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2026年3月26日、住友商事株式会社を代表企業として、西日本鉄道を含む8社で構成する企業グループが、「九州大学箱崎キャンパス跡地地区 土地利用事業者募集」における土地利用事業者に正式決定した。2028年度の「まちびらき」に向けて、いま計画はどこまで進んでいるのか。西鉄の担当者である、まちづくり事業本部・課長、井上沙和さんに話を聞いた。
最近では広く知られるようになったスマートシティという言葉、「ICTを活用した便利なまち」というイメージを持つ人も多いだろう。
しかし現在、世界のスマートシティは次の段階に進んでいる。トヨタ自動車㈱が進める「ウーブン・シティ」は、ゼロから設計された実験都市であり、生活・移動・エネルギーを統合する試みだ。シンガポールでは、国家レベルで都市データを統合し、政策やインフラ運用に活用している。
そうした中で福岡・箱崎における九州大学箱崎キャンパス跡地を利用したスマートシティづくり「FUKUOKA Smart EAST」は、対象敷地が、未利用地を含め、なんと約50ヘクタールと広大である。敷地約50ヘクタールのうち、福岡市が整備する中学校用地などを除いた約28.5ヘクタールを土地利用事業者が開発する。都心部にこれだけの規模のスマートシティを一から創りあげる構想は、国内はもちろん、世界的にみても極めて珍しい。井上さんはその特徴をこう説明する。


このプロジェクトの大きな特徴は日本最大級のスマートシティである点です。これだけの都心に約28.5ヘクタールという広大な用地があって、その中にフルスケールで実装される点だと思います。人が暮らし、働き、訪れる場所ですし、その意味で非常に広範囲で実践的なモデルだと言えます。
福岡の都心で計画が進んでいるスマートシティは、単にICTを活用した便利なまちではない。都市に存在する「ひと・モノ・サービス・データ」をつなぎ、都市全体を一つのシステムとして最適化していく構想なのだ。
まちづくりの根幹には、6つの方針が据えられている。


筥崎宮や九州大学の歴史を継承したうえで、新産業を創造・発信する未来を創る場所でもあります。また、緑が豊かで、それが新しいライフスタイルや、創造性を育むことにもつながります。環境への取り組みも重視していて、この分野でも最先端の技術が取り入れられる計画です。

では、実際にどんなスマートサービスが提供されるのか。井上さんは「分かりやすいソリューションは顔認証でしょうか。」と、このまちで暮らす人の朝のシーンのイメージを語ってくれた。

朝、自宅を出て、振り向けば玄関が顔認証で自動ロックされる。自宅のそばからオンデマンドバスに乗車して、駅前で降車。カフェでロボットが給仕してくれる軽い朝食を楽しんだ後に、スーパーに寄って夕食の買い物をし、それを夕方に自宅に届けてくれるように、自動配送ロボットでの配送を予約する――そんな全ての行動が、顔認証で完結するとしたら、とてもわくわくしませんか。

こうしたサービスを享受できるのは住民のみならず他の地域からの来街者も同様で、登録しておけば、スマホさえ使わずにモビリティが利用できたり、買い物ができたりする。まちの中のあらゆるサービスが顔認証で完結することになるだろう。
しかも、その情報はまちにアーカイブされることになるわけで、たとえばまち独自のAIが最適の行動をレコメンドしてくれる、といったサービスが生まれる可能性もある。「自分のことをよく知ってくれているまち」「利用すればするほど理解してくれるまち」というのは、これまでなかった人とまちとの関係性と言えるだろう。
この他にもあらゆる分野でスマートサービスが提供される計画だ。

例えば「安全」という面から見れば、スマートポールに設置したAIカメラやセンサーによってまち全体が見守られている。何か異常があれば即座に検知され、対応が行われる。

いつもと異なるような異常を検知したらアラートが出たり、トラブル発生時に自動的に防犯センターに通知が届き、状況によってスタッフが駆けつけたりといったまち全体の見守り機能は、ご家族にご高齢者やお子さんがいらっしゃる方々には、安心できるサービスになると思います。
健康面では健康情報を一元管理して見える化するサービスや、健康増進に寄与する提案を行うアプリ等を計画。
他にも「電⼒使用量や CO2削減量の可視化」「様々な都市機能に応じた純水素燃料電池の利活用」など、環境配慮に関する取り組みにも注目だ。

これらのサービスはデータ連携基盤によって連携され、利用者は多種多様なスマートサービス・情報の中核となるタウンポータルによって、適切、かつ効率的にサービスを利用できる仕組みが構築される。

本プロジェクトの核となるのが、次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」である。
IOWNが実現するは単なる通信速度の向上ではない。都市のあらゆるデータをリアルタイムで接続し、処理するための基盤だ。これにより、都市全体のデジタルツインが構築される。
デジタルツインとは、現実の都市をそのままデータ空間に再現する仕組みである。人の流れ、交通、エネルギー、消費、健康といった情報が統合され、シミュレーションや最適化が可能になる。
だからこそ、住む人、働く人、訪れる人など、様々な人々に、多様な分野で「一人ひとりに最適化されたサービス」が実現できる。生活の質、空間の質、仕事の質。それらを高めることで「人生の質」を向上させるのがスマートサービスの真の目的だ。
次に「都市空間」という視点から箱崎のスマートシティを見てみよう。まず特徴的なのが、5つのストリートを軸とした歩行者ネットワークだ。人の移動を軸に回遊性を高める設計となっている。


例えば、まちの南西側の主要な入口となる地下鉄の箱崎九大前駅から、まちの中心部まで伸びるサウスリビングストリートは屋根があるので雨の日でも傘をささずに歩くことができます。5つのストリートはまちをつなぎ、回遊性を生むための主要動線として、私たちが最も大切にしている空間なんです。

さらにまちの随所に設けられるのが、街角広場とスマートステージ。単なる広場ではなく、体験等を通じてコミュニティを育む空間だ。

そしてもう一つの柱が「緑」である。まち全体で緑化率40%、総樹木本数1万本以上が計画されており、潤いや憩いの感じられるみどりに囲まれた空間を形成する。

デザインについては、九州大学時代の景観や色調を継承する。
交通については、路線バス、オンデマンドバス、タクシーなどが乗降できる交通広場を整備。シェア型モビリティの乗換え場所として、モビリティハブを交通広場と駅前の3カ所に、モビリティポートをエリア内14カ所に設置する。

プロジェクトにおいて、どの会社がどの分野を担当すると明確に決まっているわけではないのですが、やはり交通については、私たち西鉄が、これまでの経験を活かして、リードしていく分野になると思います。
まちはゾーニングによって構成されている。

中核となるのが「イノベーションコア」。福岡の次世代産業創出するイノベーション拠点の「BOX FUKUOKA」であり、食の体験型エンターテイメント観光交流拠点の「フクオカサスティナブルフードパーク」などが整備される。

やはり多くの方が興味をもたれるのはフードパークだと思います。豊かな食文化をもつ福岡。まずは生鮮食品を購入できるマーケット、それらが味わえる飲食店、さらに食物販が揃った施設を計画しています。観光スポットとしても日常利用でも魅力的な施設になると期待しています。
また、生活を支える「ウェルカムゾーン」には商業施設、教育機能を担う「ナレッジゾーン」にはインターナショナルスクールや専門学校、医療・福祉の「ウェルネスゾーン」には病院やクリニック、「ゲートゾーン」にはオフィスや研究機関が整備される。そして居住空間としての「ノース/サウスリビングゾーン」。さらに将来活用ゾーンも用意されており、時代の変化に合わせて導入する機能を今後検討していく。

今後のスケジュールは、2028年度に第1期まちびらきが予定されており、イノベーションコア、商業施設、多世代交流施設、住宅(分譲・賃貸)、寮の開業を見込んでいる。段階的に開発を進め、2036年度にまちの概成を予定している。
このプロジェクトでは、環境対策は後付けではなく、最初から計画に組み込まれている。
たとえば、建物・住宅の年間一次エネルギー消費量を太陽光発電などで実質ゼロにする(ネット・ゼロ・エネルギー)環境配慮型建築であるZEB(ゼブ:※1)とZEH(ゼッチ:※2)を採用。省エネ建築、再生可能エネルギー、水素活用。都市全体でカーボンニュートラルを実現する。
また、エネルギーマネジメントによって電⼒使用量や CO2削減量を可視化し、効率化を促進する。水素の利活用も重要なテーマだ。
さらに、防災機能も統合されている。災害時の帰宅困難者の受け入れ、非常用エネルギー、一時滞在施設など、有事にも対応できる計画だ。その計画に基づき、平時と非常時をつなぐシームレスなレジリエンス設計を推進している。

最後にプロジェクトの担当者としてリアルな思いを井上さんに聞いてみた。

このプロジェクトで最も大変な点は?

やはり、関わる方々が多岐にわたり、多数いらっしゃることです。これまで西鉄グループは交通を中心に住宅や商業施設など様々な面でまちづくりに参画してきました。しかし、今回のような規模の開発に取り組むのは初めての経験です。公募元(九州大学、UR都市機構)、福岡市をはじめ、地域の皆さまはもちろん、様々な企業と相談し、折衝し、調整していくのは、容易なことではありません。一方でそれがやりがいでもあり、刺激を感じる瞬間でもありますね。
最も重要になってくるポイントは?

関係者とのコミュニケーションだと思います。実際にまちが動き出せば、地域の課題や意見交換をしていく場を作ることが大切ですし、意見交換を通じて計画内容の改善や更新といった流れを作らなければなりません。さらにはまちの中はもちろん、地域の皆さまと新しいサービスを共創する必要もある。その意味でまちは変化し続け、完成することはないのかもしれませんね。

新しいスマートシティに期待している方々に、今、一番伝えたいことは?

2026年度は、いよいよ工事も始まりますし、プロジェクトが動き出したことを実感していただける場面も増えてくると思います。ここ福岡・箱崎の地で、新しいまちづくりが始まります!このプロジェクトへ多くの関心を寄せていただけると嬉しく思います。

西日本鉄道株式会社
まちづくり事業本部 福岡東部開発プロジェクト担当 課長
2010年入社。自動車事業本部、経営企画部を経て、2019年度より、都市開発事業に携わる。2024年度より、九州大学箱崎キャンパス跡地PJを担当。
※1
ZEB(ゼブ):Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称。 対象はオフィスビル、学校、病院、デパート、ホテルなどの業務用ビル。建物で使うエネルギーを「省エネ(断熱や効率的な空調)」で減らし、「創エネ(太陽光発電など)」で賄うことで、年間の一次エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにすることを目指す。
※2
ZEH(ゼッチ):Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略称。対象は戸建て住宅やマンションなどの住まい。高い断熱性能や高効率な設備(LEDや省エネ給湯器)を取り入れ、太陽光発電などでエネルギーを創ることで、家全体でのエネルギー収支をゼロ以下にする。
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