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西鉄がスタートアップと
積極的に協業する理由とは?
新領域への挑戦で拓く未来

西鉄がスタートアップと 積極的に協業する理由とは? 新領域への挑戦で拓く未来

2022年11月10日、西日本鉄道は2035年度を目標とする新たな長期ビジョン「まち夢ビジョン2035」を発表。その中の「新領域への挑戦」という項目には「環境資源」「農水産」「ウェルネス」「地域ソリューション」の4領域が挙げられている。この野心的なチャレンジに欠かせないのが新興企業「スタートアップ」の存在だ。

短期間での急成長を目指すスタートアップ企業とのアライアンスは、多くの大企業にとって喫緊のテーマとなっている。

これからのニーズを察知するセンス、時代の動きに即座に対応するスピード感、そして何より斬新なアイデア。新規事業を生み出すのに、こうした特徴を持ったスタートアップの提携は、大きなメリットとなる。

一方でスタートアップ企業にとっても大企業の資本力とネームバリューは魅力だ。大企業の持つアセットをうまく利用できれば、自分たちのプロダクトを大きく展開できる可能性が広がる。大企業の持つ豊富な経営資源の活用は、事業価値を一気に向上させるチャンスとなるのだ。

目次

スタートアップとの協業で生まれる未来の事業

2019年、西鉄は福岡を拠点に活動するベンチャーキャピタルGxPartnersと㈱FFGベンチャービジネスパートナーズが設立した「九州オープンイノベーションファンド」に出資。スタートアップ企業との接点を作ってきた。担当業務の一つとしてスタートアップとの事業提携に向けた動きを続けている 「新領域事業開発部」の平野真孝係長はその理由をこう説明する。

平野さん
平野さん

最先端を進んでいるスタートアップとの提携、あるいはM&Aといった選択肢は欠かせません。時代の変化のスピードはどんどん速くなり、また『まったく想定していなかった事態』が次々と起こっているからです。そうした中で未来の西鉄の一角を担う新しい事業の創出を目指すとき、ゼロから手をつけていたのでは遅い。圧倒的な成長力がスタートアップの魅力です。

スタートアップを問題解決の選択肢に

スタートアップとの協業――多くの大企業にとって欠かせないファクターとなってはいるが、実際に進めていくのは簡単ではない。まずは「社内の理解」という壁だ。

平野さん
平野さん

苦悩しながら課題に取り組んでいる社員に対して、単に『スタートアップを紹介しますよ』と言っても、なかなか受け入れてもらえない実情も理解できます。私自身、事業部門で業務に従事していた経験から、その部門で起こる問題は当然ながら自部門が持ち合わせる知見やネットワークを前提に解決策を考えると思います。自分たちで考えていくプロセスとそこから得られる達成感が各部門のプライドであり、モチベーションの源泉となるからです。

各事業部門の問題解決能力の高さは西鉄の強みでもある。それを大切にしながらも、「解決策の幅としてのスタートアップ」という認知を広めなければならない。そのツールのひとつとして、新領域事業開発部では社内イントラネット『西鉄Co+Lab(コラボ)ネット』にスタートアップ関連の注目のニュースや、自らが出会ったスタートアップの情報などを随時アップし、共有を図っている。

西鉄Co+Lab(コラボ)ネット
平野さん
平野さん

まずは社内に知ってもらうことから。地道な活動ですが、スタートアップを『検討の余地』に入れてもらわなければなりません。スタートアップ経営者には、しっかりとした志と、社会課題に対する真摯な姿勢を持った人が多い。さまざまな事業を通して、街と人に関わる西鉄の社員は共感できるポイントがたくさんあるはずです。

西鉄からスタートアップへPR

一方、西鉄と協業したいというスタートアップ企業は後を絶たない。直接のつながりとしては西鉄が出資している「九州オープンイノベーションファンド」を介して多くのスタートアップと交流してきた上、福岡のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(FGN)」との関わりも深い。もちろん福岡だけでなく、オファーは全国・海外から寄せられている。

平野さん
平野さん

紹介や直接のアプローチは毎週のようにあります。しかも国内にとどまりません。最近はシンガポールや台湾などの海外スタートアップから声がかかることも多いですね。

西鉄の持つさまざまなアセットは、スタートアップにとって大きな魅力だろう。ただ、規模と知名度にあぐらをかいているわけではない。西鉄が認識している課題をいかに言語化して発信し、スタートアップに伝えていくか。そのためには対話が命だ。

平野さん
平野さん

西鉄の存在を知ってもらうために、出資先ファンドを通じて、国内イベントをはじめ、シンガポールなどの海外イベントに赴いています。現地のスタートアップと交流を図るなど、フットワークは軽い。自分たちから足を運んでPRしていく姿勢は、これからも貫いていきます。
デジタル化が進む傍らで、直に伝える価値はさらに高まっていくに違いないからです。

北九州市のEVベンチャー企業に資本参加

ネットワークを広げていく中で、実績も出てきた。たとえば西鉄が運営する水族館『マリンワールド』のデジタルチケットは、スタートアップとの協業で実装したサービスだ。

マリンワールドのデジタルチケット

ただ、新領域事業開発部が見ている世界は、「スタートアップのプロダクトを導入する」というレベルにとどまるものではない。2022年4月には日本初の商用EVの量産を目指すスタートアップ企業「㈱EVモーターズ・ジャパン(福岡県・北九州市)」に出資した。

平野さん
平野さん

運輸系の事業はもちろん、リユースバッテリー、フレキシブルソーラーパネルなどを活用したエネルギー領域やEV バスのメンテナンス事業でも相乗効果が望めると期待できます。西鉄が持っている複数の業務や技術とのシナジーの創出と、エネルギーマネジメントという世の中の潮流を鑑みての提携なのです。

これから具体的にどのようなプロジェクトが進んでいくのか。とくにエネルギーに関して、西鉄の新規事業の創出につながっていくのか注目だ。

西鉄とスタートアップが協業した未来図を発信したい

西鉄の掲げる長期ビジョンを実現していくために、スタートアップとの協業はもはや「待ったなし」の状況だとも言える。

平野さん
平野さん

サービスの導入や業務提携にとどまらず、出資、そして究極はM&Aも視野に入っています。昨年発表されたビジョンによって、西鉄が何を中心に進めていくのかが明確になったことで、私たちも動きやすくなったし、スタートアップ側もイメージがしやすくなったはずです。2023年は目に見えるカタチで、世の中に発信していきたい。

スタートアップとの協業で西鉄が見せてくれる未来。それはどんなものなのだろうか。

異質な才能、アイデア、感性と出会い、かつ志を同じくして現況に立ち向かうことで、私たちが想像さえしていないレベルで、人を、街を、地域を、世の中を、西鉄とスタートアップが変える可能性は十分にある。改革者としての西鉄の、新しい動きを心待ちにしよう。

  • 平野 真孝 さん
    平野 真孝 さん

    西日本鉄道株式会社
    新領域事業開発部 係長

    1997年、鉄道乗務員(車掌)として入社。その後、運転士を経て、2007年に本社鉄道事業本部へ配属。
    2021年、現在所属している新領域事業開発部へ異動。
    それまでは未知の領域だったスタートアップ企業との取り組みをはじめ、ファンド等への出資業務を担当。

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