西鉄ホテルグループでは、国内外で4ブランド・約20軒のホテルを展開しており、2023年以降に「西鉄ホテルクルーム博多祇園(仮称)」(福岡市・祇園町)、「ソラリア西鉄ホテル台北西門(タイペイシメン)(仮称)」(台湾・台北)、「タイ王国・バンコク2号店ホテル」の3軒が新規オープン予定。開業に向けての準備が着々と進んでいる。第一線で開発に携わる開発担当の係長・鬼武さんと計画担当の堀江さんに、ホテル開発の仕事についてインタビューした。
西日本鉄道株式会社
ホテル事業部 開発担当 係長
2013年、西日本鉄道株式会社に入社。ホテル事業部営業統括課として、「西鉄ホテルクルーム博多」の立ち上げなどを担当した後、開発担当としてソラリア釜山の立ち上げや台湾出店の契約を担当。2019年からの2年間は、西鉄ホテルズに出向して「西鉄ホテルクルーム博多」で主任として勤務、その後西鉄ホテルズ本社で営業戦略を担当した後、2021年から開発担当。
西日本鉄道株式会社
ホテル事業部 計画担当
2017年、西日本鉄道株式会社に入社。計画担当として、決算や中期経営計画関連の業務に従事したほか、開発担当として2019年には「西鉄ホテルクルーム名古屋」の開業準備を担当した。
西鉄ホテルグループでは、福岡・九州を中心に国内・海外で約20軒のホテルを運営する西鉄。現在は「西鉄グランドホテル」「ソラリア西鉄ホテル」「西鉄ホテルクルーム」、「西鉄イン」の4ブランドを、国内17カ所・海外3カ所に展開する。
西鉄のホテルの歴史は1969年創業の「西鉄グランドホテル」(福岡市・天神)から始まった。1989年5月には「ソラリア西鉄ホテル(現・ソラリア西鉄ホテル福岡)」(福岡市・天神)を開業。このソラリア、2011年には西鉄のホテル事業を代表するブランドとして「ソラリア西鉄ホテル銀座」(東京都)が初めて首都圏への進出を果たす。
「エレガント」「洗練」「気品」「華やかさ」といったキーワードを軸に、2015年には初の海外進出となる「ソラリア西鉄ホテルソウル明洞」(韓国・ソウル)、2017年には庭園デザイナーに石原和幸氏を迎えた「ソラリア西鉄ホテル京都プレミア三条鴨川」(京都市)と、インパクトのある出店を続けた。
「西鉄イン天神」(福岡市・天神)が開業したのは1999年だった。シンプルかつ機能的な客室を兼ね備えた宿泊主体型ホテルで、天神至近の立地もあり、ビジネス客を中心にたちまち人気に。2000年には大阪・心斎橋、2003年には東京・日本橋と店舗を広げた。
1店舗目を開業した1999年から2010年までの約10年間で、首都圏を含む4都道府県に12店舗を展開。「多店舗展開を果たした『西鉄イン』は、現在のホテル事業の基盤を築いた」とホテル事業部開発担当の係長・鬼武亮太さん。その後、『CROOM(クルーム)』という新ブランドの誕生につながっていく。
最も新しいブランド「CROOM(クルーム)」は、「LIVELY STAY~くつろぎと感性をつなぐ、新たな滞在価値~」がテーマ。ターゲットはビジネスで利用されるお客さまに加え、より“こだわり“を求めるお客さまに設定し、感性豊かな女性や滞在の楽しみを求める観光客の皆さまにも喜んでいただけるホテル。
そのブランド構築のメンバーだった鬼武さん。2016年開業の1号店「西鉄ホテルクルーム博多」(福岡市・博多駅前)では、主任として1年間フロント勤務のためシフトイン。現場で何がおきているかを身をもって体験し、今後の開発につなげている。
まず考えたのは、ターゲットです。従来、ターゲットを設定する際は「メイン」と「サブ」に分けることが多かったのですが、この時は「メイン」の中でも特にアプローチしたい「コアターゲット」を初めて設定しました。
「西鉄グランドホテル」や「ソラリア西鉄ホテル」、「西鉄イン」が取り込めなかった客層にアプローチしたいと考え、メインターゲットはアッパービジネス層、サブに国内外の観光客を想定しました。さらに「コアターゲット」としたのは、アクティブ層のなかでも「高感度な人々」。
さらに「高感度な人=情報を能動的にキャッチする人」だとペルソナの解像度を高め、「CROOM」ブランドでは「情報発信」をひとつのキーワードとしました。
「西鉄ホテルクルーム博多」1階のロビーには、「情報交換ウォール」を設置しました。博多駅周辺のおすすめスポットや情報を、宿泊したお客さまやスタッフの手書きメモでプロットできる仕組みです。
こうしたブランド展開を支えているのが西鉄のホテル事業部のメンバーだ。
出店場所はどのようにして決めるのでしょうか?
一般的にはマーケティングの調査結果や各社さまからの情報に応じて、いくつかの場所が候補にあがります。例えば、そのうち1エリアについて具体的に検討する場合は、チームでそのエリアを歩き回り、立地や雰囲気を実地調査します。
視察の時のチェックポイントは?
最寄り駅や大通りからの距離、昼と夜のにぎわいの違いなど、さまざまな面から立地を検討します。特に気になる場所は事前にチェックし現場に向かいます。現地の地図とスマホを片手に、とにかく自分たちの足で行ってみる。空き地や駐車場は、特に細かくチェックしています。
大阪では、梅田から難波まで歩いたこともありますよ。御堂筋を歩いたから、次は堺筋といった感じで、とにかく隅々まで地道に(笑)。
調査会社や資料だけに頼らず、足で情報を得ていることに驚きました。
自分たちの目で見て、その場所を体感する。もちろん、資料やデータも最大限に活用したうえで現場に赴きます。
以前上司たちと現場を回った時は、「何を聞かれても答えられるように、この場所について詳しくなろう!」と目標を掲げ、とにかく歩き回りました。自分たちの目で現場を見ていると、自然と言葉にも熱が入り、地域への愛着が深まります。
出店交渉の際、関係各社と折衝で大切なことは?
どのエリアでも、重要なのは「本気度」を伝えること。特に福岡や九州外に出店する際には、福岡に本社を置く西鉄がどのくらいの熱量をもってプロジェクトに臨んでいるのか、私たちの思いをしっかりと示します。
提案は具体性のあるものとし、関係各所とビジョンを共有することも重要です。当社がホテルを担った場合にどのようなメリットを提供できるのか、明確に伝えられるよう心掛けています。
仕事で喜びを感じるのはどんな時ですか?
「CROOM」ブランドについては、ゼロからブランドを立ち上げる貴重な経験となりました。正解のない中で、どうゴールを見出すのか。チームのメンバーとは納得できるまで、徹底的に議論を重ねました。
「西鉄ホテルクルーム博多」で1年間フロント勤務した経験は、後の仕事にも大いに生かされています。新しくホテル開発を行う際には、運営の仕事を知っていることで自身の言動にも厚みが増し、現場の理解や協力が得られやすくなったとも感じます。
私は「西鉄ホテルクルーム名古屋」の開業準備を担当していたので、ホテルがオープンした当日、テープカット後にご家族連れのお客さまがチェックインされる姿を見て、大きな喜びを感じました。現在の計画担当の業務では、経営計画の作成などでチーム全員で一丸となって作り上げた企画や資料が完成すると達成感を感じますね。
ホテル開発を進めるうえで、「西鉄」ならではの強みは?
他のビジネスホテルチェーンと違うところは、「西鉄グランドホテル」の存在です。婚礼や宴会も手掛けることから地元の幅広い世代に愛され、「歴史」「伝統」「品格」といったイメージにつながっています。
また、鉄道事業を母体に発展してきた会社だということで、企業の背景で「安心」「信頼」につながる点は、ゼネコンや銀行との折衝面で有利にはたらきます。
お客さまからも、福岡や九州出身のお客さまや、地元企業のビジネス利用に選んでいただけるので、大変ありがたいと感じています。特に海外では、親しみのある国内ブランドということで「旅先での安心感につながる」と数多くの方にご利用いただいています。
実は、海外出店に際しては不動産取引・雇用・会計などに関する法規制や商習慣の違いに大変苦労します。そこで頼りになるのが「国際物流事業本部」の存在です。現地法人の運営でさまざまなノウハウを持っているので、法務関連のアドバイスをもらうこともあり、かなり助かっています。
コロナ禍での動きについて教えてください。
経営面では非常に苦しい時期でした。現在は回復途上だと捉えていますが、コロナ禍を変革の機会と捉え、多様なプラン造成や自社イベントの開催などで新たな収益源の確保を図るとともに、自動チェックイン機の導入などで省力化を図り、筋肉質な経営に転換しています。
私はコロナ禍の期間、西鉄ホテルズに出向して売上げの回復を考える部署に所属していました。宿泊客が激減し、売上面はもちろんですが、スタッフのモチベーション維持も大変だったと思います。
その一方で、プラスに働いた面もあります。「どうしたらお客さまに来ていただけるのか」とスタッフ全員で考え抜いた結果、これまでになかったデイユースやビジネスユースなどの新しいプランが生まれました。
新たな収益源の確保のため、「西鉄グランドホテル」のオンラインショップでは、ホテルメイドの冷凍グルメやホテルセレクトの調味料等を取り扱っています。最近では、2022年6月に「ソラリア西鉄ホテル札幌」とコラボした「ホタテ醤(ジャン)」を発売しました。商品がメディア取材を機に話題となり、ヒット商品に。社内に明るい話題が広がりました。
今後の動向について教えてください。
2023年3月に決まった福岡市営地下鉄七隈線の延線に合わせて、春には「西鉄ホテルクルーム博多祇園(仮称)」が開業予定です。一部客室には洗濯機やレンジ、ミニキッチンなどを完備。ビジネス兼レジャー目的で滞在する中長期出張者やワーケーションなどの多種多様なニーズにお応えします。
また、トリプルやフォースなど多人数での宿泊にも対応できる客室の割合を増やし、友人どうしや家族連れなど、グループでもゆったりと過ごせる空間を整えます。
同じく開業準備中の「ソラリア西鉄ホテル台北西門(仮称)」(台湾・台北)と「タイ王国・バンコク2号店ホテル」についても、開業に向けて建設工事や開業準備を進めている最中ですので、楽しみにしていただければと思います。
その後の動きは社内で議論しながら方向性を描いている段階ですが、これからも4つのホテルブランド力の向上とサービスの拡充を目指します。足で稼ぐマーケティングスタイルで(笑)、西鉄の強みをさらに磨いていければと考えています。