2024年3月16日に開業した西鉄天神大牟田線の新駅「桜並木駅」。11月23日に駅前広場がオープニングを迎え、まちの人々のための憩いの場が誕生した。広場の設計・企画を主導したのは、九州大学芸術工学部と同大学院芸術工学府の学生たち。企画の経緯や想いを語ってもらった。
2024年11月23日、桜並木駅の駅前広場のオープニングイベントが開催された。広場の場所は駅の西側。約300㎡の敷地にはキューブ型のファニチャーが設置され、そのまわりを草花が彩っている。
「あもうれ」の愛称で約2年間オープン予定の駅前広場。設計・企画を担当した九州大学芸術工学部と同大学院芸術工学府の学生たちと、企画に携わっている西日本鉄道株式会社都市開発事業本部の藤岡原理さんに詳しい話を聞いた。
新しい駅ができるということは、西鉄にとってもレアで大きな出来事です。そうしたなか、駅周辺の土地区画整理事業の完了までの間、駅前にちょっとした空きスペースが生じることとなりました。ここを活用して地域を盛り上げる取組みができないかと思い、地域や環境に配慮したランドスケープデザインの専門家であるランドスケープアーキテクトの德永哲さんに相談したのがはじまりでした。
それから德永さんに芸術工学科環境設計コースの高取先生をご紹介いただき、研究室のみなさんと一緒に広場づくりの企画を進めていくことになりました。
こうしたケースは今までにも経験が?
西鉄としては初めての試みです。高取研究室のみなさんは、こういった実践的な取り組みは多いんですよね。
ワークショップ主催の経験はありますが、今回のように広場の企画から実施設計まで中心になって取り組むことができたのは初めてですね。
西鉄さんのような大きな企業の、しかも駅という公共の空間をつくるプロジェクトに関わることができてうれしく思います。
こうして企業のみなさんといっしょにまちづくりをする機会は貴重で、学生たちにとっても良い経験になっていると思います。
広場のコンセプトは「エコフレンドリーステーション」。廃材となった線路の枕木の再利用や高架部の雨水を貯水した花壇の潅水(かんすい)など、環境に配慮した設計となっているのがポイントだ。
広場の名前が「あもうれ」に決まったのは?
最初に私たちと西鉄のみなさんで、広場のコンセプトや活用方法について話し合うワークショップをしたのが2024年の5月ごろでした。そのときに決まった愛称です。地域に住む人々のつながりを生み、いろんな人々を巻き込みながらつくっていくプロジェクトにしたいと考え、ワークショップの中で「編む」というキーワードが出てきました。
さらに、地域の方々や駅を訪れる人々の桜並木駅への「愛」が、まち全体に広がっていくようにと想いを込めて、イタリア語で「愛」を表す「Amore(アモーレ)」と名付け、全体コンセプトにも採用しました。
キャッチーですてきな名前ですよね。「編む」という言葉からは、古くからこの地域で暮らす方々と新しく暮らし始めた方々が桜並木駅を行き交う姿まで想像できました。
全体のコンセプトが「あもうれ」と決まった後、学生たちは「花壇」「ファニチャー(家具)」「竹の活用」の3チームに分かれて議論を深めていった。
ファニチャーについて考える際、彼らがモデルケースとして参考にしたのが東京・池袋駅東口エリアを中心に展開された「IKEBUKURO LIVING LOOP」だった。
学生や社会人による運営ボランティアと企業が共同で企画するこのプロジェクトのように、桜並木駅でも段階的に活動を催し、地域のみなさんが積極的に関わっていける仕組みが必要だと考えました。
ファニチャーのベースとなるのは、40cm四方のキューブ状の椅子。1個、2個、3個、4個と組み合わせ、さまざまなユニットを創り出すことができる。
なぜこの形状をベースに?
子どもから高齢の方まで、駅にはさまざまな人が多様な目的で集まります。どんな用途にも対応できるよう、大切なのは「可変性」だと私たちは考えました。40センチメートル四方のキューブは、1個なら一般的な椅子の高さに。2個重ねればテーブルにも変身します。ユニットが増えると、使い方のパターンがさらに広がります。
広場の花壇は「過去・現在・未来」という時間の変遷がテーマとなっている。計画を主導したのは4年生の村山耕太郎さん、梅田兼嗣さん、福宿(ふすき)達也さん。
駅前広場は、昔から地域に住む人々と、これから新しくやってくる人々が交わる場所。地域の歴史や開発中の現在が未来につながっていけばという願いを込めて、「過去・現在・未来」をテーマにした花壇をつくりました。扱う品種は、旬を迎える時期以外にも生き続ける「宿根草(しゅくこんそう)」と呼ばれる種類を中心に約50種類。1年を通して草花を楽しめるように選びました。
「宿根草」で代表的なものは?
最近人気なのは、ふわふわとした「ミューレンベルギア」です。本当は穂先がもう少しピンク色に色づいています。小さい頃から親しみのあるチューリップやマリーゴールドも宿根草の一種ですね。
「過去」のゾーンの植栽は、キキョウやハギ、ススキなど昔からこの地域で見られた草花たち。野原や畑が広がる原風景をイメージしています。
「現在」のゾーンには、多様な宿根草や香り豊かなハーブの畑を作りました。ここで育てたハーブを使ってワークショップを開けば、今やこれからの地域を盛り上げることができるのでは、とも考えています。
人通りの多い歩道に面した「未来」のゾーンは、チューリップなど見た目が華やかな園芸品種をメインに植えました。
実際にみんなで草花を植えてみると、想像以上に盛り上がり、楽しむことができました。今後は季節ごとの植え替えなどのワークショップを開催して、地域みんなで育てていきたいですね。
長さや太さの異なる竹ひごを不規則に編み込んでいく「やたら編み」。あもうれ広場のコンセプトとなった「編む」というキーワードのもとになったこの技法について、「竹」にまつわる活動をリードする4年生の中西将大さんに教えてもらった。
高取研究室で竹の活用ついて勉強するなかで「やたら編み」のことを知りました。
「やたら編み」のいいところは、特別な知識や技術がなくても誰でも簡単にできること。私たちの活動も地域のたくさんの方々に参加してもらいたかったので、「竹を編む」だけではなく「地域の人も編みこんでいけたら」という想いで活動しています。
今後、竹を使った催しの予定は?
12月22日にはクリスマスイルミネーションを開催。当日のワークショップで竹を使って照明を作り、その光で駅前広場を彩ります。来年以降は「やたら編み」を使った企画など、いろんな催しを通してみなさんと一緒に地域を盛り上げたいと思っています。
10月26日には、近隣の住民約20人を交えたワークショップが開催された。3つのチームに分かれて駅で実現したい過ごし方について意見を出し合いながら、設置するキューブ型のファニチャーの配置について具体的に考えていった
住民参加型のワークショップを開催した理由は?
私たちだけが主導的に企画・実行するのではなく、まちの人々が主体的にこの場を活用できる方法を考えました。自分たちの手で居場所をつくれば、まちづくりに積極的に参加してもらえるし、もっと地域のことを好きになってもらえると思ったからです。
ワークショップを実施していかがでしたか?
最初はうまくいくか不安でしたが、始まってみると緊張もほぐれてきました。参加してくださったみなさんの和やかな雰囲気に助けられましたね。
学生だけのワークショップでは出てこなかったアイデアがたくさんあり、地元で長く暮らす人ならではの意見がとても参考になりました。
元気な子どもたちも参加してくれて、噴水やすべり台など大人にはない自由な発想が良かったですね。すごく盛り上がりました。また、一緒に参加してくださったお母さんたちが留学生と交流したり、ご自身の視点でいろんなお話をしてくださったりしたのもうれしく思いました。
手に取れるキューブ型の模型が良かったですよね。模型があったことで小さい子たちも飽きずに取り組めていたし、より具体的な意見が出てきたと感じました。
「花壇」「ファニチャー(家具)」「竹の活用」の3チームに分かれて以降は、各班数名ずつで意見を交わし、検討しながらプロジェクトを進行した学生たち。広場のオープニングを迎えるまでにはいくつか困難もあったという。
難しかった点や学びになった点は?
私たちが担当するファニチャーでは、安全面がいちばんの課題でした。転がったり勝手に動いたりしないためにはある程度の重さが必要なのですが、重すぎてもいけない。授業では設計したことがあっても、実際の広場に自分たちの設計した家具が並ぶのは初めてなので大変でした。
特に、ユニットどうしの接続部は頑丈になるよう意識しましたね。迷った時はプロの方々に相談しながら試行錯誤して……。たくさんの方に助けてもらいながら、導いていただいたと感じています。
安全性を担保できる構造とデザインでありながら、コストも十分に考慮する。そのバランスをとるのが難しかったですね。キューブを構成する金属や木材の種類、厚さ、ユニット同士の接合方法などを検討するために何度も素材を見に行ったり、試作したりする過程そのものが学びになりました。
自分たちが設計したプランを実行しながら答え合わせをしていく。計画が現実になっていく実感や達成感をつかむことができました。模型を用いたワークショップは意外とうまくいったような気がしています。一方で、すべての行程において予算やスケジュール通りにプロジェクトを進めていくのはやはり大変で、勉強になりました。
学生チームたちのさまざまなチャレンジがあって完成した、桜並木駅前広場「あもうれ」。新しい交流拠点の誕生に、地域の人々の期待感は高まっている。
まちにひとつの駅ができることは、地域にとってすごく大きな出来事です。人々の生活や環境も変わっていくと思いますが、まちのさまざまな「新旧」がうまく混ざりあっていけるよう願っています。みなさんにとってのホームタウンになればうれしく思います。
桜並木駅前広場「あもうれ」では、今後地域の人々や学生たちが管理運用に関わりながら街づくりを進めていく。催事やワークショップなども開催予定なので、ぜひ一度足を運んでみてください!
西日本鉄道株式会社
都市開発事業本部 企画開発部 開発担当 係長
2014年入社。 福岡出身(桜並木駅徒歩5分の産院で誕生)。 賃貸オフィスビル管理業務や経営企画部を経験した後、賃貸不動産の開発業務を担当。
九州大学大学院 芸術工学府 環境設計コース 修士課程2年
九州大学大学院 芸術工学府 環境設計コース 修士課程2年
九州大学大学院 芸術工学府 環境設計コース 修士課程2年
九州大学 芸術工学部 環境設計コース 4年
九州大学 芸術工学部 環境設計コース 4年
九州大学 芸術工学部 環境設計コース 4年
九州大学 芸術工学部 環境設計コース 4年
九州大学 芸術工学研究院 環境設計部門 准教授
ランドスケープ・エコロジーを基盤とした気候変動適応型の都市環境計画や人口縮退時代の持続可能なグリーンインフラマネジメントが専門。
九州大学大学院 芸術工学府 環境設計コース 修士課程2年
九州大学大学院 芸術工学府 環境設計コース 修士課程2年