4つのホテルブランドを持つ株式会社西鉄ホテルズには、知る人ぞ知る“名物企画担当”がいる——そんなウワサが耳に入ってきた。
ホテル業界に40年以上携わり、数々のVIPをアテンドした経験を持つホテリエ。同時に、生み出し続けたヒット企画は数え切れないという。
エヌカケル編集部は、その人物に接触するために「西鉄グランドホテル」へと向かった。
「西鉄グランドホテル」(福岡市中央区大名)は、1969年創業の由緒ある老舗だ。エヌカケル編集部を迎えてくれたのは、株式会社西鉄ホテルズの営業統括部 商品企画担当部長の松本憲治さん。笑顔がすてきな、物腰のやわらかい紳士だった!
2015年に株式会社西鉄ホテルズに入社して以来、数々のヒット企画を生み出してきた松本さん。松本さんが中心となり、営業統括部で動かす企画の数は、年間およそ20~30本。企画書ベースだと、なんと年間約100本近くのアイデアを提案しているというのだ。なかでも、近年特に好評だった企画についていくつか教えてもらった。
ホテル業界が大きな打撃を受けたコロナ禍には、料理コンテストを開催した。当初は約200名いる社内の料理人の技術向上を目的とするレシピコンテストだったが、社内の反響がよく、一般向けの企画へと発展した。
「企画は人脈から生まれることが多い」という松本さん。
2022年に開催した、自宅で味わう鍋のオリジナルレシピを応募してもらう「わがやの鍋レシピコンテスト」は過去の企画でのつながりから、大分県佐伯市、トリゼンダイニング株式会社、株式会社Mizkan、株式会社QTnet、株式会社シティ情報ふくおかと手を組んで開催した。
また、「福岡の地元企業とコラボしたい」と相談を受けたハウス食品とは、「カレーレシピコンテスト」を共催。地元でも全国でも企画の輪を広げ、数々の企画が生まれたのだった。
また、ホテル宴会場で、子どもたちが一流の料理人から料理を教えてもらえるファミリー向け企画「キッズクッキング」を開催。プロの技を間近で学べるほか、ホテルの宴会場の一部屋を家族で貸し切って子どもが作った料理を味わえるのも大好評だった(2023年3月で終了・4月以降はイベントとして開催予定)。
子どもさんやお孫さんにスポットライトが当たるので、参加したご家族全員に満足していただけたのだと思います。社内の料理人たちも、お客さまと交流することによってたくさんの刺激や感動を受けたはずです。
「ソラリア西鉄ホテル福岡」オリジナルの株式会社エポック社とのコラボ企画「シルバニアファミリー・プレイルーム付きコラボ宿泊プラン」では、室内のデコレーションや食事プレートの提供、グッズのプレゼントの他、宿泊する1部屋に加えて、プレイルームが付き、2部屋を利用できるというプランで人気を呼んだ。室内のデコレーションや食事プレートの提供、グッズのプレゼントなども好評だったという。
その他、福岡や九州の食材を使ったグルメフェアの企画も手掛けている。
ちょっと変わった企画と言えば、福岡出身のシンガーソングライターで、元チューリップの財津和夫さんによる作詞講座がある。
実はこの企画には前段があります。最初は、西鉄ホテルズ50周年記念を前に、「何かおもしろい企画を立ててほしい」と、当時の社長から直々に依頼を受けました。
特別な周年なので、地元出身の方との連携した企画が望ましい。そんなリクエストを受けて実現したのが、財津和夫さんのディナーショーでした。
財津さんには、どのようにコンタクトしたのでしょうか?
財津さんとは、知り合いを通じた紹介でご縁をいただきました。前述のハウス食品さんとのコラボなどもですが、私の企画は、いつも人脈から生まれるものが多いですね。
通常は財津さんのような著名人となると、直接の依頼だとかなり大変になると思うのですが、伝統と信頼のある、西鉄グランドホテルだったからこそ実現できた企画だと思っています。
イベント自体も大盛況でうまくいきました。
さらに、ディナーショーが終わってしばらく経ったある時、松本さんは財津さんから連絡を受けたという。
「体調を崩してかなわなかった作詞講座を開きたい」との、財津さんからの相談でした。私もぜひ一緒に企画したいと思い、さっそく実行に移すことにしたのです。
そこから生まれたのが、<【財津和夫 作詞講座】~言葉が歌になる時~>だ。
6ヶ月の間に5日間(全10時間)で77,000円にも関わらず、定員いっぱいの80名で初回がスタート。反響は想像以上だった。
2020年の初回から半期ごとに開催され、今では9シーズン目を迎えるこの講座。何度も通うリピーターも少なくなく、ロングヒット企画となった。
入社して以来、年間約100本近くの企画を立てる松本さん。アイデアの源は、いったいどこにあるのだろうか。
企画をする時に、大切にしていることは?
私は携わるみんなが儲からない商売はしない主義。企画も営業も自分で手掛けるので、数字が見込めるのが大前提で、売れるものをつくりたいんです。また、関係者みんながWin-Winでいられることも重要ですね。
ズバリ、売れる企画とは?
物語があり、軸がすっと通った企画は売れやすいと感じます。 自分が作って売る。「営業」のことも含めて考えているから、「売りやすい企画」になるんだと思います。ただ、当たりもあればハズレもある。数を打たなきゃ、売れる企画は生まれないんです。
あとは、「売ろう」と思わないこと。欲張ると、だめなんですよ。例えば、欲張って「あれもこれも」と盛り込みすぎた企画は売れにくい。ショーや撮影会、その他の催しなどいろんなコンテンツを詰め込んだのですが……詰め込みすぎたイベントは…苦戦しましたね。
企画のベースとなるキーワードやテーマはありますか?
私の場合は「家」です。テーマ自体もそうですが、考える環境という面でも、家にいる時に考えつくことが多いですね。私はお酒を飲まないので、“飲みニケーション”はなし(笑)。家や家族との時間を大切にしているので、思いついたアイデアを企画に落とすのは勤務時間で集中勝負です(笑)。
アイデアが浮かぶいちばん良い時間は早朝で、起きてすぐにメモできるよう、枕もとには必ず手帳を置いています。その日1日のTODOの整理も、たいていこの時間に済ませます。
見習いたい習慣です。
「家」や「家族」に近い環境で出てくるアイデアは、自然と「リアル感」が強くなります。私が家族といる時に得た感動や楽しさが、お客さまの感動や楽しみに変わる、という考えです。
また、企画は一人では成功しません。幸いにも優秀な部下がいます。協力してくれるいろいろな職場のスタッフやグループ企業の皆さん、すべての協力がなければ成功しないのです。いつも、周りの皆さんのご協力に感謝しています。
ここまで紹介したのは、実はほんの一部に過ぎない。数々のヒット企画を生み出してきた松本さんは、これまでいったいどんな道を歩んできたのか。
ホテル業界に入ったきっかけは?
高校時代に読んだ一冊の本でした。Airthen Hailey(アーサー・ヘイリー)というイギリスの作家が書いた、小説『ホテル』を読んで、ホテル業界に入りたいと考えるようになりました。
その当時、ホテルマンは「民間の外交官」とも呼ばれていました。若い世代にとっては、一流の人々と交われる憧れの職業だったのです。
高校を卒業した松本さんは、「ホテルの御三家」と呼ばれていた「帝国ホテル 東京」「ホテルオークラ東京」「ホテルニューオータニ」に憧れ、東京の専門学校を卒業後、晴れて「ホテルニューオータニ」に入社。1980年から「ホテルニューオータニ 博多」に約15年間在籍し、ホテル業界のイロハを学んだ。
ホテルニューオータニ在籍中、東京に転勤となり、「ホテルニューオータニ東京」で約2年間、国際的なVIPや著名人の接遇を担当した。
その後、当時の上司の誘いを受けて、福岡市の百道浜地区の開発にあたっていた株式会社ツインドームシティ(後の株式会社福岡ドーム)に転職。
この時「かばん持ち」として仕えた人物が、なんと、日本の流通革命の旗手として知られるダイエーの創業者・中内㓛さんだった。驚きの経歴だ。
今までにお迎えした著名人には、ほかにどんな方がいらっしゃいますか?
ええっと、海外のゲストだと、アメリカのブッシュ元大統領にイギリスのサッチャー元首相、キッシンジャー元国務長官、ブルネイ王国のハサナル・ボルキア国王など数え切れません。
海外の芸能人だと、マイケル・ジャクソンさん、ビリー・ジョエルさん、エリック・クラプトンさん、スティービー・ワンダーさん、ダイアナ・ロスさん、ホイットニー・ヒューストンさん、シンディー・ローパーさん。俳優のビル・マーレーさんもすてきな方でした。
アジア圏だと、BTSさんの宿泊及びパーティー、東方神起さんのフルサービスを担当したことがあります。
す、すごい!
その他、国賓クラスのゲストやVIPなど、お名前を挙げればきりがありません。実は、私がこの業界に入るきっかけになった作家のアーサー・ヘイリーさんも、宿泊のお世話をさせていただく機会に恵まれました。「夢は叶うものなんだ」と、胸がとても熱くなりました。
そんな方々に接する際、気を付けていることはありますか?
海外のVIPや企業のトップリーダーの方々は常にご多忙で、息をつく間もありません。また、孤独を感じていらっしゃることも多いように感じます。「有名な方だから」と特別な接遇はせず、一般のお客さまと同じように接するほうがかえって安心していただけますね。
株式会社福岡ドームでは、大阪支店所長や東京営業所の所長も務めた松本さん。1995年に開業した「シーホークホテル&リゾート」は、2005年に日本航空傘下の「株式会社JALホテルズ」の運営となり、松本さんは約5年間企画を担当。
2010年には「ヒルトン・ワールドワイドグループ」の運営となり、松本さんは東京新宿にあるリージョナルオフィスで、引き続きホテルの営業に携わった。
その後、福岡に住まいを移し、株式会社西鉄シティホテル(現・株式会社西鉄ホテルズ)に入社したのは2015年。松本さんが55歳になった年だった。
キャリアの多くを西鉄社外で過ごしてきた松本さん。ホテル業界のベテランから見た西鉄の強みについて聞いてみた。
入社して感じる西鉄グループの強みは?
地元で強固な地盤のある企業であり、また、多種多様なグループ会社があります。西鉄ストアとはレシピコンテストやグルメフェアなどでよくコラボしますし、西鉄旅行とも宿泊プランを一緒に練ることができます。これほど幅広い業界どうしで互いに助け合えるのは、何よりの強みですね。
西鉄ホテルズに関して言えば、「西鉄グランドホテル」が持つ伝統と品格は、一朝一夕で築けるものではありません。大きな財産だと思います。
そこに、「まちに、夢を描こう。」という強い企業メッセージがある。地域のお客さまを第一に考えてきたからこそ、地域愛にしっかりと支えられているのだと感じます。私の作る企画には「物語」や「軸がある」ことが大切で、この「まちに、夢を描こう。」という企業メッセージがあることでアイディアがまとまりやすいですね。
そんな「西鉄グランドホテル」は、今年2023年で創業54年。6月には、隣接する「福岡大名ガーデンシティ」に世界的ホテルブランド「ザ・リッツ・カールトン福岡」がオープンする予定だ。
隣に新しい建物がオープンしてから、「西鉄グランドホテル」はいっそう輝いて見えるようになった気がしています。ここには「伝統」や「物語」がある。「西鉄グランドホテル」の魅力は、これからもっと増していくと確信しています。
「近隣の施設やショップと連携して、大名エリア全体を楽しめる企画を発信したい」と意気込む松本さん。九州各地の地方自治体とタイアップしたイベントも考案中だ。
松本さんが動き出せば、ホテルから周辺の店舗やほかの企業へ、さらにはもっと広くまちがつながっていく。
次はどんな企画が生まれるのか——最後まで読んでくださったあなた、西鉄ホテルズが繰り出すさまざまな企画をチェックして、ぜひ参加してみてください!
株式会社西鉄ホテルズ
営業統括部 商品企画担当 部長
1960年生まれ。1978年、日本ホテルスクール4期生。1980年よりホテルニューオータニ博多を経て、東京ニューオータニ本社でVIP対応。1995年より株式会社ツインドームシティへ(後の株式会社福岡ドーム)。2005年より「JALホテルズ」、2010年よりヒルトン本社(リージョナルオフィス)で企画や営業をメインに担当。2015年に株式会社西鉄シティホテル(現・株式会社西鉄ホテルズ)に入社。2022年より現職。