1994年に西鉄グループの学校法人西鉄学園が開校した「専門学校西鉄国際ビジネスカレッジ」(以下IBC)は、ホテル・ブライダル・航空・旅行・鉄道など、次世代の観光産業を担う人材を育成する専門学校だ。全国的にも珍しい鉄道会社が運営する専門学校のエアライン科には、航空業界の花形とも言われるキャビンアテンダント(以下CA)を目指して学生たちが集まっている。専攻する学生たちにはどんな未来が待っているのか。
今回、CAとして就職が決まった学生と講師のお二人に話を聞いた。
西鉄国際ビジネスカレッジ エアライン科 キャビンアテンダントコース 2年生
鹿児島県いちき串木野市出身。2021年4月に入学。2022年6月、スカイマークにCAとして内定し、12月から本格的な研修がスタート。中学生時代に飛行機を利用し、CAのホスピタリティに触れたことが志望動機となった。
西鉄国際ビジネスカレッジ 教務部 副部長 兼 エアライン科学科長
大学卒業後、11年ほど携わった旅行業界の経験を生かし、2006年よりIBCに勤務。オンライン英会話、日本語表現などの授業のほか、就職活動講座、面接対策など、多方面で生徒の指導に当たっている。
西鉄国際ビジネスカレッジ 非常勤講師
大学卒業後、シンガポール航空、ルフトハンザドイツ航空でCAとして勤務。その後、名古屋、大阪、福岡の専門学校で講師を務める。現在、IBCでCA受験対策や面接対策などの授業を週に2日担当している。
2019年12月に初の新型コロナウイルス感染者が報告されて3年が経過。世界的に出入国制限が強化され、航空業界は運休・減便を余儀なくされた。国内でも緊急事態宣言の発令、外出自粛の要請を受け、飛行機の利用者は急減。LCCの参入や訪日外国人旅行者の増加などで、国際・国内ともに1億人を超えていた航空旅客数は2020年2月以降、大幅に減少している。
国内外の移動需要が激減したことを受け、JALとANAは2021年度からの新卒採用を中止。一部のエアラインで若干名の採用は行われてきたものの、毎年数千人規模で採用していた国内航空大手2社の採用見送りで、夢を諦めた学生も多かったはずだ。
コロナ禍による大打撃を受けた観光産業で、就職率100%* を誇るIBC。そのヒミツに迫るべく、福岡市中央区にあるキャンパスに潜入した。
*2020年度卒業生
まずは、内定おめでとうございます。志望したきっかけを教えてください。
ありがとうございます。実は高校3年生まで、なりたい職業が決まってなかったんです。将来やりたいことを真剣に考え始めたとき、中学生時代に体調を崩して飛行機に乗ったことを思い出しました。親と離れて座っていたので、とても不安な時間を過ごしていたのですが、CAさんが小まめに様子を見に来てくださって。それがすごく印象に残っていて、CAになることを決意しました。
「女性の憧れの職業」として人気ランキング上位に入るCA。ただでさえ競争率が高いイメージだが、コロナ禍で難易度はどう変化したのだろうか。
憧れの職業だと思いますが、倍率はどのくらいだったんですか?
正式には発表されていませんが、採用数が数十人で、最終面接で120人くらい残っていたと思います。
企業によって違いますし、Webエントリーの数が把握できないので、倍率を出すのは難しいです。スカイマークだとエントリーの時点で、10倍以上はあったんじゃないかな。大手の航空会社だと、新卒で100名規模で募集して、2000名くらいは応募者がいるのでは。もっとかな。記念受験の方もいますし。
2022年度からさらに倍率が上がったのは確かですね。大手のエアラインは、卒業して3年間は新卒として応募できますので、就職浪人する人もいますしね。
CAといえば、華やかで優雅な身のこなし。常に笑顔で対応している姿を思い浮かべるが、実際、世間のイメージと違っていると感じることはあるのだろうか。
実はお客様が搭乗される際、すごくチェックしていまして。違和感があるお客様にお声掛けしたり、みんなで情報共有したり。勘を働かせることが重要になるんです。酸素ボンベの数値を確認するといった重要な任務もあります。
飛行機によっては天井に扉があったりするので、腕力は必要ですね。以前は安全やサービス面を考慮して、身長制限が設けられていましたが、最近の飛行機は小型化しているので、門戸が広がっていると思いますね。
重い荷物を持ったり、朝も早かったりしますので、体力勝負の仕事です。国内線の場合は1日に4本飛ぶこともあるので、腰や三半規管など、体に影響してくることもあります。
IBCでは現在、86社(2021年3月時点)の西鉄グループ関連企業が業界就職を強力にサポート。観光業界と強いつながりを持つ西鉄グループならではの強みを生かし、企業実習や就職で圧倒的な実績を誇っている。
エアライン、ホテル・ブライダル、鉄道、国際ビジネス、国際ホテルマネジメント、夜間総合観光の6つの科があり、グループ企業と連携し業界の最前線を学ぶ専門教育を実施。1学年205名の定員に対し、観光業界から年間500件以上(過去5年間平均)の求人があるという。
エアライン科の特徴を教えてください。
エアライン科では、大きく分けてCA、グランドスタッフ、グランドハンドリングの3つの職種を目指しています。航空機内を模した実習室や空港カウンターを使った授業があり、実践に近い状態で業務を学ぶことができます。
現場に近い設備を通して、意識も磨かれていくんでしょうね。
食事をお配りする実習では、必ずカートのストッパーをかけるなど、細部にわたって指導するよう心掛けています。実習を繰り返すことによって身に付いた所作を見て、「しっかりした安全知識がある」「意識が高い」と評価していただけると思っています。
身だしなみ、所作はできて当たり前。その上でどういう人間性なのかを面接官は見ていると思います。ちょっとした「気づき」ができるかどうか。一朝一夕では身に付かないことですが、眠っている意識を私たち講師が引き出す。そのために、授業中だけでなく日々の学校生活の中でも指導しています。
現場での対応力を鍛えるため、学生全員参加の企業実習制度を導入している点も特徴だ。学生の希望に応じて、九州の主要空港はもちろん、成田や関西など、全国各地の空港へ実習に出すことができるという。
IBCを選んだ理由は?
業界就職率が高いこと、企業実習ができるという点が魅力でした。コロナ禍で体験できず、とても残念でした。
海外のCAトレーニングセンターで実際に制服を着て研修を受ける予定だったのですが、コロナ禍ですべて中止になってしまって。状況によりますが、2023年度から再開する予定です。
プロの間近で業務に携わり、成長できるのは大きな魅力だと思います。
専門学校には、どんなメリットがありますか?
同じ目的を持った仲間と一緒に授業を受けることによって、自分の目的や意識が明確になります。熱意が鍛えられると感じますね。
情報共有もできますし、目標が同じところにあるので、切磋琢磨して頑張ろうという意識が芽生えます。西鉄グループには鉄道やホテルもありますので、いろいろな場所でIBC出身者と会う確率は高いですよ。卒業後もつながっていることが多いと聞きますので、心強さもあると思います。
機内の安全を守り、快適さを提供するCAの仕事。2年制のコースで、具体的にどんなことを学んでいるのだろうか。
私の場合は英語と韓国語、面接対策が中心でした。入社試験のためのSPI対策、面接時の身だしなみや所作などについても学びました。入学してすぐに面接の練習が始まり、「自分をどう見せるか」といった内容の授業は、とてもためになりました。面接の練習がある日は、スーツで登校するので気合が入りましたね。
勉強以外にも、いろんなアルバイトやボランティアに参加して自分の知見を増やすように指導しています。幅広い年代の方と関わることで、どう感じ、どう対応したか。本人は当たり前だと思っていることでも、それを言語化して面接時に出せるようトレーニングしています。
入学してからの短い期間ですが、経験値を上げて、いかに人間性を磨くかが重要になってきますね。
就職活動の年間スケジュールは?
1年次の12月から本格的に就職活動を始めて、翌年の2月に選考がスタート。2年次の4月に内々定をいただきました。
早い学生だと3~4月に内定が出ます。航空業界は専門学校生向けの求人が出るので、早い時期から試験が始まります。入学して1年間が勝負で、あっという間ですよ。善さんも1年次は結構苦しんでいましたね。
はい。授業とアルバイト、一人暮らしも初めてで。勉強と就職活動の両立は大変でした。
2021年にエアライン科に入学した学生は約50名で、そのうち10名ほどがCAを目指して勉強中だ。CA志望者には、語学力の強化、立ち振る舞い、自己表現力、接遇、グループディスカッションに力を入れ、就職試験対策を行っている。
航空業界の基礎知識は全学生が受講し、専門知識は選択制。CAになるための専門知識だけを教えるのではなく、航空業界全体の知識習得もできるようにカリキュラムを組んでいるという。
航空業界というとCAやパイロットに注目されがちですが、その何倍もの人が地上で働いています。飛行機が安全かつ定刻に、お客様に快適に過ごしていただくために、チームワークを発揮する必要がありますので、業界全体を知っておくことが大切です。
業界に携わる人全体の重みを感じながらCAになるというのは、すごくいいことだと思いますね。
CAになるために必要な資格はあるのだろうか。
これを持っていないとなれないという資格はありません。ただ、応募するにあたって、実用英語技能検定(以下英検)2級またはTOEICの点数が設けられていて、それを満たしていれば受験できるという条件はありました。TOEICの基準は会社ごとに違い、基本的に550点から600点の間です。
入学してからどんな資格や検定の勉強をしましたか?
英検のほかに、韓国語能力試験、日本語検定、世界遺産検定、TOEICを受験しました。アマデウス検定という航空業界で使用されている予約システムの知識が問われる検定の勉強も行いました。コンピューターは難しかったですね。
もともと英語は得意だった?
理系の高校だったので、英語はほとんど勉強していませんでした。入学時、英検4級しか持ってなくて、飛び級で2級に挑戦してしまい、何回も落ちました。英検対策の授業を受けながら猛勉強しました。
航空業界だからといって独自の試験や面接はなく、一般企業と変わりはない。面接ではエントリーシートの中から質問されることが多く、就職活動の3本柱(志望動機、自己PR、ガクチカ:学生時代に力を入れたこと)がベースになる。一般企業ではNGとされるピアスも、小さめのパールならOK、ブラウスではなくカットソーの方がきれいに見えるといったCAならではのポイントもあるという。
就職試験はどのような流れになりますか?
エントリーシートが最初の難関で、その後に筆記試験ですね。筆記試験と言っても、今はWEBテストやテストセンターでの受験ですが。英語はかなり難しい。それから適性検査に合格して、やっと面接に進めます。面接は多くて3回。最後に健康診断という流れです。
筆記試験の内容は?
国語、理数、社会はSPIレベルで、さほど難しくはないです。教材はイカロス出版さんの問題集などを使って対策しています。以下は、学生が実際に学んでいる内容です。ぜひ挑戦してみてください!
【国語】
・( )の中に入る適切な敬語表現はAとBのどちらですか。記号で答えなさい。
(1)お飲み物は何に( )。
A:いたしますか B:なさいますか
(2)どうぞ、お食事を( )ください。
A:お召し上がり B:いただいて
(3)ご予約のお客様が( )ました。
A:おいでになり B:参られ
【理数】
・次の問いに対する答えとして正しいものをA~Eの中から1つずつ選びなさい。
(1)15gの食塩を135gの水に溶かすとき、この食塩水の濃度は何%か。
A:6% B:7% C:8% D:9% E:10%
(2)30gの食塩が溶けている6%の食塩水を作るのに、水は何g必要か。
A:450g B:470g C:480g D:500g E:530g
(3)時速4kmで歩く人が、同じ速さで1周200mのコースを3周するのに何分かかるか。
A:6分 B:8分 C:9分 D:10分 E:12分
出典:『CA&グランドスタッフ筆記試験問題集 最新版』より一部抜粋。
答えは【国語】(1)B、(2)A、(3)A、【理数】(1)E、(2)B、(3)Cです。全問正解できましたか?
思ったより難しいです(笑)!
IBCの教育方針は、①「業界で働く覚悟」を持った人材育成、②「長期に渡って活躍」ができる人材育成、③「国際的なマナーとホスピタリティ」を身につけた人材育成の3つを掲げている。これらを身につけるために、どんなことを学んでいるのだろうか。
昨年から「ホスピタリティ学」をスタートさせ、全国で空港ハンドリング事業を展開している西鉄エアサービスから講師を招き、週に1回授業を行っていただいています。「サービスとホスピタリティの違い」など、実例を用いてグループワークをしたり、社長のお話を聞いたり。現場の経験を生かした「おもてなし」についての特別授業も実施しています。毎日の学校生活の中で、学生自身が成長していくというのが目標ですね。
西鉄グループ企業への就職率はどのくらいですか?
グループ企業への就職率は1割程度で、それほど多くないのが実状です。ただ、西鉄グループだからこそ、学校側に入ってくる情報もたくさんあります。グループ企業各社からいろいろなバックアップをいただき、その強いパイプを生かすことで、全国のいろいろな企業へ送り出すことができています。
2022年10月、海外から日本への渡航制限が緩和され、国内で外国人旅行者を見掛けることが増えてきた。物価の高騰や円安の状況から、航空業界全体の完全復活まで、まだしばらく掛かりそうだが、大手航空会社の数年ぶりとなる新卒CA採用再開のニュースも飛び込んできた。
難関を突破し、見事内定を勝ち取った善さんに、CAとして働く覚悟と今後の夢などを聞いた。
この学校で「何事も継続が大切」だと学んだので、まず3年間はどんなに辛いことがあっても頑張って、会社で活躍できる人材になりたいと思います。
どんなCAになりたいですか?
学び続けることを忘れないCAになりたいです。ホスピタリティの授業でも学びましたが、サービスには正解がないと思うので、追求していきたいですね。旅行が目的で搭乗されるお客様ばかりではないと思うので、ニーズを察して体現できるCAになれるよう頑張ります。
最後に、これからCAを目指す方にメッセージをお願いします。
CAになれるのかと不安な気持ちを抱えている方は多いと思います。周囲の人に「CAになりたい」と伝えても「なれるわけないでしょ」と言われてしまうことがあるかもしれません。でも、諦めずに夢に向かって頑張ってほしいです!
本人の持つ素養もありますが、プラスアルファでいかに努力できるか。観光系の仕事に就くことが夢で、効率的に専門知識を学びたいという方は、ぜひ当校の門を叩いてほしいですね!
西鉄グループだからこそ実現できる専門的な授業と就職対策。講師たちの手厚いサポートを受けながら、ホスピタリティに溢れ、世界に羽ばたく国際人へ。観光業界を志望する学生にとって、IBCで学ぶことは大きな武器になるだろう。