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Sola吉武広樹シェフに聞く、
観光列車ザレールキッチンチクゴ
コース料理の「ココがすごい!」

Sola吉武広樹シェフに聞く、 観光列車ザレールキッチンチクゴ コース料理の「ココがすごい!」

地域を味わう旅列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO(ザ レールキッチン チクゴ)」が、春のメニューを乗せて走っている。3人の料理監修者の一人、「Restaurant Sola(レストランソラ)」の吉武広樹氏にメニュー開発の舞台裏を聞く。

目次

福岡市・博多港――複合商業施設「ベイサイドプレイス博多」に「Restaurant Sola」はある。都心部からは少し離れた、好立地とは言えない場所だが、店は連日満席。予約の取りにくい店として知られている。

オーナーシェフの吉武広樹氏は、パリに開いた店がわずか1年3カ月で「ミシュランガイド フランス」で一つ星を獲得したスターシェフ。調理師学校を卒業後、「幼い頃、テレビ番組の『料理の鉄人』を見て憧れていた」という坂井宏行シェフの「ラ・ロシェル」で3年間、みっちりと修業を積んだ。

さらに東京の別の店で3年間働いた後、バックパッカーとなって世界中を巡った。各国の料理を見るためだ。その後、渡仏し、1年半ほど修行。いったんはシンガポールで店を運営するが、「本場でミシュランの一つ星を取る」という目標を掲げ再びパリへ。わずか1年3ヶ月あまりで一つ星という偉業を成し遂げた。

列車である制限を感じさせない料理

これまで数多くの料理監修を手掛けてきた吉武シェフにとって、「ザ レールキッチンチクゴ」は「3人で手がけていることが最大の特徴だ」という。吉武シェフと腕を競うのは、久留米市・田主丸のイタリアンの名店「Cernia」の畑亮太郎シェフ、うきは市で和食とフレンチが融合した創作料理を提供する「mahoro756」の井上誠シェフの二人。いずれも世界で活躍した経歴を持つ。

吉武さん
吉武さん

3店舗とも福岡に店があるので、それぞれのシェフの味を求めるならば、それぞれの店に行けばいい。でも、一度に3人の料理を楽しめるのは、この列車しかありません。和食、イタリアン、フレンチと、次々にトーンの違う料理が提供される、他では味わえないコースに仕上がっています。

一方で、だからこその難しさもある。

吉武さん
吉武さん

コース料理はやはりトータルバランスです。私は他の2人のシェフが料理を決めてから、食材、味わい、色合いなどコントラストを意識して、担当するメニューをつくりあげていきます。

列車での提供はレストランに比べて、さまざまな厳しい条件が課せられる。たとえば、到着する時間までに絶対に料理を提供し終えなければならないし、キッチンの機能は限定的で、最終調理の手数を少なく抑える必要もある。

吉武シェフはパリで活躍していた2013年から2014年、日本航空とのコラボレーションで、ファーストクラスとビジネスクラスの機内食を担当。その経験が今に生きているという。

吉武さん
吉武さん

CA一人で、50人の食事に対応するため、調理は再加熱するだけ。手数は「メイン」「ソース」「付け合わせ」の3手までと決まっていました。こうなると、レストランの当たり前は通用しません。いったん、それを捨てて、味と品質、調理手順と再現性の高さなど、それぞれのバランスをとることが重要なんです。

そう聞くと、今回の魚料理「糸島真鯛のブイヤベース」の違った側面が見えてくる。

この料理、魚介の出汁の中に、野菜とアサリ、そして糸島の真鯛を入れ、香草を加えたら、耐熱のラップをかけてしっかり口を閉じる。そのままオーブンで焼き上げると、中が蒸し焼き状態になる。提供時にラップを開けると湯気と香りが一気に広がる演出だ。

下拵えした食材をラップの中に詰めておけば、列車内ではそれをオーブンで焼くだけで済む。保温性が高く、熱々で提供できること、揺れる電車での給仕にも向いている点、そして何より、開けた瞬間、湯気と香りに包まれるという仕掛け。列車での提供に、これほど適した料理があるだろうか、と嘆息せざるを得ない。

吉武さん
吉武さん

お客様には「列車だから仕方がないよね」とは絶対に思ってほしくない。列車である制限を感じさせないレベルに高めている自信はあります。それと、ここだけの話、食材原価がけっこう高い。最初に提示された時、正直「こんなに使っていいんだ」と感じたくらいです。その意味でもお得だと思いますよ。

「Sola」のDNAを観光列車に!

新メニューが提供された3月9日から遡ること、1カ月半。「ザ レールキッチンチクゴ」の厨房の責任者である國友駿氏は「Restaurant Sola」の厨房に立っていた。1カ月という長期間の研修のために西鉄から派遣されたのだ。

國友さん
國友さん

仕込みから調理まで、スタッフの皆さんと同じ業務に携わりました。吉武シェフの食材に対する向き合い方や、色の構成の仕方、すべてに意味がある盛り付けの手法など、少しでも自分のものにしたいと、とにかく「目で盗む」ように心がけました。

営業時のオペレーションも新鮮で刺激的だったという。

國友さん
國友さん

Solaではコース料理を提供していますが、スタートの時間は違うし、お客様の食べるスピードにも合わせるので、次の料理をベストのタイミングで給仕するために、全員が頭をフル回転させて連携しなければなりません。

これまで「ザ レールキッチンチクゴ」でも、乗客全てに同じクオリティの料理を提供するために様々な工夫を施してきた。ただ、厨房にいると、客席の状態を見ることができず、だからホールスタッフの情報提供に頼ってきた面もある。

國友さん
國友さん

でも、今は指示を待つのではなく、こちらから発信し、情報を取りにいくようにしています。SolaのDNAを「ザ レールキッチンチクゴ」に伝えるのが、私の使命ですから。

吉武シェフは「レストランでの1〜2日の研修は珍しくないが、1カ月というのはさすがに初めて」と微笑む。

吉武さん
吉武さん

料理はレシピ以外の要素が大きい。たとえば哲学やコンセプトを踏まえた上でつくるのとそうでないのとでは、仕上がりはまったく違ってきます。國友さんが観光列車で作っている料理、確実にレベルアップしていますよ。

春の食材満載の新コース

「ザ レールキッチン チクゴ」の春の新メニュー。名物シェフ3人による美しい料理の数々を見てみよう。

まずは六種類の「前菜」。3シェフがそれぞれ2品ずつ担当する。井上シェフは和を前面に。
「甘木古処鶏酒盗あんかけ」(写真 左手前)は甘木の鶏肉を使用。「博多茄子と博多万能葱味噌田楽」(写真 左奥)では、福岡産の野菜を使った。

畑シェフは得意とする野菜の旨みを引き出したメニューを。

「人参の蜜柑煮と柑橘」(写真 中央奥)には朝倉市のてらむら農園の人参を。「豆のサラダとムース」(写真 中央手前)に使った豆腐は、うきは市の重岡豆腐本舗のものだ。

そして、吉武シェフは魚と肉の旨みが楽しめる2品を用意。
「玄界灘のカナトフグの燻製 蕪のサラダとのクリーム」(写真 右奥)と、「ベーコンのクリームスープと新玉ねぎの冷製ポタージュ」(写真 右手前)だ。

魚料理「糸島真鯛のブイヤベース」は前述の通り、吉武シェフが担当。

続く肉料理は畑シェフによる「豚ロースカツレツのブラチョーレ」。ブラチョーレはイタリアの南部でよく食される料理で、薄い肉で作るロール巻きのこと。春メニューではうきはリバーワイルドの豚ロースをカツレツにしてたっぷりのトマトソースで煮込んだアレンジに。食べ応えのある一品だ。

デザートは井上シェフで「あまおうと桜のパンナコッタ」。桜の香りがするパンナコッタにあまおうと求肥で包んだアイスを添えた春らしい一品。通を唸らせる久留米・コーヒーカウンティのコーヒーとともに味わう。

3人3様で、味わいも香りも色もバラエティ豊かながら、不思議とまとまりのあるコース料理に仕上がっているのが心憎い。

あらためて「ザ レールキッチン チクゴ」とは?

2019年3月、西鉄初の観光列車として運行をスタートした「ザ レールキッチン チクゴ」。「LOCAL to TRAIN ~街を繋いできたレールは人をつなぐ時代へ~」をコンセプトに、筑後の豊かな田園風景を眺めながら、地域の食材を使った料理が楽しめる贅沢な列車だ。

外装はキッチンクロスをモチーフに美味しさと清潔感を表現。内装には八女の竹を使用した竹編みの天井、いぶし銀が美しい城島瓦、家具のまち大川の家具、アーティストが描く筑後川など、沿線の地域資源を活用してインテリアを構成している。「誰かの家に招かれたような」落ち着いた雰囲気が特徴だ。

運行日は木・金・土・日・祝日で、「アーリーランチ」と「レイトランチ」の2便が運行。「アーリーランチ」は、10時台に福岡(天神)駅を発車して花畑駅で折り返し、約2時間40分で福岡(天神)駅へ。「レイトランチ」では13時台に福岡(天神)駅を出発し、柳川駅を経由して大牟田駅へ到着する2時間40分ほどの片道切符である。

料金は1人8,800円(2023年5月末運行分まで。2023年6月1日運行分からは11,800円に改定)。定員は52席で、完全予約制。2カ月前からウェブサイトで予約ができる。流れる景色を背景に、ここでしか味わえない料理をぜひ楽しんでほしい。

▼予約はこちらから▼
https://www.railkitchen.jp/

  • 吉武広樹 (よしたけ・ひろき)
    吉武広樹 (よしたけ・ひろき)

    1980年、佐賀県伊万里市出身。調理師学校卒業後、「ラ・ロシェル」などで修行。 26歳のときに1年間で世界40か国近くを巡る放浪の旅に出る。帰国後、渡仏し半年間修業したのち、2009年にシンガポールで「HIROKI88@Infusion」を開業。 2011年にはパリに「Sola Paris」を開業し、1年3カ月でミシュラン1つ星を獲得。 2018年に福岡で「Restaurant Sola」をオープンした。

  • 國友駿 (くにとも・しゅん)
    國友駿 (くにとも・しゅん)

    福岡調理師専門学校を卒業後、2016年、西鉄プラザに入社。「ザ レールキッチンチクゴ」には2019年の立ち上げから参加。車両内のキッチンでの現場責任者を務める。

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