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リニューアルした西鉄の観光列車
「ザ レールキッチン チクゴ」
のランチメニューを体験してみた

リニューアルした西鉄の観光列車 「ザ レールキッチン チクゴ」 のランチメニューを体験してみた

目次

地域を味わう旅列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO(ザ レールキッチン チクゴ)」が、2022年9月1日(木)にリニューアル。運行コースをランチ2便に刷新し、運行日を拡大した。新しい列車ではいったいどんな体験ができるのか。担当者に話を聞いた。

  • 村山 紀子 さん
    村山 紀子 さん

    西日本鉄道株式会社
    鉄道事業本部 営業部 観光列車担当

    2001年、株式会社西鉄ステーションサービスに入社。駅務員として勤務した後、2005年4月から西日本鉄道株式会社へ。鉄道事業本部で営業企画に長年携わる。2018年4月に「ザ レールキッチン チクゴ」の立ち上げ段階からプロジェクトに参画し、その後の企画・運営・リニューアルに携わる。

西鉄の観光列車「ザ レールキッチン チクゴ」って?

「ザ レールキッチン チクゴ」について詳しく聞こうと思い、訪ねたのは西日本鉄道株式会社鉄道事業本部 営業部 観光列車担当の村山紀子さん。まず驚いたのが、村山さんが駅務員出身だということだった。

駅業務を主体に鉄道沿線事業と売店事業を展開する「株式会社西鉄ステーションサービス」に入社後、本社に転籍。めずらしいキャリアパスだと思い尋ねてみると……

村山さん
村山さん

かなり異色の経歴です(笑)。本社での仕事が主ですが、場合によっては今でも「ザ レールキッチン チクゴ」に乗って、サービスを担当することもありますよ。

企画から現場まで知り尽くしているとは、村山さん、すごすぎる! よし、さっそく「ザ レールキッチン チクゴ」についていろいろと聞いてみよう。

西鉄初の観光列車として、2019年3月から運行を開始した「ザ レールキッチン チクゴ」。「LOCAL to TRAIN ~街を繋いできたレールは人をつなぐ時代へ~」をコンセプトに掲げ、西鉄天神大牟田線沿線地域の魅力ある人・資源・体験を発掘し、列車を通じて発信することを目的としている。

車内では、筑後の豊かな田園風景をゆっくり眺めながら、地域の食事を使った料理を味わうことができる。

村山さん
村山さん

誰かの家に招かれたような、落ち着く空間が、車内内装のテーマです。外装はキッチンクロスをモチーフにデザインされています。

八女の竹を使用した竹編みの天井や、いぶし銀が美しい城島瓦、家具のまち大川の家具、アーティストが描く筑後川、久留米絣を利用したタペストリーなどで車内がデザインされ、新しい伝統工芸の使い方に気づかせてくれる。

「ザ レールキッチン チクゴ」リニューアルのポイントは?

2022年秋にリニューアルされたのは、まずは運行日・時間帯だ。ランチの時間帯に 2 便運行となり、これまでの金・土・日・祝日に加えて木曜日も運行日としてプラス。乗車日の選択肢が広がった。

「アーリーランチ」は、10時台に福岡(天神)駅を発車して花畑駅で折り返し、約2時間40分で福岡(天神)駅へ。「レイトランチ」では13時台に福岡(天神)駅を出発し、柳川駅を経由して大牟田駅へ。こちらは2時間40分ほど片道切符だ。料金は1人8,800円。定員は52席で、ウェブサイトでは2カ月前から予約ができる。

リニューアルのメインは、新たな料理監修者3 名を迎えたことだ。筑後を中心に九州各地の旬の食材を織り交ぜ、調理方法や盛りつけなどを含めてここでしか味わえないコース料理を、季節替わりで提供する。

  • (左から)吉武シェフ、井上シェフ、畑シェフ
  • 2022年9月~11月の秋メニュー
村山さん
村山さん

最初にご縁ができたのは「Restaurant Sola」(福岡市博多区)の吉武広樹シェフです。シンガポールで実績を積まれ、2010年にフランス・パリで「Sola」を開店後、わずか1年3カ月でミシュラン1つ星を獲得。その後、2018年にベイサイドプレイス博多に「Restaurant Sola」をオープンされました。

吉武シェフはJALのファーストクラスでメニュー監修を務めたご経験もあり、料理面のリニューアルでは中心的な立場となってご協力くださっています。

吉武さんの紹介で、2022年に福岡市・今泉から久留米市・田主丸に店舗を移転した「Cernia」の畑亮太郎シェフ、自身の故郷となるうきは市で2022年に「mahoro756」を開業した井上誠シェフと出会い、世界で活躍した3人のシェフによる料理監修体制ができあがった。

「監修」にもさまざまな形態があるが、「ザ レールキッチン チクゴ」では各シェフが季節ごとに担当料理を決め、食材選びからレシピ作成、調理工程をトータルで監修。筑紫にあるセントラルキッチンで味の最終チェックまで行うと聞き、その徹底ぶりに驚いた。

シェフたちの本気度がすごい。さて、どんなコース料理を味わえるのか。期待は高まるばかりだ。

3人のトップシェフによる前菜

世界を舞台に活躍してきた3名のトップシェフ監修の料理が、コース料理で一度に楽しめるなんて、どう考えても贅沢過ぎる。いったいどんな料理が待っているのか、秋のメニューを一品ずつ紹介しよう。

コースは前菜から始まり、魚料理、肉料理、デザートというシンプルな構成。乗車してすぐにウェルカムドリンクをいただく。特別な時間の始まりを味わったところで、列車はゆっくりゴトゴトと、南へ向かって走り出す。

前菜は6種の盛り合わせ。写真左側の2品は畑シェフによる監修で、手前から「ツナを詰めた赤ピーマンと大豆のサラダ」と「ナスのパルミジャーナ」。中央は井上シェフによる監修で、手前から「里芋と鶏そぼろ」と「原木椎茸とアオサのお浸し アーモンドオイル和え」。

右列は吉武シェフによる「うきはの卵のフォアグラプリン グリッシーニを添えて」と「ハーブ海老のマリネ ストラッチャテッラチーズ トマトのジュレ」。

3名のシェフの華やかな競演で、見た目の美しさにも感動! ぜひお酒と楽しみたいと思い、おすすめのワイン「ローズ・ボッサ」(1,000円)をいただく。

久留米の「KYOHO WINERY」が巨峰を使い、ノンフィルターで作った辛口の白。これほど個性ゆたかな前菜のうち、どの料理にもマッチする万能さに驚くばかり。正直、この前菜だけで「ローズ・ボッサ」が1本分くらい飲めそうだ。

他にも、三井郡太刀洗・みいの寿のフルーツワイン「白い梅酒」(700円)や、大川・若浪酒造の銘酒「若波 純米吟醸」(900円)や久留米・紅乙女酒造の九州限定芋焼酎「直会 芋」(650円)など、ドリンクメニューの層がかなり厚い。

大牟田・橘香園の「蜜柑絞り」

さらにうれしいのは、ノンアルコールドリンクの充実度。八女・千代乃園の「雪ふる山のおそぶき茶」(煎茶・紅茶各550円)のほか、ラムネやジュースも発見。今まで知らなかった地域の名産品に出会うことができるはずだ。

魚・肉料理・デザートは季節ごとに監修者が変わる!

村山さん
村山さん

魚料理・肉料理・デザートは、3人のシェフが季節ごとに交代で監修します。秋メニューでは、魚料理は井上シェフによる「奥日向鮭味噌幽庵焼きピスタチオ仕立て」です。

シェフが海外勤務時に親しんだレバノン料理のエッセンスを採り入れた一品だそう。九州の素材が中東料理と奇跡の邂逅。まさかこんな料理が福岡で、しかも列車の中で味わえるなんて!

「奥日向鮭味噌幽庵焼きピスタチオ仕立て」

肉料理は吉武シェフの監修で「糸島豚バラ肉のコンフィ バルサミコのヴィネグレット」。低温でじっくりと仕上げた豚バラ肉は、さわやかなヴィネグレットソースとかなり相性が良い。

「糸島豚バラ肉のコンフィ バルサミコのヴィネグレット」

添えられるパンは、人気店「パンストック天神店」に特注した「白ストック・プティ」。ソースまでおいしく味わえ、さらにお酒(ドリンク)が進む。

締めのデザートを担当するのは畑シェフ。筑後地区の特産品・柿を使った「柿のスープとキャラメルアイス コーヒー付」だ。

素材に柿が選ばれたのには理由がある。畑シェフが店舗を構える田主丸は、柿の生産として知られているが、実は収穫されたうち約4割が「キズ柿」として扱われ、これまでたくさんの量が廃棄となっていた。

各地の生産者と強いつながりを持つ畑シェフは、そうした地域のフードロスの課題を解決しようと今回のデザートを考案したのだとか。集めた柿を一度ピュレにしてなめらかにして、スープ仕立てに。柿のやさしい甘さが、ほんのり苦いキャラメルの味と見事に溶け合う。

西鉄の「ザ レールキッチン チクゴ」だから実現できること

料理のラインナップを見るだけでわかる、「ザ レールキッチン チクゴ」のすごさ。他の観光列車にはない特徴がありそうだと思い、村山さんに聞いてみた。

村山さん
村山さん

列車に窯を積んでいるところだと思います。調理車両に設置されている電気窯で、500℃くらいまで調整できます。オープン料理や肉料理、食器の温めなど大活躍。これがあるおかげで、お客さまに温かいお料理を提供できます。

まさか、列車に窯を! そんなことが可能とは知らなかったが、おかげで熱々の料理を楽しめるわけだ。

リニューアルに際して、調理から提供までの工程を見直し、品数を絞ったコース構成に変更。その分、一品一品を出来立てのベストな状態で提供でき、乗客もゆっくりと楽しむことができるようになったという。

しかし、そもそも走行中の列車で出来立てのコース料理を提供するなんて、かなり大変なことではないのか。

村山さん
村山さん

列車は何があっても時間通りに運行する必要があります。そのためには料理も時間通りに提供を終えなければならないので、現場のスタッフは地上での仕事以上に緊迫感をもって調理を進めています。揺れる列車内では提供も大変。盛りつけが崩れないようにいつも以上に気を配ります。

すごく大変なことですが、これが実現できるのが西鉄の強み。列車の運行に関しては、観光列車選抜乗務員が担い、調理は西鉄ストアが担当しています。ホール接客には西鉄ホテルズのノウハウが大いに生きています。

さまざまなグループ企業を持つ西鉄だからこそ、上質な列車でホテルレベルの接客とおいしい料理が実現できるのだ。

「ザ レールキッチン チクゴ」を通したまちづくり

西鉄は鉄道やバス、都市開発、不動産などさまざまな事業を通してまちづくりに携わっている。西鉄天神大牟田線沿線の観光資源を掘り起こし、まちの魅力を発信していくことで、地域の振興および活性化の促進につなげたい。そうした背景のもと生まれたのが「ザ レールキッチン チクゴ」だ。

停車駅では横断幕で歓迎!

県外だけでなく、県内からの利用客も多い。落ち着いた空間と贅沢感のある料理を楽しめるということで、両親へのプレゼントや誕生日など、特別な日のお祝いとして乗車される利用客も多いそうだ。

村山さん
村山さん

印象的なエピソードがあります。以前、還暦のお祝いでご乗車くださったお客さまがいらっしゃいました。接客を担当するスタッフが当日会話の中でそのことを知り、調理スタッフにその場で相談。急遽、お祝いのデザートプレートを提供したことがあったそうです。

限られた時間のなかでそうした対応をするのは簡単なことではありません。西鉄ホテルズのサービス力と、西鉄ストアの柔軟な対応力。運行に携わるスタッフ全員の連携の賜物だと、あらためて感じました。

車内でサービスを担当する際、村山さんは料理の残り具合を必ずチェックすると言う。「リニューアル後は、食事の完食率がかなり高い」と村山さん。この秋進化した「ザ レールキッチン チクゴ」に、たしかな手応えを感じている様子だった。

「ザ レールキッチン チクゴ」冬メニューと地域への想い

メニューは季節替わりなので、12月からは冬メニューが登場する。予約は2カ月前から受け付けているので、10月1日から予約がスタート。3人のトップシェフがどの食材を選び、どんな料理を届けてくれるのか、楽しみでならない。

また、佐賀県と連携して企画された特別ランチコース「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO × SAGA」も季節ごとに運行中。

秋は9月30日(金)から10月2日(日)にかけて、冬は12月16日(金)から18日(月)にかけて各3日間。「ザ レールキッチン チクゴ」をきっかけに、筑後佐賀エリア一帯の観光振興と地域活性化が期待される。

村山さん
村山さん

もっとたくさんのお客さまに「ザ レールキッチン チクゴ」のことを知っていただきたい。そのために、今後は西鉄旅行と連携した旅行プランの企画に力を入れるなど、告知・集客を強化したいと考えています。

私たちの使命は、お客さまを目的地に運ぶだけではなく、その道のりをゆたかにすることです。それまで知らなかった地域の魅力にふれたり、既存の食材や伝統工芸の新しい活用方法を発見したり。

「街を繋いできたレールは人をつなぐ時代へ」。このコンセプトに込められた想いはこれからも変わることなく大切にして、期待をはるかに超える良い体験を提供していきたいと思います。

まちを繋ぎ、人をつなぐ「ザ レールキッチン チクゴ」。えっ、まだ乗ったことないって?地域の魅力にあふれた上質な空間で、3人のシェフが監修した旬の料理を味わう。電車に揺られ、車窓を眺めていい気分。こんな贅沢な体験、絶対にこの車内でしか味わえませんよ。

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