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福岡県・佐賀県で100以上の店舗を展開する株式会社西鉄ストア(以下、西鉄ストア)。「にしてつストア」や「レガネット」を運営する同社が、生成AIと複数のデータを掛け合わせた売り場づくりに挑んでいる。最新の取り組みを取材した。
福岡をはじめ北部九州エリアにスーパーマーケットや酒類販売店、飲食店など計100店舗以上を展開する西鉄ストア。福岡市内を中心に展開するスーパーマーケット「にしてつストア」や「レガネット」では、店舗の販売情報であるPOSデータに、「顧客ID」を紐づけたID-POSデータや、西鉄グループが発行する交通系ICカード「nimoca」の移動データを活用した新しい売り場づくりがはじまっている。

核となったのは、データを活用したスーパーマーケットの売り場づくりを推進するため、2025年9月から始動した「春日原DDXプロジェクト」(「泥臭い(D)デジタル(D)トランスフォーメーション(X)」)だ。
西鉄ストアは、パートナー企業である今村商事(株)とともに、開業前の「レガネット春日原」の売り場づくりに挑戦。nimocaの交通データと既存店の購買データを掛け合わせ「仮想購買データ」を作りあげて、さまざまな分析を重ねながら最適な売り場づくりを進めていった。

対象となった「レガネット春日原」は、西鉄春日原駅のビル内に新規オープンを控えた駅ナカ型スーパーマーケット。新店舗のため過去のデータが存在せず、通勤・帰宅客と近隣住民が混在する複雑な来店シーンが予測されたことから、交通データと購買データを掛け合わせ顧客行動を科学的に分析し最適な売り場をつくることを目的に、本プロジェクトが推進された。
またデータ活用の第一弾として実施した、AIを使った商品POP(売り場の販促物)の作成では、売上げ105%を達成。第二弾では粗利が改善するなど、数字面での成果も見えた。
さらに注目すべきは、レシートと免税データを突合したインバウンド分析だ。
全国でもいち早く、これらの先進的な取り組みが実現できたのはなぜだったのか。また、どんな成果が得られたのか。西鉄ストアレガネット春日原店長の坂本大輔さんと、西鉄のグループ営業企画部グループデータ利活用推進担当の西村はるかさん(株式会社ニモカ デジタルソリューション部兼務)に話を聞いた。

西鉄ストアが展開するスーパーマーケットの店内には、各店およそ1万点の商品が並んでいる。各商品には商品名や価格が記載された「POP」と呼ばれる札が付き、なかでもコメントが添えられるものは「コトPOP」と呼ばれている。

消費者側から言えば、商品の特徴や使い方をわかりやすく解説してくれる「コトPOP」は商品購入のきっかけにもなる“ありがたい”存在だ。ところが、店内には約1万点もの商品があり、店舗スタッフにとっては1点ずつに特別なコメントを作成するのはかなり骨の折れる作業でもある。その常識を覆してくれるのが生成AIだ。
坂本さんが最初にコトPOP自動生成に取り組んだのは、2024年4月から5月にかけてだった。当時、西鉄ストアの本部で営業企画部兼メディア戦略課兼マーケティング室課長だった坂本さんは、スーパーマーケットや食品メーカー、IT企業などが集まるリテールAI研究会へ参加。流通業界でのAI活用を推進するこの研究会をきっかけに、実証実験という形で生成AIを使った売り場づくりにチャレンジした。
具体的には、「レガネット牛頸(うしくび)」(福岡県大野城市)店舗のID-POSデータを生成AIに分析させ、購買見込み客の特性を4つに分類(「料理を楽しむ」「家事に熱心」「健康・美容への意識が高い」「自宅での食事を重視」)。さらに、データ会社が保有するAmazonや楽天など通販サイト購入者による口コミデータと突き合わせ、手始めに30種類もあるカレールーの商品それぞれに最適化されたキャッチコピーを自動生成した。


最初は半信半疑でしたが、正直に言うと驚きました。自分たちが1日がかりで考えていたコメントが、たった10分ほどで30個ポンと出てくるんです。もちろん、内容のチェックは必要ですが、圧倒的な速さと作業量で「これは使える!」と確信しました。

生成されたPOPは印刷して、カレーコーナーに貼付。1カ月後にはカレールー全体の売上げが昨年同期比105.5%に伸長した。なかには全店比で700%という商品も現れた。

定番棚にPOPを貼っただけで売上げが伸びた。それが一番の価値であり、大きな手ごたえを感じました。
2024年12月1日から翌年2月28日までの3カ月間には実証実験を実施。生成AIのPOPを取り付けた対象商品120SKU(※)の売上げ金額は前年比で123.4%まで増加したほか、打点数(※)は前年比で124.5%増加。POPを貼付した商品とそうでない商品の間で、明確な差が確認された。
※SKU……在庫管理や受発注で使われる商品の最小管理単位
※打点数……レジでバーコードがスキャンされたり、商品のキーが入力されたりした回数(点数)
課題は運用面だ。商品の入れ替わりが激しいスーパーマーケットでは、POP生成、確認、更新のサイクルを誰が回すかという問題が残る。「生成された表示の中には薬事法などの規制表現が出力されることもあるため、現時点では人の目によるチェックに頼っている部分が大きい」と、坂本さんは改善すべき点を振り返る。
POP作成の次に取り組んだのが、福岡市博多区にある大型ショッピングモール「ららぽーと福岡」内のレガネットららぽーと福岡での訪日外国人観光客(インバウンド)分析だ。福岡空港に近いこともありインバウンド客の利用は多いが、ほとんどが現金払いで通常なら購買データに国籍情報が紐づかない。その壁を崩したのが、「ららぽーと福岡」内の免税カウンターのデータとの突合せだった。

免税カウンターのデータには国籍・購買点数・小計金額・購買品種(タバコ・食品・酒等)が記録されている。一方、レガネット店舗が保有するPOSレジのレシートには購入商品名・価格・点数・小計金額・レジ通過時間(タイムスタンプ)のデータがある。
そこで、時刻が近く、かつ金額が一致するレシートと免税データを機械的に突合して国籍ラベルを付与。実際に全レシートへの自動ラベリングを実施したところ、国別の購買傾向が鮮明になった。
韓国からの訪問者はウイスキー購入が突出して多く、中国からの訪問者は生鮮フルーツを好んで購入される傾向が判明。
また、分析をさらに深めたのが、産学連携で参加した福岡大学の学生たちの存在だ。ある学生が着目したのは大人気ペットフードの売れ行き。学生はデータから、ペットフードが他のインバウンド購入品(ゼリーやのど飴など)との同時購買傾向が高いことに着目した。
調べてみると、ペットフードは海外では入手困難な人気商品で、訪日外国人がペットのお土産として購入しているとわかったのだ。数値だけではベテランバイヤーなら「不要な情報」だとして見過ごしていた情報でも、新鮮な視点をもった学生がいたからこそ独自の分析結果にたどり着くことができた。

こうしたデータをもとに国別の売れ筋商品をピックアップしてPOPを作り、売り場づくりを実施したところ、対象商品の売上げが大幅にアップ。今まで気付かなかった潜在需要を発掘してアプローチできたことが証明された。

当社バイヤーの現場感覚と学生の視点、さらにはデータサイエンティストの分析力が一緒になってこそ得られた成果でした。データをさまざまな視点で見て「発見」につながるのが、この取り組みの面白さだと思います。
将来的にはららぽーと福岡への大型バスの予約情報との連携も視野に入れる予定だ。「事前にどの国籍の団体が来るかわかれば、陳列や在庫を事前に調整できる」と坂本さん。
西鉄ストアの取り組みの中でも最も独自性が高いのが、株式会社ニモカ(以下、ニモカ)が発行する交通系ICカード「nimoca(ニモカ)」の交通データと、にしてつストアなどで利用できる楽天ポイントカード・電子マネー「楽天Edy」一体型のポイントカード「UNiTeカード」からスーパーマーケットの購買データを組み合わせた「仮想顧客ID」生成だ。西鉄ストアの坂本さんは、西鉄の西村はるかさんらと連携しながら、2026年2月にオープンしたレガネット春日原(福岡県春日市)の開業準備として、交通データと購買データを掛け合わせたデータ活用を開始した。

新規オープン店舗のため過去データがない中で「誰がどんな買い物をするか」を推定するため、春日原駅・近隣バス停の乗降データからエリア利用者を推定し、そのうちUNiTeカード会員に紐づくお客さまが西鉄ストアの他店舗でどのような買い物をされているのかを分析した。交通移動データと西鉄ストアの購買データを突合することで、まだ存在しない「レガネット春日原」のお客さまのお買い物を予測。数万人分の「レガネット春日原仮想顧客ID」を作成したというわけだ。
この仮想顧客IDをもとにフィルタリングを実施し、「春日原店ではこの商品がこれくらい売れるはず」という数値予測を構築。基準店舗(お手本の店舗)として「にしてつストア高宮店」が選定され、SKU削減と棚割最適化を行った。削減した棚スペースには、フィルタリングが「このエリアの客層が求める」と示した商品を拡充した結果、売上規模が近い他店舗と比較して、対象商品の買上率(※)やSKUあたり購買点数(※)が上回る実績となった。
※買上率…その店舗で買い物した人のうち、その商品を購入した人の割合
※SKUあたりの購買点数…1SKUあたりの購買点数(1商品あたり何個売れたか)



特に効果が大きかったのがトマト缶です。1日20個ほど売れる定番商品なのに、商品種類が多く、1棚あたりの陳列数量が限られていたため、毎日補充が必要でした。売れるトマト缶がわかったので、今回の取り組みで削減したSKU数分、棚数を7段→6段へ減らし、1段あたりの棚の高さを広げて2段積みにすればいい。実際に改善したところ、1回の補充で2日分が入るようになり、店舗スタッフの陳列作業量が大幅に減少しました。


今回ご紹介したようなnimoca移動データと他事業のデータとを掛け合わせた取り組みは、nimoca開業以来、積年の課題でしたが、グループ内での取り組み実績はなく初めてのチャレンジでした。レガネット春日原での取り組みを通して得られた一番の収穫は、「実際に異なる事業同士のデータを掛け合わせてデータを活用できた」という実績と自信です。データの保有には膨大なコストがかかりますが、「データは資産」だと考え自社で保有してきたグループの方針が、今後ますます生きてくるはずだという展望も見えました。

これらの実験が滞りなく進んだのは、「まずやってみる」という西鉄グループの組織文化があったからだ。コトPOPの実証実験は追加コストほぼゼロで立ち上がり、インバウンド分析も既存データの組み合わせで完結した。

昔なら莫大な費用がかかると言われたようなデータ基盤整備が、今は生成AIとオープンなAPIで驚くほど低コストで試せます。あとは、「試していい」という環境だけ。林田社長をはじめ、グループ全体にチャレンジを後押しする文化が浸透していたからこそ、他社が足踏みするなかでいち早く生成AIを現場に取り入れることができました。
西鉄ストアの購買データやnimocaの交通データを活用したこれまでの取り組みを受け、西鉄グループは自社内でさらにその輪を広げていきたい考えだ。

西鉄ストアでのPOP作成や棚割変更にとどまらず、グループ全体の施設誘導やクーポン配信の精度向上など、今後はグループ内のさまざまな事業に展開したいと考えています。そうして実績を集め、最終的にはデータから西鉄グループに最適な施策が導き出せたらいいですよね。そうしたなかでも、結局カギを握るのは、やはり「人」です。長年現場を見てきた経験豊富なバイヤーさんたちがいるからこそ、生成AIが導き出した情報が正しいかどうか、判断できるわけですから。

上質な商品を幅広くそろえ、地域密着型の店舗を展開する西鉄ストアでは、大手ドラッグストアや量販店との差別化が今後も求められる。

お客さまに幅広い選択肢を提示してお買い物を楽しんでいただくのがこれまでの西鉄ストアの持ち味です。
ただ、さまざまな面でSKUを削減する必要があるため、生成AIを活用することで、SKU削減を行いながら、「らしさ」を引き出す事ができれば、データ活用やAIの活用がさらに進むと思います。

一定の成果が得られた今、今後はこの知見とノウハウを、いかにして現場のオペレーションに組み込んでいくかが課題となる。実施するとなれば売上げへのインパクトは必須であり、人財確保やスキルアップも求められる。実装までの課題をクリアしていくのは簡単ではないが、売り場づくりの新スタンダード実現はそう遠くはなさそうだ。
デジタルデータと生成AIを活用すれば、さまざまな事業にインパクトを与えることができる。幅広い事業領域を持つ西鉄グループでは、これからどのように活用のステージが広がっていくのか。その挑戦は大きな楽しみであり、今までにないやりがいと価値が生まれるはずだ。

株式会社西鉄ストア
レガネット春日原 店長
2001年に西鉄ストア入社、現場の水産部門に配属後、2018年より営業企画課で販促、マーケティング、メディアを担当。2025年より春日原新店準備室へ配属、2026年レガネット春日原開業に合わせて店長として赴任。

西日本鉄道株式会社 グループ営業企画部 グループデータ利活用推進担当
株式会社ニモカ デジタルソリューション部兼務
2024年に西日本鉄道入社。グループ営業企画部にグループデータ利活用推進担当として配属され、西鉄グループ内のデータ分析やデータマーケティング、LINE利活用の推進を担当。2026年より株式会社ニモカデジタルソリューション部を兼務。
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