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福岡・太宰府の体験型ホテル
HOTEL CULTIA太宰府
官民連携の西鉄のまちづくり

福岡・太宰府の体験型ホテル HOTEL CULTIA太宰府 官民連携の西鉄のまちづくり

九州有数の観光地として知られる令和の都、福岡県太宰府市。

太宰府天満宮そばに残る古民家を改修して2019年10月に開業した宿泊・飲食施設「HOTEL CULTIA太宰府」は、1棟貸しの客室を含む全13室を有し、建物が持つ美しさや太宰府の歴史を感じながら、都会の喧騒を忘れてゆったりと過ごすことができるスモールラグジュアリーホテルだ。

日本庭園に面したレストラン「LE UN(ルアン)」では、九州全土の良質な食材を使ったフュージョンフレンチを提供している。

なぜ太宰府の地にこのホテルが生まれたのか。
それは、太宰府市が観光面で抱えるさまざまな課題を解決し、さらなる魅力向上のために進められた観光とまちづくりのプロジェクトによるものだった。
毎年多くの観光客が訪れる太宰府市の課題、そしてそのソリューションとして生まれた「HOTEL CULTIA太宰府」の魅力にせまる。

目次

日中と夜の差!?大人気の観光地・太宰府が抱えていた課題

九州で人気の観光地として知られる福岡県・太宰府市。7世紀後半から12世紀後半には九州地区の統治組織「大宰府」が置かれ、「西の都」として栄えた。

市内には「太宰府天満宮」をはじめとした多くの史跡や文化財が残り、足を運べば往時の文化に触れることができる。こうした歴史的・文化的な観光資源は、太宰府市にとって大きな財産となっている。

太宰府市の観光について、市はどのように考えているのか。太宰府市観光経済部の長井琢哉さんに話を聞いた。

太宰府市・長井さん
太宰府市・長井さん

年間1,000万人の観光客が訪れていた太宰府ですが、通過型観光中心であるという課題もありました。「太宰府天満宮」や参道付近は、日中は国内外の観光客や修学旅行生でにぎわいますが、夕方になると人出は一気に減ります。

宿泊施設や体験型コンテンツも十分ではなく、せっかく呼び込んだ観光客も平均滞在時間約2時間。【出典:令和元年度太宰府市観光客アンケート調査】実にもったいない状況でした。

また太宰府は、歴史的文化財や史跡が多く残るまちです。伝統的建造物群保存地区に残る建造物や国指定文化財などを観光資源として活用することが、太宰府の魅力を知っていただくための一番の方法だと考えており、どのように保存しながら活用の道を探るかも、市の悩みのひとつでした。

西鉄が推進した太宰府のまちづくり

西鉄の「まちづくり・交通・観光推進部」では、西鉄の電車やバスが走るまちで行政や地域、事業者などと連携したまちづくりを進めている。

「西鉄太宰府駅」があり、電車やバスを運行する西鉄にとって、太宰府は重要なエリアだ。そのため、太宰府が抱える課題を解決して、地域を活性化したいと考えていた。

西鉄・戸川さん
西鉄・戸川さん

天満宮エリアに少なかった宿泊施設や魅力的な店舗が生まれると、沿線の交流人口も増えます。太宰府のまちが盛り上がることでは、私たち西鉄にとっても価値があることだと考えています。

中央が戸川さん

こうした背景のもと、西鉄は2019年1月に、三井住友ファイナンス&リース、福岡銀行などと共同で「株式会社太宰府Co-Creation」を設立。古民家宿泊施設の開発などにより、太宰府の魅力をさらに高めるためのプロジェクトがスタートした。

宿泊施設のフロント棟に選ばれた物件は、江戸末期から昭和にかけて3代に渡り活躍した絵師の邸宅である、太宰府天満宮そばの古民家だった。「太宰府Co-Creation」が目指すことを、子孫である所有者に賛同いただき、実現にこぎつけた。

「HOTEL CULTIA 太宰府」のコンセプト

改修を「株式会社太宰府Co-Creation」が手掛け、ホテルの運営は「日本の文化を紡ぐ」ことをテーマに、歴史的建造物や街並みを活用した婚礼・宿泊事業を展開する株式会社バリューマネジメントが担当する。

ホテルの改装を手掛けるにあたり、西鉄が参画する「株式会社太宰府Co-Creation」はどのような考えをもって「HOTEL CULTIA太宰府」をつくりあげていったのか。当時のことを戸川さんに聞いた。

西鉄・戸川さん
西鉄・戸川さん

太宰府は学問の神様である菅原道真公をお祀りする「太宰府天満宮」をはじめ、大宰府政庁跡など日本の歴史文化を伝える場所が、今でも数多く残っています。こうした歴史文化を体験していただくこと、地域資源の魅力を発信していくことが、このホテルの最大の価値になると考えたのだと聞いています。

ホテルをつくるにあたり、設定したコンセプトは「歴史と文化の交差点・太宰府で、知的好奇心を満たす旅を。」。カルティア太宰府は古くからの歴史を持つこのまちでしかできない「Edu-perience」(「Education(教育)」「Communication(交流)」「Experience(経験)」を掛け合わせた造語)を提案する。

西鉄・戸川さん
西鉄・戸川さん

建物自体の趣を残しつつ、いかにして宿泊・飲食施設として、お客様に対して快適な空間をつくり出すかがポイントでした。

リノベーションでは、隠れていた梁や土壁を見せたり、改修時に出た家具や古材などを装飾として再活用したりすることにくわえ、明治から大正時代にかけて手作りされていた「大正ガラス」を用いるなど、現代では復元できない資材も美しく残されている。

こうして太宰府の地域資源と「株式会社太宰府Co-Creation」の思いがひとつとなり、「HOTEL CULTIA太宰府」が完成した。

「HOTEL CULTIA 太宰府」ってどんなところ?

「HOTEL CULTIA太宰府」は、スモールラグジュアリーホテルとして2019年10月に開業を迎えた。メインとなる「KOKOUAN棟」は、江戸末期~明治期の古民家を改装。

ホテル名の「カルティア」は「CULTURE(文化)」に由来するなど、宿泊施設自体が太宰府の「歴史と文化」を発信・体験する基点となっている。

メインの「KOKOUAN棟」

宿泊棟は、フロントやダイニングなどがあるメインの「KOKOUAN棟」、宿泊客室専用の「KOUKOUTEI棟」、「BAIKA棟」の3棟で構成される小規模分散型ホテル。メインとなる「KOKOUAN棟」の主屋は明治期、「KOUKOTEI棟」は主屋は大正15年(一部は明治前期建築)の建築で、ともに太宰府市「歴史的風致形成建造物」登録である。

2021年4月に、新たに設けられた「KOUKOTEI棟 & BAIKA棟」

「KOUKOTEI棟」は、もとは料亭として多くの方々で賑わうとともに、併設の魚屋が天満宮に神饌を納めていた。

宿泊利用は2人1室利用で65,000円から(1泊2食付き)。

客室は、蔵をリノベーションした1棟貸しの客室を含む全13室。どの部屋も、建物の趣を残した和モダンのテイストでリノベーションした。テレビも時計もない静かな空間で、ゆっくりと“非日常”を過ごすことができる。

フロント棟にあるレストラン「LE UN(ルアン)」は美しい日本庭園に面し、静かで贅沢な時間が流れている。

レストランでは、新鮮な魚介類や肉、野菜など、九州全土から良質な食材を使ったフュージョンフレンチを提供する。フランス・ブルゴーニュで腕を磨いたシェフが、地域の料理から発想を得ながら、地産地消をテーマにした旬の一皿をつくりだす。

洗練された料理と、明治の佇まいを残す和の空間。利用者は時代を越えた食体験に出会うことができるのだ。

ランチ(3,850円~)やディナー(9,680円~)は宿泊客以外も利用可能。15時から17時までの間に楽しめる「アフタヌーンティーセット」(4,200円)も好評だ。

「HOTEL CULTIA 太宰府」で体験できること

宿泊客限定のアクティビティ

HOTEL CULTIA太宰府」のいちばんの魅力は、宿泊客限定のアクティビティだ。ホテルのすぐそばにある「太宰府天満宮」では、閉門後、特別に斎行される夜の正式参拝「夜間参拝」(※1)が体験できる。

写真提供:福岡県観光連盟

また、日本国内に東京・奈良・京都に次ぐ4箇所目の国立博物館である「九州国立博物館」ではバックヤードツアーや作品解説などの「ナイトミュージアムツアー」(※2)に参加することができる。

(※1、※2 料金別途。※2現在はコロナ禍の影響で休止中)

他の場所にはない特別な体験を求めて、これまで国内外から多くの方々が体験型アクティビティのプランを利用した。

太宰府に「宿泊したい」場所をつくり、特別なアクティビティで夜の過ごし方を提供する。こうして「HOTEL CULTIA太宰府」は市の観光課題を解決するソリューションとなった。

地域との連携商品販売と、太宰府市「梅」プロジェクトとの連携

西鉄・戸川さん
西鉄・戸川さん

西鉄では、「西鉄沿線プロジェクト」の一環として、大宰府跡で収穫した梅を使って、梅サイダーという商品を作る試みを2015年から始めました。近隣の福岡農業高校の学生と協働して、太宰府天満宮参道の店舗やにしてつストア レガネット太宰府店などで販売しています。

太宰府市・長井さん
太宰府市・長井さん

もともと史跡地の梅は文化財保護の観点から商業利用が制限されており活用が出来ませんでした。そこで、本市から国に積極的に働きかけ、資源として活用できる規制緩和を2020年12月に勝ち取りました。これを契機として、『令和発祥の都太宰府「梅」プロジェクト推進事業』を立ち上げ、太宰府の梅を使った新製品開発を行っています。

太宰府市ではこれまでに様々な企業や学生等とコラボし、ご当地スイーツやグルメを開発。かつてこの地で大伴旅人も愛でたであろう梅のブランディングを進めている。製品の一部はふるさと納税にもノミネートされており、経済税収効果の飛躍的向上にも繋がっている。

西鉄・戸川さん
西鉄・戸川さん

西鉄では、この梅プロジェクトに賛同し、梅サイダーもコラボレーション商品としました。さらに、「HOTEL CULTIA太宰府」では、レストランのシェフが太宰府の史跡地で収穫された梅を使ったソースやシロップ、スイーツなどを新メニューとして考案。地域の食材を通して、宿泊客やレストランの利用者にだざいぶの魅力を体感頂いています。また、ふるさと納税のメニューでも、ホテルやレストランの利用券に設定いただいています。

これからの太宰府のまちづくり

支配人として赴任して1年が過ぎた三宅さん。ホテル開業後に想いを強くすることもあったのだと教えてくれた。

HOTEL CULTIA太宰府・三宅さん
HOTEL CULTIA太宰府・三宅さん

課題を解決するために、CULTIAを運営していますが、他にももっと夜の過ごし方の選択肢も増えれば、より多くの人に太宰府の魅力を伝えることができると考えています。

私は神戸生まれで、大学時代は京都で過ごしました。まだ26歳と経験は多くありませんが、「よそ者・若者」の視点は私の強み(笑)。小さなことからでもスタートして、「何泊もしたい!」と思っていただける人を一人でも多くつくっていけたらと考えています。

そうした三宅さんの熱意ある声を受けて、長井さんと戸川さんもそれぞれの想いを語ってくれた。

太宰府市・長井さん
太宰府市・長井さん

太宰府は、「歴史と文化とみどりあふれる令和の都」。由緒ある史跡や歴史的な景観を感じてもらえるまちづくりが、私たちの目指すべきゴールです。

歴史や文化、体験などを通して、新しいだざいふの観光のかたちを模索していければと考えています。そのためには、行政だけではなく、民間企業とも強く連携していくことが欠かせません。

「観光」という仕事は行政の業務の中でも特殊で、他の事業に比べて民間企業との連携が大きな肝になっています。こうして三社で連携することで、行政にはない力をお借りできれば心強いですね。

また、観光地である太宰府市では交通渋滞も長年の課題です。今後もまちづくりのプロである西鉄さんとの協業を通して、市民の方々が住みやすいまちづくりを進めていければ。

西鉄・戸川さん
西鉄・戸川さん

私たちも想いは同じです。交流人口が増加すれば、地域が発展し、雇用にもつながります。観光を考えることは、人の流れを考えるということ。観光はひとつの側面だけではなく、さまざまな地域課題に通じていると感じています。互いに連携を深めて、太宰府のまちを盛り上げていきましょう。

「HOTEL CULTIA太宰府」を基点に、今後はどんな企画が生まれていくのか。西鉄のまちづくりはまだこれからも続いていく。

  • 三宅 智大 さん
    三宅 智大 さん

    HOTEL CULTIA 太宰府 支配人

    2019年に株式会社バリューマネジメント入社。本社でマーケティングや広報などを担当し、2019年7月から「AKAGANE RESORT KYOTO HIGASHIYAMA 1925」へ異動。本社人材開発部の採用担当を経て、2020年9月に「佐原商家町ホテル NIPPONIA」に赴任。2022年1月から現職。

  • 長井 琢哉 さん
    長井 琢哉 さん

    太宰府市 観光経済部
    観光推進課 観光推進係

    2012年に太宰府市役所に入庁。上下水道部、市民生活部で上下水道事業や国民健康保険行政を経験し、2020年から2021年まで福岡県商工部観光局観光政策課に人事交流として出向。観光地域づくりに関する業務を担当。2022年4月から現職。

  • 戸川 祐志 さん
    戸川 祐志 さん

    西日本鉄道株式会社
    まちづくり・交通・観光推進部 係長

    2008年入社。株式会社西鉄プラザ(現・西鉄ストア)で飲食店の店舗運営を経験した後、都市開発事業本部へ異動。「大橋名店街」や「天神コア」の運営管理などを経て、2021年よりまちづくり・交通観光推進部へ。現在は観光や太宰府のまちづくりを担当する。

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