2022年11月に公表された西鉄の長期ビジョン「まち夢ビジョン2035」。2050年から逆算して、2035年までに多岐にわたる事業を展開する西鉄がどのように歩んでいくのかを記した指針である。今回は「モビリティ」を担う自動車事業本部計画部の角銅理帆さんに、未来のモビリティサービスについて話を聞いた。
西鉄が定めた「まち夢ビジョン2035」は、2050年の未来のためにつくられたものだ。2050年からのバックキャストで、2035年の目的地を描いている。
数ある事業の中でも、公共交通機関を担う西鉄だからこその事業と言える「モビリティ」。現在注目されているのは、AIを活用したオンデマンドバス「のるーと」や、マルチモーダルモビリティサービス「my route(マイルート)」だ。
これからの時代に合う公共交通の姿を見据える中で、それぞれの地域に寄り添ったモビリティサービスは必須だ。従来のバスや鉄道だけでない、新たなソリューションとして活躍することだろう。
いったい、モビリティサービスの未来はどうなるのか。自動車事業本部計画部の角銅理帆さんに話を聞いた。
自動車事業本部計画部
グループ事業担当
入社直後から、自動車事業本部にてバス運転士の採用や市内路線バスのダイヤの作成に従事。「まち夢ビジョン2035」作成当時は、経営企画部に所属。「まち夢ビジョン2035」策定初期の事務局メンバーの一人。
バスや電車ではなく、「モビリティサービス」という大きな単位でビジョンを策定されていますね。
今までは鉄道やバス、タクシーなど、それぞれの分野で事業を考えていました。ただ、持続可能なモビリティネットワークという点を考えると、総合的な視野が必要なので、今回は一括りにして、ビジョンを作りました。
「まち夢ビジョン2035」は、2050年からのバックキャストで将来起こりうる未来像から策定されましたよね。メンバー間で、2050年の未来について どのような未来になると描かれましたか?
「2050年って本当に想像できないような未来になるんじゃないかな」という話になりました。たとえば、空飛ぶモビリティとか、宇宙とか、さらに西鉄の行動範囲が広がっていくのかなという話もみんなでしたりしましたね。
空の彼方、宇宙移動ですか!
新たなサービスとして西鉄グループで「空飛ぶモビリティ」を運行しているかもしれないね、というようなこともメンバーと話しました。笑
また、技術のさらなる進歩によって、これから2050年までの未来の生活空間はリアルだけではなくバーチャル空間まで広がるのではないかという話をしました。できることが増え、より個人の選択肢が広がっていくのではと。
なるほど。そうなると、どのようなサービスが求められるようになると思いますか?
まずは個人の選択肢が広がることで、各個人への細やかな対応が求められると思います。そのため、パーソナライズ化されたサービスが求められるのではないかと。
確かに、個人の選択肢が広がった分だけ、対応できるサービスが存在していないといけないですね。
また、リアル世界だからこその価値があるかどうかが問われるようになると思います。
たしかに。リアル世界の中では「バーチャルでいいじゃん」と思われるようなものは、発展しなくなるでしょうね。リアル世界の移動を担う「モビリティ」にとっては、重要な課題だと思います。
これまでのモビリティは定時定路線かつ一度に多くのお客さまをお運びすることが求められてきました。リアル世界では移動の価値を生み出すために、従来の形にこだわらない交通体系ができたり、駅やバス停が地域の拠点になったり、まちづくりを意識した地域との連携がより重要なミッションとなっていることと思います。
モビリティが単に移動するだけのものではなく、バーチャルではないからこその価値を生み出す源になるというのは、ワクワクしますね。2050年まで先の未来となると、モビリティの形態も変わっているかもしれませんね。
「まち夢ビジョン2035」では、「安全・あんしんで持続可能な次世代モビリティサービスの実現」を目標にされています。現在はどのような課題があると思いますか。
モビリティの課題は、例えば同じ福岡県の中でも地域によってそれぞれ違うと思います。地域によって人も暮らし方も違うので、それぞれの課題を把握し、対応が求められます。
たしかに、例を挙げて福岡県内でみても一概に言うことはできませんよね……。地域ごとに課題は異なりますし、同じ市内でも各地域で交通の状況は違いますし。
そういった、多様化する移動へのニーズに、どれだけ答えられるかが重要です。それぞれの地域で、誰がどのようにどういう交通機関を使っていくことがベストなのか。そこを考えていく必要があります。
それは大きな課題ですね。
これは西鉄グループだけではなく、官・民・地域 の皆さんとの連携が必要です。協力体制のもと、モビリティネットワークを作っていくことが未来のために重要だと考えています。
官・民・地域と連携するという前提で、どのような取り組みが重要だと思いますか。
モビリティサービスに、新しい技術を組み合わせて活用することが重要かと思います。外部パートナーとも共創して、新しいモビリティサービスを提供していきたいですね。
モビリティサービスの中でも、AIオンデマンドバス「のるーと」は地域に密着したサービスの一つだと思います。注目もされていますよね。
リアルタイムで入ってくる予約に対して、AIが効率的なルートを示し、運転士の方がそのルートを運行していくというのを実際に体感して、驚きました。「AIの技術はすごいなぁ」と感じたことを覚えています。
「のるーと」もリアル世界ならではの価値を生み出しているのでしょうか。
小型モビリティだからこそかもしれないんですけど、いつも利用されている方々のコミュニティーが出来上がっていると感じました。「あ、久しぶり」とか「⚪⚪さん元気?」と会話する光景が見られました。
最先端のモビリティの内部で、そんなリアルなやり取りの拠点になっているというのは面白いですね。
新しい技術ではありますが「コミュニティを作る」という目的については、大切にしていきたいことですからね。
確かに、新たな技術を使っていたとしても、使うのはこれまでと同じで、私たちですからね。使いにくいと意味がないですもんね。
さらに、自動運転バスへの実現に向けた、先端技術を活用した取り組みも検討しています。
自動運転で目的地まで運んでくれるんですか。それはすごい。
実際に福岡空港の国内線と国際線を結ぶところで実証実験を行ったりしているところです。
まさかもう実証実験を行っているレベルだとは。こういった新たなモビリティサービスへ挑戦するときに、大切に考えていることは何ですか。
「誰にとっても使いやすいモビリティサービスを提供する」ことは、重要な役割だと考えています。例えば現在実証実験を行っている自動運転バス についても、乗り心地が悪いことはなく、普段乗っているバスと変わらないような感覚で乗車できるようです。
もうすぐそこまで、自動運転の未来は来ているんですね。
また、まちづくりと連携をした駅の拠点化というところが、これから重要になってくるのではないかと思います。
「駅の拠点化」においても、新たな技術は活かされるのでしょうか。
そうですね。AIロボを使った次世代ステーションであったり、移動+
αのサービスが提供できるとよいと考えています。
AIロボを使った次世代ステーション。なんだかすごそう。
「多くの人々が集まるところ」という価値を活かした駅作りができるとよいと考えています。
新たな技術を活用する話はワクワクしますね。ただ技術を活かして終わりではなく、暮らしに根付くといいなと思います。
これからの九州エリアでモビリティサービスが担う役割は、どのようなものでしょうか。
まず、九州各地における、観光客の集客は重要な課題だと思います。
具体的に検討している集客施策はありますか?
各空港とのネットワークの拡充ですね。各空港との航空ネットワークの拡充や福岡空港の発着回数の増加を行い、九州の玄関口としての機能を強化したいです。
発着回数の増加といった、利便性に関わることも集客においては重要な観点ですね。
そうですね。観光客の方々と、地域に居住する方々の交通利便性を向上させることは、モビリティサービスのベースとなる重要な役割です。
地域に居住する方々の交通利便性を向上するために考えている取り組みはありますか?
電車やバスなどの移動サービスをシームレスに組み合わせ、検索、予約、決済等一括で行うサービスである「MaaS」の取り組みを強化したいと考えています。
「MaaS」の取り組みは、さらに交通の利便性が格段に上がりそうで、楽しみですね。九州内での取り組みについてお尋ねしましたが、全国や海外での取り組みについて、具体策はありますか?
今後は九州のみならず全国や海外へ、これまで培ってきたモビリティに関するノウハウをパッケージ化して、他のモビリティ事業者へ展開したいと考えています。さらに、西鉄グループの住宅開発などと連携することで、持続可能なまちづくりにもチャレンジしたいです。
全国・海外に対してもビジョンがあるんですね。
全国・海外で挑戦をしたことをさらに磨き上げて、福岡へ持ち帰りたいですね。そうすることで、好循環が生み出せると思います。
人の移動がまちに与える影響は大きいので、ノウハウを展開することで、きっとまちづくりにもいい影響があるでしょうね。
人の移動は、まちに賑わいを持たせるために重要だと思います。一つ公共交通機関ができ、新たな人の移動が生まれるだけで、その場所への影響力は大きいと思います。
「まち夢ビジョン2035」では、「ゼロカーボンシティ」の実現に貢献したいというお考えもあるそうですね。2050年までの間に、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするために、どのような取り組みで貢献したいと考えていますか。
EVバスや燃料電池、蓄電池車両の推進による車両の脱炭素化に取り組んでいきたいです。今、実現しているものとして、外部パートナーの方と共同で開発をした、レトロフィットバスがあります
レトロフィットバスとは、どのようなものでしょうか?
既存のディーゼルバスのエンジン部分を撤去して、その中にバッテリーやモーターを搭載した、電気バスです。
中古のバスを電気バスに変えているんですね。すごい。
通常のディーゼルバスに比べて、CO2の排出量がとても少ないんです。今後のさらなる普及が期待されています。
未来について考えた時、西鉄にはまだまだ可能性がありそうですね。
そうですね。私自身、たくさんのメンバーと話をして考えていたんですけど……。「まち夢ビジョン2035」を通じて、最も感じたのは「西鉄グループでやれることって、すごくたくさんあるな」ということ です。
角銅さんは「まち夢ビジョン2035」を通じて、西鉄グループが社会にどのような貢献ができると考えていますか。
「まち夢ビジョン2035」では、「居心地よい 幸福感 あふれる社会」の実現を目指しています。夢物語のようですが、本当に実現できると考えています。
未来のモビリティに、想像以上に幅広い可能性があることが知れて、楽しみになりました。本日は貴重なお話をありがとうございました!
「居心地よい 幸福感あふれる社会」
口にするのは簡単だが、実現は容易ではない。しかし、さまざまなグループ会社を持つ西鉄なら。西鉄グループが、それぞれの役割を果たし、力を最大化できたなら。実現は夢物語ではなくなるはずだ。
まちの賑わいに直接的な影響を与える「人の移動」を支えるモビリティにできることはたくさんある。そこに新しい技術が加わり、一人一人に寄り添った手厚いサービスが構築できたなら。可能性はもっと広がるに違いない。
新たなチャレンジで積み重ねたノウハウは九州、日本に止まらず、世界へと広がっていく。そんな未来を想像すると、ワクワクしてくる。2035年の西鉄のモビリティを引っ張る、角銅さんの今後のチャレンジに注目だ。