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自動運転、のるーと、MaaS…
西鉄が描く「未来の交通」には
夢しかなかった!

自動運転、のるーと、MaaS… 西鉄が描く「未来の交通」には 夢しかなかった!

近い将来、移動の概念が大きく変わりそうだ――現代を生きる多くの人が抱いている実感だろう。自動運転、MaaS、AIオンデマンドバス、ドローン、電動キックボードなど、新しいモビリティやそれにまつわる新サービスは、あらゆる業界、事業者を巻き込みながら激しい進化を続けている。公共交通を基幹業務とする西日本鉄道はどんな未来を見ているのか。

目次

未来を見据えた三つのターゲット

未来モビリティ部――新しいモビリティサービスを生み出すことを目的に2019年に新設されたこの組織では、目まぐるしいほどの技術革新が世界中で進む中で、大きく3つのプロジェクトを推進している。それが「MaaS(マース)」「AIオンデマンドバス」「自動運転」だ。

部門の創設以前から、新規事業戦略に取り組んできた自動車事業本部未来モビリティ部長・日髙悟さんはターゲットを何に定めるのか、模索していた頃をこう振り返る。

日髙さん
日髙さん

西鉄として新しいモビリティサービスへの取り組みをスタートしたのが2017年。ただ、当時は何を手掛けるべきなのかというイメージさえありませんでした。一方で自動車業界ではConnected(コネクティッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)といった「CASE」と呼ばれる技術革新が進み、移動の概念が大きく変わることは明白でした。

全国の事業者との情報交換や、セミナーへの参加、書籍や論文などからの情報収集を続ける中で、様々な業界で「未来の交通」をミッションにしている企業人と出会った。対話に刺激を受け、ともに同じビジョンを目指す同志も生まれた。

そうした中で最初に手がけたのがトヨタ自動車との協業でスタートしたMaaS事業だった。スマートフォン向けマルチモーダルモビリティサービス「my route(マイルート)」だ。

目指すは九州一円をカバーするMaaS

MaaSとは「Mobility as a Service」の略で、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスをシームレスにつなぐ移動の概念。自家用車以外の全ての交通手段を最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行う次世代交通サービスを指す。

「my route」はスマホの中で、移動手段の検索・予約・決済まですべてワンストップで完結することができるアプリ。店舗・イベント情報の配信、検索も可能で、人の移動を街の活性化に繋いでいるのも特徴だ。

2018年11月に実証実験がスタート。2019年にはJR九州が、2021年にはタクシー大手の第一交通産業が参画。以降、九州各地での実証実験に採用されている。

日髙さん
日髙さん

九州経済連合会が立ち上げた「九州MaaSプロジェクト研究会」にも積極的に参加し、MaaSを九州全域に広げるための戦略を練っています。1400万人が暮らす九州という規模で、どこでも使えるMaaSの提供を目指しています。他の鉄道会社やバス会社はもちろん、自治体も含めた官民一体の体制づくりが必須。簡単なことではありませんが、これが実現すれば、規模やクオリティにおいて日本国内ではもちろん、世界的にも珍しい事例になるでしょう。

九州で暮らす人の利便性の向上だけでなく、国内の観光客やインバウンドを呼び込む価値となりうる九州版MaaS。その誕生は、それほど遠い未来ではないだろう。

AIオンデマンドバスの世界基準を目指して

未来モビリティ部が次に実現したのがAIオンデマンドバス「のるーと」である。オンデマンドバスとは乗りたいときにスマートフォンのアプリか電話で配車をリクエストし、提示された最寄りのミーティングポイントで乗車するバスとタクシーの中間のような交通サービス。出発地や目的地に応じて、AIが最適なルートを割り出し、運転士をナビゲートするシステムだ。

運営は西鉄が三菱商事株式会社と2019年に共同出資で設立したネクスト・モビリティ株式会社があたっている。

西鉄にとってAIオンデマンドバス事業へ参画する理由は大きく三つある。
一つ目がお客さまの利便性の向上だ。

日髙さん
日髙さん

たとえばバス停まで歩くのが負担になる高齢者や子連れでの利用など、小回りのきく移動手段で自由に動きたいというニーズは高まっています。目的地も道路上ではなく、病院や施設の玄関口までお運びするといった、きめ細やかなサービスが実現できる。オンデマンドなので、自分が乗りたい時間に行きたいところまで行けるのも魅力です。

そして二つ目は、近い将来に訪れる深刻な運転士不足だ。

日髙さん
日髙さん

2017年の時点で、これから十数年の間に運転士が3割程度減る可能性があるという予測が出ていました。少子化や運転免許を取得する人が減っている現実、それによるドライバー志望者の減少を考えると、これはかなり確度の高い未来です。新しいモビリティサービスは、この問題の解決に資するものを、と考えていました。AIオンデマンドバスは運転士不足に対する有効なソリューションの一つになると確信しています。

オンデマンドバスは10人乗り以下の、乗用車サイズの車なので、普通2種免許を保有していれば乗務ができる。大きな車の運転が負担になってきたシニアドライバーや、女性、若者など、雇用の裾野が広がるのだ。

三つ目の理由は、自治体の財政負担を減らす効果。

乗客の減少で路線バスの採算が取れなくなった地域では、行政からの補助金で赤字を補填して運行を継続しているケースが多い。人口が減少している現在、年々、補填額が増加しているのが実情だ。

日髙さん
日髙さん

車両をダウンサイジングして必要なエリアや時間帯だけに乗り物サービスを届けることで、コスト総額を落とすことができたり、コストはそのままであっても、サービスが向上するので運賃を上げたりすることができる。これによって収支を改善できるのです。

現在、「のるーと」は日本の13地区で70台以上が運行している。さらに、15を超えるエリアから問い合わせを受けていて、協業に向けての話し合いが進んでいる。決して競合が少なくないAIオンデマンドバスだが、「のるーと」が選ばれる理由はどこにあるのか。

日髙さん
日髙さん

バス会社が運営に入っているのは、全国でも「のるーと」だけ。配車システムのレベルはもちろんですが、実際に運用するとなると、サービス設計の仕方、地域との合意の図り方、利用者を広げるためのマーケティングの手法など、これまで福岡でバスを絶え間なく動かし続けてきたからこそのノウハウが生きます。公共交通はシステムを提供したら終わりではなく、むしろそこからが大切ですから。

国内はもちろん、海外展開の可能性も視野に展開する「のるーと」。AIオンデマンドバスのスタンダードになれるか。新たな挑戦が始まっている。

福岡空港で自動運転の実証実験

未来モビリティ部が取り組んでいる三つ目のプロジェクトが「自動運転」だ。新しい交通の象徴のようなテーマだが、実際、どこまで進んでいるのか。

国が公表しているロードマップでは、2025年度を目途に高速道路や生活道路などの少なくとも40カ所以上で、2030年までに全国100カ所以上で、レベル4(高度運転自動化)の自動運転サービスを普及させる、と明らかにしている。

日髙さん
日髙さん

そうなれば、福岡県でも1、2カ所で走行している状況がイメージできますので、西鉄として然るべきポジションで携わっていきたいと考えています。

西鉄は北九州エリアにおいて2020年2月に小型自動運転バス、同年10月に中型自動運転バスの実証実験を実施。また、2022年3月には、いすゞ自動車株式会社、三菱商事株式会社、福岡国際空港株式会社と共同で、福岡空港内において大型自動運転バスを用いた自動運転の実証実験を行なった。

このときの実証区間は福岡空港国内線・国際線連絡バス道路の約1.4キロ。安全性・利便性に関する知見とともに、運用・サービス面における課題も得た。今年度には、同じ区間で、さらなる実証実験が予定されている。

実証実験における自動走行機能レベルは「レベル2」で、これは「システムが進行方向の舵取りと加減速を行うが、運転士は運転席に座り、常に車両の挙動とシステムの作動状況を監視。必要に応じて運転操作を行う」という段階だ。

日髙さん
日髙さん

緊急時にも運転手が対応せず、システム側が全ての責任を持つレベル4を実現するためには、まだまだ乗り越えるべき壁がたくさんあります。車両メーカーやシステム開発会社との連携をさらに強めながら、一つひとつクリアしていくことになるでしょう。

ゴールはまだ遠い。しかし、福岡の街を完全自動運転のバスが駆け巡っている未来に向けて、西鉄は着実な歩みを続けているのだ。

地域を変えるモビリティハブ

世界でも類を見ない規模への拡大を目指すMaaS、世界基準を視野に広がり続けるAIオンデマンドバス、不可能とも思えるビジョンに果敢に挑む自動運転――西鉄が取り組んでいる交通の未来は、どれも胸が踊るミッションだ。

しかし、その視野にはもっと新しい何かが入っているはず。

日髙さん
日髙さん

もちろん常に考え、調べています。あくまで個人的な興味ですが、現在はとくに二つのトピックに注目しています。

日髙さんがそう語るのが、「モビリティハブ」だ。電動キックボード、電動バイク・自転車などのマイクロモビリティやシェアカーのポートなどを集約させたスポットのこと。ヨーロッパを中心に導入が進んでいて、駅やバス停、大型商業施設の周辺などで開設が相次いでいる。

日髙さん
日髙さん

モビリティハブまではバスで移動して、そこからはマイクロモビリティに乗り換え、自分で目的地に向かったり、あるいは時速20キロ未満で走る電動車を活用した移動サービスであるグリーンスローモビリティと接続することもあるでしょう。モビリティハブが地域で暮らす人々のライフスタイルをどう変えるのか。新しく開発されたモビリティハブが地域コミュニティのハブになる可能性もありますよね。

西鉄が空を飛ぶ?

日髙さんが注目するもう一つのモビリティが空飛ぶクルマとも言われる「有人ドローン」だ。

日髙さん
日髙さん

先日、あるメーカーのプレゼンを受けたのですが、大きな可能性を感じました。意外と実用化は早いのではないか、と考えています。福岡に到着した旅行客がチェックインしたホテルの屋上から有人ドローンに乗って、近くの島まで遊覧飛行に行くといったことが、普通の行動になると楽しいですよね。

いよいよ西鉄が空に? 日髙さんは「十分にあり得る話です」と笑顔でうなずいた。

すぐ近くの未来も、少し先の未来も、「交通」というフレームごしに眺めると、いずれ私たちが手にすることになるであろう新しいライフスタイルが見えてくる。そのイメージをリードする西鉄の未来モビリティ部。「夢」しかない、その視線の先に広がる景色を、エヌカケルはこれからも追い続ける。

  • 日髙 悟 さん
    日髙 悟 さん

    西日本鉄道株式会社
    自動車事業本部未来モビリティ部長
    ネクスト・モビリティ株式会社代表取締役社長

    1995年入社。自動車局配属。福岡市内路線バス営業担当、一般管理部門などを経て2017年から新しいモビリティサービスの事業開発・販売を担当。2023年より現職。

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