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再エネからスマート農業まで!幅広い西鉄の新領域事業とは長期ビジョン連載記事 vol.4

再エネからスマート農業まで! 幅広い西鉄の新領域事業とは 長期ビジョン連載記事 vol.4

2022年11月に公表された西鉄の長期ビジョン「まち夢ビジョン2035」。2050年から逆算し、2035年までに西鉄が、さまざまな事業とともにどのように歩んでいくのかを記した指針である。今回は西鉄の「新領域」を担う、新領域事業開発部の平野真孝さんに、西鉄の目指す新領域の事業について話を聞いた。

目次

「まち夢ビジョン2035」とは?

西鉄が定めた「まち夢ビジョン2035」は、2035年よりさらに先の2050年という未来を見据えてつくられた。2050年からのバックキャストで、2035年という目的地を描いている。

「まち夢ビジョン2035」の中で「新領域事業」が担う役割は重要なものだ。現在の西鉄グループにない、次なる事業の一角となりうる新しい領域でのビジネスの創出を行っているからである。

まち夢ビジョン2035の中において、新領域事業では「『出逢いをつくり、期待をはこぶ』新領域への挑戦」として、環境資源、農水産、ウェルネス、地域ソリューションという4つの領域に取り組む。

いったい、西鉄が展開する新領域事業によって、2035年の未来はどうなるのだろうか。新領域事業開発部の平野真孝さんに話を聞いた。

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  • 平野 真孝 さん
    平野 真孝 さん

    新領域事業開発部 係長
    天神大牟田線の車掌として、1997年入社。その後運転士となり、約10年間乗務員として勤務。2007年より本社勤務となり、電車の保安関係を担当する部署でダイヤグラムを作成するほか、計画担当として事業戦略を策定する部署を経験。本社の鉄道事業に約24年間携わり、2021年10月に現在の新領域事業開発部へ異動。

新領域事業によって成長してきた西鉄

新領域事業については、環境資源、農水産、ウェルネス、地域ソリューションの4つの領域を掲げているとのことですが、想像以上に幅が広く感じます。

平野さん
平野さん

そうですよね。「西鉄の新領域事業」と聞くと、一見、最近の取り組みのように聞こえますが、決してそんなことはないんですよ。

以前から西鉄は新領域事業に取り組んできたということですか。

平野さん
平野さん

そうです。例えば、国際物流事業や西鉄旅行、西鉄ストアなども1940年代以降に新領域事業として誕生して、現在まで続いているんです。

なるほど。西鉄は、新領域事業によって成長を遂げてきた企業でもあるわけですね。

平野さん
平野さん

そう思います。ただ、昨今これまでとは全く異なる環境の変化が起きました。それがCOVID-19ですよね。これまでは想像もしなかった外部環境の激変がごく僅かな期間で現実となったんです。

これほどまでに人の移動が制限される事態はなかったですからね。

平野さん
平野さん

当時は、出口のないトンネルに迷い込んだという心境でした。あれから3年余りが経過しましたが、この期間で私たちは何を学んだのか。その答えの一つが新領域への挑戦ではないかと考えています。

その答えが、環境資源、農水産、ウェルネス、地域ソリューションという4つの領域に詰まっているんですね。

平野さん
平野さん

これらの新領域で新しいビジネスを生み出す、他の事業者さまとのアライアンスあるいは資本提携、M&Aなどの協業を視野に進めていきたいと考えております。

「10年で激変する世界」に対応するために

「まち夢ビジョン2035」を策定するに当たり、2050年はどのような未来になり、そこからどういう姿を目指すべきだと考えましたか。

平野さん
平野さん

2050年はカーボンニュートラルの達成の年ということを考えました。温室効果ガスの排出が実質ゼロにならなければならず、これからの取り組みがまさに正念場になっていきます。

2022年の段階では、世界の温室効果ガス排出量は368億トンとなり、史上最高値を記録しています。伸び率は下がってきていますが、まだまだゼロには遠いですね。

平野さん
平野さん

そうですね。つまり、これからは社会構造や環境がさらに激変していくということだと捉えています。これからは、皆さんが毎日スマホを充電するように、EVをあちらこちらで充電するようになるのではないかと思っています。

ええっ、そこまでの変化が起きますかね。

平野さん
平野さん

たとえば、スマホって10年程度で普及し、それまでの常識を覆しましたよね。10年ほどの期間があれば、いろんな社会構造や環境が激変していくということだと思います。

たしかに。10年程度で誰もがスマホを持ち、スマホありきの世界になりましたね。10年で世界は大きく変わるのか……。

平野さん
平野さん

少し、スマホの事例は極端かもしれませんが、大事なことは課題や不安から逃げないことだと思います。「こんなことがしたい」という創造力と責任感をもち、それを主張していくことが必要ですね。

西鉄が取り組む再生可能エネルギー開発

それでは、新領域事業が掲げている4つの領域について、お話を聞かせてください。まず、環境資源については、どのような課題があると考えていますか。

平野さん
平野さん

最近は、数年数十年に一度の大雨とか30℃を優に超える日々が続いたり、これまでとは明らかに違う天候が続いていますね。この気象変動の一因であるとされる、温室効果ガスの削減が重要だと思います。

温室効果ガスの削減に向けて、どのような取り組みを行っていますか。

平野さん
平野さん

2022年4月に九州の脱炭素化に貢献するために、西鉄自然電力合同会社を設立しました。西鉄沿線を中心とした企業や自治体の皆さまとの連携による再生可能エネルギーの電源開発を進めています。

再生可能エネルギー開発のために、合同会社を立ち上げていたとは。具体的にはどのようなことをされているんですか。

平野さん
平野さん

新たな取り組みでいうと、現在、系統用蓄電池事業に取り組んでいます。太陽光発電を例にとると、天気が安定した日中をメインに太陽光で発電を行い、これを蓄電池に溜めておくことで、夜間や天候の悪い時にでも使えるという利点があります。

太陽光発電は蓄電池との併用で、さらに便利になるんですね。

平野さん
平野さん

他には、ガソリン車がEV車になったときに、ガソリンスタンドで給油するように充電しなければならなくなります。そのような環境を総合的にマネジメントする準備もしています。

運輸事業を営む、西鉄らしいアプローチで、こちらも期待できそうです。

西鉄がいちごにトマト!?スマート農業への挑戦

次は「農水産」についてです。西鉄が農水産というのは、あまりイメージが湧かないのですが……。どのような課題を抱えていると考えていますか。

平野さん
平野さん

これからの日本、世界を創造していく中で、食糧不足の懸念があります。

そうなんですか?普段暮らしている中で「食糧不足になるかも」という不安を感じたことはないんですが……。

平野さん
平野さん

現代の日本で生活する上では感じにくいと思います。ただ、今後世界では爆発的な人口増が予想されています。魚・肉・野菜・穀物など、現在では当たり前のようにある食材ですが、決して今後も当たり前であると約束されたものではないのです。

なるほど。未来の食糧はちゃんと準備していなければ、確保できないんですね。そんな未来を見据え、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

平野さん
平野さん

2015年にNJアグリサポートという会社を立ち上げました。いちごとトマトの生産を行っております。今後は、農産品目についても新たな品目に挑戦したいですし、水産領域でも、何かしら挑戦ができたらというふうに考えております。

西鉄がいちごにトマト……。さらには水産領域ですか。

平野さん
平野さん

ただ、これらを検討していくうえで、人の手に頼った生産方法では先行きが厳しいことは明らかです。そこで、既存事業者様やスタートアップの皆様の優れた技術を活用させていただき、新しいビジネスモデルで臨んでいかなくてはなりません。

優れた技術を使って、いちごやトマトを生産するって、どのようなことをするんでしょうか?

平野さん
平野さん

現在、人の手でやっている作業を機械化あるいはDX化していく必要があると考えています。「スマート農業」と呼ばれるものです。生産体制の効率を向上させます。

農家さんの作業の中で、可能な部分を機械化・DX化することで、持続可能な管理体制が構築できるようになるということですね。

平野さん
平野さん

この事業を成功させることで、食の安定供給に貢献できるようになります。さらには作業負担の軽減による就農者の確保など、様々な社会課題解決に貢献できるものと考えています。

日本の食糧自給率は低いですからね。福岡県をはじめ、九州の美味しい食材を残し、発信し続けるためにも重要な取り組みですね。

ウェルネスの鍵を握る「トータルケア」

3つ目の「ウェルネス」についてもお聞かせください。なぜ「ウェルネス」の事業に取り組もうと考えられたのでしょうか。

平野さん
平野さん

日本の大きな課題の一つに「高齢化」が挙げられます。その中でも、「平均寿命」「健康寿命」の二つに着目して検討しました。健康上の問題がなく日常の制限受けずに生活できる「健康寿命」をいかに延ばすかがポイントになっています。

重要な問題ですね。どのような取り組みを行っているのでしょうか。

平野さん
平野さん

衣食住、この中で潜在的な事業機会というのがたくさんあるんじゃないかと考え、「トータルケア」を掲げて取り組んでおります。

「トータルケア」というと、具体的に言うとどのようなことでしょうか。

平野さん
平野さん

たとえば「何となく今日寝不足だな」とか「ちょっと調子が悪いな」というようなところを、日常的にモニタリングし、その時の状態に合った的確な提案ができればすごく便利だなと考えています。

それは便利そうですね。家族が確認できるのもいいし、自分の健康を客観視できるのもいいですね。

平野さん
平野さん

そうすれば、もっと健康に笑顔で過ごせる日々が増えるんじゃないかという、着想です。

自分自身の健康状態に合った、食事や運動、あるいは睡眠などが提案されれば、より自分らしく豊かな生活が送れそうです。

地域資源を活かして新しい価値を創造する

最後に「地域ソリューション」に関しては、どのようなことを考えているのでしょうか。

平野さん
平野さん

ローカルな場所でも、人が集まれるような取り組みを行いたいと思っています。

中心部ではない小学校で「子どもが減っている」と実感することがあります。重要な問題ですね。

平野さん
平野さん

「仕組・場所・賑わい・仕事」。これらを関係機関の皆さまとつくり上げていけば、もっと地域が盛り上がっていくのではないかと考えています。

具体的にはどのような取り組みを行おうと、考えているのでしょうか。

平野さん
平野さん

それぞれの地域には、それぞれの素晴らしい環境・地域資源があります。まずは、それらの魅力を最大限発揮することで、新しい価値を創造していきたいです。そのためには、当社だけでなく、自治体様等との連携も必要だと考えています。

いいですね。中心部に人が集まる一方で、ローカルな場所でも過ごしやすい時代に移り変わりつつあると感じます。

平野さん
平野さん

そうですね。ローカルな場所で生活することが特段不自由なものではなくなってくると思います。例えば子どもが遊んでいる傍らで、ワーケーションをする親御さんがいたり、そのエリアの特産品が食べられるレストランがあったり、むしろ居心地がよく、より豊かなものになるようにしたいです。

新領域事業は「新しい人との出逢いの場」

「まち夢ビジョン2035」の実現に向けて、新領域事業に取り組む中で印象に残っていることはありますか。

平野さん
平野さん

「まち夢ビジョン2035」を見て、外部の方々からの反応が予想以上だったなっていうふうに感じています。まち夢ビジョンを見て連絡をいただく機会が増えましたし、外部の方に「私たちはこんなビジョンを描いています」と説明するのにも役立っています。

「まち夢ビジョン2035」があることで、西鉄が考えている未来図を明確に示すことができるんですね。

平野さん
平野さん

何よりも部内のメンバーが目指す方向性として根付きつつあります。このビジョンに沿って、私達は覚悟をもって臨まなくてはなりません。

今回お話をうかがってみて、「新領域事業」の想像以上の幅広さに驚きました。平野さんは、どのような想いで「新領域事業」に取り組んでいますか。

平野さん
平野さん

私にとって新領域とは、新しいビジネスフィールドである以上に、新しい人との出逢いの場だと思っております。一喜一憂せずに、内なる闘志を持って、臨んでいきたいですね。

今回は貴重なお話をありがとうございました!

2035年、そして、2050年。きっと、日本や世界の状況は大きく変わっているだろう。

私たちは様々な環境変化が起きたとしても、知恵を振り絞り、それらを乗り越えていかなければならない。しかし、乗り越える瞬間も笑顔でいたいものである。

西鉄の新領域事業が掲げる、環境資源、農水産、ウェルネス、地域ソリューションという4つの軸は私たちが未来の困難をしなやかに乗り越えていくために重要なものだ。
「まち夢ビジョン2035」が目指す、「居心地良い幸福感あふれる社会」が実現するために新領域事業は大きな役割を担っている。これからの平野さんが切り拓く「新領域」に注目したい。

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