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「IoT住宅」とは?
利便性とセキュリティーの両輪で
大きく変わる住まいの常識

「IoT住宅」とは? 利便性とセキュリティーの両輪で 大きく変わる住まいの常識

近年、世界中で急速に普及が進む「IoT住宅」。西鉄は 2022年1月に住宅事業の一環として参入、現在までに14戸の戸建IoT住宅を竣工した。また、2024年2月には西鉄初のIoTマンションとなる「サンリヤン福浜」が完成する見通しだ。「IoT」が、わたしたちの暮らしの中心である「住宅」に結びつくと、いったい何が変わるのか。

目次

「IoT住宅」とは?

「IoT」といえばInternet of Things(モノのインターネット)の略称で、あらゆるモノをインターネットにつなぐ技術。今まさに世の中の様々な仕組みに大きな変革をもたらしている「大波」だ。

IoT住宅とは「家電や住宅設備をインターネットと接続することで利便性を追求した住宅」のこと。 西鉄のIoT住宅の一部で採用されている、IoT機器を開発・販売するパナソニック株式会社エレクトリックワークス社の柴田幸一さんは、IoTが「住まいに対してできること」をこう説明する。

柴田さん
柴田さん

代表的なIoTの働きは「モノを操作する」「モノの状態を知る」「モノの動きを検知する」「モノ同士で通信する」の4つに分けられます。西鉄のIoT住宅を例にとれば「モノの操作」と「モノの状態を知る」の二つが採用されています。具体的には、外出先での照明のオン・オフ操作。外出先でエアコンの動作状況を確認できるといった機能です。いずれもスマートフォンとネット環境さえあれば世界中のどこでも使えます。

外出先で「電気、消したかな」と不安になったことや、夏の帰宅時の不快な「部屋の暑さ」、部屋で「リモコンが見当たらない」などの不便を感じた経験は、誰しもあるはず。それらを解決できるのが「IoT住宅」の強みだ。

さらに、IoT住宅の長所は「利便性」だけではなく、防犯対策をはじめとした「拡張性」にもあると柴田さんは続ける。

柴田さん
柴田さん

外出中でも日が暮れた時間に遠隔で照明をつけることで空き巣対策を講じられます。電子錠の開閉はもちろん、インターフォンのカメラでは訪問者をリアルタイムで確認できますので、お子さまがひとりで帰られるときにも安心です。窓センサーや屋内外にスマートカメラの設置もできますので、ランニングコストのかからない簡易的なホームセキュリティの強化ができるところもIoT住宅ならではのメリットですね。

日中の自宅を留守にしがちな共働き世帯や、見守りを必要とする子どもや高齢者と同居する世帯にとってはなんとも心強い機能。これからますますニーズが拡大しそうだ。

西鉄のIoT住宅にはどんな機能が?

西鉄が販売する戸建てのIoT住宅には「玄関電子錠」「エアコン」「照明」「給湯器」、4つの機能が標準装備されているという。西鉄のIoT住宅の仕様と居住者の反応について、西鉄の住宅事業本部で戸建IoT住宅を担当する向島朋香さんはこう語る。

向島さん
向島さん

IoTの機能を選定するにあたって、西鉄の社員を対象に数百人規模のアンケートを実施しました。焦点は「どの程度の金額で、どんな機能が欲しいか」「住宅のどこを改善したら、より快適な暮らしになるか」です。その結果をもとに、利便性とコストを天秤にかけて検討を重ねた末に「玄関電子錠」「エアコン」「照明」「給湯器」を採用しました。玄関電子錠と照明は「セキュリティ」、エアコンと給湯器は「利便性」を高める目的です。全国的に見て平均レベルのラインナップですが、建売住宅で標準装備で提供しているメーカーさんは、少ないと思います。

「IoT住宅の最適解」を住宅のプロが考え抜いてくれているのは、心強い。

一方、「マンションは戸建てとは違った角度からIoTの導入を進めている」とIoTマンションを担当する芦田結衣子さんは言う。

芦田さん
芦田さん

来年2月に竣工予定の「サンリヤン福浜」は福岡市で分譲販売されている3棟あるIoTマンションの一つです。集合住宅に適した機能として「スマートカメラ」「スマートリモコン」「湿温度センサー」「スマートハブ」を採用しています。家電の遠隔操作やセンサーなどの機能を紐づけられる「スマートハブ」を設置することで、IoT機能に「拡張性」を持たせました。のちのち、ご自身でIoT機能をカスタマイズできる仕様です。

「自宅の機能」を自分好みに高められるのは、住宅の新しい価値観だ。IoTのテクノロジーを駆使して自らが求める「利便性」を追求する。そんな未来は、実は目の前にやってきているのだ。

IoT住宅居住者のリアルな感想

とはいえ、実際に住んでみないことにはわからないのが住み心地。しかもIoT住宅は今までにない利便性を備えている。だからこそ、気になるのは実際に住んでいる人の「声」だ。

向島さん
向島さん

戸建て住宅に組み込んだ4つの機能については、甲斐あって喜びの声をいただいています。なかでも、いちばん反響が大きかったのは「玄関電気錠」。「子どもの帰宅時や外出先での訪問者の対応に便利」とお声をいただく機会が多いです。次いで「給湯器」も、あらかじめ操作しておけば、帰宅後すぐに暖かいお風呂に浸かれると好評です。

柴田さん
柴田さん

玄関のインターフォンにIoTを取り入れたお客さまから「海外滞在中に自宅の玄関口にいる配達員さんとやりとりできるのでとても便利」というお声をいただきました。スマートフォンとインターネット環境さえあれば世界中どこでも自宅と繋がれるという利便性の高さと安心には価値を感じます。

芦田さん
芦田さん

最初からついているのは便利である、IoTという言葉は知っていたが使ったことがないため楽しみである、という前向きなお言葉をいただきました。
初めて使用されるお客さまには新しいライフスタイルの提案になりますし、これまでも使用されていたお客さまには引き続き利便性の高い暮らしを実現できることに加え、標準採用している機器がこれまで持っていなかった物であるため、これまで以上に快適で安全な暮らしを提供できるとお客さまの声を通して実感できました。

向島さん
向島さん

個人的には「エアコン」の反響が大きいことを想像していました。でも、ふたを開けてみれば「給湯器」のほうが多くの人に喜ばれている。ちょっと意外だなと感じたのが本音です。こうしたお客さまの真のニーズをしっかりと汲み取り、アップデートを重ねていきます。

ますます広がる「IoT住宅」

IoT住宅普及の追い風となるのが、カーボンニュートラルの目標達成へ向けた「省エネルギー」気運の高まりだ。内閣府国家戦略室は「2030年までにHEMSを全世帯に普及させる」という施策目標を掲げており、ZEHについて政府は遅くとも「2030年には新築の住居にはZEH基準の水準への適合を義務化」すると発表している。

※HEMS(Home Energy Management System)は家庭のエネルギーを「見える化」し、省エネ、畜エネ、創エネの一括管理を可能にするシステム。
※ZEH(net Zero Energy House)はエネルギー収支をゼロ以下にする家を意味する。断熱と設備の効率化によるエネルギー節約性能を判断した基準をZEH基準と呼ぶ。

柴田さん
柴田さん

現在、大手ハウスメーカーさんでは、HEMSを搭載したZEH住宅を標準仕様とし、HEMSの機器コントロール機能を用いたIoT住宅の展開を進めています。地場のハウスメーカーさんに関してもモデルルームは同様です。HEMSとZEH。両者との親和性が高く相乗効果を生みやすいこと、両者の整備にかかるコストに対して一部の自治体や機関から補助金が出ることもIoT住宅の普及が進んでいる理由でしょう。

IoT住宅の未来と西鉄のまちづくり

また柴田さんはIoT住宅の未来について、こう説明してくれた。

柴田さん
柴田さん

いずれIoT住宅にAIテクノロジーが搭載されると、地震で起きた「家屋の躯体のズレ」「漏水」などの不具合を自動的に感知して修理会社へ通知する機能がシステム化されるかもしれません。また、安全と安心を守ってくれるIoT住宅の価値、世間の関心はどんどん高まっていくと考えています。
2030年新築戸建て太陽光60%設置、2035年新車販売電動車100%とカーボンニュートラルに向けて、電気をいかに賢く使うかが求められる時代となります。
パナソニックとしては、家で作った電気を家で使い切る生活の実現をIoTを通じて進めていきます。
また、建物や居住者の安心・安全をIoT技術を通じて検討していきます。

そうしたIoT住宅は、今後不動産の付加価値として認められていくという。

柴田さん
柴田さん

IoT住宅か、そうでないかで資産価値に差が生まれる時代になっています。住宅性能など差が付きにくい現状で差別化を図る一つの取り組みとして、IoTは今後の広がりみせていく注目すべきものだと考えます。みるみるうちに普及していったスマートフォンの例のように、テクノロジーの進歩はいつだって「なくて当たり前」の価値観を「あって当たり前に」へと変えてきました。IoT住宅においても同じことが起きると強く予感しています。

向島さん
向島さん

時代が変われば、暮らしが変わる。暮らしが変われば、人が求めるものも変わっていきます。そんな世の中で同じ住宅をずっと作っていても前には進めません。今を生きる人のニーズに応え、悩みを解消するために今回はIoTに着目しました。これからも世の流れに敏感に、声に耳を傾けることで最適な手段や設備を見極めて、柔軟に取り入れたい。変わり続けることで、お客さまの暮らしを豊かにしたい。だからこそ、新しい設備や、価値観にも積極的な姿勢が大切だと感じています。

芦田さん
芦田さん

IoTは世の中を変える革新的な技術ですが、同時に、数あるうちの「ひとつの手段」「付加価値」であると思っています。西鉄の大きな強みは鉄道会社だからこその安心感。つまり、お客さまからの信頼です。その信頼を裏切らないためにも、ユーザーのため「何ができるのか」を常に考えながら、新しい価値観の創出に取り組んでいくことが未来の展望です。

向島さん
向島さん

共働き世帯の増加、高齢化が進む社会に対応するための手段として「IoT住宅」に次に求められるものは「AI」かもしれません。そのときは、またパナソニックさんにも相談に乗ってもらいたいと思っています。

新たなテクノロジーを組み込みながら進化するIoT住宅に、おそらく完成はない。住む人を思い、快適で安心な住宅を追求する。そんな仕事人たちの動きから目が離せない状況はまだまだ続きそうだ。

  • 柴田 幸一 さん
    柴田 幸一 さん

    パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
    電材&くらしエネルギー事業部
    マーケティングセンター ソリューション開発部
    西部市場開発部 九州市場開発課

  • 向島 朋香 さん
    向島 朋香 さん

    西日本鉄道株式会社
    住宅事業本部 戸建住宅事業部 商品企画担当

  • 芦田 結衣子 さん
    芦田 結衣子 さん

    西日本鉄道株式会社
    住宅事業本部 マンション事業部 商品企画担当

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