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再エネ電源開発で循環型の
まちづくりを実現。西鉄と
自然電力の協業で描く未来とは?

再エネ電源開発で循環型の まちづくりを実現。西鉄と 自然電力の協業で描く未来とは?

西鉄自然電力合同会社――昨年4月、国内外で再生可能エネルギー開発に取り組む自然電力と西鉄が設立した合弁会社が活発な動きを見せている。再エネ電源の開発にはじまりEVバスの導入まで、電力を通じて実現する新しい「まちづくり」の形が具体化しようとしている。

目次

急激に導入が進む再生可能エネルギー

近年、再生可能エネルギーの導入促進や電気代の高騰など、私たちを取り巻くエネルギーの状況は大きなうねりの中にある。日々さまざまなニュースがあるが、いったいどういうことだろうか。

2020年10月、菅首相によって表明された「2050年カーボンニュートラル宣言」により、国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針が固まった。再生可能エネルギーを最大限導入することが国の方針となったことにより、再エネ電力を生産する発電所を建設する「電源開発」が一層求められることが、確定した。 太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギー(再エネ)は、加速度的に導入が進み、2021年10月に閣議決定された第6 次エネルギー基本計画では、2030年度の電源構成に占める再エネの割合は2019年からの倍近くの、36~38%程度を目指すとしている。

出典:資源エネルギー庁 「2030年に向けた今後の再エネ政策」より作成

また、2023年4月に施行される改正省エネ法では、多くのエネルギーを使用する事業者に対し、太陽光・風力・原子力など、CO2を排出しないエネルギーの導入目標の提出が年1回求められるようになるなど、これまで以上に再生可能エネルギー導入の動きが加速している。

こういった再生可能エネルギーの導入は、電力会社から再エネ由来の電源を購入したり、既存の化石燃料由来の電源を購入していても、環境価値証書(※)を購入したりすることで達成することも可能だ。ほかには、電気の消費者自らが再エネ電源開発に直接関与する方法がある。それが、自社の敷地内外に太陽光などの再エネ発電設備を設置し、長期間にわたって再エネ電力を供給する「コーポレートPPA」だ。詳細は後述するが、西鉄では博多国際展示場&カンファレンスセンターや成田ロジスティクスセンターなど4施設でのプロジェクトが進行している。
※再エネに付随して生まれる環境に負担を与えない電気の価値を証書にして示したもの

  • 再生可能エネルギー導入の手法
  • コーポレートPPAの仕組み

家計を直撃する電気代の高騰

他にもエネルギーを取り巻く環境には様々な現象が影響する。たとえば、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発した燃料費の上昇や、猛暑によって電力需要が急増し、電力供給に余裕がなくなった、などの要因で巻き起こった電気代の大幅な高騰は家計に重くのしかかった。その一因となるのが、時々の原油や天然ガスの価格によって変動する、燃料調整費(※)の上昇だ。
※燃料調整費…石炭・原油・天然ガスの3か月間の価格にもとづいて、燃料費調整単価を算定し、電気料金に反映されている。

2020年度~2022年度の燃料調整費の推移(九州電力管内)

燃料調整費は2021年半ばから上昇を続け、一時1kWh当たり8円を越えるなど、一般家庭や企業にも大きなダメージを与えた。当然、電力の大需要家である西鉄グループも多大な影響を受けている。影響はそれだけではなく、2016年に実施された一般家庭向けの電気の小売り全面自由化によって生まれた、電力の小売り事業者である「新電力」の倒産や事業撤退にも波及した。
「新電力」はこれまでにない、リーズナブルな電力プランの提供や、ほかの事業と関連したプランの設定などで注目を集め、瞬く間に勢力を伸長していたが、電力の市場価格の高騰が続き、新電力の多くで、高額な電気代請求の発生や、電気を売れば売るほど赤字となる状況が生まれた。その結果、2022年度の決算では、赤字企業が半数を占める結果となるなど、その先行きは不透明だ。
この「新電力」と同じように考えられがちな「再エネ事業者」だが、その中身は全くの別物である。

西鉄グループにとって脱炭素化への貢献は大量の電気を使用する会社に課せられた、社会的責任だった。同時に、脱炭素化と安定価格での電力調達の観点で、社会的にも再エネ導入の機運が高まる中、グループ内にとどまらず、「九州の脱炭素への貢献」をビジョンに、再エネ開発に取り組むこととなった。こうしてエネルギー事業へ参画するに際して、福岡市に本社を置く自然電力株式会社と協業して合弁会社を設立したのである。

自然電力株式会社とは?

自然電力株式会社――太陽光・風力・小水力・バイオマスによる再生可能エネルギー発電所の開発・資金調達・アセットマネジメントを手掛ける成長企業だ。2019年からは自社開発のエネルギーマネジメントシステムによって、マイクログリッド(※)やVPP(※)の構築やEVのスマート充放電サービスなどを提供している。これまでグループとして国内外で1ギガワット以上の再生可能エネルギー発電事業に携わってきた。
※マイクログリッド…小規模電力網。エネルギー供給源と消費施設を一定の範囲でまとめて、エネルギーを地産地消する仕組みのこと。
※VPP…仮想発電所。地域に分散する蓄電池やEVなどの発電設備を管理し、効率的に電力を使用するシステムのこと。

自然電力㈱のプロジェクト実績

自然電力から西鉄自然電力に出向している尾田紘生(西鉄自然電力 事業開発ディレクター)は、自分たちの強みをこう語る。

尾田さん
尾田さん

私たちの強みのひとつは、発電だけでなく、蓄電池を活用したエネルギーマネジメントシステム(EMS)の取り組みです。EMSとは、蓄電池やEVを活用して再エネ電力を最適な充放電制御を行うシステムです。電力余剰時に充電し、不足時に放電することで、効率的な需給管理を可能とします。自然電力㈱はこのEMSについて、「Shizen Connect」というシステムを自社開発で製作していますが、これは同業他社でもあまりない取り組みです。ほかにも、AIを活用した発電予測と精度向上の取り組みも行っています。太陽光発電は日射量・温度等で発電量が変動する不安定なものです。自社で保有する太陽光発電所から得られる大量の発電データと気象データを、AIを活用したシステムで予測しています。

エネルギーマネジメントシステム「shizen connect」
AIを活用した発電予測と精度向上の取り組み

では、なぜ西鉄は自然電力と合同会社設立に至ったのか。過程を振り返る。 

西鉄の新領域事業開発部でエネルギー事業の開発の任にあたっていた花田茂吉(西鉄自然電力 事業統括ディレクター)は、プロジェクトの立ち上げをサポートしてくれる会社を探していた。

花田さん
花田さん

たまたま再エネに関するウェブ記事を眺めていたら、それが自然電力株式会社を取り扱った内容で。その記事を読み「ここだ!」と直感しました。佐賀県唐津市に太陽光設備と大型蓄電池を設置し独立した防災拠点をつくった、というものでしたが、地域に根ざす姿勢や、ほかにも再エネ事業で得た収益の一部を地域活性化のために還元していくという部分にも共感しました。記事を読み終えるやいなや、自然電力さんのホームページのお問合せフォームから連絡を取りました(笑)。

尾田さん
尾田さん

ちょうど、私たちは自社で発電した電力を直接事業者に届けるビジネスを主力にする方針を立てていて、そのためにはインフラを提供するような、地場の信用力のある企業と組むのが最善だと考えていました。ですので「西鉄」から連絡がきたときはびっくりしました(笑)。

「コンサルの提供だけならばやらない」

最初の面談の際、西鉄の意向を聞いた自然電力側は、「それならば共に!」と即答した。ただ、協業には一つだけ条件があった。それは「コンサルティングの提供だけならば、この話には乗らない」というものだった。

自然電力の意志は、つまり新会社の設立だ。互いにリスクを取り、だからリターンは分け合う。当初はアドバイスをもらえる企業を探していた西鉄だったが、対等なパートナーシップの構築が事業の成功可能性を最も高めると判断。同じビジョンを共有した両社は、固い握手を交わした。

西鉄は地域ネットワークを活用した情報提供や自社グループ施設への導入、遊休地の活用などを担い、自然電力は事業開発や施工・保守などのサービスを提供する。それぞれの強みを活かしながら、成功に向けて一体となって突き進む体制が、西鉄自然電力として結実したのだ。

合同会社は2社がそれぞれ50%を出資。2023年末までにまず6.5メガワットの発電所を開発すると掲げた。

花田さん
花田さん

西鉄グループは大量の電気を使っていて、それをどうやって自然に優しい電力に変えていくかが課題でした。そこで、まずは西鉄グループの脱炭素化がターゲットになりました。

  • 博多国際展示場&カンファレンスセンター
  • 成田ロジスティクスセンター
  • りんくうロジスティクスセンター
  • 九州メタル産業㈱倉庫

設立後、すぐに取り掛かったのが、西鉄グループが保有する施設の電源開発だ。今現在、博多国際展示場&カンファレンスセンター(福岡市博多区)、成田ロジスティクスセンター(千葉県山武郡)、りんくうロジスティクスセンター(大阪府泉佐野市)、九州メタル産業㈱倉庫(福岡県北九州市)の4施設でプロジェクトが進行している。

再エネ発電で八女市・うきは市と連携

同時に進めたのが、自治体へのアプローチだ。

現在、国は2050年カーボンニュートラルに向けて、「脱炭素先行地域」の創出を支援している。2025年度までに少なくとも100カ所の「脱炭素先行地域」を選定しサポートする。実現した先行地域から他地域への横展開が促される「脱炭素ドミノ」を起こすのが狙いだ。

この「脱炭素先行地域」を目指す自治体の多くは、民間企業のノウハウを導入しながらプランを進めている。そうした中、福岡県八女市が連携先として選んだのは西鉄自然電力だった。2022年11月2日、日創プロニティとともに、八女市と包括連携協定を締結。カーボンニュートラルやSDGsの推進による持続可能なまちづくりの実現を支援することが決まった。

また、うきは市は再エネの導入やレジリエンス強化のプロジェクトの推進に民間の力を活用すべく、「公共施設への再エネ供給、地域資源を活用した再エネ開発、エネルギーマネジメントに関する提案」を募集。これに対して西鉄自然電力は九州電力、 西日本プラント工業、 JFEエンジニアリング、 ランドブレインとともに5社で提案をまとめ、採択された。

尾田さん
尾田さん

私たちの強みを自然電力の立場から言えば、太陽光だけでなくバイオマスや小水力といった、他の発電手段も提案できること。また、精度の高いエネルギーマネジメントシステムを提供できること。とくに蓄電池を活用したマネジメントシステムは、敷地外または需要地から一定の距離を置いた場所(オフサイト)に設置された再エネ電源を、収益性を担保しながら運営していく上では極めて重要なファクターとなります。

花田さん
花田さん

西鉄の視点で語るならば、電源開発をきっかけにして、西鉄グループが持つ様々なソリューションを、自治体が抱える課題の解決に利用してもらえる点です。たとえばバスのEV化を進めたいという意向があれば、すぐに支援することができます。もうひとつ加えるならば、これまでずっと地域と共にある西鉄ですから、絶対に逃げ出さない。その安心感は魅力のひとつになっていると思います。

自治体との連携に関しては2025年までに、八女市、うきは市を含む5つの自治体と協働し再エネの地産地消に取り組むのが目標だ。

西鉄グループだからこそ描ける夢

西鉄自然電力は中期的な目標として2025年までに30メガワットの再生可能エネルギー発電設備の完工を目指している。スタートアップとして捉えれば野心的な目標とも言えるが、一方で西鉄グループ全体の電力使用量を太陽光発電で賄おうとすると約300メガワットの規模が必要。そこには到底及ばない。

花田さん
花田さん

現時点では「夢みたいな話」と片付けられるでしょうが、社内では、「2050年までには自分たちが使っているぶんの発電に関わろう」と話しています。でも、それくらいの気概を持って取り組み、実績を積まないと、九州の脱炭素化に貢献しているとは言えない。

もちろん、温室効果ガスを排出する運輸部門を持つ西鉄にとって、自ら脱炭素電源を持つことはブランド価値の向上につながるし、電力調達の選択肢を増やすという点で、すでに経営の安定化にもつながっている。

一方で2050年に向けて、多くの企業が「再エネ100%」を目指す中、現在は巨大なチャンスのまっただ中だ。グループの脱炭素化は当然のこととして、ノウハウを蓄積して法人向けの導入を支援することで再エネ普及に貢献し、結果として西鉄本体の想像を超える成長を果たす。西鉄自然電力のメンバーは、そうした「野心」を共有している。

もうひとつ、魅力的なビジョンはEVバスの「蓄電池」としての活用だ。蓄電池を活用し、蓄電、放電を適切に調整するエネルギーマネジメントシステムは、西鉄自然電力の強みの一つだ。

レトロフィットバス
尾田さん
尾田さん

EVバスが搭載するバッテリーは、すなわち蓄電池です。夜間や走行していない時に、そのバッテリーを蓄電、放電に活用することができれば……。ビジネスとしてもおもしろいし、言わば「動く蓄電池」ですから地域のレジリエンスの強化にもなる。これは、約2500台のバスを保有している西鉄だからこそ描ける夢だと言えます。

西鉄が立ち上げたエネルギー事業は、今後、どれくらいの広がりを見せるのか。そのキーワードはやはり「地域」だろう。

対象が自治体であれ、企業であれ、西鉄自然電力が選ばれ続けるならば、そこにはきっと「地域の未来ビジョン」があるはずだ。エネルギーの分野でも今、新しい形の「西鉄のまちづくり」が始まっているのである。

左から木原雅文さん、梅岡亘さん、花田茂吉さん、尾田紘生さん、松本紘治さん(いずれも西鉄自然電力合同会社)
  • 尾田 紘生 さん
    尾田 紘生 さん

    西鉄自然電力合同会社
    事業開発ディレクター

    2014年4月自然電力入社以来、太陽光発電所の事業開発に従事し、現在は西日本鉄道様と共同で設立した西鉄自然電力合同会社にて、オンサイト/オフサイトPPA事業の推進に従事。

  • 花田 茂吉 さん
    花田 茂吉 さん

    西日本鉄道株式会社 新領域事業開発部 課長
    西鉄自然電力合同会社 事業統括ディレクター

    交通系ICカードnimocaの事業開発・運営やスタートアップ企業との連携など、長年新規事業分野に従事。現在はエネルギー事業の立ち上げを担当。

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