2022年8月27日(土)から28日(日)にかけて実施された、西鉄天神大牟田線の高架化工事。雑餉隈駅から下大利駅まで5.2kmの区間が高架化され、その間に設置されていた19カ所の踏切もこの日のうちに撤去。交通渋滞が解消され、スムーズに移動できるようになった。
これほど大きな高架化工事は全国でも珍しく、2003年度の着工から足掛け約20年、総事業費は1,000億円超という大規模プロジェクト。
しかも、終電から翌日の始発までの約9時間の間に工事を完了する必要があるため、関係各所と調整のうえ通常以上の時間を掛けて、かなり緻密なスケジュールが組み立てられたという。
そのハイライトとなる切替工事の管理にあたった西日本鉄道株式会社の社員2人に、工事の裏側やこれからのまちづくりについてインタビューした。
西日本鉄道株式会社
鉄道事業本部 施設部 春日原連立工事事務所 建築係 係長
2008年、技術職採用で西日本鉄道株式会社入社。都市開発事業本部で施設のリニューアルや維持保全などの業務に従事し、2017年から鉄道事業本部施設部。春日原連立工事事務所に配属され、駅舎の建築をメインに工事全体を管理する。
西日本鉄道株式会社
鉄道事業本部 施設部 雑餉隈連立工事事務所 土木係 係長
2011年、技術職採用で西日本鉄道株式会社入社。保線課で3年間勤務し、春日原連立工事事務所へ。福岡県庁への派遣、まちづくり推進部を経て、2021年より雑餉隈連立工事事務所に配属。線路や高架橋をメインに工事全体の管理を担う。
事業の概要と背景を教えてください。
福岡県と福岡市が主体の事業で、高架化される約5.2kmの区間のうち、約1.9kmが市の事業、約3.3kmが県の事業となっています。県は2003年から、市は2010年から工事に着手し、県は2024年度、市は2025年度となる事業完了に向けて現在も工事を進めています。総事業費は1,000億円超。全国規模で見てもかなり大きな事業だと言えます。
高架化されるのはどの駅?
高架化されるのは雑餉隈駅、春日原駅、白木原駅、下大利駅に加え、2023年度に開業する桜並木駅の5駅です。事業の目的は踏切による交通渋滞の解消で、高架化にともない全19カ所の踏切が除去されます。
工事前はどのくらい渋滞の影響があったのでしょうか?
例えば、福岡県の事業区間約3.3km内には12カ所の踏切があり、踏切遮断時間は1日あたり概ね7~8時間、ピーク時は1時間当たり概ね35~40分間だとする調査記録がありました(平成21年調査)。こうした渋滞も、高架化で大きく改善されるはずです。
高架化の始点と終点はどのようにして決まるのでしょうか?
土地の制約のほか、線路を敷設する際は鉄道技術基準省令によって、こう配の度合いやカーブの半径などにさまざまな基準が定められています。そうした制約を考えると、雑餉隈切替部は自ずと現在の場所が始点と決まります。JR線との交差点より、少し雑餉隈駅側となります。
下大利側の切替部も同様に、九州縦貫自動車道の手前に流れる御笠川を避けて下大利駅側に終点が定められました。
どんな工事をするのでしょうか?
雑餉隈駅から白木原駅の約3.5kmは、現在の線路の上に高架橋を建設する「直上部」と呼ばれる区間。下大利駅周辺及び切替部の約1.7kmは、現在の線路の横に仮線を敷いた後、高架橋にして戻す「仮線部」区間。これらが今回高架化される部分です。
雑餉隈切替部を例に見てみましょう。上り線は、事前に敷設した線路と旧上り線の線路を横移動し、切替部につなぎます。下り線でも主な作業はいっしょですが、現在の上り線に近づけるかたちで線路を全体的に移動する必要があり、工事箇所もたくさんあります。
工事は大きく「軌道工事」と「電気工事」に分かれ、電気工事ではさらに電車線やき電線(※)を扱う「電力工事」と、列車用の信号機や踏切装置等を扱う「信号通信工事」に分かれます。
※き電線……電車線に電力を供給するために、設けられる電線
今回の工事で難しかったポイントは?
終電通過までは列車が運行するそばで少しずつ作業を進める計画だったので、安全面にはいつも以上に注意を払う必要がありました。列車が走行するそばに作業用具や機械があってはだめなので、工事の手順にも気を配りました。
列車の通過時には作業員が白い旗を上げ、大きな声で列車接近の合図をしながら工事を進めます。限られた時間内で、安全に、確実に工事を進めねばならないので、コミュニケーションがすごく大事なんです。
現場でもさまざまな掛け声が飛び交っていました。
今回の工事ではさまざまな施工会社さんが関わっています。私や池邉さんは、いわば現場と事務所の橋渡し役。計画通りに工事が進むよう、事前の段取りから関係各所としっかりやり取りを重ねるのが大切です。
私は駅舎の建築を担当していますが、想像以上に難しかったのが駅の解体です。
駅の壊し方!一気に取り壊せばいいわけではないんですね……。
鉄道特有の条件があるためどの工事も難しいのですが、駅をつくる際は設計図をもとに工事計画を組み立てることができます。一方で、利用中の駅は老朽化していますし段階的に取り壊す想定もされていないので、手探り状態で手順を検討しました。
さらに、今回はお客さまが毎日ご利用するホーム直上の駅舎を解体する必要がありました。安全が最優先ですので確実に実施と修正を繰り返すことが重要です。かなり頭を悩ませましたね。
切替工事は先日無事に終わりました。率直な感想は?
ほっとした面もありますが、駅舎に関してはこれからが本格始動。私としては、ようやくスタートしたと言ってもいいくらいです(笑)。
私も、工事はまだこれからも続くので、つかの間の安心ですね(笑)。
ニュースやSNSで高架化工事のことを取り上げてもらう機会が増えたのは実感しています。SNSで終電や始発列車の写真・動画をアップしてくださる人も多いみたいで、うれしいですね。
最終列車の走行シーンは特にいいですよね。もうすぐなくなる地上の踏切をゆっくりと走る列車を、まちの人々が拍手をしながら見送ってくれている。夜遅い時間なのに、なかにはおばあちゃんといっしょの小さなお子さんもいて微笑ましい光景でした。工事に携われて誇らしく感じます。
これからどんな駅舎ができあがるんですか?
地元自治体や学識経験者も加わったメンバーで2年間にわたってディスカッションを実施し、各駅の地域のイメージやキーワードをもとに、駅舎のデザインを決めました。
例えば、下大利駅は「古(いにしえ)と緑につながる安らぎのエントランス」がデザインコンセプトです。豊かな自然から「緑」をイメージカラーとし、水城の防塁からイメージマテリアルを「土」としました。
さらに、春日原は「春」、白木原は「水」がイメージカラーといったように、地域の歴史や景観を駅舎のデザインに生かしています。
完成が楽しみです。
お二人はもともと、なぜ西鉄に入社したのでしょうか。やはり鉄道が好きだったから?
私は建築の技術職で入社したので、どちらかと言えば都市計画やまちづくりに興味がありました。西鉄を選んだのは、鉄道やバス、商業施設などを軸に、さまざまな面から「まちのにぎわいづくり」に携われるのではないかと考えたからです。
実は私もまちづくりに興味があって入社を志望しました。加えて、福岡で暮らす人々の生活を支える仕事がしたいという想いもありました。その夢が、こうして実現できているのでやりがいも大きいですね。
市民との関わりという点で考えると、高架化の工事に際して近隣の小学校や公民館に説明に行く機会もたくさんありました。通学路になっている工事区間も多いので、日ごろ利用する地元の方々に工事について理解していただくことはとても重要です。
ずっと沿線で工事にあたっているので、この青いユニフォームを覚えてくださっている方も多いんですよ。作業中に声を掛けられることもあります。
そうそう。覚えていただけているのはうれしいことですよね。まちづくりは地域の人々と一体となって初めてうまくいくので、日ごろのコミュニケーションを大切にしていきたいと思っています。工事はまだこれからも続くので、地元の方々が安心して過ごせるよう、安全第一でしっかりと工事を進めます。
ありがとうございました。明日からもご安全に!