Nishitetsu Online Magazine

心地よい暮らしをつくる
コンパクトシティ「あすみ」
西鉄が描く理想のまちづくりとは

心地よい暮らしをつくる コンパクトシティ「あすみ」 西鉄が描く理想のまちづくりとは

西鉄福岡(天神)駅から17番目の急行停車駅、西鉄「三国が丘」駅の西側に広がる「あすみ」というまちをご存知だろうか。「あすみ」は、四方を森に囲まれた自然豊かな場所に暮らしの機能を集積させた、多世代が繋がるコミュニティタウンである。
 
西鉄が「あすみ」のまちづくりを手掛けて今年で約7年。2023年度末にはコンパクトシティ構想が遂に完結を迎える。

編集部は、西鉄の「あすみ」プロジェクトの裏側や、彼らの住宅開発(=まちづくり)にかける思い、将来像について担当者に話を聞いた。

目次

  • 元原 良則さん
    元原 良則さん

    西日本鉄道株式会社
    住宅事業本部 戸建住宅事業部
    商品企画担当 課長

    2005年、西日本鉄道株式会社入社。住宅事業本部戸建住宅事業部へ配属後、販売担当、開発担当を経て2015年より現在の商品企画担当にて戸建住宅の企画や設計業務に従事。開発担当時代は主に大規模用地の買収業務を担当し、「あすみ」プロジェクトについても買収担当として計画当初から携わる。

  • 加茂 雅嗣さん
    加茂 雅嗣さん

    西日本鉄道株式会社
    住宅事業本部 戸建住宅事業部
    販売担当 課長

    2006年、西日本鉄道株式会社入社。自動車事業本部にてバスダイヤの作成や乗務員の勤怠管理を担当。その後、人事・広報などの管理部門を経て、2017年より現在の住宅事業本部。シニアマンションの開発・営業を担当し、2022年より戸建住宅の販売担当。

12.6ヘクタールという広大な土地をゼロから開発

美しい“明日”が“見”えるまち––––。
「あすみ」というこの地に名付けられた町名には、そんな未来への思いが込められている。

このコンパクトシティ「あすみ」は、西鉄「三国が丘」駅の西側に12.6ヘクタールという広大な敷地を有する、西鉄グループの総力を挙げた渾身の一大開発プロジェクト。3年ほどかけて住宅開発を行い、2015年11月にまちびらきを行った。

もともとこの辺りは、小郡市と筑紫野市にまたがる九州最大規模の住宅団地「小郡・筑紫野ニュータウン」と呼ばれ、開発により著しく人口増加が進んでいたエリア。「西鉄福岡(天神)」駅から急行電車で30分足らずで到着するという立地の良さも魅力に挙げられる。

では、そもそも“コンパクトシティ”とは、どんなまちなのだろうか。

日本では、高齢化と人口減少時代を迎えるにあたり、都市のあり方を見直す必要が出てきたことでコンパクトシティ構想が加速。都市機能の分散や市街地の空洞化によって生まれたデメリットを解消し、利便性や安全性を再構築して住み良いまちへと進化させるという算段だ。

コンパクトシティ化により、車がなくても公共交通機関で隅々までアクセスできるため、高齢者や障がい者にも住みやすい地域の実現が可能になり、誰もが安心して暮らせるまちをつくる。コンパクトシティ構想とは、未来を見据えたまちをつくることなのだ。

西鉄グループだからできる。大規模住宅開発「あすみ」プロジェクト

次に、西鉄が「あすみ」で計画を進めている、具体的なコンパクトシティ構想を見てみよう。

西鉄が「あすみ」を舞台に推進するコンパクトシティプロジェクトでは、255戸の戸建住宅のほかに、分譲マンション、シニアマンションが立ち並び、子育て世代からミドル、シニアまで約500世帯が生活。イベントやサークル活動に利用できる「クラブハウス」や「BBQガーデン」、季節の野菜や果物を育てる「収穫の庭」といった共用施設、さらには敷地内に大きな公園が2ヶ所あり、ここに住まう多世代の人々をつないでいる。もちろん、生活に欠かせないスーパーマーケットやクリニックも徒歩圏内だ。

さらに一帯の開発に併せて、「三国が丘」駅の内外装の改修工事、駅前に99台分のパークアンドライド駐車場の整備、自由道路(鉄道利用者に限らない歩行者が通行する通路)のバリアフリー化、駅前広場の整備……など、あらゆる部分に手を入れることに。まちびらきの直前には、「三国が丘」駅は急行の停車駅へと“昇格”した。

公共交通機関を含めたまちづくりができる。それは、西鉄ならではの強みであり、それが自ずとまちの魅力にもつながっていく。ここも、西鉄の住宅開発の一つの特徴と言えるだろう。

まちびらきから約7年。コンパクトシティ構想の完結を来年に控える今、「あすみ」の開発秘話やこだわり、さらには西鉄が描く未来について話を掘り下げてみたい。

そこで、「あすみ」へ足を運び、担当者にインタビューを敢行。「あすみ」の立ち上げ当初から携わる元原さんと、現在「あすみ」のそばで日々街の移り変わりを感じながら、コンパクトシティの完成に向けてまちづくりをを進めている販売担当の加茂さんに話を聞いた。

大規模開発「あすみ」の始まりについて教えてください。

元原さん
元原さん

2012年、福岡県の県有地だったこの一帯の開発に西鉄が名乗りを上げ、単独での開発が始まりました。西鉄の住宅事業の開発の歴史では、住宅だけの面開発を行うことがほとんどでしたが、これだけの大規模用地での多業種にまたがる複合開発は初めてのこと。社内のさまざまな部署の連携はもちろん、西鉄建設、西鉄不動産、西鉄エージェンシーなど、西鉄グループ各社と協力しながら開発を進めました。グループメリットを生かした大規模な開発に挑戦できる点や、西鉄沿線という利点を生かしたまちづくりができるのも、西鉄ならではの強みです。

「あすみ」のまちづくりにおけるコンセプトは何でしょうか?

元原さん
元原さん

「くらしの利便性」「コミュニティ」「くらしの美意識」「安全・安心」の4つをテーマに、多世代が心地良く過ごせる持続可能なまちづくりを目指しました。さらに、大切にしていたのは “つながるまち”というキーワード。人と人がつながり、豊かな自然や歴史とも心地良くつながっていく。そんな仕組みやアイデアを散りばめています。

そもそも「あすみ」という町名は、開発のタイミングの公募で決まったと聞きました。

元原さん
元原さん

そうなんです。「あすみ」という新たな町名は、一般公募で決定しました。全部で811件もご応募をいただき、このまちに対する住民の方の期待度の高さに驚きましたね。

「あすみ」の開発エリアとなった三国地区はどんなまちですか?

元原さん
元原さん

三国地区は、筑前福岡藩、筑後久留米藩、肥前対馬藩の3国に接していたことが地名の由来で、歴史深いエリアです。「三国が丘」駅を降りて「すずかぜ通り」を西へと進むと、小高い丘が広がる「三沢遺跡」がありますが、実はこの一帯は縄文期から古墳期にかけての遺跡が数多く発掘されていました。太古から人が住み続けているという事実が、災害に強い土地であることを裏付けてくれている。この点も開発に際して大きな強みの一つでした。

住⼈が⾃然と集う、⼼地よいコミュニティを意識したまちづくり

「あすみ」のテーマの一つ“コミュニティ”はどのように機能していますか?

加茂さん
加茂さん

人と人とがつながる工夫として、「収穫の庭」や「BBQガーデン」「クラブハウス」といった施設をつくったほか、まちびらきから数年は私たち西鉄がイベントを企画していました。

加茂さん
加茂さん

しかし、近年は「あすみ」の自治会がしっかりと組織化され、定期的に清掃活動を行うほか、子どもたちの登下校時のパトロール、共用施設「クラブハウス」で習い事の教室や季節ごとのイベントの開催など、住人のみなさんが自主的に活動する機会が増えています。住み良いまちにしようという住人の方々の思いが私たちにも伝わってきてうれしくなりますね。まさに、“つながるまち”という言葉を体現しているかのようです。

“くらしの美意識”という点ではどんな特徴がありますか?

元原さん
元原さん

「あすみ」は、東西に走る「すずかぜ通り」と南北に走る「ふれあい通り」の2つの大通りを中心に街区が構成されていますが、広い歩道と緑の路側帯、ゆるやかなカーブを設けることで、景観に美しさと変化を加え、歩きたくなるようなまちなみをつくり出しました。

さらに、「木漏れ陽公園」「奏で公園」の2つの公園があるほか、全長2㎞に及ぶ緑道や各住宅の庭の緑がグリーンフローとなり、外周の森へとつづく庭園都市景観を創出。まちのどこにいても、自然の中にいるような心地良さが感じられます。

加茂さん
加茂さん

基本的に団地内の道路は利用のほとんどが住民の方々のため騒音は少ないですし、道幅も広くて開放感があります。すぐそばに自然が感じられ、ただ歩いているだけでも本当に気持ちが良いんです。私は現在の部署に異動して1年足らずですが、本当に魅力的なまちだなと毎日感じています。

まちなみをデザインする上で特にこだわった部分は?

元原さん
元原さん

道路にゆるやかなカーブを設けることで生まれる家並(やなみ)の美しさには特にこだわりました。ただ、開発の初期段階で、道路をカーブさせることや、アスファルト舗装だけではなく一部を石畳にするといった計画に対して小郡市や福岡県警等の行政の方々とはスムーズに協議が整うことばかりではなく、何度も交渉を重ねました。

元原さん
元原さん

もちろん、市としては管理がしやすくメンテナンス費用がかからない形を優先しなくてはならない事情は分かってはいました。しかし、道路がカーブしていることは自動車のスピードを緩める効果があり、結果安全性を高めることになります。さまざまな部分で交渉を重ねた結果、最終的には西鉄が理想とするまちをカタチにすることができました。

私たちは単に家を売っているのではなく、“まち(なみ)”を売っているんです。だからこそ、まちなみづくりにも妥協を許しません。

重要なテーマ“安全・安心”についてはどんなことを行なっていますか?

加茂さん
加茂さん

まちなみに死角を減らす工夫をこらしたり、袋小路を設けたりすることで住人以外の車両の通過を防止し、防犯効果を高めています。さらに、まちの要所に防犯カメラを設置するほか、警備会社による定期巡回を行なうなど、対策には万全を期しています。

とはいえ、安心や安全とは目に見えないもの不確かなもの。住宅設備やまちのセキュリティを上げるための設備を充実させることはいくらでもできます。しかし、真の安心、安全とは人と人との顔の見えるつながりから生まれるのではないでしょうか。キーワードである“つながるまち”とは、心から安心できるまちだと思っています。

まちなみを売る。それは住人へライフスタイルを提案すること

「あすみ」のこれからについて教えてください。

加茂さん
加茂さん

現在、戸建住宅に関しては、全部で255区画ある中、8割強が販売済み。残りの戸建住宅の建築準備も着々と進行しており、2023年度中にはすべての住宅が出来上がる見通しです。

これは「あすみ」プロジェクトの完結に向けた、最終章の始まりでもあります。西鉄にとって大きなまちづくりのプロジェクトが一つの区切りを迎える。次は、ここで得たノウハウを新たなまちづくりに生かしていくフェーズです。

改めて、“まちづくり”とは何でしょうか?

加茂さん
加茂さん

まちづくりは、そこにお住まいのみなさんが、理想とするライフスタイルを実現するための環境づくりをすることだと思います。そのためのお手伝いを陰ながら私たちが行う。まちづくりと聞くとすごくスケールの大きい話になりますが、原点は“お客様一人ひとりの人生を豊かにすること”だと私は感じています。

元原さん
元原さん

加茂の言うように、まちづくりは“人生を豊かにすること”が原点だと思います。そして、私たち西鉄は鉄道やバスだけではなく、グループ企業を含めた総合力でまちをゼロからつくり上げることができる。住宅開発を通して西鉄のまちづくりの価値を広く知ってもらい、西鉄ブランドをより強固なものにしていきたいと思っています。「あすみ」の現在の姿を通して、西鉄が描く未来をぜひ体感いただきたいです。

一度、「あすみ」のまちを歩いてみてほしい。心地よい暮らしとは何か、西鉄がつくる理想のまちづくりが見えてくるはずだ。

Related article