Nishitetsu Online Magazine

西鉄バスで最高難易度!
連節バス(BRT)運転士の
運転技術研修に密着取材!

西鉄バスで最高難易度! 連節バス(BRT)運転士の 運転技術研修に密着取材!

博多・天神間や福岡空港内を走る西鉄の連節バス(BRT)。運転できるのは社内でもわずか5%の運転士で、その運転技術の高さはFBS福岡放送(日本テレビ系列)の人気番組『地元検証バラエティ 福岡くん。』でも紹介され、大きな反響を呼んだ。

今回は、その連節バス運転士のすご腕技術が生まれる教習の様子を特別に取材! 安全・安心につながる運転技術を磨く現場で目にした、熱血指導の内容とは……?!

目次

向かった先は、福岡県大野城市にある「西鉄バス研修センター」(西鉄自動車学校横)。西鉄バスの運転士は、ここでさまざまな技術研修を受けてから、一人前の運転士として営業所に派遣される。そして、西鉄連節バス(BRT)の運転士になるための教習も、定期的に実施されているのだ。

連節バス(BRT)とは?

連節バス(BRT)とは、車両が2台連なったバスのこと。福岡市では2016年に導入され、現在は福岡市・那珂川市で18台、北九州市で10台にまで拡大している。

福岡市では主に博多、天神、ウォーターフロント(博多港)の3拠点を巡回する環状型の輸送を目的とするほか、福岡空港の国内線・国際線を結ぶシャトルバスとしても運行している。

西鉄バスの中でも高難易度の連節バス(BRT)の運転士になるには?

西鉄バスの運転士になると、新人研修からスタートして入社6カ月、2年目、3年目といったように定期的に研修を受けることになっている。それ以外に、高速バス運転士研修や観光バス新人運転士研修など、バスの種類によって異なる研修が用意されている。

連節バス(BRT)の運転士になるには、合計6日間の研修を受け、そこで学ぶ運転技術をマスターする必要がある。研修は連節バス(BRT)の概要を学ぶことからはじまり、保守設備や車両機器の説明、内輪差や連節部の動きなど、安全に運行するために必要な研修項目を確実にクリアしていく必要がある。

この教習を受けるには、一定期間路線での実務経験を積んだ後、自ら志願するほかに、各営業所からの推薦が必要となる。

西鉄バスの運転士約4000人の中でも、連節バスを運転できるのはわずか180人強! なんと、わずか5%という貴重な存在だ。経験を積んだ運転士にとっても、連節バス(BRT)の運転はかなり難易度の高い「壁」だということがわかる。

連節バス(BRT)の運転はなぜ難しいのか?

では、なぜたった5%の運転士しか運転できないのか。

そもそも、普通の路線バス(全長約11メートル、車幅約2.5メートル)の運転でも高い運転技術が必要なのに、それが2台連なった連節バス(BRT)の場合は、さらにコントロールが難しい!

■全長18メートル、車幅約2.5メートル。
■内輪差は最大約3メートル!
■2台目の車輪は慣性で動くのみ(ハンドルではコントロール不可)

カーブだけでも大変だが、運転士の技術教習では安全面への配慮から、さらに高度なスキルも身に付けなければならない。

今回の取材では、数ある訓練のなかでも特に難しいとされる「S字カーブ」と「バック車庫入れ」の研修を見学させてもらった。

連節バス(BRT)のプロ! 備前教官の指導に密着

路線バス運転士として20年以上勤務し、現在はバス研修センターの指導員を務める備前琢郎さんは、連節バス(BRT)を約1年半乗務した経験を持つベテラン教官だ。

対して、この日研修を受けるのは、竹下営業所に所属する、キャリア約25年のベテラン・森田大輔運転士。

S字カーブ

まずはS字カーブに挑戦! この日は森田さんにとって2度目のS字カーブチャレンジだった。

研修は、基本的にマンツーマン。教官の指導なしで走行できるのが理想だが、技術を身に付けるまでは担当教官が無線で指示を出しながら運転技術の指導にあたる。これを、指導なしでOKになるまで繰り返すのだ。

教習前のインタビューでは柔和な雰囲気だった備前先生。教習中は、雰囲気がガラリと変わりますね!

エヌカケル編集部は、かっこいい備前先生の隣から森田さんの運転を見守ることになった。

S字コースの道幅は約5メートル。人が歩くと十分な道幅があるように感じるが、全長約18メートルの連節バス(BRT)がコースに入るとすごく窮屈。

こんな場所を本当に通れるのか?!

正面から見ると……

車体が完全に道路からはみ出ている!!

備前先生、本当にここを走るんですよね……?

備前先生
備前先生

もちろんです。S字は難しいと言えば難しいのですが、キャリアのある運転士なら何度か練習すれば大丈夫ですよ。

コツはありますか?

備前先生
備前先生

走るコースと内輪差を考慮しながら、うまくハンドルを切っていけば抜けられます。「こうすればいい」という答えはなく、状況に応じて素早く判断して、こまめに調整していくことが大事。外から見るとわかりませんが、運転席では細かなハンドルの操作で大忙しなんですよ。

後方の車両は慣性で動くだけなので、その動きも計算しながらハンドルを切り、前進していく。走行中は、コースから外れる脱輪は言うまでもなく、コース際のポールやカーブ部分に設置された柵に当たるのもNGだ。

柵まではあと数センチ。想像以上にシビアな状況!

場所によってはわずか数センチの勝負!

うねりながら蛇行する様子。文字通りヘビのよう。

最大3メートルの内輪差を計算しながら、前方・後方の車両プラス6カ所の車輪に注意を払うのは至難の技!

備前先生
備前先生

そこで(ハンドルを)切って、切って!

基本は見守る姿勢の備前先生だが、要所要所で指示を出し、運転席の森田さんを導いていく。

運転席の外からでも的確な指示が出せるなんて……さすが備前先生です。

備前先生
備前先生

運転席にはモニターが付いていますが、バックミラーでも車両の角度やタイヤの位置を目視しながら運転しています。だから、車体の向きやタイヤの動きを見れば、どうすべきか判断できるんですよ。

この日の1回目のチャレンジでは、車体が柵に接触してしまった森田さん。続く2回目、3回目のチャレンジでは、備前先生の導きもあり、少しずつコツをつかんできたようだった。

動画:S字カーブを森田さんが運転する様子(2倍速)

訓練中、特別に備前先生にお手本を見せてもらった。動画を見ればわかるが、通過のスピードが圧倒的に早く、コース取りに迷いがない。

動画:S字カーブを備前先生が運転する様子(2倍速)

せ、先生、すごすぎます!

後退90度車庫入れ訓練

続いて、さらに難易度が高い「後退90度車庫入れ訓練」に挑戦する。前進でのカーブでも難しいのに、後退したうえに、さらに90度方向を変えるなんて……本当に可能なのか?!

備前先生
備前先生

実は、まっすぐ後退するだけでもかなりの難易度です。というのも、やはりポイントは慣性のみで動いている後方車両のコントロール。タイヤがまっすぐになった状態で後退しないと、後方車両が予期せぬ方向へカーブしてしまうんです。

タイヤがまっすぐの状態であればいいんですね!

備前先生
備前先生

ところが、ハンドルで操作できるのは前方だけなので、けっこう難しいんですよ。ミラーで確認した時に、タイヤと車体がきれいに一直線になるとうまく後退できます。

備前先生が見守る中、1回目のチャレンジ。

途中までは良かったものの、うまく曲がり切れず、仕切り直して再挑戦することになった。

動画:後退90度車庫入れ訓練、森田さん失敗の様子(2倍速)

次は、備前先生からの指導は一切なく、森田さんの判断だけで運転してもらうことに。

しかし、車両をコントロールしきれず、連節部分が「くの字」に折れ曲がる「ジャックナイフ現象」が起きてしまった。こうなると万事休す……!

もう一度車両を元の位置に戻して、再度チャレンジ。しかし、なかなかスムーズにはいかない。

そこで、備前先生にお願いして、お手本を見せてもらった。

動画:後退90度車庫入れ訓練、備前先生お手本の様子(2倍速)

本当に90度曲がって駐車された……!!

備前先生
備前先生

カーブに入る前、ハンドルを一度右に切って戻すのがコツです。連節部分は柔らかく曲がりやすいので、常にハンドルを細かく調整しながら車両をコントロールしなければなりません。

連節バス(BRT)は、一定の角度になるとそれ以上後退できなくなるよう設計されているのですが、そうした事態を避けるためにも後退の訓練は必要不可欠です。通常は、一般道路で後退する場面はありませんが、緊急時などイレギュラーがあるかもしれません。

そうした想定外の場面でも、常にお客さまを安全に運べるように、必要な技術を身に付けておくのが大切です。

備前先生の指導を受けながら、何度も訓練を続ける森田さん。備前先生の声掛けと指導があり、回数を重ねるうちにみるみる上達していくのがわかった。

最後はついに、車庫入れ成功!

動画:90度後退車庫入れ訓練、森田さん成功の様子(2倍速)

連節バス(BRT)研修を終えて

研修を終えた後、森田さんに訓練についてインタビューすることができた。

今日の研修、いかがでしたか?

森田さん
森田さん

S字カーブは今日が2回目のチャレンジで、初めて成功しました。コツがつかめて、成功したことで自信がついた気がします。でも、後退90度はまだまだですね。

森田さんは、なぜ連節バス(BRT)の研修を受けようと思ったんですか?

森田さん
森田さん

単純に、「かっこいいな」と憧れて、自分も運転したいと考えていました。

研修を受けて、いかがでしたか?

森田さん
森田さん

「これまでのキャリアは関係なく、ゼロからのスタートだ」ということ。もちろん、身につけてきた技術や経験が生きることもありますが、通常の路線バスと連節バス(BRT)はまったく別物。なので、新たに学ぶべきことばかりです。

高い技術が求められますので、今日みたいにうまくいかないこともありまして……。お恥ずかしい話、悔しくて涙が出てきたこともあるんですよ。

それでも、挑戦したからには諦めずにやり遂げたい。今は、初心に戻った気持ちでしっかり学んで、早く技術を自分のものにしたいと思っています。

研修後は、市内の路線バスを運転しながら福岡空港のシャトルバスのシフトに入る予定になっているという森田さん。「シャトルで経験を積んだら、いつかは天神や博多のまちで連節バス(BRT)を運転したい」と、最後にすてきな笑顔で語ってくれた。

福岡空港を走るレインボーカラーの連節バス(BRT)

普段何気なく利用している西鉄バスは、たくさんの運転士によって支えられている。西鉄バス研修センターは、その数多の運転士の技術を磨く重要な場所であり、安全運行を実現するための徹底した教育・研修環境が整えられている。

そこには、私たちの生活に欠かせない「安全」と「安心」があり、運転士一人ひとりのドラマがあった。

  • 森田 大輔さん
    森田 大輔さん

    西日本鉄道株式会社 竹下自動車営業所 運転士

    1998年入社。竹下営業所で運転士として勤務。福岡市内の路線バスを運行するほか、2023年4月からは福岡空港でシャトルバスの運転士としても活躍中!

  • 備前 琢郎 さん
    備前 琢郎 さん

    西日本鉄道株式会社
    西鉄バス研修センター 指導員

    1995年、二日市交通株式会社に入社。1997年、西日本鉄道株式会社・金武営業所に配属。2017年に連節バス運転士に選任。その後、路線バス運転士として20年以上培った経験を後継に伝えるため、2019年よりバス研修センターの指導員として勤務。

Related article