「にしてつストア」や「スピナ」「レガネット」「あんくるふじや」を展開する西鉄ストア。その売り場を盛り上げている、すご腕のPOP職人がいるらしい?!との情報がエヌカケル編集部に入って来た。ウワサの真相を確かめに、西鉄ストアの担当者を訪ねた!
エヌカケル編集部はさっそく西鉄ストアに取材を依頼。「POP職人に直接取材したい!」とお願いして、本人に会いに行ってきた。
笑顔で迎えてくれたのは、西鉄ストア 酒販事業部所属の平山由美さん。
おおっ!あなたがウワサのPOP職人さんなんですね!!
と、小脇に抱えているその道具はもしかして……
これがプロの仕事道具ですね!
平山さんにお願いして、まずはこれまでの作品を見せてもらった。
「かわいい!」「すごい!」とエヌカケル編集部でも話題になったのがこのPOP。さらに、これまで制作してきたPOPを見てみると……
なかなかインパクトがある!
完成度がすごい!!
POP職人はイラストや文字のタッチも自由自在なのか!
次に、普段はどのようにPOPができているのか、制作風景を見学させてもらった。長方形の用紙に、ペンを使って描いていく。
よく使うPOPはレイアウトがだいたい決まっています。まずは価格の部分から取り掛かります。
下書きはしないんですか?
そうですね。最初はしてたんですけど、今はそのまま書いちゃいます。そのほうが自然な仕上がりになるし、スピードも速いので。
次は見出しの部分です。いちばん目を引く場所なので、どんな言葉にするのか頭を使うポイントですね。
キャッチコピーもオリジナル?
伝わりやすい言葉で、うまく収まるように考えています。見出しの部分は、1行あたりは10~15文字くらいがちょうど良いですね。商品の特徴を端的に表現する場合もありますし、「TVやSNSで話題!」や「〇〇〇〇賞を受賞」など、ヒットを示すコピーを入れることもあります。
これも下書きなしで?
書く前に、一度頭のなかでイメージはしますよ。割り付けがうまくいかないと余分なスペースができてしまって、かっこ悪くなっちゃいますから。
どのくらいのバランスがベストなんですか?
左右は同じくらいのスペースになるのが理想です。見出し部分の2行目以降は、価格の数字にかからないよう気を付けています。文字の大きさを変えることもありますが、言葉を詰めすぎると読みにくくなるので、「伝えたいこと」と「見た目」のバランスが大事ですね。
最後に、ペンを変えて商品名を書いていきます。
キャッチコピーと価格の間の余白に、商品名が見事に収まった!
インクが乾いたら、白いペンで数字に装飾を加えて完成です。
平山さんの手書きの原本は、コピーまたはデータ化されて各店舗に配布。各店の売り場で活躍する。
パソコンで作られたPOPも並んでいるけど、やっぱり平山さんの手描きのほうが目を引くし、温かみがある!
普段は本部や各店舗を行き来しているという平山さん。最近では、POPを作る際はスケジュールを調整し、本部に缶詰めになって1日でまとめて制作を進めている。
1枚仕上げるのに、だいたいどのくらい時間がかかるんですか?
商品情報が手元にそろっていれば、小さいもの1個あたりは5分くらい。A4サイズなど大きくなると20~30分はかかります。
ご、5分!
他に何十枚も仕上げなきゃいけないので、スピード勝負なんですよ。
メインのPOP制作以外に、各店舗の担当者から個別にメールで制作依頼を受ける場合もあるという。
そんな多忙な平山さんに、POPづくりのコツを教えてもらった。
POPづくりには、上手に速く仕上げるコツがいくつかあります。
①キャッチコピーは明確に!
②余白を生かす!でも、詰め込みすぎてもダメ。
③使う色は3、4色がベスト。
の3つです!
おお、わかりやすい!それぞれもう少し詳しく教えてください。
①のキャッチコピーの部分は、お客さまの注意を引き付けるキーワードであることが重要です。専門用語など難しい言葉はNG。幅広い年代の方がいらっしゃるので、人気の理由など商品のわかりやすい特徴か、誰にでもわかりやすいシンプルな言葉がベストです。
なるほど。
②について、バランスよく文字を配置するには、左右のバランスがポイントです。キャッチコピーの部分は、1行あたり10文字くらいがベスト。頭の中でレイアウトを想定してから書きはじめます。
あまりカラフルにしすぎると視線が散らばってしまうので、使う色は多くても3、4色。通常は赤、黒、青をメインにしています。
今回、「エヌカケル」用に、特別にPOPを描いてもらった!
そもそも平山さんは、なぜPOP職人になったのですか?
地元の高校でデザインを学び、入社前はデザイン事務所で働いていました。その後、自宅の近所にあった「あんくるふじや」で働きはじめ、正社員に。
POPを描き始めたのは、特に誰から言われたわけでもなく、自分から……ですね(笑)。ある時、私が書いたPOPが当時の社長の目に留まり、「おもしろいからもっと描いてもらったら」と、だんだん制作枚数が増えていきました。
自らPOP職人に!
これがPOPを描き始めた頃の作品です。15年くらい前ですね。今見直してみると、いろいろ気になるところはありますが……。
一般人には違いはわかりませんよ!
余白の使い方がイマイチだな、と。最近描いたものと見比べてみると、全然違うと思います。
たしかに、ちょっとしたすき間を活用して、文字やイラストを配置されていますね!
この長方形サイズが基本で、丸いPOPを作る場合もあります。
イラストはコピーを添付する場合もありますが、手描きをすることもあります。
下の焼酎用のPOPは、当時の社長に「キャラクター同士のやり取りが描かれたPOPもいいんじゃない?」とアイデアをいただいて作ったものです。女性が好みそうな味わいの焼酎だったので、女性のイラストを描いてコメントを付けました。
また、依頼されたPOP以外に、平山さん自身の提案で販促ツールを作ることも。
店舗に足を運んで売り場を見たら、「ここにこんなPOPがあったら良さそう!」と頭に思い浮かぶんです。それで、勝手に作って、勝手に各店の担当者にお渡ししています(笑)。
今までのマイベストPOPを教えてください!
なかなか一番は決めきれませんが……これはすごく気に入っています。「あんくるふじや」の3店合同企画のPOPで、各店舗の店長の顔写真を指名手配犯風にアレンジしました。
ははっ!これは笑える。
お客さまにもスタッフにも楽しんでもらえるとうれしいですね。
福岡や佐賀などをメインに店舗を展開する西鉄ストア。地域密着のスーパーマーケットだからこそ大切にしているPOPづくりのポイントについて教えてもらった。
店舗がある地域によって客層が異なるので、わずかな違いに合わせた細やかな気配りが必要になると考えています。
例えば、「あんくるふじや有田店」は地元に住む高齢のお客さまが多く、アルコールは特に焼酎や日本酒がよく売れます。POPでは、奇をてらった表現はなるべく避け、わかりやすいシンプルな表現を心がけています。
なるほど。店舗ごとの特色を抑えるのもポイントなんですね。
地域ならではの工夫と言えば、POPには方言を取り入れることもあります。見てもらいたいお客さまの目に留まれば、ぐっと視線を引くことができます。日本酒売り場では、このPOPを付けて以来、紹介した瓶の売れ行きが急激にアップしました。
おもしろい!読むとリズムも良くて、楽しくなります。ちなみに、売れるPOPのセオリーってあるんですか?
商品によってまとめるコツはありますよ。例えばワインなら、受賞歴があるボトルは見出しで書いておくと売れ行きがダントツに伸びます。ボトルや銘柄だけではわかりにくいので、ブドウの品種や味わいなどの情報を補足しておくのもポイントです。
ありがとうございます。最後に、POPづくりへの想いを聞かせてください。
ただ商品名と価格が記されているだけではおもしろくない!そんな想いから始まったPOPづくりですが、知らない商品に手が伸びたり、気になる商品を試しに買ってみたり、生活を楽しく彩るきっかけになればうれしく思います。
普段何気なく買い物をする場所でも、時にはPOPに目を留めてみてください。そこには奥深いPOPの世界が広がっています。いつもの売り場の見え方が、きっと変わると思います!
株式会社西鉄ストア
酒販事業部 酒販営業職
佐賀県立有田工業高等学校でデザインを学び、デザイン事務所に就職。2002年、「あんくるふじや」(現・株式会社西鉄ストア)に入社してパートから正社員に。グラフィックデザイナーとして勤務していた経験を生かし、いつしかPOPを作るように。現在は酒販営業職として各店舗を移動する傍ら、「あんくるふじや」及び西鉄ストア関連のPOP制作を担当する。