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2026年で22年目を迎える大型音楽イベント「MUSIC CITY TENJIN」。福岡・天神の中心部に複数のステージが登場。豪華アーティストや地元の若手が出演するステージで、まち中が音楽に満たされる2日間となる。
驚くべきは、すべてのステージが無料で楽しめることだ。メインステージにはドームやアリーナクラスのミュージシャンも多数登場。通常なら数千円、数万円の価値を持つこれほど大規模な音楽イベントが、なぜ無料で開催できるのか?企画や運営の裏側を取材した。
毎年9月の最終週末、福岡の中心部・天神を歩けば、どこからともなく音楽が聞こえてくる——。開催されるのは、「MUSIC CITY TENJIN」(以下、MCT)。九州一の商業集積地に約10万人を動員する大型音楽イベントだ。
福岡・天神地区の活性化と、福岡の音楽的環境の向上を目指して、2002年にスタートしたMCT。コロナ禍による中断を経て、2024年に5年ぶり20回目を開催。2026年で22年目を迎える。
最大の特徴は、全会場が観覧無料であることだ。中心部の公開空地や商業施設前など複数の会場を使い、まち全体が音楽であふれる2日間となる。
出演アーティストはプロ、アマ問わず多岐にわたる。これまでは、UA、ハナレグミ、宮沢和史、スガシカオ、あいみょん、大橋トリオ、コブクロ、Official髭男dism、家入レオ、NUMBER GIRLなど、幅広い顔ぶれが出演してきた。



9月26日(土)・27日(日)に開催予定の今年2026年は、RHYMESTER、EGO-WRAPPIN'、PIER OF THE WESTに加えてゴーグルズとペンギンレインオーケストラのスペシャルゲストとして奥田民生も登場。天神ビッグバンによる再開発が進むなか、ONE FUKUOKA BLDG. (以下、ワンビル)そばに7月に開通した「因幡町通り」を新会場として活用するほか、今年10月に90周年を迎える百貨店「岩田屋本店」とのコラボ企画や、「ソラリアプラザ」でのK-POPダンスプログラムなど、新しい試みが予定されている。


福岡・天神エリアの開発を手掛けてきた西鉄グループにとって、MCTは重要な意義を持つ取り組みだ。もとをたどれば、MCTは西鉄社内にあった部門横断組織「天神委員会」の中のユニット「天神文化小委員会」の議論から誕生。「天神ににぎわいをつくることが西鉄の使命」だとする考えのもと、文化や音楽の力で天神を活性化する方法を模索するなか、ライブイベント構想が立ち上がったのだ。
現在、運営委員会は、We Love天神協議会、株式会社エフエム福岡、株式会社西鉄エージェンシー、株式会社西日本新聞社、西日本鉄道株式会社、株式会社福岡放送、ラブエフエム国際放送株式会社で構成されている。西鉄グループは現在に至るまで、MCT運営委員会においてディレクションの役割を担い、全体の舵取りを続けている。
また、天神を拠点とする民間企業を中心に、福岡市や各分野の専門家などさまざまな団体・個人で構成される「We Love天神協議会」の働きも大きい。加盟する店舗や施設と連携しながらまちの魅力向上に取り組む一方で、MCTと同日程で「TENJIN SHOWTIME」という連動企画を開催。ジャンルや人数を問わず、さまざまな人々が自己表現できる場を公開空地に用意することで、MCTの求心力をまち全体のにぎわいへと波及させている。

今回の取材では、MCT運営委員会に所属する株式会社西鉄エージェンシー(以下、西鉄エージェンシー)の牛島さん、We Love天神協議会の荒瀬さん、谷川さんに話を聞いた。

MCTの構想が具体化したのは2001年。西鉄と福岡市(当時のコンテンツ振興担当部署)が「福岡を代表する音楽イベントを一緒に立ち上げよう」と動き出したことがきっかけだった。天神の商業施設が加盟する団体「都心界」や新聞各社、FMラジオ局各局にも参加を呼びかけ、大学教授の助言も受けながら実行委員会を組織。2002年に第1回を開催した。


「天神に点在する『公開空地』と呼ばれるスペースを会場として活用し、まち全体をジャックするように音楽を届けるスタイルは当初から決まっていました」と話すのは、イベント立ち上げ当初からMCTに携わってきた西鉄エージェンシーの牛島さんだ。「まち中が音楽にあふれ出す2日間」というコンセプトは、この初期段階ですでに固まっていたという。

無料でプロのアーティストのライブを見られるイベントは、全国的に見ても、当時ほとんど前例がありませんでした。出演交渉にあたっては、福岡のまちの活性化という意義と目的をアーティストの事務所側にしっかりとお伝えし、「収益を得ることを目的としたイベントではない」旨を理解してもらえるよう努めました。結果として、その趣旨に賛同してくださった多くのアーティストがステージに立ってくださったんです。

周辺の音楽関係事業者とも連携して、共に天神のまちを盛り上げる体制を地道に築いてきた。
MCTの広がりと歩調を合わせるように、「中洲ジャズ」(2009年~)などほかの音楽イベントも誕生し、MCTを含む5つの音楽イベントを束ねた「福岡ミュージックマンス」(2014年発足)が誕生。都市部の再開発計画「天神ビッグバン」や「福岡音楽都市協議会」(2021年発足)といったまちづくり・音楽振興の動きも重なり、MCTはその火付け役として、20年以上にわたって天神の音楽シーンを牽引してきたと言える。
順調に歩みを重ねてきたMCTだったが、イベントを揺るがす一大事が起こる。2020年の新型コロナウイルスの感染拡大だ。従来どおりの開催ができなくなったMCTは、「継続させたい」という思いから、一度だけオンラインでの配信イベントを実施。しかし、「天神に人を集めることが本来の目的であり、オンライン開催では会場でしか得られない空気感、熱量を表現することができない」という意見が委員会内で強まり、2024年までは開催を見合わせていた。

再開までの約4年間、天神の中心部は「天神ビッグバン」によるエリア再開発が本格化。まちの姿が大きく変わっていくなか、MCTは2024年9月、20回目の節目に復活を果たしたのだった。

エリア再開発で変化を遂げる天神エリアにおいて、MCT自体も変化を遂げ、新しいフェーズに突入しました。コロナ禍前と同様の形で開催を目指す一方、再開発で刻々と変化するまちの様子を見ながら、イベントの中身も柔軟にアップデートしていく必要性を感じたのです。より多様な人々が、さまざまな形で音楽に触れることができる機会を1つでも多く提供したい。そんな想いと共に、常に新しいチャレンジを取り入れ、進化していこうと決めました。
MCTは、「音楽を通して、天神に関わるあらゆる人と、街そのものに新たな価値を提供、街の未来に寄与するイベント」というミッションを策定。こうした考えを象徴するのが、今年2026年のイベントコンセプト「Social Music」だ。
音楽だけでなく、音楽と親和性の高いダンスプログラムや障害のある方とのコラボレーションなど、これまでのライブイベントでは提供できなかった新しいプログラムを企画。さらに、アジアとの交流やインバウンドの集客にも力を入れ、音楽が持つ「人と人をつなぐ力」を、地域コミュニティの形成に生かそうと考えている。
2024年からは、MCTの趣旨に賛同した株式会社福岡放送が主催として参画。テレビなどのメディアを通じた発信力や地元での幅広い人脈が、集客面でも大きな後押しとして加わった。さらに、2025年からは福岡ミュージックマンスの一員として音楽配信サービスSpotifyとタッグをくみ、MCT出演アーティストのプレイリストなども配信。国内では、東京・渋谷の音楽イベントとのコラボレーションも実現するなど、国内外に“福岡の音楽の波”を広げている。

今後の構想として、ダンスやアートなど、他の文化領域とのコラボプログラムを積極的に推進したり、アジアとの交流プログラムをさらに広げるなど、時代やまちの変遷にあわせて、MCTは少しずつ形を変えながら進化を続けている。
一方で、長く続くイベントだからこそ、向き合うべき課題もある。企画や運営の課題を踏まえて、それぞれの立場からMCTに携わってきた牛島さん、荒瀬さん、谷川さんに、MCTに対する想いを語ってもらった。

MCTの予算は、その大半をエリアの事業者さまからの協賛金でまかなっています。集まる協賛金の見通しを踏まえながらも、新しいチャレンジを含めその年の内容を設計していくのはMCT運営の難しさでもあると言えます。
天神で働き、暮らす人たちにとってメリットになるコンテンツを考え続けなければ、「MCTはもういらない」と言われてしまうリスクが常にあります。天神には次々と新しいビルが誕生し、新しい動きが生まれ続けている。その変化をしっかりと見ながら、次に何をすべきかを考え続ける必要があると思います。
ただ、「天神にいらっしゃる生活者の方に広く音楽に触れられる環境をつくる」という初期メンバーの信念は、これからも大切に未来へ引き継いでいきたいですね。

また、以前は商業施設の館長として、現在はWe Love天神協議会として、運営委員会に近い場所で長年MCTに携わってきた荒瀬さんは、継続することの重要性について話してくれた。

私が実感するのは、「続ける」ということは本当に大変だということです。マンネリ化の懸念や、別の新しいイベントを求める意見もあると思います。ただ、これだけ続いていると、「継続していることに意味がある」ということも見えてきます。毎年新しいチャレンジを続けている実行委員会のみなさんの想いがあってこそだと感じています。
今はSNSで自己表現ができる時代ですが、人と人とがリアルに向き合えるのはこうしたイベントの場所だけです。その空間をこれからも支えながら、表現する人々を応援し、まちを盛り上げていきたいですね。

今年からWe Love天神協議会に加わった谷川さんは、一地元住民としての視点を交えながらこう振り返る。

福岡で生まれ育ち、「9月になると天神で音楽イベントがある」と、自然と認識するようになりました。音源で聴くのとは違い、重低音などの体に響く音の魅力は、リアルな場でしか味わえません。
MCTの運営に携わるようになって、その裏でどれだけ多くの人が協賛集めやイベント制作に力を尽くしているかを知りました。まちのためにこれだけ多くの人が動いているからこそ、まち全体を巻き込む大型イベントが実現できるのだと感じています。来年再来年も継続できるように、しっかりと支えていきたいと思います。

2026年9月26日(土)・27日(日)の開催に向けて、運営委員会は大詰めの段階を迎えている。もちろん今年も、全会場観覧無料。今年10月に90周年を迎える「岩田屋本店」とも連携し、天神エリアの西側まで音楽が広がる予定だ。
今年のMCTの見どころは?


奥田民生さんは、福岡で活動するアーティスト・ゴーグルズと、ペンギンレインオーケストラのステージにスペシャルゲストとして出演します。長年にわたり深い縁で結ばれてきた両者による、MCTならではの一日限りのスペシャルセッションが実現。MCTとして初の試みなので楽しみにしています。

今年はワンビルそばの「因幡町通り」周辺が「TENJIN SHOWTIME」の会場に。メイン会場のステージが終わった後も音楽が楽しめるよう、夕方以降のステージを企画しています。昨年よりもっと、まちの隅々まで音楽で満たされます。

「因幡町通り」は歩行者専用道路として、大きな可能性を秘めています。人々が行き交う道路ににぎわいがあれば、自然とまち全体も楽しくなる。今年の新しいチャレンジに期待を寄せています。
このほか、ソラリアプラザでは「K-POPダンスのプログラム」を開催予定。進化した「MUSIC CITY TENJIN2026」では、より回遊性が高まり、昨年までよりさらににぎやかになりそうだ。
近年では、MCTを目的に福岡に遊びに来る人も多いとか。音楽でまちがあふれる2日間をきっかけに、天神というまち全体をぜひ楽しんでほしい。


株式会社西鉄エージェンシー
第2営業本部 営業第5グループ 部長/グループリーダー
1995年、株式会社西鉄エージェンシーに入社。営業部門で、井上陽水氏の楽曲を使用した西鉄企業イメージCM制作、交通系ICカード「nimoca」の開業プロモーションなどに携わる。MUSIC CITY TENJIN については立ち上げの2002年から事務局メンバーとして担当している。

We Love 天神協議会 事務局長
1998年、西日本鉄道株式会社に入社。商業施設運営室での営業、販促等の経験を経て、2025年度よりWe Love天神協議会に所属。空間創出や公共空間の活用に加え、官民連携によるエリア防災や地域デザインに取り組む。

We Love 天神協議会 事務局次長
2014年、西日本鉄道株式会社に入社。自動車事業本部、都市開発部門での経験を経て、2026年度よりWe Love 天神協議会事務局に所属。多様な関係者と協働し、天神エリアの魅力向上とエリアマネジメントに取り組む。
※本記事の内容は取材当時のものです。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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