Nishitetsu Online Magazine

西鉄電車の新人運転士が
1人前になるまでの教習とは?
安全・安心を守る研修制度

西鉄電車の新人運転士が 1人前になるまでの教習とは? 安全・安心を守る研修制度

西鉄電車では毎年、運転士をめざす社員たちが約10ヵ月間の教習を受けている。2023年度に運転士を合格したのは12名。そのうち2名は女性だ。
今回は、2人の女性見習い運転士の教習に密着。運転士になるまでの道のりを追った。

目次

西鉄の運転士になるには?

鉄道乗務員として入社したら、まずは「車掌」の業務からスタートする。新入社員は学科講習や実務研修など、約4カ月間の研修を受け、各乗務所へ配属される。

「車掌」の業務は、お客さまの案内誘導や安全確保、扉の操作などがメイン。電車の運行中、車内を巡回するのも車掌の業務のひとつだ。「車掌」としての業務実績を積んだ後に「運転士」の登用試験を受ける資格が得られる。

「運転士」の志望者は毎年約50名いるが、運転士になるための教習を受けられるのは、そのうちおよそ5分の1! 狭き門を通過した人だけが、この教習に集まっているのだ。教習は毎年6月から翌年3月までの約10カ月。そのうち、最後の2・3月は最終試験となっている。

ちなみに「運転士」以降のキャリアとしては、乗務員の指導や管理を行う「助役」、乗務所長の補佐役となる「主任」、乗務所全体を統括する「乗務所長」といったステップが用意されている。

なぜ運転士になろうと思ったのか?

今回エヌカケルで密着したのは、運転士を目指し、教習を受けることになった原口菜々美さんと塩屋沙奈さん。

原口さん(左)、塩屋さん(右)

鉄道業界に入り、なかでも運転士をめざすようになったのはなぜなのか?教習開始後、4カ月が経ったころの2人に話を聞いた。

塩屋さん
塩屋さん

高校生の時、九州で活躍する女性運転士がいると知り、鉄道の業界に憧れていました。西鉄に入社した頃は「運転士になりたい」とは考えていなかったのですが、車掌として働くなかで、さまざまな場面で運転士の先輩方に助けていただくことがありました。「運転士さんって、すごく頼りになる。自分もそんな存在になりたい!」と、いつしか考えるようになりました。

原口さん
原口さん

私も、車掌として仕事をするなかで、運転士の先輩方と接したことが大きかったと思います。普段と違うことが起こっても、経験豊富な運転士の先輩達はいつも冷静で的確。西鉄電車の安全運行は、こうした熟練の運転士に支えられているのだと実感することが多く、憧れを持ちました。

運転士になるために教習所で学ぶこと

仲が良く、笑顔がすてきな2人

原口さんと塩屋さんの教習がスタートしたのは2023年6月。運転法規や運転理論、車両や電気、線路、信号について等、鉄道に関する総合的な知識を、まずは座学で徹底的に学んでいく。

教習は午前9時からスタートし、昼休みを挟んで午後5時50分に終了。合計7.5コマ分の教習が平日5日間、6月半ばから9月末までの約3.5カ月間みっちりと続く!

これだけでも大変そうだが、驚くのは毎週月曜に「中間試験」が設けられていること。出題は、前の週に学んだ内容から。前週の理解度が試されるというわけだ。

教習を受けてみて、いかがですか?

塩屋さん
塩屋さん

座学も実習も初めてのことばかりで……本当に大変です。

原口さん
原口さん

こんなにたくさん勉強することがあるとは知らず……。安全・安心のためには鉄道に関する幅広い知識が必要なのだと実感しました。

塩屋さん
塩屋さん

運転士の先輩方は、車掌に必要な知識や経験以外にこんなにたくさんのことを学ばれているんだなって、あらためて敬意を持ちました。

原口さん
原口さん

毎週新しい知識を身に付けていくので、できないまま放っておくのはNG。また次の月曜にも新たな中間試験が控えているので、疑問があればすぐに解決するしかありません。教習所の先生方に頼りっぱなしですが、優しく接してくださるのでおかげさまで前向きに取り組めています。

既定のコマ数の座学を終えた後は、学科修了試験を実施。無事に合格できれば、今度は実習が本格的にスタートする。

例えば、この実習は列車のメインスイッチを切る「モーターカット」の様子。列車の故障などが発生した際の車両応急処置。

モーターカットの実習。パンタグラフが下がっていることを指さしで確認
モーターカットの実習。西鉄が所有する車両の構造をすべて把握しておく必要がある

他にも、車両基地に停車している列車を使った運転技能研修や応急処置など、列車の安全運行のためにはさまざまな技能が必要とされる。

営業中の西鉄電車で実務教習

その後、11月ごろからは運転技術を学ぶ「実務見習」へ。約1カ月ごとに1次、2次、3次と進度把握のテストを受けながら、最終的には2月に「運転技能試験」と「技能処置試験」を実施。合格すれば3月末に修了式が執り行われ、ついに4月に運転士デビューとなる。すべての実務教習を終えた2人に改めて話を聞いた。

実務見習や運転試験で、特に難しかったことは?

修了式目前の研修風景
原口さん
原口さん

運行時は、車両の編成に合わせて停止位置が決められています。研修時はブレーキの回数などに制限が設けられていることもあり、ぴったりと停めるのは特に難しいんです。

塩屋さん
塩屋さん

私も最初は苦戦しました。また、雨の日はブレーキの距離が延びることなど、自分自身が運転するまで知らなかった難しさをたくさん知りました。

最終的にはどんな運転試験を?

原口さん
原口さん

運転技能試験は、天神大牟田線の特定の区間で実施されます。各駅での停止する位置やブレーキ操作、速度や距離に関することなど多くの試験項目があり、各試験項目をクリアしなければなりません。その後、車両基地において車両故障や事故が発生した場合の処置などの技能処置試験が実施されます。

修了式目前の研修風景
塩屋さん
塩屋さん

運転する車両によって造りが違うのも大変なポイントです。自分が乗る車両はその日の編成次第。どの車両にもしっかり慣れている必要があります。

4月からは運転士デビュー。教習が終わった今の率直な気持ちは?

塩屋さん
塩屋さん

正直に言うと、不安があります。教習では指導員の先輩が必ずついてくださるので運転席では2人なのですが、4月からは1人になっちゃいます。

原口さん
原口さん

私も少し不安な気持ちはありますね。教習が始まったのは、ほんの半年前。1人で運転するまであっという間でした。

塩屋さん
塩屋さん

いつかは一人前にならないといけないし、誰もが通る道だとは思うのですが……。この春は新駅の「桜並木駅」ができるし、それに伴って停車駅も変更されます。ダイヤ改正も実施されるので、気持ちを引き締めてしっかりと運転したいと思います。

運転士の教習を受ける前と受けた後、何が変わりましたか?

原口さん
原口さん

車掌をしていた時の自分とは、仕事をする時の視点が大きく変わりました。

塩屋さん
塩屋さん

私も、運転士の研修を受けていなければ身に付かなかった視点や知識、技術を習得できたと思います。あとは何より、運転士の先輩たちのすごさをあらためて実感しますね。乗り心地の追及や定時運行を守ることなど、先輩運転士のように技術を習得していきたいです。

若手運転士が思い描く今後のビジョン

5年後、10年後の自分、想像できますか?

原口さん
原口さん

まだ新米の運転士なので、今のことだけで精一杯です(笑)

 塩屋さん
塩屋さん

私も同じです。新米の運転士は、特急列車の運転はできないのですが、1年間経験を積んだら特急を運転できる研修が受けられます。その研修にチャレンジするとか……?

原口さん
原口さん

まずは目の前の目標に向かって頑張っていきたいですね。

最後に、安全運行のために、これから運転時に大事にしたいことを教えてください。

塩屋さん
塩屋さん

集中力を保つこと。そのためには体調管理が欠かせないと感じています。進行方向の安全確認や信号の確認など、視力は特に大切です。勤務体制はシフト制で仮眠時間を含むので、しっかり睡眠をとって常に判断能力をキープしておきたいと思います。

原口さん
原口さん

シフトによって運転する区間や時間が異なるので、毎日のルーティンでも気を抜かず、十分に確認しながら勤務にあたりたいと思います。運転では、基本を忠実に守りながら、まずは安全に定時運行を目指します!

3月末の修了式後、4月からはついに天神大牟田線の運転士としてデビューする2人。もし駅で見かけたら、笑顔で迎えてあげてください!

運転士の教習所がある宮の陣駅にて
  • 原口菜々美さん
    原口菜々美さん

    西日本鉄道株式会社 鉄道事業本部 筑紫乗務所
    高校を卒業し、2020年4月に入社。車掌として勤務。2023年6月より運転士見習いとして教習を受け、2024年4月より運転士として勤務予定。

  • 塩屋沙奈さん
    塩屋沙奈さん

    西日本鉄道株式会社 鉄道事業本部 筑紫乗務所
    専門学校を卒業し、2022年4月に入社。車掌として勤務。2023年6月より運転士見習いとして教習を受け、2024年4月より運転士として勤務予定。

Related article