザインや見せ方を柔軟に調整できるのも、そこに理由があります。

日ごろの活動やインスピレーションの源はありますか?

商業施設で企画や販促の仕事をしていた経験が、今でも支えとなっています。飲食やアパレル、アニメ、芸能など幅広い業界に触れながら「人はどんな瞬間に心を動かされるか」を考え続けることが僕なりの表現スタイル。日ごろの趣味や興味関心も、提灯の見せ方や演出に生かされています。

「柳川藩主立花邸御花」(福岡県柳川市)で2021年から開催している「奇怪夜行」は、僕の好きなものとこれまでの経験が結実した企画です。昔から大好きな妖怪やガイコツを自分の筆で提灯に描き、光を灯して空間を魅せる。年を重ねるごとに新作も増やしてきました。

パフォーマンスを高めるために意識していることは?

僕たちは、約10人の職人がそれぞれの工程を担当する「分業制」で提灯をつくっています。そのため、完成した提灯を職人全員に見てもらうことを大切にしています。自分がつくったパーツがどんな場所でどう使われているかを知る機会は少ないので、実際に飾られた写真や反響を共有する。そうすることで、現場のモチベーションも上がっていくんです。
伝統と革新の間でもがくことはないでしょうか?

伝統工芸の世界は保守的だと思われがちですが、実際にはうちの職人たちはとても柔軟です。むしろ、老舗が思い切ったことに挑戦しないと、業界全体が新しいことをやりづらい空気になってしまう。だから、九州でも指折りの老舗であるうちが、あえて壁を壊す役目を担おうという考えです。


脈々と続く歴史について、僕がいつも意識しているのは「8代目である自分自身が、歴代最高の提灯職人だと言えるか」です。伝統工芸と言われる世界では、どの業界であっても、そんな自問自答が常に必要なんじゃないかと考えながら、日々の制作に向き合っています。

CM出演に先駆けて、福岡空港やワンフクオカビルディングでの作品展示で西鉄とのつながりを持っていた伊藤さん。
CM出演の依頼を受けた時の率直な感想は?

率直に、驚きました。僕でいいんですか、と。他企業の広告に出演させていただくと思うと、身が引き締まる思いでした。
お仕事をするまで、西鉄のサービスを利用されたことは?

10代の頃から西鉄バスや電車を利用していました。バスを使って通学したり、西鉄電車に乗って天神まで出かけたり。ソラリアやかつての福ビル、天神コアといった商業施設も、身近な存在でした。今でも八女を拠点に動いているので、めちゃくちゃお世話になっていますよ。
西鉄との仕事についても教えてください。

西鉄グループとの最初のお仕事は、福岡空港国際線ターミナルの提灯装飾でした。設計会社を通じてご縁をいただいたのがきっかけです。2025年にリニューアルされた、福岡空港国際線ターミナルの免税店エリア中央に、福岡県八女市の伝統工芸品である特大の「八女提灯」を吊り下げた祭りの山車風のやぐら(オブジェ)が設置されています。



ワンビルでの展示「出張奇怪夜行 in ONE FUKUOKA BLDG.」は2025年、2026年と2年連続で実現しました。6階スカイロビースクエアに、妖怪が描かれた特別な八女提灯30灯を展示させていただきました。

当初は、商業施設のような情報量の多い空間で演出には苦手意識があったんです。歴史的な建物なら提灯1灯でも強い存在感を放てますが、明るくにぎやかな商業施設では、光の陰影という提灯本来の魅力を表現しづらい。それでも、多くの方々の目に触れるワンビルでの展示には、挑戦する価値があると感じました。
世界をステージに活躍を続ける伊藤さんは、今も昔も変わらず、福岡・八女を拠点に活動を続けている。
福岡で活動を続ける理由は?

インターネットがあれば世界とつながれる時代に、東京にいる意味はそれほど大きくないと思っています。地方にいながら世界を相手に仕事ができることを、自分自身で証明したいな、と。
福岡で実現したいことは?

提灯という仕事を通して、地元・八女や福岡の文化を世界に発信していきたいと思っています。「八女提灯」という名前だけでは、今の時代なかなか消費者に響きません。まずは自分自身が前に出て発信することで、「これが八女提灯なんだ」と歴史や文化を知ってもらうきっかけをつくりたいですね。

今後のビジョンを教えてください。

提灯の「型」を変えるつもりはありません。江戸時代から続くあのシルエットは、日本人の美意識に根ざした一つの完成形だからです。ただ、そこに何を描き、どんな素材を使い、どう魅せるかは、これからも自由に挑戦していきたいですね。

最後に、このCMをどんな方に見てほしいですか?

福岡の方々はもちろん、県外や海外の方にもぜひ見ていただきたいですね。このCMをきっかけに、八女提灯のことを知ってもらえる機会が広がっていけば嬉しく思います。
江戸から続く「型」を守りながら人々の暮らしに寄り添い、独自の表現力で伝統工芸に新しい風を吹き込む伊藤さん。福岡・八女から世界に光を運び、未来に向けてはばたいていく——その躍進が、今後も楽しみでならない。


伊藤権次郎商店 8代目代表/株式会社クラフカルト 代表取締役
福岡県八女市出身。1990年生まれ。江戸時代、1815年に創業した提灯屋「伊藤権次郎商店」の8代目。大学でマーケティングを学び、卒業後はファッションビルのプロモーションを経験。2016年、26歳で地元に戻り、職人として本格的に提灯製作を始める。ディズニー映画『くるみ割り人形と秘密の王国』、Netflixオリジナル映画『レベッカ』の美術セットへの提灯提供のほか、櫛田神社をはじめとする神社仏閣・祭礼への提灯奉納、福岡空港国際線ターミナルの提灯装飾、柳川御花での企画展「奇怪夜行」、パリのパレ・ロワイヤル(元王宮)での展示など実績多数。
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