あまりにも硬すぎて「石」や「鉄」のようだと恐れられている、「堅パン」という北九州発祥の銘菓がある。
商品のパッケージや製造元のサイトを見てみると……。
なんと。メーカーが自ら「硬い」と表記するとは、かなり危険度の高い硬さということか?!
ところが、散々あおっておきながらも、別の面にはこう書かれてある。
笑。
じゃあ、なぜこんなにも硬くしてしまったのか。何かメリットがあるのだろうか? とにかく理由が気になりすぎる。編集部はその堅さのヒミツを探るために工場に初潜入!
「堅パン」とは、北九州市八幡東区に本社を置く株式会社スピナが製造する食品。北九州銘菓として知られるほか、栄養食や保存食としても注目されている。
名刺ほどの大きさのレギュラータイプは「くろがね堅パン」「胚芽入堅パン」の2種類で、このほかスティックタイプの「プレーン」「イチゴ」「ほうれん草」「ココア」味も、10年以上前から販売されている。
主な原料は小麦粉と砂糖、れん乳など。それだけ聞くと、ビスケットのようなやさしい歯ごたえを思い浮かべるが……。
実際は、驚くほど、硬い。
最近は「TikTok」で「#堅パン」「#スピナの堅パン」などのハッシュタグがプチバズり。制限時間以内に食べる「堅パンチャレンジ」を投稿するユーザーもいて、「硬すぎて食べれない」「歯が折れかけた!」といったコメントで盛り上がっている。
この「堅パン」の圧倒的な硬さに立ち向かえる猛者はいないのか?
そこで思い浮かんだのは、九州を中心に活動する「NPO法人 九州プロレス」さん。団体のなかでも1、2を争うという巨体の持ち主・阿蘇山選手に堅パンをかじってもらった。
こちらが“北九州の鋼”と名高い「堅パン」です。
昔から知ってるよ! 久しぶりに食べるな
あれ?! こんなに硬かったかな?
阿蘇山選手の剛腕にも一段と力が入る。
その時だった。
「パンっ!」という豪快な音とともに、堅パンが噛み切られた!
おっ、やっと噛めた。さすがに硬いな(笑)
小柄なわりに、なかなか手強かったな! あと、おいしいね
九州最重量級のプロレスラーをも唸らせるこの硬さ!
まさに、尋常ではない。 恐るべし、堅パン。
プロレスラーでも音を上げるほどの「堅パン」。その実力はいったいどのくらい?!
硬さの度合いを一人でも多くの読者に伝えるために、硬度計でその硬さを図ってみることにした。
比較用に準備したのは、一般的に「硬い」とされているこれらの食品。
かつお節を入れるかどうかは迷ったけど、普段口に入れる食品ってことで、このラインナップで十分なはず!
まずはアーモンドの硬さを測ってみた。
右手のレバーを少しずつ回すと、硬度を示すメモリの針がふれる仕組み。ちょっとずつ回して……。
ぶわっ! 割れた!
硬度計の数値は11.5kgf。(※kgf……重さ・力の単位)
この要領で他の食品も測ってみると
という結果に。
さて、肝心の「堅パン」はどうだ……?
レバーを回してみるが、なかなか手応えがない。
測定部はとっくに「堅パン」の表面に触れているけど、硬くてまったく割れる気配なし。
そのままレバーを回し続けた結果、なんと目盛りが1周(20kgf)してしまった!!
すごい!
さらに回し続けたところ、24.0kgfの目盛りを指した時に、「パンっ!」。勢いある音とともに、ついに堅パンが割れた!
さすが堅パン、割れ方も豪快で期待を裏切らない。他の食品と比較しても、圧倒的な硬さを誇ることがわかった。
さて、数値でもその硬さが証明された今、再び最初の疑問が浮かんでくる。
気になりすぎる。
というわけで、その謎を解くために「堅パン」の製造工場へ向かった。
編集部が向かったのは、北九州市八幡東区にある「堅パン」の製造工場。工場にメディアの取材が入るのは、なんと今回が初めて!
意気込む私たちを迎えてくれたのは、スマートな出で立ちの「堅パンマン」だった。
イベントや行事の時に登場する「堅パン」の公式キャラクター「堅パンマン」。くろがね堅パンの広報担当。
ようこそお越しくださいました。堅パンのことなら何でも聞いてください!
ではさっそく本題ですが、どうして「堅パン」はあんなに硬いんですか? なにかメリットはあるのでしょうか?
鋭いご質問ですね。それは堅パンが生まれた歴史に関係しています。
「堅パン」が生まれた正確な日付は記録に残っていませんが、約100年の歴史があるのは確かです。大正時代、官営八幡製鐵所(現・日本製鉄株式会社九州製鉄所八幡地区)で従業員の栄養補助のために作られたのが「くろがね堅パン」と「くろがね羊かん」でした。
働く人のための食べ物だったんですね。
大量に作って長く保存できるように、水分を極力少なくすると鉄のように硬くなるんです。作業着の胸ポケットに堅パンを差して、作業の合間にかじっていた製鉄マンもいたそうですよ。
胸ポケットに! なるほど。硬いワケは、保存性と携帯性に優れているからなんですね。 ぶっちゃけ、食べて、硬いと思わなかったんですか?
小さい頃から食べていますが、硬い、硬い。そりゃあ硬いですよ。
で、ですよね(笑)。
1枚食べ終わる頃には、あごが疲れきってましたから。今では昔以上に苦労しますが、何と言うか……やみつきになる硬さなんですよね。
いろんな人から「硬い」と言われて、正直どうですか?
私たちとしては「そうでしょ、硬いでしょ」とにっこりするだけですね。昔から堅かったので、どうしようもありません。前歯はダメですよ。しっかり奥歯で噛んでください。
注意して味わいます。
あるいは、ホットミルクやコーヒーに浸して食べてもいいですよ。
まさか堅パンマンから、やわらかくして食べる提案をもらえるなんて(笑)。
一応、パッケージにも書いてあります。紅茶でもおいしいですよ。
あまりにもシンプルな「堅パン」という商品名。「パン」と言えば普通はやわらかい印象だけど、なぜこの名前になったのだろう。堅パンマンいわく、確かな由来は不明とのことだった。
「堅パン」のパッケージを見てみると、商品名の下にあるキャッチコピーが記されている。
「堅パン」にぴったりの、胸に刺さる名コピー!
「健康はアゴから」。一度聞いたら忘れられないこの言葉、いったいどんな有名なコピーライターが考えたのか?
10年前か20年前か、いつ頃だったかな? 私が堅パン課に来る前ですが、工場に長く勤めていたベテラン社員が考えたと聞いています。
社員さんが! ぜひその方にも会って話を聞いてみたいのですが。
それが、すでに引退されているんですよ。
そうでしたか、残念です。
私もこのキャッチコピーあってこその「堅パン」だと思っています。これがないと、ただの硬い食べ物ですから……。
工場での調査をさらに進めた編集部。硬さのヒミツは、その製造工程でも明らかになった。
小麦粉や砂糖をミキシングして生地を作り、小分けして「寝かせ室」へ移します。
一晩寝かせて生地を平らにして(展圧)、生地を成形(リバース)する作業です。成形ラインでカットした後、生地をきれいに並べて加湿室でしばらく保存します。
オーブンに入れて加熱(焼成)します。設定温度は230℃。10数分加熱して取り出すと、堅パンのできあがりです!
粗熱を冷ました後、ラックから箱に落として冷却します。この「冷却」がポイントです!
特別に、焼きたての堅パンを味見させてもらった。
さっそく割ってみる。あれ、ちょっといつもと感触が違う。
食べてみると……。あれ?
焼きたての堅パンはやわらかいでしょう?
はい。焼きたてのクッキーみたいにしっとりとやわらかくて、ほろりと生地が崩れます。堅パンじゃないみたい!
熱々のうちはやわらかいのですが、冷却することで堅パンらしい硬さになるんですよ。
なるほど、硬さのヒミツは冷却だったのか!
冷却後は1枚ずつていねいに目視で検品して、袋詰めの作業へと移ります。
製造工程を見て驚いたのは、ほとんどの作業が人の手によって行われていること。この袋詰めの作業も、専用の機械を購入した2022年4月までは手作業だったそうだ。
袋詰めされた堅パンを、パッケージに問題がないかチェックした後、出荷用のケースへ。その後、全国のスーパーや販売店へ出荷されます。
硬さのヒミツがわかったところで、ぜひ今一度、堅パンを食べてみてほしい。
福岡での主な取り扱い店舗は「スピナ」や「西鉄ストア」「井筒屋」「サンリブ・マルショク」「ゆめマート・ゆめタウン」「イオン」「マックスバリュー」「ハローデイ」。その他のエリアでは「成城石井」、関西では「いかりスーパー」(大阪店)でも販売されている。
堅パンマン、おすすめの商品はありますか?
通常のラインナップのほか、スチール缶入りの「保存用くろがね堅パン」も販売しています。2011年の東日本大震災をきっかけに作られた商品で、日本製鉄株式会社の協力を得て製作した特製スチール缶に「くろがね堅パン」34袋が密封されています。
缶の上に座れるとは便利ですね!
非常時はこの中に水を入れて運ぶこともできます。
非常食としても大活躍なんですね。
今後新商品を発売予定です。インパクトある商品なので、ぜひお試しください!
「堅パン」を食べてみたら、ぜひSNSなどで感想を教えてください。
ハッシュタグは「#エヌカケル #堅パン」で!