交通系ICカード「nimoca」の、あの愛くるしいキャラクター。実は「すごいデザイナー」によって生み出されたことをご存知だろうか。「チキンラーメン」の「ひよこちゃん」、ポイントカード「Ponta」の「ポンタ」のほか、人気キャラクターのリデザインも数多く手がける中野シロウさんだ。
プレイセットプロダクツ代表。
1967年神奈川県生まれ。美術学校卒業後、玩具メーカーに勤務。キャラクターデザイン制作のほか、企業の商品企画やプロデュースも多く手がける。
株式会社ニモカ
営業推進部 営業企画課(マーケティング・販促担当) 課長
1998年、西日本鉄道株式会社へ入社。バスガイドを経て、13年間広報部門に従事。2020年10月に現職へ異動。nimocaカードの利用促進全般の統括、キャンペーンの企画や運営、クレジットカードの管理業務に携わる。
株式会社ニモカ
営業推進部 営業企画課(マーケティング・販促担当) 課長代理
2019年、西日本鉄道株式会社に入社。都市開発事業本部で3年間ビル営業を担当し、2022年4月に現職へ異動。キャンペーンの企画や運営、クレジットカードの管理業務などに携わる。
「nimoca」は福岡で最も多くの人に利用されている交通系ICカードだ。2022年10月末時点の調査では、累計発行枚数492万枚を突破。主に福岡・九州エリアで利用されている交通系ICと比べても、100万枚以上の差をつけての圧倒的トップである。
まずは株式会社ニモカの藤田るみさん、大安華絵さんに、その理由を尋ねた。
フェレットのキャラクターの力は大きいですね。発行当初から『キャラクターがかわいい』という声をたくさんいただいて、すぐに多くの方に認知いただけるようになりました。福岡県外の方もデザインを理由に購入される方がいらっしゃいます。
毎日のように使うカードだからこそデザインがかわいいと気分が上がりますよね。シルバーのカードに水色の差し色が爽やかな一枚なので、老若男女問わず愛されています。3Dにしてもかわいくて。キャンペーンイベントで登場する着ぐるみも大人気なんですよ。
やっぱり、キャラクターの力って大きいですよね! で、うーんと、あれ? 名前ってなんでしたっけ?
名前はないんですよね。制作当初、まずはカードの名前を覚えてもらいたくて、キャラクターには名前を付けないままスタートしました
えっ、名前なかったんですか!? それは知りませんでした。
『追々付けてもいいよね』となっていたのですが、結果今までついていなくて。ニモカちゃん、と呼んでいる人が多いみたいですよ。
私もニモカちゃんのかわいさに惹かれて、ずっとユーザーです。私のカード、ほら、かわいいでしょ。
ああ、ベーシックなパターンですね。
ちょっと、待ってください。他にもバリエーションがあるんですか⁉︎
たとえば、長崎県の『nagasaki nimoca』に載るニモカちゃんは、少し歩いているような動きがあって、背景には長崎を象徴するモノグラムがプリントされています。
ほんとだ! 全然違うデザイン!
これは大分県の県の公式マスコットキャラクター『めじろん』とのコラボです。
わあ、めっちゃかわいい。全部、ほしくなっちゃいます。
こうしたご当地のnimocaは、これまでに全部で6種類展開(函館・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎)。キャラクターの展開に際しては、その都度、デザイナーの中野さんへご連絡して、毎回1つ1つ描いていただいているんですよ。10周年記念にはこんなプレミアムなニモカちゃんも登場しました。
すごい!あのー、中野さんに直接、インタビューすることって、できませんかね?
うーん、どうだろう。巨匠でいらっしゃるし……。
まあ、そうですよね。
中野さんの連絡先を聞いて、意を決して連絡してみると、「ちょうど福岡に来る用事があるから」と、なんとOKが出た。たぶん、ニモカちゃんのお導きだ!
実際にお会いした中野さんはとても気さくで、どんな質問にも、快く答えてくれた。
来福は久しぶりですか?
うん、ぼくは今、山梨の清里を拠点に活動していまして、福岡はnimocaの発表会が開催された2008年以来、実に14年ぶりです(笑)。天神の街並みが変わっていて、ますますおもしろい街になっていますね。
さっそくですが、ニモカちゃんのデザインをすることになったきっかけは?
実はね、けっこう悩んだんですよ。
えっ!なぜ?
コンペだったからです。基本的にコンペは出ていなかったものですから。
ですよね!(だって、巨匠だもの)
でもね、交通系ICのキャラクターデザインは全国的に見ても、この先、それほどチャンスがあるわけじゃないってわかっていましたから、やるべきだろう、と。
どんな提案だったんですか?
幅広い世代に受け入れられる、愛らしく親しみやすいキャラクターということで、3案、すべて動物をモチーフにデザインしました。なかでも一番シンプルなデザインだったのが今のキャラクターです。
ほかの2案はどんなデザインだったのでしょうか。
細かいことは忘れちゃったけど、たしか、リスザルとウサギだったな。色合いも派手だったんですよ。
へえ、じゃあ、nimocaのキャラクター、派手なリスザルになるかもしれなかったんだ。今のニモカちゃんでよかった!
そうだね。実はフェレットでも頭身と表情が違う3パターン作っていたんですよ。
おお! 他の案も好きです~!
ありがとう(笑)。最終的には今のデザインになったけど、ぼくも結果的にはよかったと思っています。シンプルさゆえに、広く、長く愛されているのでしょうから。自信はあったけど、まさかここまで浸透してくれるとは。
キャラクターのモチーフにフェレットを選んだ理由を教えてください。
以前からヨーロッパではイヌ、ネコに続く第三のペットだと言われ、愛されていると知っていました。また、フェレットは動きが俊敏で好奇心旺盛な動物です。nimocaで移動や買い物がスムーズになるイメージにも近いなと思いました。
なるほど!
あと、たしか、当時の西鉄の社長さんがたまたまフェレットを飼っていたとかで(笑)。
そんな裏話もあるんですね。
それまで、キャラクターとしては、おそらく誰も使っていなかったから、他とは被らない、唯一無二のキャラクターになってくれました。
苦労したポイントはありますか?
顔とボディのバランスですね。
うん、確かに絶妙です。
ニモカちゃん、今や福岡県民なら誰もが知っています。
一番嬉しいのは、福岡や九州のみなさんが毎日携帯してくれているということなんですよ。デザイナーとして、作ったプロダクトが人の生活に入り込むことを理想にしているのですが、まさにそこが現実になった例です。
たしかに、私もずーっと一緒です!
学生さんが利用する定期券に、ぼくが描いたキャラクターが載っているって『けっこうすごいことだよな』と実感しています。大学の学生証にも採用されたわけでね。
これからの展開が楽しみです。
発行開始から10年以上が経っているからね。何か次の仕掛けができるタイミングに来ているようにも感じています。
え、なにか具体的な計画があるんですか?
いやいや、そういうわけじゃないけど。でも、たとえば、キャラクターの家族を作ってみたり、絵本やアニメーションに展開してみたり。福岡・九州の人々の生活にnimocaが溶け込んだ今だからこそ、キャラクターが街づくりの一役を担えるのではないかと感じています。
これはぜひ、実現してほしいです!
もちろん、nimocaが選ばれているのは、「かわいい」だけでなく、使い勝手の良さが支持されているからでもある。
そもそも、「nimoca」というカードの名称は、「バスにも、電車にも、お買い物にも、いろいろ使えるオールラウンドなカード」という意味。生活に密着した利便性の高い交通系ICカードとして、九州エリアでは先んじて誕生した。
交通系では、西鉄グループのほか、福岡、佐賀、大分、熊本、宮崎、長崎のバス・路面電車など、30社局約5,000台に対応。nimoca加盟店は、2022年5月末時点で50,000店を超え、Suicaなどの全国の交通系ICカードが使えるお店は約150万店舗にものぼる。
そうは言っても、正直なところ、交通系ICカードによって使い勝手に大きな違いはあるのだろうか。あらためて、藤田さん、大安さんに聞いてみる。
数ある交通系ICカードの中でもnimocaを選ぶメリットを教えてください。
鋭い質問ですね(笑)。たとえば、毎日西鉄のバスや電車を使って通勤して、駅周辺のスーパー『にしてつストア』で買い物する。休日はよく天神に遊びに出て『ソラリアプラザ』で服を買うという人は、絶対にnimocaを使ったほうがお得です。
その理由は?
nimoca一枚で、まず、きっぷの購入や運賃の小銭がいりません。必要であれば定期券の機能を搭載できます。また、『にしてつストア』や『ソラリアステージ』などでキャッシュレスな買い物ができます。
なるほど。これは便利だ。
さらに、対象のnimoca加盟店では、登録制の『スターnimoca』、『クレジットnimoca』なら、お買い物でもポイントが付き、ポイントは交換すれば電子マネーとしてご利用いただけます。
要は、福岡で暮らすなら、nimocaを使っておけば、間違いがないと。
そう思っていただけたら、うれしいですね。
現在は、九州各県のバス会社がnimocaのシステムを採用している。北海道・函館のバスや路面電車でもnimocaが使われているということだ。北海道での名称は「ICAS nimoca(イカすニモカ)」。あのニモカちゃんはいないけれど、機能的には全く変わりない。
nimocaが北海道でも使われているなんて知りませんでした!
そうなんです。北海道では、函館バスと函館市電にnimocaを導入いただいています。
各地域への展開の背景には、nimocaで目指す街づくりへの思いがあった。
スタンダードなnimocaを単純に拡張するのではなくて、地域に合わせた展開をされているんですね。
ええ。新たに交通系ICカードを導入する地域へnimocaのシステムをまるごとパッケージとして提供することで、地域ごとのニーズに応じた柔軟な活用をしていただければと思っています。
今後、nimocaはどのように進化を遂げるのでしょう。
令和に入って紙幣や硬貨を使用しない電子決済の普及が加速化し、キャッシュレス社会が進んできた一方で、地方都市ではまだまだ半数以上の人が現金を使っています。遅かれ早かれ時代に合わせて変革が進むなかで、nimocaがキャッシュレス社会への最初のステップに位置付けられるとうれしいですね。
キャッシュレス初心者が持つ最初のカードになる、と。
クレジットカードのような審査が必要なく、銀行口座との紐付けもいりません。発行時の面倒な手続きもないので、ご高齢の方でも簡単に手続きができます。慣れるまで少しだけ時間がかかるかもしれませんが、キャッシュレスが当たり前になれば、移動も買い物も今まで以上にスムーズになり、より快適な生活を送っていただけるようになるはずです。
そのためにも、これまで通りnimocaの展開を広げつつ、既存のシステム面をよりブラッシュアップして、今後は、使い勝手が良いカードにしていくと同時に、時代のニーズに応じたサービスを検討していきます。
発行から14年。nimocaは、キャラクターとしても、交通系ICカードとしても進化を続けている。
カードを使う度に目が合うニモカちゃんは、やっぱりかわいい。今までは意識していなかったけれど、中野さんがデザインしたこのキャラクターは今や九州では知らない人がいないくらいの街のアイドル的存在になっていて、みんなの手の中にある。
福岡でICカードを使うなら、かわいくてお得な「nimoca」が絶対にいい!ニモカちゃん、今日もありがとうー!