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大濠公園の一角、日本庭園で開催されているアートイベント「宙(SORA)」がSNSを中心に話題となっている。普段なら閉園している時間帯の夜の日本庭園に、連日、300人以上が訪れ、光と音によっていつもとは違う表情を見せる自然や建築物をアート空間として楽しんでいるのだ。イベントの様子を紹介するとともに、主催の(株)西鉄グリーン土木に背景を聞いた。
日本庭園とデジタル技術を融合させた、新感覚のアートイベント「大濠公園 日本庭園 宙(SORA)」。光と音を連動させた演出など8つのコンテンツを展開する。
入口からすでに別世界だ。ホログラムスクリーンへの映像投影と、竹あかりを組み合わせた『輪廻』。門に浮かぶ「水の輪」をくぐり抜けることが、異空間へと入るイニシエーションとなっている。
『昇流』は枯山水庭へのプロジェクションマッピング。日中、美しく整えられた枯山水の砂紋に水面の映像を投影。鯉が泳ぎ、花びらが揺らぎ、月が浮かぶ。
メインは『宙』と名付けられたイベント。ホログラムスクリーンに映し出されるのは和装で踊る人物の映像。レーザーと人工ミストを連動させ、背面の木々を巨大なスクリーンとして使い、この場所、この時間でしか実現しないアート、エンターテインメントに昇華させている。
『宙』の背景としても機能していた巨大な球体は『海宙』と名付けられた直径5メートルのオブジェ。日本庭園の松とともに、池の水面に写り込み、幻想的な風景を生み出す。
この『海宙』、眺めるだけではない。裏手に回って近づけば、絶好の撮影スポットになる。こうした「来場者が撮影した画像」がSNSで発信されることで、「幻想的な世界に浸りたい」と思う人に情報者が伝播し、集客につながっている。
『共鳴』は音連動の光演出。来場者が手拍子をすると、四阿(あずまや)に吊された光の球体の色が変化し、空間全体の印象が一変する参加型のインタラクティブ体験だ。
この他にも普段は立ち入ることのできない森の中にもコンテンツが設置されていて、探検気分で散策できるのも大きな魅力となっている。
イベントの企画制作を手掛けたのは、福岡を拠点に全国でデジタルナイトイベントをプロデュースするランハンシャ。西日本におけるプロジェクションマッピングの先駆者的存在だ。CEOの下田栄一さんはイベントの見どころについて、こう語ってくれた。
大濠公園の日本庭園は四季折々、素晴らしい景観を見せてくれる場所ですが、夜はまったく違った空間になります。なにより非現実感を楽しんでほしいですね。
イベントが実現した要因について、下田さんは主催者である「西鉄グリーン土木」の協力を一番に挙げた。
すでに存在する施設を活用すれば、今回のイベントのように『見えないものを可視化』することで日中とはまったく違う景色、空間を生み出すことができます。ただし、一般的に言うと、施設の許可を得て、ともに実現に向けて協力を得ることのハードルは高いんです。どんなに良い企画でも、新しい施策に前向きなパートナーの存在抜きには実現しません。西鉄グリーン土木さんは私たちの提案を快く受け入れてくださり、パートナーとして尽力してくださいました。本当に感謝しています。
新しい夜の過ごし方を体験しに、ぜひイベント期間中に大濠公園、日本庭園を訪れてほしい。
アートイベント「宙(SORA)」
期間:2025年9月30日まで
時間:19:00~22:00
最終入園 21:30
※雨天・天荒時は休園となります。最新情報はHP・Instagramでご確認ください。
西鉄グリーン土木は造園・土木工事、建設機械のレンタル、生コンの販売、道路・側溝清掃や下水管調査など幅広く手掛ける企業だ。その事業のひとつ、「福岡県営大濠公園・西公園の管理・運営」がある。
西鉄グリーン土木による大濠公園でのイベント実施は実は今回が初めてではない。2023年の12月から、翌年2月にかけて、ナイトイベント「大濠雲海」を開催。プロデューサーは景観アーティストの石原和幸さん。石原さんは大濠・西公園の共同指定管理者でもあるので、指定管理者が企画・運営する自主事業だった。
イベントでは夜間にウォータースクリーンへのプロジェクター投射と人工ミスト連動演出や、枯山水へのプロジェクションマッピング、松のライトアップなどを行った。また大濠雲海で使用していた人工ミスト装置を用いて2024年5月末まで「お昼の大濠雲海」として幻想的な空間を提供した。
「大濠雲海」について西鉄グリーン土木取締役公園部・部長の岩下幸広さんはこう当時を振り返る。
今回の『宙(SORA)』に比べればコンテンツは少なかったものの、来場した方には好評をいただきました。この『大濠雲海』の使用機材が残っているところに、ランハンシャの下田さんがいらっしゃって、『自分達も庭園でイベントを実施することは可能だろうか』と相談を受けたんです。
ランハンシャの実績などから実力あるクリエイター集団と認識。また、前回のイベントに対する反響が良かった点や、人工ミストやレーザーで幻想的な空間が作れることを経験的に知っていたことで、岩下さんは「下田さんの提案をポジティブに受け入れることができた」と言う。
レベルの高い庭園イベントが実現すると確信できたので、『ぜひやりましょう!』と返答しました。
ただ、実現までには様々な問題が発生した。園内各所に張られた電源・コントロールケーブルを、タヌキと思われる動物に咬まれる被害が多発し、できるだけケーブルを埋める対応を取るなど、思わぬ事態の連続。開催までには幾度も「仕様変更」を強いられた。日常、大濠公園、そして日本庭園を隅々まで管理している西鉄グリーン土木だからこそそれらに柔軟に対応ができ、予定通りのイベント開催となったのだ。
苦労があったからこそ、多くのお客様が楽しんでいらっしゃる姿を見ると喜びもひとしおです。反響はすごくいいですよ。その日の気候によってミストの漂い方が変わり、そうすると、レーザーの反射が変わるので、コンテンツの見え方も大きく変化します。気に入っていただけたら、一度だけでなく、ぜひ何度も足を運んでほしいですね。
既存の施設を利用することでイニシャルコストを抑えつつ、ソフトパワーによってエンターテイメント空間、観光資源を生み出す。西鉄グリーン土木によるこの先駆的な事例が波及していけば、全く新しい「福岡の顔」が次々と生まれるかもしれない。
大濠公園の日本庭園に限らず、福岡で同様のイベントが多く開催されていけば、いずれはインバウンド客にとっての夜の楽しみとなり、福岡におけるナイトタイムエコノミーに成長する可能性は高いと考えています。
今や全国的にブランドとして確立したと言ってもいい大濠公園。いつ訪れても清潔で、明るい園内だが、それを「誰が、どのようにしてキープしているか」について考えを巡らせることはあまりないだろう。
西鉄グリーン土木で、大濠・西公園管理事務所の所長、熊谷芳浩さんは管理・運営業務は多岐にわたると教えてくれた。
大濠公園を訪れる方なら、樹木の維持管理や除草をしているスタッフを見かけたことがあるのではないでしょうか。彼らは園内を回りながら、ゴミ拾いをしたり、不適切な行為をしている来園者に声をかけたりしながら、日常の業務を行っています。大濠公園の景観を維持するために、大切な仕事です。
取材の日には、車止支柱の交換が行われていましたね。前日、車との接触で破損した支柱を新しいものと入れ替える工事でした。今回のように比較的軽微なものは自社で修理、修繕しますが、難しいものは専門業者に依頼します。
水質の管理も重要な仕事です。公園の北西部、能楽堂の隣、黒門川横に『大濠公園池水浄化施設』があります。
池の北側にある取水口から水を浄化施設に取り込んで、砂ろ過槽で汚れを取り除いています。ただ、水質は様々要因によって変化するので、『こうしておけばいい』という一つの正解がありません。そのため毎日、スタッフが水質を管理、分析し、状況に応じた施策を講じています。
そうしてきれいになった水が池に戻されるのです。貯水量は約35万トン、学校にある25メートルプールで約1400個分です。この池の水をすべて浄化するのに、およそ1カ月かかる算段になります。
大濠公園と西公園を合わせて、1日十数人のスタッフで管理しています。休日も管理・運営は動いていますし、トイレ清掃は毎日ですから、その意味では365日、西鉄グリーン土木を中心に多くのスタッフが公園を美しく、安全に保てるように働いています。全国的に名が知られるようになった大濠公園ですから、責任の重さは感じますが、同時にこんなに愛されている公園を管理しているんだ、という自負が、スタッフの誇りになっています。
気持ちがいいな。きれいだな。心地いいな……公園内でなにかしらポジティブな感情が湧いてきたときは、私たちの存在をちょっとだけ思い出していただければうれしいですね(笑)。
(株)西鉄グリーン土木取締役 公園部担当
2008年株式会社西鉄土木入社、総務部配属。
2009年の西鉄グループ3社合併(西鉄グリーン土木)および2019年 鉄道グループ会社事業再編を経験、取りまとめに注力、2023年度より取締役として公園部を担当。
(株)西鉄グリーン土木 公園部 大濠・西公園管理事務所所長
1991年西鉄グリーン株式会社入社。
入社後から造園工事、公園指定管理業務に従事し、2009年に会社統合した西鉄グリーン土木でも造園工事、営業、市営公園の指定管理業務を引き続き担当。
2023年度より公園部 大濠・西公園管理事務所の所長を務める。
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