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運転席の真後ろに、もう一つ運転席が……?
2025年4月、大分県の観光地である別府や湯布院を走る亀の井バスに「こども運転席」のある車両が誕生した。本物の運転席の後ろにある小さな運転席には、思わず大人でも座ってみたくなるような出来栄えの運転席が…!
まるで「バス運転士」になれるリアルな「こども運転席」ではどんな体験ができるのか?実際に子どもたちに体験してもらった。

2025年4月、大分県別府市などを走る亀の井バスに、「こども運転席」が導入された。対象のバスは別府市内や湯布院方面の路線を走る1台だ。

「こども運転席」は、運転席の真後ろに設置されている。ハンドルやシフトレバー、アクセル・ブレーキペダル、扉の開閉スイッチなど、実際の運転操作を模した装置が揃う。

バスの前方には専用カメラが設置され、走行中の景色がモニターにリアルタイムで映し出されるため、臨場感抜群!子どもたちは走行中の外の景色を見ながら、思いっ切り「なりきり運転士」を体験できるというわけだ。もちろん、どれを操作しても実際の運行には全く影響しない。
利用は非予約制で、通常運賃のみで特別な料金はかからない。専用シートカバーが目印で、空いていれば誰でも自由に座ることができる。
平日は別府市内や湯布院方面の路線で運行されている。土日祝日は別府市内を中心に運行しており、亀の井バスホームページで「こども運転席」バスの時刻表を確認することもできる。

実際に子どもたちが体験すると、どんなリアクションになるのだろうか。そこで今回は、小学4年生のこうきくんと、6歳のけいごくん兄弟が体験してみた。
二人が運転士のすぐ後ろに設けられた特別席に座ってみると…!目に飛び込んできたのは、運転席からの景色がそのまま映し出される大きなモニターだ。

前方の景色がリアルタイムで動いている様子に、ふたりはそれぞれ目を丸くして驚き、そのまま笑顔に変わる。

バスが走り出すと、こうきくんはまるで本当に運転しているかのようにハンドルを握りしめ、真剣な表情に変わる。信号が赤に変わると「赤!赤信号!」と声を上げ、ブレーキを踏む動作をする姿は、すっかり運転士になりきっているようだ。

周囲の安全を気にしながら運転するけいごくんの姿は、頼もしく本物の運転士のよう!
本物の運転士さんがギアチェンジをするたびに、後ろからじっと手元を見つめるけいごくん。運転するにつれ、その動きをまねしてレバーを動かすようになった。

子どもたちが夢中で操作する姿を見て、大人たちも思わず笑みがこぼれる。兄のこうきくんは前方の道に集中し、弟のけいごくんは別の運転席が見える座席から運転士の所作に夢中になる。それぞれの運転体験を楽しんでいた。
夢中で遊んでいるうちに、「本当にバスを動かしているのかもしれない」と錯覚するほど、ふたりの表情は真剣になっていった。最初は笑いながら触れていたのに、次第に無言で前を見つめるようになるその変化が印象的だった。

体験を終えると、ふたりは「楽しかった〜!」と声を揃える。こうきくんは「どうやったら上手に運転できるのか知りたい」と、けいごくんも「運転手さんがどう運転しているか、もっと見たくなった」と目を輝かせた。

今回話を聞いたのは、亀の井バスで路線バスの運行を担当する乗合課の中磨勇太さん。「こども運転席」の発想のきっかけから設置までの裏側を伺った。
「こども運転席」という発想が生まれたきっかけは?

亀の井バス整備部が「こども運転席」をネットで見かけ、同じ西鉄グループの車体メーカーである西鉄車体技術へ問い合わせをしたのがきっかけです。
九州ではおそらく初めてというお話で、私たちもお子さまにバスに触れてもらうきっかけを作りたいと考えていたので、実施を決めました。
「本物の路線バスでやる」という決断は、かなり大胆だと思いますが、社内の合意はすぐに取れたんですか?

特に大きな反対はありませんでしたね。「バスを好きになってもらうきっかけづくり」という目的が明確だったので、社内合意はスムーズでした。

実際に利用された方の反応はどうですか?

利用されたお子さまは皆さん本当に喜んでいただいています。信号で停車して再び走り出す瞬間などは、声を上げて盛り上がる光景がよく見られます。その様子を見て私たちもとっても嬉しい気持ちになります。「運転手さんになった気分!」、「こどもが運転席に座って力強くハンドルを握っていた」などお子さまが楽しんでいただけた声も届いています。
バスの車内全体がちょっとしたアトラクションのような雰囲気になりますよね。設計・設置で一番こだわった点は何ですか?

臨場感です。子どもたちが「本当に自分が運転しているのかも」と錯覚するような感覚にさせるため、モニターの映像や計器の動きが現実と連動するようにしています。特に「スピードメーター」にこだわりました。
スピードメーター?


これはただの飾りではなく、実際の車両のGPSと連動しています。バスが加速すれば数値が動き、停車すればゼロに戻るんです。
それは凄い……!

数値が変わるたびに「今、本当に運転しているんだ」と感じてもらえる仕掛けです。子どもたちにとってはゲーム感覚に近いかもしれませんが、それだけリアルさが増します。
装置の中で難しかったところはどこですか?

モニターの背面に新しく設けた「手すり」ですね。
えっ、手すりですか?手すりはこれまでもたくさん設置しているわけですし、簡単なんじゃ……。

それが、既存車両に後付けする形だったので、構造的にしっかり固定するのは難しく、設置にはかなり苦労したそうです。


ここは通常、お客さまが立って乗車される時に体を支える大事な場所でもあるんです。西鉄車体技術と協力しながら安全性を損なわずに「こども運転席」を設置しました。
モニターやスイッチ類は、どの程度“本物”に近づけているのでしょうか?

ハンドルやペダル、シフトレバーは、実は市販のレーシングシミュレーター用デバイスを活用しています。ハンドルは、家庭用ゲーム機の製品を流用しているのですが、これが非常にしっかりした作りなんです。

操作感も重量感も十分「本物」と感じられると思います。

ペダルも同様にゲーム用のものですが、強度が高く、壊れにくいので安心して遊んでもらえます。

なるほど、まるで小さなアトラクションのようですね。

そうですね。遊園地のアトラクションやVR体験に近い感覚だと思います。でも、これは“本物の路線バス”の中にある仕掛けですから、日常の移動が特別な体験に変わります。

「こども運転席」の体験により、子どもたちにもバスを身近に感じてもらえそうですよね。

そうですね。バスに興味を持ってくれた小さな子どもたちが、いずれバスの運転士になってくれたらいっそう喜ばしいですね。
本物の路線バスで運転士気分を味わい、遊びながら自然とバスに親しむきっかけとなる。「こども運転席」の体験は「バスって楽しい」「また乗りたい」という気持ちを育てていく。
そんな体験の積み重ねが、10年後のバスの未来を支えていくのかもしれない。
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