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西鉄の「電気バス」への挑戦!
日本最大規模のバス保有企業が
挑むEV化の道

西鉄の「電気バス」への挑戦! 日本最大規模のバス保有企業が 挑むEV化の道

世界共通の目標である「カーボンニュートラル」。
あらゆる企業で低炭素型の社会を目指す動きが進んでいます。もちろん西鉄もその一つ。

なかでも、日本最大規模の保有台数を誇るバス事業の新たな取り組みが、「レトロフィット電気バス」という独自かつ最先端とも言える取り組みで注目を集めています。世界各国の自動車やバスのEV化の実態を踏まえ、環境負荷の少ない交通手段の実現に向けた西鉄の新たなる挑戦と、今後の展望を追いました。

目次

運輸業が低炭素の鍵を握る?世界で加速するEV化の潮流

2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。この全体としてゼロにするとは、二酸化炭素など温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引き、合計を実質的にゼロにするということ。

平たく言うと、今よりも二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を減らすことが急務であるということです。

世界は今、コロナ禍からの経済回復の柱として、グリーンリカバリー戦略(環境に配慮した回復を目指す景気刺激策)が大きな潮流となっており、業界問わずカーボンニュートラルに向けた取り組みが加速しています。しかも、低炭素社会の鍵を握るのは、運輸業とも言っても過言ではなく、バスや鉄道を主戦場とする西鉄にとってこの問題に取り組むことは、重要なミッションとなっています。

近年はバスの世界もEV化が進んでいます。そもそも電気バスとは、普段乗っているバスとどう違うのでしょうか?

現在、日本各地を走っている路線バスの大半は、ディーゼルエンジンを搭載したバスです。ディーゼルエンジンは丈夫で簡単な構造のため故障が少ない上に、熱効率が高く経済的。ただし、走行時に二酸化炭素を排出するという点から、その排出量の削減および、ディーゼルバスに代わる環境負荷が少ない車両が求められていました。

そこで、近年次世代のバスとして注目されているのが電気バスです。従来の燃焼エンジンとトランスミッションを、電気モーターとバッテリーに置き換えたことで、走行時に二酸化炭素の排出量を削減。さらに、走行時の騒音や振動が少ないなど、さまざまなメリットがあります。

カーボンニュートラルを目指す、西鉄の取り組み

西鉄のバス事業はこれまでも、カーボンニュートラルに向けたさまざまな取り組みを進めてきました。デジタルタコグラフ(運行記録計)導入によるエコドライブの徹底、自動アイドリングストップシステム(アイドリングストップ中も冷房送風が可能な装置)の導入、ハイブリッドバスの採用といった、複合的な取り組みです。

現在、全国的に注目を集めているのが、今年6月に運行を開始した「レトロフィット電気バス」です。

単なる電気バスではなく、「レトロフィット電気バス」という聞きなれないワード。「“レトロフィット”の意味って?」「電気バスとの違いは?」「メリットって何?」「どこで乗れるの?」……といった素朴な疑問がきっと頭に浮かんでいると思います。

ちなみに、そもそもではありますが、電気バスを導入することは、私たちの暮らしや環境にどんなメリットがあるのでしょうか。

開発担当である自動車事業本部技術部技術課車両係の下河健太さんにレトロフィット電気バスの特徴や開発の裏側などのお話を聞きながら、西鉄の脱炭素に向けた取り組みや今後の展望について聞いてみました。

「環境面で期待できるのは、二酸化炭素の排出量の削減です。従来のディーゼルバスと比べ、33~57%(想定値)の削減が期待できます。また、エンジンを積んでいないため走行時の騒音や振動が少なく、快適な乗り心地も魅力です。乗った方から『静かすぎて会話するのも躊躇するほど』という声も出るほどです(笑)」

「発進もとっても滑らかで、エンジン車より加速性もよく、運転士からの評判もいいんです。さらに、車内にコンセントを設け、災害時の非常用電源としての活用も視野に入れています。1台で一般家庭の約10日分の電力を蓄えられるんですよ」

西鉄が開発したレトロフィット電気バスとは

今回新たに導入された「レトロフィット電気バス」とは一体なんなのでしょうか?
下河さんに意味を聞いてみると、「レトロフィットとは技術用語で『古い機械や装置を改造して新式の技術を組み込むこと』で、今回の電気バスはまさしくこれにあたります」とのこと。
今あるものを大切にし、そこに新たな価値を見出す。技術と経験をもって価値を継いでいくことに、西鉄の誇りとロマンを感じます。

今回導入された電気バスは、約15年間走った自社のディーゼルバスを改造し、車両後部にあったエンジンをモーターやリチウムイオンバッテリーに交換して電気バスへと生まれ変わらせたもの。新たに電気バスを購入するよりも、コストを大幅に削減できるようです。

とはいえ、実際は電気バスの新車を導入したほうが早いのでは?という素朴な疑問も浮かんでくるところ。しかし、西鉄は今あるバスに新たな技術を搭載し、新しい時代の新しいバスとして息吹を吹き込むというあえて難しい選択をしました。「この従来のディーゼルエンジンのバスを電動化するという新たな取り組みは、西鉄の歴史に残る偉大なる挑戦だと思っています」との言葉から、新たなバスの製造で余分な二酸化炭素排出を増やさずに、自社の技術を活かして環境問題を解決するんだという意気込みが感じられました。

電気バスの性能や利点とは?

ディーゼルバスを改造した西鉄の電気バス。日進月歩のEV界だけに、現在の走行距離も気になるところです。

現在、西鉄の路線バスの1日平均の運行距離は約150km(!)とのことですが、2019年に導入したアイランドシティ−西鉄千早駅間を走る電気バス2台は、航続距離が約35~45kmと限定的な運行に留まっています。しかし、今年6月に導入した新しい電気バスは約150kmの航続が可能。冷暖房を付けた状態でも約120km走行することができます。
EVではバッテリー(リチウムイオン電池)の性能が走行距離など車の性能に直結すると言われていますが、実際はどうなのでしょうか?

「2つのルートを走る電気バスは、駆動用バッテリーのメーカーが異なり、一方は充電1回あたりの航続距離は短いですが、充電回数は約2万回、もう一方は航続距離が長いものの充電回数が約2000回と、バッテリーの性能は一長一短。」
「まだまだディーゼルバスほどの長距離運行を実現するには運行の検証はもちろん、電力消費を抑えるための研究、開発が必要です。ですので、現在は朝と夕方のラッシュの時間帯に特化して運行するなど、毎日運行記録に目を光らせながら、最適な充電マネジメントを検証しています」

福岡のまちを縦横無尽に走る西鉄バスは、保有台数がグループ全体で2800台に上り、朝から晩まで緻密なスケジューリングのもとバスが運行されています。そのため、現在は電気バスの本格導入に向けて、課題を見つけ、検証していくフェーズに来ているとのこと。

「現在走行している電気バスは全部で2台です。「アイランドシティ照葉−西鉄千早駅」間の路線(片道約5km)は、朝7時~10時頃に1台が、「小倉~黒崎・折尾」間(片道約14km)では、朝5時半~11時、夕方17~20時頃に1台が運行中です。ぜひ新しい西鉄バスの乗り心地を体験していただきたいですね」

西鉄EVバスの課題と展望

現在までの電気バスの運行状況を踏まえ、運行台数の1台としてカウントするにはまだまだ課題があるとのこと。バッテリー性能の一層の向上、さらに電力を使う冷暖房設備の省エネといった課題が複合的に絡み合っていますが、そんな中でも、ラッシュ時以外の昼間帯にはバスの電気の余剰分を営業所に供給し、電気基本料金のコスト削減を図り、電気料金が安い夜間に充電するという電気バスにしかできない試みにも挑戦しているようです。

さらに、電気バスの導入以外にも、SDGsの観点から電力消費を抑えるアイデアもたくさん生まれているのだとか。まだ構想段階と前置きしながらも、営業所の駐車スペースに屋根を新設し、太陽光パネルで発電した電力を電気バスで使うというアイデアも。屋根の下にバスを駐車することで真夏や真冬におけるバス車内の気温上昇や低下を避けることができるため、運行前に冷暖房による温度調整も少なく済み、結果消費エネルギーも抑えることができるのだとか。


西鉄の電気バスの導入は始まったばかり。
環境問題は待ったなしの中、今後どのような目標を見据えているのでしょうか。

「2030年までの目標は600台の電気バスの導入です。そのために、2022年内にさらに2台、2023年には数十台の導入を目指しています。約1600台バスを保有している西鉄単体のうち600台が電気化することで、保有台数全体の35%という目標値をクリアできる試算です」


「快適な乗り心地を体験していただくことはもちろん、西鉄のレトロフィット電気バスがいかに環境負荷の少ない乗り物であるかを、バスを利用する皆さまやマイカーを利用する皆さまなどに知っていただく機会になるとうれしいです。今後はより環境を意識した方々が増えてくると期待しておりますので、コロナ禍で利用者は減りましたが、環境性をもっと対外的にアピールし、バス利用者の増加に繋がればと思います」と、下河さんは一層気持ちを込めて語ります。


低炭素型の社会を目指すにあたり、鍵となる運輸業。西鉄はレトロフィット電気バスという独自の取り組みを通して、環境問題に挑んでいます。そこには、電気バスを新たに購入するのではなく、今ある資源に付加価値を付け、未来に生かすというユニークなアイデアとチャレンジ精神がありました。今後もみなさんの「バスに乗る(=環境負荷を減らす)」という日常の行動が、未来の環境に少しずつ良い影響を与えてくれるはずです。

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