西日本鉄道株式会社には、社名からはイメージされづらい「部署」がある。国際物流事業本部――その名の通り、世界各地で貨物に関する幅広いサービスを提供する国際物流事業を担うセクションだ。そんな国際物流事業本部の実態に迫る!
国際物流事業本部 営業企画部
営業企画担当
2010年入社。これまで航空貨物の輸出通関業務や営業部でCS業務等を担当。勤務地は大阪・名古屋を経て、今年度、営業企画部への異動で東京に。現在は世界の各拠点からの情報収集、各プロジェクトのサポート、物流業界紙への対応など広報業務も担当する。
国際物流事業本部 営業企画部
営業企画担当 課長
1993年入社。長年、営業所に勤務し、今年4月から営業企画担当 課長。2011年~2017年には、タイ・バンコクでの駐在員経験もある。
国際物流事業本部 営業企画部
営業企画担当 係長
2006年入社。米国での研修、香港・広州駐在や都内の営業所勤務を経て2019年に同部署へ。現在は、アジア・オセアニア圏を担当しながら、航空輸出の現場業務改善プロジェクトにも参画する。
国際物流事業本部 営業企画部
ESG担当 係長
1991年入社。都内の営業所、航空会社と直接やり取りする成田の混載営業所、3PL※を担うロジスティクス営業部、輸入では部全体を視野に入れる営業係など、幅広い業務を経験し、今年4月にESG担当へ。
※3PL : third-party logisticsの略。企業のロジスティクス業務を荷主ではない第三者として一括で請け負う物流業務形態。
国際物流事業本部の本部は、西鉄のお膝元である福岡ではなく、東京都中央区日本橋にある。
「ドアを開けたら、壁に世界各国の時刻を示す時計がずらりと並んだりしているのかな」などと想像していたのだが、一見すると普通のオフィスだ。ただ、よく観察すると、そこで働く人たちは総じて熱量が高い。
まずは国際物流事業本部 営業企画部の新山由布子さんに、ストレートに尋ねてみた。
実は…今回取材をすることになって、初めて西鉄が国際物流事業を展開していることを知りました。
はい、存在をご存知なかったり、別の会社と思われていたり、ということはあります。
たしかに同じ会社でありながら、別の会社みたいに感じることも時にはあります。たとえば、採用も本社とは別で、私自身、西鉄に入社した、という意識はもちろんありますが、同時に国際物流事業本部に入社したという感覚もあります。
海外に多くの拠点を展開していると聞きました。
はい、世界では『NNR』というブランド名で認識されています。*世界29カ国・地域、121都市に現地法人・駐在事務所を展開しています。(*2022年10月現在)
全世界ではどれくらいの社員が『NNR』で働いているのですか?
現在、4,300名を超える社員が、日本を含むアジア、ヨーロッパ、中東、北米、南米、オセアニアといった世界各地で働いています。
新山さんはなんで『NNR』に?
大学で英語を専攻していたので、将来、英語を使って仕事がしたいと、海外とつながりのある就職先を探していました。たまたま見つけたのが西鉄の国際物流事業本部だったんです。『ここなら英語を使って世界を相手に仕事ができる』と、入社を希望するようになりました。
そうだったのですね。
私自身、福岡で生まれて、西鉄沿線で育ったので、西鉄というと、やっぱり『福岡』や『電車とバス』のイメージが強かったんです。就職活動をする中でNNRの存在を知って、最初は『こんなこともしているのか』と驚きました。
西鉄の国際物流事業は、1948年11月15日、米・パンアメリカ航空と代理店契約を結んだことに始まり、今や航空貨物輸送の分野では国内4位(2021年度・国際航空運送協会)、世界においては22位 (2021年・Armstrong & Associates, Inc.)へと成長した。
これほどの成長をもたらした、NNRの強みはなんだろうか。
インタビューから、それはとても西鉄らしい気風であることがわかってきた。
NNRの最大の強みは、お客様のニーズにあったきめ細かなサービスだ。課長の松永勇三さんは「NNRでは、いつからか『人のにしてつ』という言葉が社内で浸透している」と語る。
日々のお仕事の中で心がけていることは?
お客さまと商談することも大切ですが、それだけが仕事ではないということ。お客さまからお預かりした貨物をいかに安全に輸送できるかが、私たちの使命です。
特にどんなところを大切にしていますか。
やっぱり人の力ですね。自分では意思をもって話すことができない貨物だからこそ、ネットワーク全体での目配り、気配りが必要です。安全で高品質なサービスを提供するためには一人や一部署、または個々の会社ではなく、グループの力を結集することが大切です。
社員の一人一人がきめ細かなサービスを提供しその積み重ねで、貨物は安全に、正確に、運ばれる。インフラを担っているという意識を持って仕事に従事する精神は伝統的に受け継がれ、事業の継続と発展につながっているのだ。
NNRの事業拡大は、海外法人の設立とともに進んできた。ここ10年だけを見ても、メキシコ(2012年)、オーストラリア(2016年)、ニュージーランド(2018年)、フランス(2018年)、アラブ首長国連邦(2021年)に現地法人を設立。現在もネットワークの拡充を進めている。
現地法人へは国際物流事業本部の社員が駐在員として赴任し、現地での業務を経験することもある。アジア・オセアニア圏を担当する伊藤正信さんはかつて香港と中国の広州に6年間駐在した。
海外でのお仕事は、大変そうですね。
海外では文化の違いをしっかりと理解しないと、思うように仕事を進めることができません。中華圏は一人一人がとくに自身の誇りを重んじる文化なので、仕事上でもなるべく相手を尊重するようなコミュニケーションを心がけていました。
困り事も多かったのでは?
ある時、急遽、江西省に行くことになったんです。機械を梱包して、返品をしないといけなかったのですが、段取り、とくに梱包作業がうまくいかず……。3日間の出張の予定で行ったのに気づいたら1週間に長引いていたことがありました。
こうしたトラブル対応は日常茶飯事。逆に言えば、あらゆる状況に対応できる柔軟性がなければ、国際物流の仕事はこなせない。
国際物流の分野でも新型コロナウイルスの拡大・蔓延とは無縁でいられなかった。これまでに経験のない港湾混雑や海上輸送の遅延に悩まされる。
何よりも状況を深刻化させたのは貨物を運ぶ箱となる「コンテナ」の不足。世界的な巣ごもり需要に始まり、経済活動が徐々に戻ってきた2020年後半から2021年、世界最大の消費地であるアメリカでは家具や玩具、家電などを中心に輸入量が増加した。アジアで生産したモノをコンテナに積載し、海上輸送でアメリカへ運ぶ動きが前例にないほど集中的に加速した。
現場はどんな状態だったんですか?
アメリカで輸入量の増加が続く一方で、港湾作業員の間で新型コロナウイルスが蔓延するなど、労働力不足が発生していました。コンテナ船が港付近に到着しても、荷捌きが追いつかないことで港に入れない『沖待ち』状態が30日以上続いたんです……。
1カ月以上も!
そうなんです。コンテナ船はいわば世界で循環しています。アメリカに入る前で船が滞留したことで、生産地へ戻っていくコンテナが激減し、日本を含むアジア圏では圧倒的なコンテナ不足に陥って海上運賃は高騰。私たちもその煽りを受けました。
船の滞留で急ぎの出荷が増え、航空貨物の輸送需要は激増したが、世界では依然として旅客数が少なく、航空会社も就航便数を最小限にしながらなんとか運営している状況だった。自ずと、少ない輸送スペースの取り合いになり、世界で過去に例を見ないほどの航空運賃の高騰が続いた。
NNRのカスタマーサービス担当や営業担当は、値段、輸送モード、リードタイム含め、その時々でお客さまへ最適な提案を行った。直接訪問することもままならない中、当時はまだ慣れなかったWEBツールも使いながら、とにかく毎日が必死だった。苦しい日々だったが、お客さまからはサプライチェーン維持への貢献について、感謝の言葉をいただくこともあったという。
決して派手で華やかな仕事ではないが、私たちの生活インフラである物流を、こうして守っている人たちがいる。
今年から、ESGに関する事項の検討や推進をスタートさせた。担当の小此内慎悟さんは、サスティナブル経営が注目されているなか、どんなことに取り組んでいるのかを聞いた。
このESGに関する推進は、今年度からスタートしたばかりの取り組みなんですよね。
ええ。昨年度まではワーキングチームがあって正式発足に向けて水面下で活動していたのです。正式なESG担当部署として今年度からスタート。私も今年から参画しています。
具体的な活動としてはどのような段階なのでしょうか?
正直、まだまだ勉強の真っ只中で、学んだことを部内に周知することから始めています。また、都市開発、住宅、ホテルなど、他の事業部の方々とも情報共有をしています。そうすることで互いの意識向上だけでなく、柔軟な発想が得られるように心がけています。具体的にどんな取り組みに落とし込めるのかは検討中です。さまざまなメンバーから意見をもらいつつ、物流に対するイノベーションを中長期的に起こすべきだと感じています。
国内だけでなく、世界的な取り組みになる?
その通りです。というより地球的優先課題に対する取り組みです。SDGsがゴールでESGがアクションと言われています。したがって環境、社会、経済の持続可能な三側面に対してバランス良く取り組まなければいけません。例えば環境と言っても温暖化対策だけではありません、働きやすい職場など労働環境を整えることも大事です。ですから、私たちの仕事のどの領域が地球的優先課題に関わるのかを洗い出して、影響が大きい課題から挑戦的な目標を立ててゴールに向けて歩みを進める必要があります。当然、国内だけではなく世界の国々、そしてさらに未来にも目を向けています。今の取り組みが将来の人々や社会、地球環境につながるだけに責任があり、またとてもやりがいのある仕事です。
NNRはさらなる事業展開に力を入れる。
2022年9月、西鉄が九州の地で物流事業のフラッグシップとして「福岡ロジスティクスセンター」をスタートさせた。国内では、関東3拠点、関西2拠点に次ぐ、6拠点目のロジスティクスセンターだ。
博多区東那珂にある同センターは、福岡空港の貨物地区から1㎞圏内、福岡都市高速環状線・半道橋インターチェンジからは500mと近く、博多港からも7㎞圏内と航空・海上輸送サービスの提供に適した立地にある。
新しいロジスティクスセンターで何が変わるんですか?
現在、福岡県内に7カ所ある倉庫を集約することで、業務効率化を図ります。総面積はこれまでの約 4倍に拡大。温度調整管理機能を備えた冷蔵倉庫を有しています。
冷蔵倉庫があれば生鮮食品や生花などの保管が可能になりますね。
そうなんです。これまで、倉庫での食品の取り扱いはほとんどなかったのですが、新センターに冷蔵設備を整えたことで厳密な温度管理が必要な貨物もお預かりできるようになりました。アジアを始め世界で需要のある九州の農水産物や酒類など、厳密な温度管理が必要な貨物もたくさん取り扱い、九州の産業の発展に貢献していきます。
NNRの新たな挑戦。伝統を受け継ぎながらも挑戦し続ける。世界を見れば、『メガ』と位置付けられる物流業者が多く存在する。専門性や規模、さまざまな面で、それらと戦える力をつけていく。
取材を通してわかったこと。あまり一般的には知られていない物流の分野。普段意識することは少ないが、たった今このときも、日本や世界ではたくさんのモノが行き交う。そのなかには、最終的に私たちが商品として目にするものもあれば、例えば都市、自動車、機械の一部となって、私たちの生活を支えてくれるものもある。
物流をこうして守ってくれている人たちがいる。インタビューに応じてくれた方々は、みなさん穏やかだったけれど、その内側にメラメラと燃える情熱、使命感があることも強く感じた。活躍するフィールドこそ違うが、このスピリッツはインフラを守る西鉄そのもの。当たり前かもしれないがNNRは西鉄なのだ。
西鉄の「国際物流事業本部」はやっぱりすごかった!