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「運転指令所」内部を公開!
西鉄電車の定時運行と
安全・安心を守る熟練の職員たち

「運転指令所」内部を公開! 西鉄電車の定時運行と 安全・安心を守る熟練の職員たち

普段生活していると、もはや当たり前になっている列車の定時運行。列車がダイヤ通りに運行する「安心」と「安全」を支える西鉄電車の運行を司るのが「運転指令所」だ。指令所内ではいったいどんな業務が行われているのか?
安全運行の裏舞台に迫る。

目次

「運転指令所」にいる人の役割は?

西鉄電車の日々の運行を支える「運転指令所」は、列車の運行の中枢機能を担う“司令塔”だ。ここで管理するのは天神大牟田線(74.8km)、太宰府線(2.4km)、甘木線(17.9km)。所長1名、主任3名、助役14名の合計18名が在籍し、いずれも5~10年以上の運転士経験をもつベテラン職員だ。

主任と助役は一昼夜交代のシフト制で勤務。1日のシフトは基本的に6名で組まれている。必要に応じて運転士や駅・乗務所と連絡を取りながら運行を管理する「輸送担当」のほか、車両の配車計画を作成する「車両運用」、運行情報を発信する案内業務や、夜間に実施される線路や電気施設の検査、工事の受付などを担う「施設担当」に役割が分かれている。

西鉄の運転指令室を公開!

指令室に入って真っ先に視界に入るのが、およそ20メートルにもわたる運行監視盤だ。そもそも、現場にはどういう設備があるのだろうか。運転指令所の所長を務める今福さんに案内してもらった。

この運行監視盤って、どう見たらいいんですか?

今福さん
今福さん

正面にある運行監視盤では、天神大牟田線、太宰府線、甘木線の状況が一覧で確認できるようになっています。向かって左側が福岡(天神)駅、右側が大牟田駅を示しています。左端には、主要駅のホームの様子を映すモニターが設置されています。

運行監視盤には数字や記号がたくさん並んでいますね。見方を教えてください!

今福さん
今福さん

長方形のマス目が線路で、赤く塗られた部分は列車がいるところ、黄色く塗られた場所は安全が確認された列車の進路を表しています。決められたダイヤで運行されるようコンピュータで制御されているので、列車の遅れが出た場合は各パソコンのモニターに警告が出るようになっています。

いろんな数字やアルファベットは何を表しているのでしょうか?

今福さん
今福さん

この5桁の数字は列車番号です。ほかにも、特急や急行を区別するアルファベット記号や上り・下りを区別する数字、信号機や踏切の情報など、決められた記号で運行に必要な情報が表示されています。

うーん、素人には難しくて覚えきれない! 基本的にはコンピュータで運行を管理されているのでしょうか?

今福さん
今福さん

そうですね。ダイヤ通りに運行されていると問題ないのですが、ダイヤが乱れた場合は私たちの出番です。運転指令所にいる職員たちは、状況に応じてそれぞれの役割を遂行し、平常運行をめざします。

ダイヤの乱れが起こったら……?

では、列車の遅れなどのイレギュラーな事態起こった場合、運転指令所ではどんな動きを取るのだろうか。鉄道事故が発生した際を例に、対応の仕方を聞いた。

今福さん もしもの場合、連絡体制はこのように定められています。

今福さん
今福さん

列車が動かなくなり、運行を見合わせる区間が出てきたら、前後を走る列車も当然動けなくなるので、線路上にいる列車をストップさせることになります。事故が起こった場所以外の路線では「折り返し運転」を行うなど、状況に合わせて対応を進めます。

「折り返し運転」。駅のアナウンスで聞いたことあります!

今福さん
今福さん

イレギュラーな事態が起こった場合は、当初の列車の振り当ても変更することもあるので、ダイヤだけではなく車両計画にも影響します。

勤務している輸送担当は、その場で運行計画を立て直し、装置にデータを入力して、駅や乗務所、列車に指令を出し、お客さまへの案内まで迅速に済ませなければなりません。

運行管理担当者のデスク。各駅や乗務所、列車内にいる乗務員と連絡を取るための列車無線装置や、ダイヤの実績を確認するモニターなどが設置されている。
調整中のダイヤグラム

これほど責任重大な業務を1人前にこなせるようになるには、かなりの知識と経験が求められそうですね……。考えただけでも緊張します。

今福さん
今福さん

もちろん、最初からいきなり本番というわけではありません。実はこちらには運行管理シミュレーターがあり、既存の業務とほぼ同じ要領で練習できるようになっています。

練習用の運行管理シミュレーター

練習用! それなら安心ですね。

今福さん
今福さん

ちなみに、人間が判断しなければならないことはたくさんありますが、万が一の場合でも大事に至らないよう、完全にシステムで制御されています。イレギュラーな事態が起きた場合は、その部分がポップアップで表示され、大きな警告音が鳴ったりするので、危険な状況は必ず回避できるようになっています。安心してください。

ヒューマンエラーを防ぐ仕組みも完成されているのですね。いっそう安心感が増しました。

運行ダイヤの要となる「配車業務」

運転指令所に配属されるとまず担当する業務が、列車の配車業務だ。通常、車庫から列車が出庫するときには、運行する時間によって車両の長さや形式が異なっている。

検査時間や点検のスケジュールを考慮しながら、車両とダイヤを結びつける役割を担うこの重要業務こそが、運転指令所の基本だという。

車両の状況をまとめた掲示板。配車計画を立てる際に参考にする
今福さん
今福さん

作成するのは2日後の配車計画です。ダイヤに合わせて使う車両を決め、コンピュータにデータを登録していきます。

今福さん
今福さん

事故が起きた場合、列車は折り返し運転となり、当初の計画通りに出入庫ができなくなってしまいます。そうなると、当日や翌日の配車を一からやり直さなければなりません。

なるべく早く運行を再開しなければならない状況で、その後の配車計画もできるだけ早く引き直す必要がある。この難しい判断を一人でできるようになって初めて、配車担当として一人前だと言えますね。

西鉄独自の情報管理システム

運転指令所のなかでも、これまでの運行経験や知識、ノウハウをもとに改良された、西鉄独自のシステムも存在する。

旅客案内装置

各駅の案内表示を司る「旅客案内装置」では、ピクトグラムや定型文を選択すれば即座に必要な案内情報を表示できるようになっている。また、利用者向けの情報サイト「のりものinfo.com」や西鉄のホームページ、SNS用にも、クリックのみで運行情報をまとめて発信できるシステムが活躍している。

旅客案内装置の表示イメージ
今福さん
今福さん

緊急時、どの職員が対応にあたっても、同じ要領で時間をかけずに正しい情報を発信でき、業務の効率が飛躍的に上がりました。

西鉄独自のシステムは、他にもあるんですか?

今福さん
今福さん

このコンピュータでは、列車の運転席から見える線路周辺の画像を確認できます。動画も現場の助役に撮影をお願いするなどオリジナルで作成しています。

今福さん
今福さん

また、Google Mapと情報を紐づけて、踏切やその周辺などの様子も画面上で確認できるようにしています。道路の交通量に関するデータも取り込んでいるので、沿線の道路状況もリアルタイムで把握できます。

なぜこのツールを作ったんですか?

今福さん
今福さん

事故や故障が起こると、線路の周辺の状況をいち早く確認する必要があります。ただ、運転士など現場にいる人間との主な連絡ツールは列車無線や電話なので、言葉だけですべての状況を伝えるのが難しいケースもあるんです。

そこで、このツールがあれば、運転指令所からでも現場周辺を把握できるので、運転士と連絡を取る際に、より正しく状況を理解でき、スムーズにコミュニケーションができるようになりました。

すばらしい!

今福さん
今福さん

これまでの経験を経て、職員の声から2年前に生まれた西鉄オリジナルのツールです。以降、改良を重ねて現在のバージョンになりました。

緊急時の対応マニュアルも全てひとつにまとめていて、いつでも閲覧できるので、業務の平準化にも役立っています。よりスピーディな対応が実現でき、業務の質も上がりました。

こちらのパソコンは?

今福さん
今福さん

風速や気温、雨量・地震などを表示する気象観測システムモニターです。

今福さん
今福さん

また、安全運行のために、線路ではほぼ毎日夜間に線路や電気関係施設の点検・整備を実施しています。その夜間作業のための線路閉鎖装置や、工事車両の進路を選択する際に使われる「転てつ機(ポイント)」の集中制御装置を操作するのがこの設備です。

日々の安全運行のために

保有する278両の車両のうち、朝のラッシュ時には232両もの車両が稼働する西鉄天神大牟田線。安全運行のために、運転指令所では1回あたり20~30分の模擬訓練を、週に最低3回実施している。主任の小川さんにも詳しい話を聞いた。

どんな訓練をするのでしょうか?

小川さん
小川さん

「もし地震が起こったら?」など緊急時の対応についての確認のほか、過去に起こった事故について振り返り、当務指令係員で議論をしています。時間帯や車両、その他の状況をみても、ひとつとして同じケースはないので、さまざまな観点から意見を出しあい、気づきや改善につなげています。

何かが起きた場合には、警告音や電話が鳴り、現場も指令所内も雑然とした状況になります。日ごろから訓練を積み重ねておけば、そうした状況でも互いにしっかりとコミュニケーションが取れ、スムーズな解決につながります。

「安全」のために、日ごろどんなことを意識して仕事にあたっていますか?

今福さん
今福さん

イレギュラーが生じた場合、私たちの仕事は必ず、運転士などの「相手」があって進行するコミュニケーションだと言えます。そのため、相手の理解度をはかりながら、短くわかりやすい言葉で伝えるよう心掛けています。

また、普段から運転士とコミュニケーションを取っておくことも重要です。相手の顔がわかれば、通話だけのやりとりでも随分とスムーズだと感じます。あとは、基本に忠実に。決められたことを、決められた手順で進めていくことですね。

小川さん
小川さん

列車無線でやりとりする際は、音声が聞き取りにくいことがあるので、数字やアルファベットの発音に特に気を付けています。
難しいのは、列車を停止させた後、運行再開のタイミング。指令係員が状況を把握し、安全に運行できるとの確認が取れた後、全列車の乗務員に状況を正しく理解させたうえで運行再開の合図を出さなければならないので、相手の言葉から状況や理解度をはかりながら業務にあたっています。コミュニケーションの回数と質を上げることが、安全運行につながるのだと思います。

西鉄のノウハウを集約した独自ツールなど、安全運行のためのシステムについては「安全を最優先に構築している」という西鉄電車の運転指令所。徹底した安全運行の取り組みを知ることができた。

私たちが毎日当たり前に利用している西鉄電車の裏側には、安全運行を日々支えるプロフェッショナルたちがいる——。今度、西鉄電車に乗るときに、ちょっとでもそのことを思い出してくれると嬉しい。

  • 今福 勝 さん
    今福 勝 さん

    西日本鉄道株式会社
    鉄道事業本部 運転車両部 運転課 運転指令所 所長
    1987年入社。電車局配属。天神大牟田線 鉄道車掌、運転士、助役を経て2011年から鉄道事業本部運転課で運転保安担当。2016年より現職。

  • 小川 清治 さん
    小川 清治 さん

    西日本鉄道株式会社
    鉄道事業本部 運転車両部 運転課 運転指令所 主任
    1988年入社。電車局配属。天神大牟田線 鉄道車掌、運転士、助役を経て2012年から鉄道事業本部運転課運転指令所配属。2019年より現職。

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