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創業90年超の老舗・カフェブラジレイロが
令和でも支持される理由とは?
西鉄グランドホテルとのコラボを語る

創業90年超の老舗・カフェブラジレイロが 令和でも支持される理由とは? 西鉄グランドホテルとのコラボを語る

1934年に現在の福岡市博多区東中洲で開店して90周年の歴史を数える、福岡県内で現存する最古の喫茶店「カフェ ブラジレイロ」。

自家焙煎のコーヒーを提供し、レトロな店内や昔ながらの食事メニューはSNSで若い世代に話題に!ラグビーボールの形をしたユニークな「ミンチカツレツ」は特に人気で、予約必須の看板メニューとして知られている。

「カフェ ブラジレイロ」の「ミンチカツレツ」

今回、1969年に福岡市中央区大名で開業し、2024年で創業55周年を迎えた西鉄グランドホテルと「カフェ ブラジレイロ」、地元屈指の老舗どうしのコラボレーションカフェが2024年4月、西鉄グランドホテル1階でスタートした。

「天神」と「博多」という異なるエリアで、半世紀以上にもわたって「歴史」と「伝統」を紡いできた2つの老舗。コラボに至るまでのストーリーを追った。

目次

SNSでも人気の老舗喫茶店と西鉄グランドホテルがコラボ

「カフェ ブラジレイロ」と西鉄グランドホテルがコラボした「90th&55thコラボレーションカフェ」が体験できるのは、天神の西鉄グランドホテル1階にある「バーラウンジ
グロット」。日本庭園の景観を眺めながら食事や喫茶、お酒を楽しめるおしゃれな空間だ。

「バーラウンジ グロット」では、「カフェ ブラジレイロ」が西鉄グランドホテルのために厳選・焙煎したコーヒーとカフェオーレを提供している。古き良き時代を想起させる「クラシックブレンド」(1,331円)に軽やかな味わいの「カリブの華」(1,331円)、特製カフェオーレ「ブラウナーシロップミルク(HOT/ICE)」(1,452円)の3種類だ。
※価格はいずれも消費税・サービス料別

「クラシックブレンド」(1,331円)。ブラジル・サントスの高級豆を中心に厳選5種をブレンド。古き良き時代を想起させる、ほろ苦くも甘いレトロテイストで、時代を超えて愛される一杯
右が「クラシックブレンド」、左が「カリブの華」で使う豆。「カリブの華」はドミニカ産カリビアンクイーンをはじめ、西インド諸島カリブ海に浮かぶ国々のコーヒー豆のブレンドで、味わいの違いが楽しめる
「ブラウナーシロップミルク(HOT/ICE)」(1,452円)。「カフェ ブラジレイロ」で 15年間愛されてきたロングセラー商品。ブラウナーシロップを牛乳で割ったまろやかな飲み心地。微糖でコーヒーの滑らかな味わいが楽しめる

今回のコラボレーションの背景を聞くために、エヌカケル編集部は「カフェ ブラジレイロ」を訪ねてきた。

コラボレーションした一杯への想い

さわやかな風が吹く5月のある日、15時すぎ——。「カフェ ブラジレイロ」の扉を開けると、中は地元客や観光客で満席だった。厨房から聞こえてくる調理の音、接客中のスタッフの声、BGMで流れるクラシック音楽。そしてコーヒーの香りが心地よく空間を包み込んでいる。

久美子さん
久美子さん

ごめんなさいね、お待たせして。まちの喫茶店って、忙しいときはいつもこんな感じでせわしないのよ。

今回のコラボレーションを中心となって進めてきた中村久美子さんが、カウンターでコーヒーカップを洗いながら迎えてくれた。

オーナーの中村好忠さんとともに店を切り盛りしてきた久美子さん。好忠さんと結婚したのは1968年。55年以上毎日、お店に立ち続けている。

今回のコラボレーションに際して、どんな思いをお持ちですか?

久美子さん
久美子さん

主人は大学卒業後YMCAのホテル学校で学び、昭和の時代に日本にできたクラシックなホテルやそのレストランの文化に親しんでいました。西鉄グランドホテルさんも、福岡・天神の地で長い間歴史を重ねてきた伝統ある場所。そんな格式高いホテルとのコラボレーションが実現して、とても光栄に感じています。

夫の良忠さん。後ろに写っているのが久美子さん
久美子さん
久美子さん

そういえば個人的に、昔習っていた生け花の家元の新年会で、西鉄グランドホテルの宴会場を利用したこともあるんですよ。ロビーも宴会場も上質なしつらえで、きらびやかな印象を今でもよく覚えています。
今回ご用意した西鉄グランドホテルさんの「クラシックブレンド」には、そんな西鉄グランドホテルさんをイメージしてブラジル・サントス産の高級豆を中心に5種類をブレンドして、「時代を超えて愛される一杯に」という想いも込めています。

1934(昭和9)年創業「カフェ ブラジレイロ」の歴史

商業集積が始まった昭和初期の福岡駅(左)と天神交差点付近の賑わい 1930(昭和5)年頃 所蔵:西日本鉄道(株)

ブラジル・サンパウロ州のコーヒー局の代理店として、1931(昭和6)年に大阪で発足した「日本ブラジリアンコンパニー」(店名「ブラジレイロ」)。東京・京都・神戸、そして博多へは1934(昭和9)年に開店。ブラジルコーヒーと共にコーヒー文化を広めていった。

那珂川沿いの目抜き通りにそびえたつ白亜の建物はたちまち話題となり、まちの人々にとっては「憧れの存在」に。夢野久作氏や原田種夫氏、北原白秋氏、火野葦平氏など、昭和の文壇を代表する文化人たちが数多く足を運ぶようになった。

その後、戦争の影響で1944(昭和19)年に一時閉店。戦後、1946(昭和21)年に好忠さんの父・中村安衛さんが、博多区御供所町に「レイロ」として開業。

そして、1952(昭和27)年に屋号を前オーナーから引き継ぎ、「ブラジレイロ」として店屋町に移転して現在に至る。

現在の2階客席
1階入口付近には昔の写真が飾られている

「カフェ ブラジレイロ」の名物メニューは?

自家焙煎の喫茶店の先駆けでもあった「カフェ ブラジレイロ」。「お店を代表するメニューは?」と聞かれると、答えに困る人が多いに違いない。その理由は、メニュー表を開けば一目瞭然だ。コーヒーに紅茶、アレンジコーヒー、手作りのデザート、サンドイッチ……。そのどれもが個性的な「主役」であることが伝わってくるのだ。

ブレンドコーヒーの代表をあえて選ぶなら、やはり「クラシックブレンド」(600円)だろう。西鉄グランドホテルのコラボメニューと同じ名前を冠するこの一杯は、ペーパードリップと水出し抽出の2つの方法で味わえる。

久美子さん
久美子さん

焙煎機はお店と自宅にそれぞれあります。朝、出勤前に焙煎したり、ランチタイムが終わり、その後落ち着いたころに合間をみて店舗で焙煎したりすることもあります。

「カフェ ブラジレイロ」は、その時代と共にコーヒーの味を創ってきた。「カフェ ブラジレイロ」の歴史は焙煎機なしでは語れないとも言える。

「カフェ ブラジレイロ」が愛され続ける理由

午前11時から提供する洋食メニューのなかで人気なのは、ラグビーボールのような形をした「ミンチカツレツ」(1,600円、サラダ・ライス・コーヒー付き)だ。

「ミンチカツレツ」は1日15食限定。事前の電話で予約がおすすめ
久美子さん
久美子さん

最初は大きく平らな球形から俵型になって、今の料理長が考案してこの形になりました。尖った先端だと作るのが大変そうだけど、料理長に聞くと意外とそうでもないみたいね。不思議、びっくりです。

久美子さん
久美子さん

カツレツの中身は、最初は牛豚の合いびきだったけど、25年前くらいだったかしら、主人が60歳を過ぎた頃から、よりヘルシーな味わいを好むようになって、鶏と豚の合いびきに変えてみようということで、優しい味になりました。

そのほか、「オムレツライス」(1,150円~)や「ドライカレー」(1,250円)、「ハンブルグステーキ」は「デミソース」(1,550円)のほか「トマトとバジル煮込み」(1,550円)まである。

久美子さん
久美子さん

「オムライス」も昔から少しずつ作り方が変わっていて、今は炊き込みのトマトライスにプレーンオムレツをのせるオムレツライスに。「ハンブルグステーキ」は、デミグラスソースかトマトとバジルの煮込みソースか選ぶことができます。

一方で、老舗ながらの「変わらない味」も存在する。

例えば、コーヒーに添えるクリームは、昔から変わらないレシピで手づくり。時間が経っても溶けだしたり沈んだりしない、正真正銘の生クリームのとりこになる人は数えきれない。

「カフェ・ヴィエンナ(ウィンナー)」(650円)
久美子さん
久美子さん

時代が変われば人も変わる。お客さまも私たちも変化していくものだと思います。大切にすべき基本には忠実に、変化をいとわず、時代に合わせて変わり続けること。私たちが大切にしてきたことです。

博多の地に根差した老舗喫茶店は、変化を続けるからこそ愛されているのだ。

コラボメニューができるまで

今回のコラボが決まってから企画の進行を担当したのは、西鉄グランドホテルの松本憲治さん。松本さんはホテル業界歴40年を超えるベテランホテリエであり、知る人ぞ知る“名物企画担当”でもある人物だ。企画が始まるまでの流れについて教えてもらった。

中村久美子さん(左)と松本憲治さん(右)、カフェブラジレイロにて
松本さん
松本さん

コラボが決まり、プロジェクトが本格始動したのは今年(2024年)の2月末からでした。最初はお店へ足を運び、お店のことや中村さんの想いについていろんなお話を聞かせていただきました。
この時点で具体的な企画内容は決まっていませんでしたが、お互いこうしたコラボレーションは初めてのことです。対話を重ねながら、『できることから始めましょう』ということで、グロットでのメニュー提供が決まりました。

松本さん
松本さん

お店に伺ったのは初めてではありませんでしたが、その時にあらためて店内をぐるりと拝見しました。レトロな雰囲気を残したままの店内でひときわ印象的だったのは、美しいらせん階段とコーヒーの麻袋がある光景です。こうして歴史を重ねられてきたお店なのだと感じました。

「グロット」でのコーヒー提供が決まった後、具体的なメニューの提案を受けた。

久美子さん手書きのFAX用紙には、抽出の方法やポイントなど「カフェ ブラジレイロ」のノウハウがきれいにまとめられていた。

松本さん
松本さん

こうしたやり取りのひとつをとっても、ブラジレイロさんの本気度や想いが表れていると感じました。私たちもこの企画への想いをいっそう強くしました。

天神と博多、コーヒーがつないだまちへの想い

そうしてコラボレーションカフェが始まってから約2カ月。

「幅広いお客さまに『カフェ ブラジレイロ』とのコラボメニューをお楽しみいただいています」と話すのは、西鉄グランドホテルのグランド料飲部、グロット担当副支配人の小野文章さんだ。

バーテンダー歴約30年の小野さんは、今回のコラボレーションにあたり、「カフェ ブラジレイロ」に赴いてコーヒーの淹れ方を学んだという。

小野さん
小野さん

FAXでもていねいに抽出のポイントをまとめてくださったのですが、何度も試すうちに疑問や迷いが出てきまして……。直接お店をお尋ねして、ポイントを教えていただくことになりました。
もちろん、普段コーヒーを淹れる機会はありますが、こうしてほかのお店とコラボレーションするのは初めての試みです。ブラジレイロさんの手法を深く理解してからお客さまにご提供したいと考えたのでした。

天神と博多。まちの喫茶店とクラシカルなホテル。場所やかたちは異なる2つの老舗のストーリーがコーヒーでつながり、まちの未来を描いていく。

小野さん
小野さん

博多で90年もの時間を刻んできたブラジレイロさんとは、「歴史」や「伝統」など共通する点も多い。今回こうしてコラボレーションできることを、スタッフ一同うれしく思っています。お互いの古き良き要素を大切に、それぞれの魅力をお客さまに伝えていきたいと思います。

松本さん
松本さん

福岡の歴史をたどれば、西鉄グランドホテルがある大名は福岡藩お膝元の城下町、ブラジレイロがある店屋町は商人の街・博多。それぞれの歴史や文化があるのは興味深いことですよね。
これからも、いろいろな方々に福岡を楽しんでいただけるよう、オリジナル企画の販売や情報発信、地域との連携などを進めていきたいと考えています。
ブラジレイロさんとのコラボレーションは、まだ始まったばかりです。これからもコミュニケーションを重ねながらお互いのビジョンをすりあわせて、実現できることを少しずつ増やしながら一緒に歩んでいけたらうれしいですね。

細部まで作りこまれたジオラマ。西鉄ホテルズのパティシエが制作した

西鉄グランドホテルでは、2024年度・55周年記念として「カフェ ブラジレイロ」とのコラボカフェのほか、浴衣を着てまちを散策できる「街歩きプラン」の販売がスタート。ホテルのロビーには、55周年を記念して制作されたお菓子のジオラマを展示中だ。

55周年という節目を迎えた西鉄グランドホテル。また、ほかにも西鉄ストア55周年、西鉄電車開業100周年など、2024年はにしてつグループがさまざまな周年を迎える。関連企画やイベントも実施予定なので、ぜひ注目を!

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