ババ・バスオ――西鉄バスの公式キャラクターだ。2018年に開催された「第2回バスキャラ選手権」で日本一に輝くなど、地元の福岡県、九州はもちろん、全国にもファンが広がっている。なぜ、こうも愛され続けるのか。作者であるクリエイターのパントビスコ(Pantovisco)さんにその秘密を聞いた。
公式サイトのプロフィールによれば、ババ・バスオの正体は福岡県の「県の鳥」であるウグイス。誕生日は8月8日で、口ぐせは「○○バス」。趣味は「いろんなところに出かけること」とある。
他にも、笑い方は「キョキョキョ!ホーホケキョ」で、「バス」と読める胸元の毛並みは生まれつき。人とおしゃべりすること、色んなところへ出かけることが好き。大ざっぱなところがあるが、時間にはわりと正確。簡単な日常会話程度なら、10ヶ国語ぐらい喋れる。相手との話題に詰まったら、バスオ・スマイルで間をつなぐ……といった設定(?)があるようだ。
今でこそ西鉄バスの「公式キャラクター」として広く認知されているババ・バスオだが、彼が生まれた2017年の時点では「LINEスタンプ」限定プロジェクトだったという。当時、バスの営業企画担当としてプロジェクトに関わった春田優衣さんは、きっかけをこう語る。
毎年、バスの営業所を見学に来てくれた子どもたちに配るノベルティを製作していました。鉛筆とか、消しゴムとか……でも、それじゃ、おもしろくない。私が担当して3年目となった2017年、「今年はちょっと変わったものが作りたいな」って思ったんです。
でも、いったい何を作ればいいのか。 先輩に声をかけてさまざまなアイデアを語り合う中で、「LINEスタンプ」というワードが出てきたんです。そのとき先輩が「あ、それ、いいね!
今、このイラストレーターが気に入ってるんだ」とスマートフォンの画面を見せてくれた。
それがパントビスコさんがリリースしていたLINEスタンプで、あまりのかわいさに私自身、見た瞬間に購入しました。そして、「この方にスタンプを作ってほしい。できれば西鉄バスの公式キャラクターを描いてほしい」と直感したんです。
春のうららかなある日、何気なくスマートフォンの画面を眺めていたパントビスコさんは、当時もうほとんど使っていなかったFacebookが目に留まり、なぜか、ふとクリックした。そこには1通だけメッセージが届いていた。迷惑メールの類かと思ったが、送り主は西鉄の社員で、内容はイラスト制作の依頼だった。
開いた瞬間、「おっ!」と声が出ました。だって福岡県・久留米で生まれ育った私にとって、幼い頃から親しんできた西鉄さんからのオファーですから。それはもう即決ですよ。公式サイトには問い合わせフォームもあるんですが、意外なアプローチでした。いやあ、たまたまFacebookを開いて、ほんとよかったです。
即答したのには、もうひとつ理由がある。
これ、初めて話すことですが、実は私の祖父は西鉄に勤めていたんですよ。 「おじいちゃんが働いていた会社と一緒に仕事ができる!」というのがうれしくて、即OKしました。
最初の打ち合わせから話は大いに盛り上がった。
後から知ったんですが、春田さんをはじめ、私を見つけて支持してくださった西鉄の方々は、私が福岡出身だとご存知なかったそうなんです。単純に絵を気に入ってくれてアクセスしてきてくれた。そうしたことも影響したのか、キャラクターの設計は、基本的に私に任せてもらえることになりました。
順調な滑り出しではあったが、懸念がないわけではなかった。上司の中には「LINEスタンプって使ったことないけど、ウケるのかな」「これまでみたいに使える文房具のほうが喜ばれるんじゃないの?」といった消極的な意見もあった。
また、バントビスコさんの頭の中には西鉄の社員から聞いた「うちは、どっちかと言うと、硬い会社ですから」という言葉が残っていた。
実際、ご依頼を受ける以前に採用されていたキャラクターは、とても素朴なものでした。そこに代わるものとして、私が作るキャラクターが受け入れてもらえるのか、と少し不安はありました。でも、熱い思いを持った若手の社員の方々に背中を押してもらう形で、思いきった、自由な制作ができました。
小さな子供にも伝わる「わかりやすさ」を重視して、帽子に「にしてつ」、おなかに「バス」の文字を描いた。
ね、誰がどう見ても、西鉄バスのキャラクターです(笑)。
送られてきたキャラクターを見て、プロジェクトチームは湧いた。「かわいい。これで決まりですね!」「絶対に人気が出ますよ!」……彼らは上司に、その率直な思いを伝えた。一方の上司はそんな若いスタッフの感性を信じて、ゴーサインを出してくれた。
ただ、ひとつ、問題が残っていた。ネーミングだ。
キャラクター開発を全面的に任されていたバントビスコさんが最初に挙げたアイデア。それは……
ニシ・テツノリ。
いま、考えると、シュールでいいネーミングだな、と思うのですが、当時はなにか違うと。もっと親しまれる名前があるんじゃないか、と。
次に候補となったのが「コロコロマル」だったが、調べると、すでにキャラクターの名前として使用されていた。
バントビスコさんは考えた。他には絶対にない、オリジナリティの高い名前。そして、福岡にゆかりのある名前……
ふと、「馬場」という名前が頭に浮かんだんですよ。調べてみたら馬場という姓は福岡に多いんです、私の身近にも何人もいました。それで、この馬場という名字にバスを掛け合わせたら……ババ・バスオ! しっくりきました。いやあ、ほんとにこの名前になってよかった。実は初めて会う方から、ババ・バスオという名前を褒められることも多いんです。つい、口に出したくなるでしょ?
ババ・バスオって。
2017年8月にLINEスタンプがリリースされると、じわじわと口コミで広がり、路線バスに採用されたステッカーがTwitterで拡散されるようになった。
翌2018年に開催された「第2回バスキャラ選手権」では投票総数のうち、半数近くを獲得し、堂々の1位を獲得した。
私の特徴のひとつなんですが、Instagramの50万人以上のフォロワーさんたちに応援をしてもらって、圧倒的な票差で勝てたのは、それだけババ・バスオ が、愛されているという証明ですよね。
その後、ババ・バスオのオリジナルニモカが限定発売されるなど、グッズやノベルティにも展開。2018年にリリースされたババ・バスオ仕様のラッピングバスは、なんといまもなお、福岡市内を走り続けている。
西鉄バスの公式キャラクターとして、すっかり定着した感のあるババ・バスオ。バントビスコさんはどんな未来を見ているのだろうか。
たとえばババ・バスオくんの家族とか、恋人とか、新たなキャラクターが生まれると楽しいな、と考えています。
実はババ・バスオの友人として、「クックくまいさん」というキャラクターが存在する。登場回数は少ないものの、バントビスコさんのイラストやマンガに出てくるレアキャラだ。
「クックくまいさん」は以前バスの担当者だった西鉄社員の熊井強 さんがモデルです。ババ・バスオのプロジェクトを推進していた若手社員からいじられても、鷹揚にかわしていくその懐の深さをリスペクトしつつ、愛されキャラの熊井さんを、テディベアのキャラクターとして描いたんです。コアなファンもいますので、もっと登場させたいですね。あと…西鉄電車のキャラクターも密かに考えていて…電車部門の方、採用してくれないですかね?笑
もうひとつ、パントビスコさんが見ているのが「海外」だ。
昨年、ハワイで仕事をしたんですが、来年以降とかババ・バスオくんを連れて行きたいな、と思っています。着ぐるみの中の人……いや、“仮に”人が入っているとしたらの話ですが、すごく暑いでしょうけど(笑)、ハワイの人たちにもババ・バスオくんを通して西鉄さんのことを知ってもらえるとうれしいな、と。シンガポールもよさそう。
ババ・バスオは世界に向けて飛び立つのか。可能性しかないババ・バスオの羽に、あなたも乗ってみませんか?
クリエイター
ババ・バスオの生みの親。インスタグラムでは2014年から毎日投稿を行い、現在の作品点数は1万点以上。
SNS総フォロワー数は約80万人。
著書の出版、メディア出演、雑誌連載や広告制作、キャラクターデザインなど幅広くクリエイティブにまつわる活動に従事している。
2021年12月には地元福岡県久留米市より「くるめふるさと大使」を委嘱される。
twitter: @pantovisco
Instagram: @pantovisco
西日本鉄道株式会社
都市開発事業本部 計画部 計画担当
2014年入社。自動車事業本部営業企画部にて商品企画やPRを担当。
2017年より都市開発事業本部に異動し、天神コア運営室にて営業を担当。
その後2年間の産休育休を経て、2021年度より都市開発事業本部営業部計画担当にてビル物件の収支および主管会社業務を担当。