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「西鉄バス最強伝説」って真実?
雨や雪の運行はどうするのか
担当者に直接聞いてみた!

「西鉄バス最強伝説」って真実? 雨や雪の運行はどうするのか 担当者に直接聞いてみた!

「西鉄バス、最強伝説」をご存知だろうか。「グループが保有するバスの台数が日本最大級だから?」「路線が網の目のように走っているから?」――確かにそれも事実ではあるのだが、「最強」と呼ばれるのは規模によるものではない。「自然災害の中でも運行をやめずに走り続ける」という点が、とくにネット上で「最強」と話題になっているのだ。本当に西鉄バスは最強なのか――「本当のところどうなんですか?」と、自動車事業本部の担当者に「どストレートに」聞いてみた。

目次

伝説が誕生した本当の理由

そもそも、なぜ、「西鉄最強伝説」は生まれたのか。そこから聞いてみる。

市原さん
市原さん

大雨の中、川のようになっている道路を、バスが大きな水しぶきを上げながら走っている動画や、真っ白な雪の中をバスが運行している画像などがSNSなどで拡散された影響だと思います。

中村さん
中村さん

加えて、他の交通機関と比べれば、バスは「部分的に運行する」といったことが可能なので、「他の交通機関が止まっているのに、西鉄バスは走っていた」という状況は比較的生じやすい。ここから「西鉄バスはなかなか運休しない」という「伝説」になっていった面もあるのではないでしょうか。

なるほど、ネット上での拡散が理由だ、と。確かに、多くの人がスマートフォンを持ったことで画像や動画の撮影が容易となり、さらにSNSなど個人が情報を発信するインフラが整ったことが背景であることは間違いない。しかし、他のバス会社もその条件は同じだ。つまり西鉄は、運休する判断基準が他社と違うのか?

市原さん
市原さん

一口に自然災害と言っても影響は様々ですし、被害の状況や大小はその都度、違いますので、全国統一の基準のようなものは存在しないと思われます。交通機関各社が独自で判断しているのが実情であり、お客さまの安全の確保のためには、それが最も合理的だと考えます。

中村さん
中村さん

他社がどのようなプロセスで判断しているのかはわかりませんので、比べることはできませんが、常識的に考えると、大きな違いがあるとは思えません。当たり前のことですが、安全が第一。反面で「可能な限り市民の足を止めない」というのが私たちの使命でもありますから、ご利用されるお客さまの安全の確保を最優先に、適切な判断ができるように努めています。

西鉄だけが別基準で動いている、というわけではなさそうだ。では、実際に運休を判断する際は、どんなプロセスを経るのだろうか。

運休は営業所の判断を最優先する

台風を例に説明してもらう。

中村さん
中村さん

報道などで「明日の朝、台風の影響がある」となった場合、各営業所の担当者は、泊まり込みで待機することになります。バスの始発は朝5時ごろですので、深夜3時前には起床して、状況を見て社用車で路線を見回ります。その時点で道路の状況をつぶさに観察して運行が可能かどうかを判断し、その情報を本部に連絡します。

市原さん
市原さん

私たち本部の社員も泊まり込みで待機していて、気象庁や報道からの情報を収集、分析しながら、同時に各営業所から入ってくる現況を取りまとめていきます。中でも重視するのは営業所からの意見です。お客さまの安全を確保できるかどうか、最も的確に判断できるのは彼らだからです。
その上で、運休する路線や、部分的に運行する路線などを整理して、各営業所に指示を出すとともに、情報を広報に伝えます。広報も泊まり込みで待機していますので、それを報道機関に伝え、また西鉄のホームページに掲載していくなど情報を外部に発信します。

実際に現場を見た人の判断を最も重要視する――これ以上、確度の高い情報はないだろう。だとしたら「無謀とも言える環境でもバスを走らせる」という最強伝説は嘘だということになってしまう。

そうか、もしかしたら、過去の運転士たちは、あるいは営業所長たちは、今よりもっと「向こう見ず」だったとか。つまり、判断のプロセスや、現場の担当者の基準は過去と現在で変わっているのではないか?

市原さん
市原さん

安全基準は一貫して変わっていません。ただ近年は早めに運休を判断するようになったのは事実ですね。これは全国的なトレンドだと認識しています。企業や学校も、昔に比べると、休業、休校を決めるのが早くなってきていますよね。
運休の判断および告知がギリギリになった場合、バス停まで徒歩で向かわれるお客さまに危険を招く可能性もございますので。

中村さん
中村さん

判断を早くすることで、安全が脅かされる環境で運行する可能性は低くなったと言えます。安全を確保した上で、どういう運行をすれば、最もお客さまにご迷惑をかけずに済むかを、営業所も本部も一所懸命に考えて運行、運休、再開を決めていきます。

今後、西鉄最強画像・動画は見られないのか?

安全性がさらに高まっているのは頼もしいことだが、悪環境の中でも突き進む西鉄バスの勇姿が見られなくなるのは少し残念な気もする。

中村さん
中村さん

台風はある程度、予測ができますが、近年は線状降水帯の発生など、予測不能な急な大雨に見舞われることが多くなっています。対応や判断が難しくなっている中で、ここでもやはり営業所のスタッフが、安全を第一にして現場の確認と適切な判断に努めています。私たち本部は彼らからの情報を最大限に活用し、最適解を出すことが求められます。

市原さん
市原さん

以前、拡散された画像や動画は、コメントに多くあったように「西鉄が最強だから運行した」というわけではなく、線状降水帯の発生のような予測不能な事態にバスが直面してしまった、というシーンが多いと思います。
もっとも、そうならないように、本部も、現場も常に体制の強化を図っています。だから画像や動画は減っていくでしょうし、本当はゼロになるのが理想ですよね。

それでも「西鉄バス最強」説を唱えてみる

実は西鉄バスの「強さ」は、自然災害ではない場面でも発揮されている。このエピソードを知れば、「やっぱり西鉄バス、最強!」と、あらためて言いたくなるのではないだろうか。

2016年11月、福岡県福岡市博多区の博多駅前2丁目交差点付近の道路が陥没した。地下鉄の延伸工事に伴って起こった「博多駅前道路陥没事故」だ。

市原さん
市原さん

あの日のことですよね。はい、事故現場付近を迂回するルートをスピーディーに決断し、運休せずに対応することができました。また、バスターミナルは停電しましたが、そういった状況下でも、市内を走るバスだけでなく、高速バスも運行しました。そうした柔軟な対応を見て、「西鉄バス最強」と評価してくださる方がいらっしゃったとは聞いています。

中村さん
中村さん

大事故でなくても、たとえば交通事故で電柱が倒れたり、火事で道路が封鎖されたりといった事態は、いついかなるときでも予告なく発生します。そうした場合、災害時と同様に営業所に現場を確認してもらい、迂回ルートを設定するなどで、できる限り、お客さまのご不便にならないように行動しています。

有事の際は運転士が迂回ルートを正確に把握できるように、営業所や本部の社員が交差点に立って誘導したり、停車できないバス停で利用者に状況を説明したりと、細やかに対応する。運休するよりもはるかに労力がかかるが、トラブル時にはいつにも増して、西鉄バスに関わる社員の矜持とも言える「人々のインフラを預かる使命感」が発揮され、それが彼らを突き動かすのだろう。

平時の運行はもちろんだが、「何かあった時」の西鉄バスに、これまで以上に注目してほしい。
何もないのが一番。でも、何かあった時に「西鉄らしさ」が見えてくるというのも、また事実だからだ。

復旧には本部社員も総出?

運休の判断が早くなる一方で、復旧までの時間は短くなっている。報道などから「状況が落ち着いてきた」と本部が判断したら、逐次、各営業所に連絡。担当者が見回りに出て、運行できる状況かどうかを判断し、本部と話し合いながら再開の時間を決める。

市原さん
市原さん

自然災害や事故の後は、電線が道路まで垂れ下がっているとか、木が倒れて道路を塞いでいるとか、状況は様々です。安全を脅かす要因を完全に取り除いてからでなければ再開はできない。その環境整備のためには全社一丸となって取り組みます。

中村さん
中村さん

たとえば2022年の台風11号が去った後、落ち葉がバス停に溜まって安全な停車を阻害しているとの情報を得て、通常は本部オフィスで働いている社員たちが落ち葉を除去するために箒を持って現場に駆けつけたんです。また、大雪の時は営業所の社員が融雪剤である塩化カルシウムをバス路線の道路に散布して、少しでも早い運行再開に努めています。あまり目立ちはしませんが、こうした「とにかく一刻でも早く、バスを走らせなきゃ」という、「復旧への熱い想い」こそが、西鉄バスの真の強みかもしれませんね。

掃除前
掃除後

強さの裏側にあるものは……

今回の取材で分かったこと。それは「厳しい環境であっても絶対に運休しない」という「西鉄バス最強伝説」は事実ではなかった、ということ。

一方で、いかなる状況にあっても、可能な限り運行を止めない努力を惜しまない姿勢には、「もしかしたら西鉄バスが最強なのかもしれない」とも思わされた。


そして、もうひとつ、最強たるその「強さ」のエビデンスは、利用者に対する「優しさ」にあるとも感じた。


たとえば、こんなエピソード。台風の前には、支柱が地中に埋設されていない、下部にオモリのついたバス停を、営業所の社員が現場を回って横にしていくのだそうだ。もちろん、風で倒れて、通行人が怪我をしないように、という配慮である。


「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」


筆者の好きなレイモンド・チャンドラーの小説「プレイバック」の中で、主人公の探偵、フィリップ・マーロウが呟くこのセリフになぞらえて、この記事を終わろう。


「強くなければ最適な運行はできない。優しくなければ交通インフラである資格がない」

  • 市原 一貴 さん
    市原 一貴 さん

    西日本鉄道株式会社
    自動車事業本部 営業部 営業第一担当係長
    2009年入社。人事部配属。2011年より自動車部門に異動し、ダイヤ編成業務等に従事。2013年の福岡市役所へ外部派遣された際に都心循環BRTの企画段階に携わり、2016年の西鉄復帰以降、まちづくり・交通企画部にて連節バス導入を担当。 2018年より自動車部門へ異動後、主にダイヤ編成業務等に従事し、2021年より現職。

  • 中村 和暉 さん
    中村 和暉 さん

    西日本鉄道株式会社
    自動車事業本部 営業部 営業第二担当 係員
    2016年入社。自動車事業本部業務部配属。2017年より西鉄バス北九州(株)へ出向し、北九州エリアのダイヤ編成業務やバスPR業務等に従事。2022年の西鉄復帰以降、自動車事業本部営業部にて主にダイヤ編成業務等に従事し、2023年より現職。

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