福岡本社の西鉄のなかで東京に本部を置き、グローバルなネットワークを広げている「国際物流事業本部」。「NNR Global Logistics」のブランド名で29カ国・地域、世界の121都市(2022年9月現在)に現地法人を展開しています。海外で働く社員はいったいどんな仕事をして、どう暮らしているの? NNR USA・シカゴ支店に駐在中の三木理世さんに、オンラインでインタビューしました。
所属 : NNR Global Logistics USA Inc. Chicago Office
2017年に新卒で入社。国際物流事業本部で経験を積み、20年9月からNNR USA・シカゴ支店に駐在。日系企業を中心に営業を担当している。
三木さんは、いつからシカゴに?
2017年に新卒で入社して、国際物流事業本部の横浜営業所に配属されました。2020年9月からアメリカ・シカゴに来ています。
コロナ真っ只中だったのでは?
本当は2020年4月から赴任する予定だったのですが、コロナで大使館がクローズして……。結局、5カ月遅れて、9月にようやくビザが下りました。
国際物流事業本部って、そもそもどんな部門?
いわゆるフォワーダーです。フォワーダーは、飛行機や船を自社保有しているわけではありません。お客さまから依頼を受けて飛行機や船のスペースを買い、納期などの条件に合わせて計画を立て、必要に応じて鉄道やトラックを組み合わせて貨物を運ぶのが私たちの仕事です。海外では「NNR」という法人名で知られています。
どれくらいの日数をみてスケジュールを組み立てるんですか?
その時の状況や仕向地(貨物の送り先)にもよりますが、航空便の場合、例えば日本からシカゴの配達先までだと約1週間の日数を見込みます。
船の場合は?
日本からロサンゼルス港までは約2週間、シカゴだと鉄道で内陸まで運ぶ必要があるので、プラス2週間かかります。通常は配達まで約1カ月を見込みますが、2020年の巣ごもり需要から2022年の現在に至るまでは世界的に物流が滞っているので、通常より時間がかかります。
三木さんはどんな業務を?
シカゴ近辺にオフィスがある日系企業に対する営業がメインです。
どんなものを運ぶことが多いんですか?
シカゴを含む中西部は車の産業がさかんな工業地帯です。自動車関連のパーツや工作機械などはよく扱いますね。その他、日用品など普段の生活で目にするモノを扱うこともあります。
勤務スケジュールはどんな感じ?
出社は平日8時~17時で、土日が休み。出社したらまずメールをチェックして、急ぎの案件は優先的に対応します。日中は顧客訪問やオンラインミーティングのほか、空港まで行って現場で荷下ろしに立ち会うこともあります。空港までは、オフィスから車で20分くらいなので何かあればすぐに行けます。
取引先の担当者はアメリカの方が多いんですか?
日系企業がメインなので、取引先は日本の方も多いですよ。新規で営業の電話をかけても、同じ日本人ということで、けっこう話を聞いていただけるのはうれしいですね。
英語はどのくらい使う?
シカゴのオフィスにはドライバーや倉庫の作業スタッフが50人くらいいます。日本人は私とあと1名。なので、社内のやりとりはほとんど英語ですね。航空会社やトラック会社といった取引先も英語です。
仕事のやりがいを感じるのはどんな時?
お客さまに「助かった」と感謝していただける瞬間がいちばんです。また、現地のスタッフに日本のサービスや知識をシェアできた時も、駐在員としての役目を果たせたと感じます。最近だと、NNR USAのオフィスでは大学生と大卒生を対象に、長期インターンシップの受け入れをスタートしました。名刺の交換や日本の上座・下座などのビジネスマナーを伝える機会があり、NNRの存在をアメリカでPRすることができました。日本やNNRに興味を持ってくださる方がいることにも喜びを感じます。
お客さまに対して心掛けていることは?
駐在している方は基本的にたくさんの業務を兼務していらっしゃるので、多忙な場合がほとんどです。その分、先方に確認の手間を取らせないように状況や進捗をていねいに説明するよう心掛けています。
ライバル会社との競争は激しいのでしょうか?
日系フォワーダーはもれなくシカゴに拠点を持っています。顧客によっては複数社を併用しているので、相見積もりを取っているなどの動向は、常に確認しています。時には値下げ合戦になることもあり、特に今はアメリカ経済の調子が良く物の動きが多いことから、スペースは常にタイトであり、運賃は高止まりしています。
現在、多くの顧客は複数のフォワーダーを利用したり、安いところを探したりと、たくさんの選択肢をもっているため、フォワーダー間では激しい競争が繰り広げられています。そのような中でうまく需要にフィットでき、新規取り扱いに結びついた案件も多くありました。
私の担当する日系顧客でも、アメリカ人の物流担当者を相手にセールスすることがあります。その場合は日本人セールスであることに言語面で歯がゆさを感じることはありますが、ビジュアルを用いてわかりやすくプレゼンテーションをしたり、面談後にメールでフォローしたりと、同業他社のアメリカ人セールスと比べて劣らないよう、プラスアルファのケアを心がけています。
業界における西鉄の強みはどんなところですか?
拠点数、ネットワーク、システムともに日系大手と比較して遜色ないレベルだと思います。その中でも他社と比べて優れていると感じるのは、「高品質でよく小回りが利く」と言われる時です。輸送費では、メガフォワーダーと呼ばれる世界的な大手に負けてしまうこともありますが、お客さまのリクエストに沿って柔軟な対応や提案・アドバイスをすることで、メリットを感じていただけるよう心掛けています。
具体的な例があれば教えてください。
例えば、日本発シカゴ向けの車の部品の輸送において、日本からロサンゼルスまでは船、ロサンゼルスからシカゴまでは鉄道で予約されていた場合。通常2週間程度でロサンゼルスからシカゴへ到着する貨物鉄道が天候不順で大幅に遅延していて、「このままでは部品が足りず工場の生産が止まってしまう」とお客さまから相談を受けたとします。
その場合、高額にはなりますが、鉄道輸送から3日程度で到着するトラック輸送へ切り替えるよう提案し、ご了承後、すべて緊急で切り替え手配を進めることもあります。
実は、緊急でのトラックの確保や船会社との交渉など、一度決まった手配を切り替えるにはたくさんのハードルがあります。それでも、お客さまの直面する困難な状況にパートナーとして可能な限り協力し、その積み重ねが安心して輸送を任せられることに繋がると信じています。その思いが、西鉄そして私にご依頼いただく利点となっていればとてもうれしく思います。
初めての海外勤務。不安はなかった?
正直、めっちゃありましたよ!赴任が決まったのは入社4年目で、ようやく仕事の流れが理解できてきた時期。そんななか、シカゴでの駐在が決まったので、不安と緊張でいっぱいでした。
言葉の面では?
ネイティブスピーカーのように英語を話せるわけではないので、「自分の言葉で、できるだけちゃんと伝える」ことを大切にしています。また、資料作りやプレゼンでも、失敗してもそこから勉強していくと思うよう心掛けています。
けっこうタフなタイプですか?!
いえいえ!そんなことないんですよ。しんどいことがあると、すぐにへこみます。でも「また明日がんばろう」って早めに切り替えますね。
仕事でトラブルが起きたことはありますか?
赴任当初、急ぎの貨物を載せたトラックが故障して動けないことがありました。日本に比べて車検が緩いため、このようなことはアメリカでは珍しくありません。当時は知らなかったのですが、トラックを運転しながら故障しては直し、故障しては直しを繰り返す業者も一定数存在します。
そのときは幸いにも近くの修理工場で直してもらえることになりましたが、一時はどうなることかと思いました。広大なアメリカで修理工場すらないような場所で故障してしまったことを想像するとぞっとします。もちろん、以降は別の会社にお願いしていますが、日本ではあまり思いつかない問題で勉強になりました。
海外で働くようになって変わったことは?
仕事を通して視野が広がったと思います。世界情勢にも興味が出てきました。メンタル面では、我慢強さや投げ出さないこと、「一人で悩むよりも、知らないことはまず質問してみる」という姿勢も覚えました。「そこで働く人といかにうまく関係を築けるか」と、「健康でいられて、生活にうまく適応できるか」が大事だと実感しています。
アメリカで働いてみて、日本と違うと感じたことはありますか?
「できないことは『できない』と言っていい」ということ。もちろん、力は最大限に尽くしますが、それでもなお難しい場合は「できない」と早めに伝えることが大事。
反対に、日本と似ているところは?
例えば、何かお願いしたいことがある時、単刀直入に話すのではなく「時間があるときに」など、相手を気遣う言葉をよく使います。あとは、意外と縦社会。「重要なことは先に上司に話を」など、序列を尊重します。
考え方の違いで驚いたことは?
仕事に対してプライドを持っていること。「私はこんな仕事ができる。これもできる」「この仕事が好き!」と、働くことを前向きに捉える人が多い。「あなたの仕事は何?」って聞かれた時は、みんなすぐに答えを返します。
ご出身は?
広島生まれですが、一番長かったのは福島です。西鉄の本社がある福岡には住んだことがありません。入社後の研修で2週間福岡に滞在した時は、食べ物がおいしくて、居心地もよかった。「一度住んだら出られないまち」と言われる理由がわかった気がしました。
福岡に縁がなかった三木さんが、なぜ西鉄に?
大学は英米語学科で、学生時代はアメリカのサンディエゴに1年間留学していました。「英語を使って働きたい」という思いがあり、西鉄には同じ大学の先輩が何人かいると聞いて興味を持ちました。
国際物流事業本部の仕事は、入社前から知っていた?
最初に国際物流事業本部について知ったのはインターンシップの時、「この仕事、おもしろいな」って思ったんです。例えば、容積や重さが異なる貨物を混載(※)すれば効率が良く、利益にもつながる。それに、行ったことのない知らない国に貨物を運ぶって、なんだか夢があると思ったんです。
※混載……容積や重さが異なる貨物を組み合わせて搭載すること。組み合わせがうまくいけば貨物を効率良く運べ、利益にもつながる。
職種は「営業」希望だった?
「営業」にこだわっていたわけではありませんが、逆に抵抗もありませんでしたね。お客さまと継続的に関係を築ける仕事に興味があったので、今の仕事はけっこう理想通りかもしれません。
働いてみて、どうですか?
営業と言っても、私たちの場合は「モノを売る」のではなく、貨物を受け取り、必要な手配をして貨物を運ぶ。船舶も飛行機も所有していないので、言わば「貨物の旅行代理店」なんです。急ぎだったら航空便に、コスト重視なら船便に。希望する時間もルートもそれぞれ違うという点ではモノも人間も同じです。貨物の運搬にはさまざまな相談が必要となりますが、そうしてお客さまのパートナーとして長く付き合える仕事に価値を感じています。
西鉄で働いていて得したことは?
営業先に福岡や九州出身の方がいれば、顔と名前をすぐに覚えてもらえて、贔屓にしてもらえます。また、「NNR」は「Nishi-Nippon Railroad」の頭文字だと説明すれば西鉄の事業についてもお伝えすることができて、会社について紹介するチャンスも生まれます。鉄道を母体とした企業だということで、けっこうおもしろがっていただけます。
シカゴってどんなまち?
ひと言で表すと「企業が集まる産業都市」。人々はロサンゼルスみたいにフランクで開放的ではなく、ニューヨークみたいに早口でもない。「イリノイの方言は聞き取りやすい」と言われている通り、言葉はすごくわかりやすいですね。
気候は?
冬はマイナス20℃まで下がる極寒の地です。10月には最初の雪が降り、4月にも一度は必ず降ります。温かくて快適な時期は、1年のうちでも6~8月の3カ月ほど。気温は30℃くらいまで上がりますが、湿気がないので気持ち良く過ごせます。
生活で不便なことは?
日系スーパーもあるし、Amazonも使える。移動は基本的に車なので、日常生活で不便はなく、快適な暮らしです。
休みの日はどのように過ごしていますか?
最近メジャーリーグに夢中で、友達と球場に出かけることもあります。実際に観に行ったら、けっこうおもしろかったんです。シカゴ・カブスに所属する鈴木誠也選手は同い年ということもあり、応援しています。
近くで好きなスポットは?
ダウンタウンにあるシカゴ美術館ですね。アメリカの三大美術館でもあるんですよ。また、夏はミシガン湖のビーチで遊べます。この湖、なんと九州よりも大きいんです!
お気に入りの食事は?
生活圏内に飲食店はたくさんあるし、いろんな国の料理が楽しめます。特に好きなのは、メキシコ料理やタイ料理です。
自炊もしますか?
休日に作り置きをしておいて、平日は料理をしないようにしています。日本食のスーパーもあるので、食材には困りませんよ。
値段はやっぱり割高?
割高だけど……ギリギリ許容範囲内です。納豆は3パックで2.6ドル(2022年9月時点で約364円)くらいするんですけど、納豆に代わるものはないので、つい買ってしまいます。
日本が恋しくなることはありますか?
家族や友達に会いたい時は恋しくなりますね。最初の3カ月は「帰りたい、帰りたい」と思っていました。でも、1年経つとこっちの生活に慣れて、今ではまったく平気です。家は広くて快適だし、もう日本で働いていた時のような満員電車には乗りたくないですね(笑)。
どんな家に住んでいるんですか?
「タウンハウス」と呼ばれるメゾネットタイプです。1ベッドルームですが、リビング・ダイニングが広いので大きなソファとテーブルを置いています。
まだしばらくシカゴに残りたいですか?
友達もできてプライベートも楽しくなってきたので、もう少し長くいたい気がしています。
仕事面でのこれからの目標は?
短期的な目標は、セールスという立場でもっと結果を残すこと。新規の顧客を増やせるようになりたいですね。
長期的には?
倉庫の在庫管理などを担う「ロジスティクス」の仕事も、いずれはできるようになりたいと思っています。とにかくいろんな経験をしたいので、あとはひたすら「実践、実践!」って感じです(笑)。昔から飽き性な一面があったし、「人とまったく同じ」というのが好きではなかったからかな。知らないことがあったら詳しい人に質問しながら、新しいことにどんどん挑戦していきたいと思います!