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知られざる鉄道の安全対策
毎日の運行を支える
筑紫車両基地の鉄道整備士たち

知られざる鉄道の安全対策 毎日の運行を支える 筑紫車両基地の鉄道整備士たち

利用者にとっては、毎日決まった時間に安全運行されるのが当たり前の西鉄電車。しかし、その裏側でなされている数々の運行管理や安全対策、整備士の仕事については、知る機会がほとんどない。今回は、西鉄電車の一大拠点である筑紫車両基地で実施されている車両の安全対策に密着。西鉄の「安全・安心」を支える取り組みについて聞いた。

目次

西鉄電車の拠点「筑紫車両基地」

朝早くから夜遅くまで、ほぼ1日中走っている西鉄電車。そんな働き者の彼らにも、もちろん休息やメンテナンスが必要となる。その拠点となるのが、福岡県筑紫野市、西鉄天神大牟田線の「筑紫駅」の近くにある「筑紫車両基地」だ。

敷地の広さは「みずほPayPayドーム福岡」の約1.3倍

ここでは、次の運行に備えて車両が停車するだけではない。日々の安全運行のために、日常的な整備も行われている。

車両の整備に携わる、車両整備課の鳴戸翔一さん、平田遼介さん、濵田拓生さんに詳しい話を聞いた。

左から鳴戸さん、濵田さん、平田さん

安全を支える4つの定期点検

まず、車両整備課の役割について教えてください。

平田さん
平田さん

車両整備課・筑紫工場には現在18名が在籍し、工場の各担当や検車担当、資材担当などの役割に分かれています。点検や整備の際は、西鉄エンジニアリングのスタッフと連携して作業を進めます。そこまで含めると、総勢100名以上のスタッフが車両の整備に関わっています。

車両について、どんな検査をしているのでしょうか?

平田さん
平田さん

大きく分けて4つの点検があります。1つ目は、10日に一度の「列車検査」です。基本4名以上で作業し、車両形式にもよりますが約30分で終わる簡易的な検査です。2つ目は、3か月に一度の「月検査」。およそ6~7時間かけて、運行において特に重要なポイントを念入りに検査します。

鳴戸さん
鳴戸さん

「月検査」では、電気系統に問題がないか、連結器やブレーキ部分に異常がないかなども点検します。約30分ほどで終わる「列車検査」と比べると大掛かりな点検で、普段は車両形式にもよりますが最低2名以上で作業をしています。

車両のブレーキ力を維持するために必要な部品を点検・調整する
新品のブレーキシュー。摩擦力によって車輪の回転を止める
ブレーキシューの厚みが一定以上擦り減ったら交換する
鳴戸さん
鳴戸さん

「月検査」では、漏電や感電を防ぐ為に電気回路に問題がないかを確認する「絶縁測定」も実施します。

絶縁測定の準備の様子
連結部分にグリースを塗る様子
部分によって油とグリースを使い分ける
車輪測定をする様子
鳴戸さん
鳴戸さん

10日に一度の「列車検査」と3カ月に一度の「月検査」は、人間で言うところの「健康診断」に近いですね。比較的短時間で終わる、ポイントを押さえた日常的なメンテナンスというイメージです。

「月検査」で行うドアの点検の様子。ほこりなどのつまりやベルトの張りなどをチェック

さらに複雑な点検も?

鳴戸さん
鳴戸さん

いわゆる「精密検査」にあたる点検も2種類あります。1つ目は、4年に一度または走行距離60万キロを超えないように実施する検査が「重要部検査」です。この時は、台車と車体を分離して部分ごとに本格的に検査をするので1両あたり総勢70名で作業にあたり、15日程度かかります。2つ目は、8年を超えない期間ごとに実施する「全般検査」です。この時は、1両に対して80名ほどで作業にあたり、およそ18日かけて検査を行います。

筑紫車両基地内にある点検用の車庫
全般検査中の車両。塗装もし直して新品同様になる
メンテナンス前の台車
メンテナンス後の台車の一部
輪軸の点検中

車両に備わる安全機能

こうした定期点検で安全運行を支えるほか、車両自体に備わる安全機能の点検も大切な業務のひとつだ。普段なかなか目にすることはないが、走行中のトラブルに備えて、車両にはさまざまな非常用設備が用意されている。

車掌が待機する運転席には電話(受話器)があり、もしも車両内のSOSボタンが押されればすぐに乗客と電話で会話することができる。

濱田さん
濱田さん

SOSボタンが押されると、押された車両の外側のランプがオレンジ色に点灯します。また、扉が開いたままの状態の時は赤色に点灯。異常があれば一目でわかるようになっています。

ランプが点灯する様子
濱田さん
濱田さん

また、区間や信号ごとにある既定のスピードを超えたら、車両は緊急停止する仕組みになっています。

日ごろはなかなか目の当たりにすることはないが、走行中も安全・安心に移動できるよう、こうしてさまざまな対策が取られているのだ。

車両や線路の安全を支える「救援車」

定期点検を経て列車は安全に走れるはずだが、万が一、脱線などのトラブルで線路から動けなくなったら……。そんな時に登場するのが「救援車」。西鉄の「ドクターイエロー」だ。

900系

取材した日は偶然にも、この「ドクターイエロー」が「全般検査」中。貴重な一枚となった。

列車は3両編成で、発電機や枕木、照明機器などを搭載。これらを車両から降ろすためのクレーンなどの道具も積み込まれている。

ドクターイエロー車内の様子
ドクターイエローに搭載されている救援道具の一部

安全運行への責任と働きがい

西鉄天神大牟田線の車両数は、全部で278両(96編成)。現在主力となっているのは、鮮やかな水色をした5000形だ。

1975年にデビュー。写真は2022年8月に撮影

筑紫車庫及び柳川車庫で実施されている検査は列車検査は1日10編成程度、月検査は1日2編成程度。また筑紫工場では重要部検査が、2023年度には12編成。全般検査は2023年度には15編成実施されている。

点検作業の中で、特に大変なことは?

平田さん
平田さん

天神大牟田線を走る車両の形式は現在全部で7種類。加えて、「ザ・レールキッチン・チクゴ」や貝塚線の600形も走っています。これらの車両はすべて異なる造りなので、検査にあたるにはそれぞれの形式の違いを把握しておく必要があります。種類が多いので最初は覚えるまで時間がかかりました。

鳴戸さん
鳴戸さん

点検は、基本的にはすべて人の手と目で行われています。ちょっとした変化や異常を見極めるのが私たちの役割であり、責任。お客さまの命を預かる重要な仕事であり、ミスがないのが当たり前。プレッシャーや責任感を感じながら業務にあたっています。
電車を運転する際に必ず実施しているアルコールチェックは、重大な仕事にあたる私たちのルールのひとつ。完了したら黄色い札を着用して電車の運転を行います。

アルコールチェック後に身に着ける番号札

そうしたなかで大切なのは、やはりコミュニケーションだと思います。整備や点検でも、意思伝達が重要。わからないことがあったらチームで共有し、解決することが安全と安心につながります。

働きがいを感じるのはどんな時?

平田さん
平田さん

公共交通機関は、お客さまにとってはなくてはならない生活の一部であり、あって当たり前の存在です。お客さまが安全に電車に乗っている様子を見るとほっとしますし、うれしく感じます。たくさんの方々の日常を守る仕事なのだと実感しますね。また、ニュースやSNSで西鉄の安全運行が取り上げられた時は「これからももっと仕事を頑張ろう!」と誇りに思います。

鳴戸さん
鳴戸さん

普段はお客さまと関わることは少ないのですが、にしてつキッズ仕事体験スクールや電車まつりなどのイベントで交流することもあります。「憧れの会社」「なりたい職業です」と言ってもらえることが励みになりますね。

濱田さん
濱田さん

「ありがとう」の言葉や笑顔は何よりうれしいですね。働きがいを感じます!

日ごろは表舞台に出ることのない整備の仕事。しかし、一歩その世界に踏み込めば、高い技術力や安全意識、責任感とプライドが公共交通を支えていることがわかった。便利で快適な“当たり前の光景”のために、彼らプロフェッショナルはこれからも「安全」と「安心」を守り続けていく——。

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