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2025年4月24日(木)にオープンした「ONE FUKUOKA BLDG.(ワン・フクオカ・ビルディング、以下ワンビル)」。飲食店やアパレルショップ、オフィスなどが入居するこの新しいビルでは、さまざまな人が楽しめるよう「ユニバーサルデザイン」が採用されている。
今回は、バリアフリールート共有アプリ「DiversMap」の運営などを行う「ダイバーズプロジェクト」に参加されたみなさんと一緒に館内を見学。車いすやベビーカーなどの利用のしやすさなどについて意見をうかがい、ユニバーサルデザインとまちづくりについて考えた。
ワンビル開業前の3月30日(日)。ビル内のバリアフリー設備をひと足先に体験するイベント&ワークショップが開催された。イベントを企画したのは、福岡を拠点にバリアフリー情報を発信するアプリ「DiversMap」の運用や、移動困難者向けシステムの企画・運営などを手掛ける「Divers Project(ダイバーズプロジェクト)」だ。
代表を務める内山大輔さんは、ご自身も車いすを利用して生活するなかで体験に基づいた情報共有を促進し、都市のアクセシビリティ向上を目指している。
この日参加したのは、車いすやベビーカーの利用者、聴覚障害をもつ方などを含む約30人。最初にビル内を見学し、その後、班に分かれてグループワークを実施する流れとなった。
まずは、ワンビル内の見学の様子を見てみよう。
まずは6階「カンファレンスホール」からスタートし、館内の動線や設備を見学。通路は段差がなく、幅3メートル以上と十分な広さが確保されていたこともあり、車いすの参加者が複数いてもスムーズに移動できた。
参加者が「特に気になる」と口をそろえて話していたのは、バリアフリートイレの設備と使い勝手だ。注目するポイントは、ドアの重さや開けやすさ、取っ手やカギの位置とのこと。「ドア開閉用のボタンが押しにくい」「ドアが重たいと開きにくい場合がある」「手すりの位置が高すぎると届かないことも」など、出先で困った経験を持つ方が多いのだという。
ワンビルでは、各階にバリアフリートイレを設置。実際に入室して動いてもらうと、現場ではたくさんの本音を聞くことができた。
また、「バッグを置く場所や着替え用のスペースがあるとありがたい」など、利便性向上につながる意見も出ていた。
双子用のベビーカーも入室OK。利用者に聞いてみると、双子用のベビーカーだと入室できない施設もあり、入れると安心できるとのことだった。
続いて、6階「スカイロビー」へ。オフィス用エレベーターへの乗り換えフロアであると同時に、人気コーヒーショップ「REC COFFEE」やコンビニがあるオープンスペースだ。
テーブルやイスがある場所だけではなく、脇の通路やスペースの通りやすさもチェックするのが「DiversMap」作成者・内山さんならではの視点だ。
車いすやベビーカー利用者にとって、段差は大敵です。一度動いて通れないと、戻るのは大変だし方向転換できない場合もある。また、段差がある場合はスロープを探さないといけないので、スロープの場所も必ずチェックしたいですね。
スロープは、勾配や道幅、手すりの高さなどが気になります。このスロープは、場所はわかりやすくて道幅も広めで通りやすかったです。一般的な12分の1勾配とのことですが、少し急だと感じる方もいるかもしれません。介助者がいない場合は自走する必要があるので、こう配が大きい場合は大変なんですよ。
ベビーカーもゆったり通過できた。エレベーターで6階に着くと、すぐ正面にスロープがあってわかりやすいので、子ども連れでも安心して過ごせそうだ。
続いて、地下2階に移動して地下鉄天神駅との接続通路へ。
通行者が多い地下鉄コンコースからワンビル内へと続くこちらの通路は、25分の1のごく緩やかなこう配がある。
現場を確認する参加者たち。「たしかに、こう配はほとんど感じないね」「車いすでも問題なく通過できてよかった」「道幅が広いのも安心」といった声が上がっていた。
視覚障害をもつ方は、誘導ブロックの位置や形状をしっかりと確認していた。
また、移動中にはエレベーターもチェック。
エレベーターで気になるのは、設置場所や数はもちろんのこと、ボタンの位置や高さ、広さです。また、室内に鏡があると、エレベーターを降りる時に後ろを確認しやすいので助かります。前進しながら乗って、降りる時は後ろ向きなので、後方が見えないんですよ。
ワンビルには、鏡付きのエレベーターも一部設置。また、商業スペース用のエレベーターは4基、6階スカイロビーへの移動用には6基あり参加者からは「数としては十分」という声があがっていた。
1階「グランドロビー」は、ワンビルの顔でもあるオープンスペースだ。
「開口部はフルオープンとすることも可能で、イベント時は明治通りと渡辺通りが交わる北西側広場と連続したスペースとしても使うことも想定しています」と金子さん。参加者からは「広さは十分」「広場から直接入れるようになると、さらにアクセスしやすくなる」といった意見が出ていた。
さらに、ワンビル最上階にある「ワンフクオカホテル」へ移動。エレベーターからメインフロアまでのアプローチやテラス席などの導線、テーブルの位置・高さなどを確認した。
ホテルや飲食店で気になるのは、通路の広さのほかにテーブル間のスペースやテーブル・カウンターの高さなど。これらの点がクリアできれば安心して利用できます。
さらに、ここでもバリアフリートイレをチェック。
押しボタン式の時にネックになるのはボタンの「高さ」。私は押しやすいよう専用のステッキを持参していますが、位置が高すぎると押しにくいこともあるんです。
中には着替え用のボードやベビーチェアもあるが、十分なスペースが確保されていた。双子用のベビーカーを利用する方も「入れました!」とチェックは万全だった。
見学後は、各班に分かれてワークショップを実施。ワンビル内を見学して良かった点や必要とされる情報などについて、さまざまな意見が交わされた。
以下、ワークショップで出た感想の例
・段差がなくいろいろな所にアクセスできて助かる
・電車の案内が多く便利だった
・災害時の避難経路に関する情報が見やすい箇所にあるとよい
・自動ドアはできるだけ長く開いているほうが利用しやすい
・車いす目線のサイネージがあるとありがたい
・災害時に移動困難者向けの支援があるとありがたい
・ボタンの位置、高さが良かった
・広くて助かった
・数が多くて良かった
・低い位置に荷物置きがあるとよい
・センサーの反応速度にバラつきがあった
・転倒した時のために下にボタンがあるので良かった
・多目的トイレの視認性が高まるとよい
・多目的トイレや授乳室などの扉が開けにくく感じた
改善案が出た内容については、今後取り組める改善案を検討中だ。
こうしてさまざまな意見が交わされたワークショップ。では実際に、ワンビル側はユニバーサルデザインをどのように取り入れていったのか。西鉄・福ビル街区開発部の金子晃子さんに話を聞いた。
バリアフリー対応で難しかった点は?
ワンビルを含む天神の中心部では、歩行者ネットワークを立体的に構築していくために各施設と福岡市が連携しながらまちづくりを進めています。そのため、隣接する通路・建物との接続は重要課題であり、設計の段階から綿密に打ち合わせをしながらプロジェクトを進めてきました。
ワンビルには地下2階まで商業エリアがあり、天神地下街や地下鉄天神駅等と接続する通路が複数個所設けられています。実は、それぞれの建物どうしで高低差が生じているため、接続部ではそれらを解消する必要があります。
もとあった「福岡ビル」は、接続部が階段になっている場所もありました。でも、それだと車椅子の方やベビーカー利用の方、足の不自由な方は特に移動しにくいので、ワンビルではこれらの課題を解決し、できるだけこう配をつけずいかにスムーズに移動できるか、いろんな創意工夫をしてクリアしていきました。
普段はそうしたこう配を特に意識することなく歩いていました。地下の接続部とは、具体的にどの地点ですか?
地下2階の天神地下街側の3カ所、地下鉄天神駅のコンコース側の2カ所、因幡町通り地下通路側の3カ所となります。すべての接続部はこう配を「斜路」とみなさない25分の1以下に設定しています。
また、店舗の営業時間は平日は11時(休日は10時)から20時ですが、地下から地上への接続を確保するために一部エレベーターと階段は地下鉄の始発・終電の時間帯に合わせて稼働させています。
そのほか、ワンビル内でユニバーサルデザインに関するポイントは?
ワンビル内の通路は本来必要とされる以上にゆとりをもった幅を確保している箇所も多くあります。
また、視覚障害者用のインターホンを1階のエントランスに設置、最新JIS規格のピクトグラムを採用、多言語対応サインなど、さまざまな人が来館することを想定しました。
今回のまちあるき&ワークショップイベントを終えていかがでしたか?
ビルを計画する中で重視していたバリアフリーの対応について、今回内山さんからお声かけくださり、実際に車椅子ユーザーの方などに体験いただきながらご意見を伺える貴重な機会をいただけて大変ありがたいです。
今回いただいた様々なご意見を参考に、さらに使いやすいビルとなるよう、今後の検討につなげていきたいと考えています。天神ビッグバンで多くのビルが建て替わりますが、地下接続のバリアフリー化など、天神がこれまでよりも移動しやすいまちとなっていることを、より多くの方に体感いただけたらいいなと思っています。
「創造交差点」というコンセプトにあるように、年齢や性別、国籍などが異なるさまざまな人が訪れ、交差するワンビル。「ダイバーズプロジェクト」と一緒に開催した今回の催しは、その大切なステップとなったはずだ。
バリアフリートイレや授乳室の場所、車いす・ベビーカーの貸出情報などは、ワンビルのホームページでも掲載中。天神のバリアフリーについてより詳しい情報が欲しい方は、「DiversMap」もぜひ活用してみてください!
取材当時
西日本鉄道株式会社 天神開発本部 福ビル街区開発部 係長
※現在は同本部 天神みらい戦略部 係長
2013年入社。建築技術員として都市開発事業本部でホテルの建設工事や商業施設のリニューアル工事に従事後、2017年より福ビル街区開発部に所属。
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