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西鉄グループが2024年10月に設立した「西鉄アセットマネジメント株式会社」。不動産を自ら所有し賃料収入を得る、これまでの「大家業」から一歩踏み出し、不動産を「金融商品」として資産運用する新しい事業に挑んでいる。なぜ今、この事業が必要なのか。そしてそこで働くことの面白さとは。担当者への取材をもとに、その全貌に迫る。
「西鉄アセットマネジメント株式会社」。名前だけを聞くと少々難しそうで身構えてしまうが、その事業内容はいたってシンプルだ。
アセットマネジメント——日常生活では聞き慣れない言葉だが、紐解いてみると私たちの暮らしと決して無縁ではない。資産や財産を意味する「アセット」だが、西鉄アセットマネジメントの場合は、土地・建物の「不動産」に絞られている。つまり、不動産という「アセット(資産)」を「マネジメント(運用)」することで資産価値の最大化を目指す会社、ということだ。
西鉄アセットマネジメントは西鉄グループが第17次中期経営計画に掲げる「不動産ソリューション事業の強化」を実現するため、不動産流動化スキームの活用に必要なファンドの組成や運用の中核を担う存在だ。ねらいは、事業機会の創出や資本効率の向上を通じて、福岡や西鉄沿線のまちづくりを推進していくための戦術を増やすこと。西日本鉄道の100%出資子会社として、西鉄グループが2024年10月1日に設立した。

西鉄はこれまで、いわゆる「大家業」という形で不動産事業を営んできた。自社で調達した資金をもとにオフィスビルや賃貸マンションを開発し、自ら所有・運営管理。それらを第三者に貸し出して賃貸収入を得る、というスキームだ。
この方法には、成長を加速するうえで大きく3つの課題があった。1つ目は、財務の健全性の悪化。多くの不動産を所有するほど借入金が増え、バランスシートが重くなっていく。2つ目は、資本効率の低下。不動産の開発や取得のための莫大な投資に対し、賃貸収入(リターン)はそれほど大きな利益率を得られないケースも多く、ROEやROICなどの資本効率が低下しやすい。3つ目は、投資回収の停滞。不動産を長期保有し続けることで資金が固定化され、資金を次の新規投資へスピーディに回すことができないことから資産回転率が低下する。
西鉄アセットマネジメントの満永さんは次のように語る。

ワンビルの開発や進行中の大型再開発などでは、事業費が数百~千億円超となるため、今後も西鉄が継続的にまちづくりに関与しながら進めていくには、資金調達の工夫や資本効率を高める仕組みが必要です。

そこで打ち出したのが、不動産を所有せずに「金融商品」として運用する、西鉄グループにとっては新しい事業スキームだ。カギを握るのが「不動産の流動化」という手法。
これまでのように西鉄グループで不動産を所有し収益を得るのではなく、「GK-TKスキーム(※)」などの不動産流動化手法の活用により、不動産(信託受益権化した不動産を含む)を特別目的会社(SPC)等へ売却して売却益を得る(投資した資金回収)とともに、売却した不動産管理等の業務を特別目的会社から受託することにより、西鉄グループがまちづくりへ持続的に関与するとともに、業務報酬として継続的な収益を得る仕組みを活用することで、上記3つの課題を改善させる事が期待できる。
※GK-TKスキーム…合同会社(GK)が事業の受け皿(特別目的会社)となり、匿名組合(TK)契約を通じて投資家から資金を集めて資産を運用する不動産ファンドの仕組み

GK-TKスキームの場合、具体的には、まず西鉄が自社不動産を信託銀行に信託。並行して、アセットマネジメント会社が主導し、不動産の取得・運用を目的とした特別目的会社を設立。特別目的会社は、銀行からの借入や投資家からの出資で資金調達し、その資金で西鉄から信託受益権を取得。テナントの賃貸収入から不動産運用に係る諸経費を差し引いた「信託配当」を信託銀行から特別目的会社が受け取り、銀行への借入れ利息やアセットマネジメント会社への運用報酬等を支払った後、残った額を投資家に分配する流れだ。つまり、アセットマネジメント会社は特別目的会社の運用を担い、そこで生み出された収益を投資家へ分配することとなり、これは会社経営に例えると、「配当」に近い。

このように、一連の流れにおいて、様々な関係者の間を取り持ち、資産価値を高めていく“旗振り役”を担うのが、西鉄アセットマネジメントの役割だ。同社の永末さんは、その役割を次のように表現する。

わかりやすく言うと、スポーツにおける監督のような立場です。流動化した不動産を所有する特別目的会社に対して運用責任を負い、資産価値向上や収益の最大化を実現すべく、不動産開発や賃貸管理業務を担う方、金融機関、投資家等の様々な選手(専門家)を巻き込む役割だと捉えていただければ。

このスキームには、大きく3つのメリットが挙げられる。まず、資金調達を行うのは西鉄本体ではなく外部資本を活用した特別目的会社になるため、西鉄本体の財務の健全性が向上すること。次に、収益源は賃貸収入から投資家としての配当収入となり、更には大家業では得られなかったアセットマネジメント(AM)報酬、不動産管理(PM/BM)報酬など外部からの収入源が確保でき、西鉄グループとしての資本効率が大きく高まること。
そして、西鉄は不動産売却により早期に資金回収し、次の開発案件に再投資できるため、複数の開発案件にも同時並行で関与が可能となることだ。
なお、プロパティマネジメント(PM)は入居者対応や賃貸管理などのテナント窓口業務、ビルマネジメント(BM)は清掃や設備管理などの建物維持管理業務を指し、いずれも西鉄グループが担うことで、受託機会の創出につながっている。
これにより、西鉄グループは沿線をはじめとした福岡のまちづくりに持続的に関与できるようになり、まちづくりのスピードも加速化することができるのだ。


話を単純化すると、例えば100億円の不動産を所有し、年間5億円の賃貸収入を得た場合、利回りは5%です。同じ不動産を流動化し、100億円のうち西鉄が5億円を出資し、年間2,500万円の配当を得た場合、利回りは5%となり、ここまでは不動産を所有する西鉄の従来の不動産事業の利回りと変わりません。
しかし、西鉄グループがAM、PM、BM業務を受託し、年間5,000万円(運用資産の0.5%)の報酬を得た場合、西鉄が出資したことで得られた収入の利回りは15%まで高まります。つまり、投資を伴わないAM・PM・BMといったフィービジネスの強化が資本効率の向上に寄与します。海外企業と比べて資本効率が低いと言われる日本企業にとって、こうした事業スキームへの転換は大きな役割を果たします。
現在、西鉄アセットマネジメントには、コンプライアンス室、投資運用1部・2部、財務部、経営管理部の5つの部署があり、社員数は12名(2026年8月1日時点)。今後、私募リート組成や運用資産規模拡大に向けて増員予定だ。会社設立前は3名、設立時は6名だったため、当初の不動産取得や運用は永末さん・満永さんの2名だけで奔走していたという。
外部からの中途入社が社員数の8割超で、インタビューした永末さんもその一人だ。
投資・運用1部は新規ファンドの組成や既存ファンド(※1)の運用を、2部は私募リート(※2)の組成準備を担当している。ファンドとリートの違いは、運用期間にある。ファンドは対象不動産をあらかじめ特定し、有期限で投資家を募集するのに対し、リートは無期限で不動産の売買・運用を続けていく仕組みだ。
※1「ファンド」………特定の投資家から資金を集め、不動産を取得・運用し、賃貸収入からの収益や売却益を投資家へ分配する仕組み。
※2「私募リート」……非上場で特定の投資家から資金を集め、不動産を取得・運用し、賃貸収入からの収益を投資家へ分配する投資法人。
投資・運用部の業務は大きく2つある。
ひとつは、新規不動産の取得検討で、賃貸収入やコストを試算し、投資対象としての妥当性を見極めたうえで、マーケット調査、デューデリジェンス(不動産の安全性チェック)、不動産鑑定、各種契約書のチェックなど、段階を踏んで精度を高めていく。取得を検討する不動産は山ほどあるが、そのほとんどは途中で検討対象から外れていく。また、ファンド組成時には、資金調達(出資・借入れ)も担い、広範囲にわたる。
もうひとつは、取得後の運用で、賃料の増額余地を探る「バリューアップ」施策や、修繕・工事の時期を見極めるコスト管理を通じて、不動産の収益最大化を図る。

投資家の皆さんに不動産固有のリスクが伴わないよう、潜在的なリスクを一つ一つ洗い出し、最終的な投資判断を行います。
西鉄グループとして初めて私募リート・ファンドの運用に挑む西鉄アセットマネジメント。投資家にとってはリート・ファンドの投資先が数多くある中で、他社との差別化を図りながらリート・ファンドを組成する——。そうした新しい事業の骨格をゼロからつくっていく面白さが、働きがいにつながっている。2018年に西鉄に入社し、西鉄アセットマネジメント設立時から事業に携わる満永さんは、日々の働きがいについて次のように話す。


賃料の見直しや工事計画の変更など、自分で考えて動いたことが、不動産の利益や投資家への還元という形ですぐに数字に表れる。若手ながら大きなプロジェクトに携われることが業務の魅力のひとつです。また一方で、投資家や銀行、会計事務所、テナント、PM・BM会社など、さまざまなステークホルダー(※)と関わるため幅広い知識やスキルが求められます。不動産・金融の専門知識はもちろん、財務や経理といった一般管理の知識も欠かせず、日々が学びの連続です。
※「ステークホルダー」……企業の経営活動に直接・間接的に関わる利害関係者。
一方、大手デベロッパーを経て2024年に西鉄へ入社した取締役兼投資・運用2部長の永末さんにも入社のきっかけを尋ねてみた。
※「デベロッパー」……土地や建物を取得して企画・開発を行い、その価値を高めて街づくりや収益化を図る不動産開発業者。

福岡や東京で不動産開発事業に携わるなかで、西鉄と言えばエリアのマネジメント団体である「We Love天神協議会」の事務局も担っており、その存在感が特に大きかった印象です。地域の皆さんが共通の目線を持ちながらより良い状態を常に求めつつまちづくりに注力していると感じていました。転職を決めた理由は、今ある不動産をどのように活用するかが今後重要になっていくと考えたからです。
西鉄グループの事業内容やビジョンにも共感を持てましたし、西鉄アセットマネジメントなら、これまで得た知見やノウハウを生かしながら西鉄のまちづくりをこれまでと異なる立ち位置で推進できるのではと考えました。弊社のような業界で働くうえで求められるのは、宅地建物取引士等の資格に加え、物事を感覚だけではなく数字とロジックで検証していく習慣です。ファンドやリートの運用は3~5年単位の勝負になるため、現状維持に満足せず、将来のビジョンを描ける人が向いていると思います。

ファンドに関しては、2024年3月に第1号私募ファンド(資産規模約100億円)、2025年4月に第2号私募ファンド(同約65億円)、2025年8月に第3号私募ファンド(同約61億円)を組成。私募リートの組成・運用開始を見据え、九州の不動産を中心に着実に実績とノウハウを積み重ねている。2027年度には私募リートの組成・運用開始を見込んでおり、2030年代には、私募リートの資産規模1,000億円を目指す。
背景には、人口増加が続く数少ない都市であり、アジアに近く成長性が高いという福岡の強みがある。地震など自然災害のリスク分散の観点からも、投資先としての注目度は高まっているという。
また、近年はインバウンド需要の高まりを受け、長期滞在者向けのアパートメントホテルなど新しい宿泊施設も福岡で増えつつあり、こうした変化をいち早く捉えることも、アセットマネジメント業務の醍醐味だ。
将来のリートに組入れる候補不動産は「シードアセット」と呼ばれ、運用中ファンドの中にも、その“種”となる不動産が含まれている。福岡県南の久留米や柳川など西鉄沿線エリアの知られざる魅力を掘り起こし、投資家に伝えていくことも、西鉄アセットマネジメントが担うことで将来のまちづくりに繋がると思う。

西鉄グループとしての安定した事業基盤や地域に根差したまちづくりが、投資家様からの高い評価につながっていると感じます。不動産流動化スキームを積極的に推進し、事業機会の創出や資本効率の向上を図ることで、福岡や沿線のまちづくりに、これからも貢献します。
プロの投資家から資金を託される立場として、これまで以上に重い忠実義務や善管注意義務(※)を負う西鉄アセットマネジメント。管理を委託するPM・BM会社への要求水準もこれまで以上に厳格になった。
※忠実義務……自社の利益ではなく、投資家や委託者の利益を最優先して業務を行う義務
※善管注意義務……契約や法律上の地位に基づき、注意を払って事務の処理や財産の管理を行う義務
また、宅地建物取引業に加え、取引一任代理業、金融商品取引業の免許が必要となる事業のため、国土交通省や金融庁・財務省との協議を重ねてきた。免許取得のため、ポートフォリオ・投資戦略、運用戦略、組織、規程類、人的構成要件、業績見込みなどについて数多くの厳しい審査を受けるが、関係機関との協議を順調に進めている。
これまで西鉄グループが展開してきた事業やその姿勢が評価され、会社としての信頼につながっていると言える。
私募リートの組成・運用開始、資産規模の拡大に向けて、土台を固めつつある西鉄アセットマネジメント。今後の展開や成長が、西鉄グループの未来を力強く支えていくはずだ。


西鉄アセットマネジメント株式会社 取締役/投資・運用2部長
大手デベロッパーでの勤務を経て、2024年7月に西日本鉄道株式会社に入社。
宅地建物取引士、ビル経営管理士

西鉄アセットマネジメント株式会社 投資・運用1部 シニアマネージャー
2018年4月に西日本鉄道株式会社に入社。
海外開発事業部(現・海外開発事業本部)、経営企画部を経て、2024年10月に西鉄アセットマネジメント株式会社へ。
不動産証券化協会認定マスター、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士
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