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2025年春開業(仮称)新福岡
ビル再開発の裏側を探る!
開発担当者が語る天神の未来

2025年春開業(仮称)新福岡 ビル再開発の裏側を探る! 開発担当者が語る天神の未来

2025年春に開業予定の「(仮称)新福岡ビル」開発担当者にインタビュー。今後の計画や開発の裏側、まちづくりへの想いについて語ってもらった。

目次

  • 永井 伸 さん
    永井 伸 さん

    西日本鉄道株式会社
    天神開発本部 福ビル街区開発部 課長

    長年天神の街づくりに従事。現在は福ビル建替プロジェクトのオフィスリーシングやスカイロビー、ホテル計画を担当。

「福ビル街区建替プロジェクト」のはじまり

天神1丁目11番——。「(仮称)新福岡ビル」が建てられるのは、「明治通り」と「渡辺通り」が交差する天神地区の中心部。敷地面積約2,600坪、延べ床面積約44,000坪と広大な福岡の「顔」となる区画だ。

2025年春の開業を目指して開発プロジェクトを進めるにあたり、核となるのが「創造交差点」というコンセプト。多様な人々が行き交い、オンとオフが交わる場所を思い描いてつくられた、シンボリックなキャッチコピーでもある。

「天神ビッグバン」のなかでも大規模な再開発として注目される「福ビル街区建替プロジェクト」。プロジェクトは2008年、数名のチームからはじまった。

永井さん
永井さん

都市開発本部で本格的に動きはじめたのは2008年。先輩方と僕の数名で、どのように考えたら福ビルの建替や天神エリアの再開発が進むのか話し合うところからのスタートでした。そこから天神の再開発に向けた都市計画が進んでいきました。

天神都市開発の歴史

博多電気軌道の開通や「土地の三角交換」を経て

「(仮称)新福岡ビル」のコンセプト策定は、地区計画が策定された後の2015年から、1年目は「福岡まち革命」という呼び名で本格的にスタート。開発にあたり、まず開いたのは「勉強会」。天神というまちがどんな歴史を歩んできたのか、その足跡を知ることで未来が見えてくるのではとの考えからだった。
チームに分かれてそれぞれが調査した結果を発表し、情報を共有する。勉強会のメンバーは2016年には十数名と膨らみ、社内外へと広がっていく。

福岡城の城下町として発展した天神では、明治末期の1910年に路面電車を運営する福博電気軌道が開業。翌1911年に博多電気軌道が開通し、現在の「明治通り」と「渡辺通り」が交差する場所に「天神町」電停が設けられた。

博多電気軌道基本構想図(提供:益田啓一郎)※一部加工

1957年には、福岡ビルと福岡中央郵便局、福岡銀行本店が土地を交換する「三角交換」が決定。この実現に貢献したのが、のちの「We Love天神協議会」にもつながる「天神町発展会」だった。その後1961年の12月に福岡ビルが竣工。当時は「西日本一のデラックスビル」と呼ばれた。

天神はチャレンジマインドに満ちた都市

1966年には岩田屋と西鉄が共同出資で立ち上げた総合インテリアショップ『NIC』が登場。先進的なセンスが国内外で話題となり、1997年に閉店するまで地元の人々にも愛されるブランドであり続けた。

「福ビルの屋上にあった観光飛行用のヘリポートやインテリアショップ「NIC」といったチャレンジマインドに満ちた一面は、今後にも生かすべきアイデンティティだと確信しました」と永井さん。1970年代に入り「第一次天神流通戦争」以降は、ファッションや文化発信地として発展を続けていった。

永井さん
永井さん

天神の歴史を振り返ってみると、私財をなげうって「博多電気軌道」の開業に貢献した渡邉與八郎氏をはじめ、まちを愛する多くの偉人たちがイノベーションを起こしてきことが深く理解できました。
その土地が長い歴史の中で育んできた、都市としての記憶。その土着的なDNAを、僕たちは「Sence of Place」と呼んで多角的に分析を進めました。
「Sence of Place」を生かしながら都市としてステップアップし、天神のまちづくりのヒーローだった先達の想いを継承していけたら。これが僕たちの指針となり、共有すべき大切なマインドとなりました。

コンセプトの誕生まで

アメリカ・ポートランドへの視察

2000年代に突入すると、福岡は国内だけでなく海外の人々からも「住みたいまち」として評価されるなど人気になる。しかしその一方で、永井さんら開発に携わるメンバーは別の想いも抱えていたと言う。

永井さん
永井さん

学生時代によく遊んでいた親不孝通り界隈や大名を含む天神エリアが、昔ほど「楽しい」と思えなくなった気がしていました。機能的、合理的なまちになりすぎて、何かが起こりそうなカオスな雰囲気が薄れてしまった。そんな危機感を、開発の期待感の裏側で感じていたのです。

この時とても参考になったのが、メンバーの有志で集まって視察に出かけた、アメリカのオレゴン州にあるポートランドのまちづくりです。「全米で最も住みたいまち」と評されるだけあって、エコロジカルでクリエイティブ。多くの点で刺激を受けましたね。

  • ポートランドの風景
永井さん
永井さん

なかでも僕たちが刺激を受けたのは、「Keep Portland Weird(ずっと変わり者のままでいよう)」という街全体のスローガンと、地元の生産者やブランドを大切にする「ローカルファースト」の考え方です。住民の暮らしを最優先し、自分たちが楽しめるライフスタイルを誇りとしている点こそ、ポートランドが世界中の人々からも支持されているいちばんの理由だと実感しました。

「『ローカルファースト』を貫くポートランドのように、天神もどこの都市にもあるお店ばかりにはしたくないし、僕たち住民が住んで楽しいまちにしたい」と、チーム全体でいっそう強く誓いました。

福岡人のDNAと天神の魅力

ポートランド以外に、ニューヨークや香港、上海、台北といった都市も視察しながら、世界の都市の成り立ちを目の当たりにした永井さん。視察先での経験をもとに、これからの天神の姿を考えていった。

永井さん
永井さん

天神はコンパクトで程よい規模の都市。「働く」「住む」「遊ぶ」のすべてが近く、仕事もプライベートも充実できるQOLの高さで人気となり、それが郷土愛につながっています。また、「アジアに近い」という地理的特徴があり、「新しいもの好きでおせっかい」という福岡人のDNAがあると思います(笑)

歴史を含めてまちの特性を分析し、都市としての「強み」を整理する。こうした積み重ねを経て、天神の未来図はより具体的になっていく。

オンとオフが交わる場所「天神交差点」

2016年4月からは、業界の第一線で活躍する福岡出身のクリエイターを交えて「福岡らしさ」について徹底的に議論をはじめる。その結果、「働く」と「暮らす」が近い福岡の特色を生かし、「(仮称)新福岡ビル」はオンとオフの境界をあいまいにしたシームレスな空間であるべきだという結論に至る。

永井さん
永井さん

オンとオフがグラデーションとなってつながり、さまざまな人が行き交うことで発想や出会いが生まれます。働くことと暮らすこと。福岡とアジア。多様なヒトとモノの偶発的な交わりが「創造」をもたらすという考えから、「創造交差点」というコンセプトに決まりました。

膨大な時間をかけて生まれた「創造交差点」というコンセプト。そこに至るまでの道のりは、決して平坦ではなかったはずだ。

永井さん
永井さん

「大きな壁に直面した」という思いはありませんが、議論に時間を掛けたのは、コンセプトが決まる直前のタイミングです。当初はクリエイターの方々との議論で「ビジネス・ネイバーフッド」というコンセプト案が出てきて、そのつもりで走っていたのですが、僕たちの中ではなんとなく引っかかるものがありました。

西鉄は地元の多くの人々の生活に関係する、いわば「パブリックな会社」です。そのことから、僕たち西鉄で働く人間には「まちに暮らすたくさんの人びとの役に立ちたい。」という思いが浸透しているんです。だから、ビジネスパーソンだけではなく、すべての人のためのコンセプトでありたい。そんな思いを持ってみんなでしっかりと議論を交わし、「創造交差点」というコンセプトが生まれました。

「大変なこともありましたが、楽しさのほうが大きい」と笑顔で語る永井さん。その明るい表情には、「(仮称)新福岡ビル」が中心となる『新しい天神』への期待感があふれていた。

(仮称)新福岡ビルの全貌

デザインパートナーは世界トップクラスの建築設計事務所「KPF」

「創造交差点」のコンセプトが決まった後、2018年に外装デザインを決める国際コンペティションを開催。デザインを担当することになったのは、アメリカ・ニューヨークに拠点を持つ「Kohn Pedersen Fox Associates(KPF)」。超高層建築の第一人者として世界的に評価される大手建築設計事務所だった。

デザイン

コンペティションの主な評価基準は、①コンセプトの具現化、②市民に愛され、経年と共に価値が上がるデザイン、③都市の街並み、環境、歴史に根差したデザイン。KPFはそのすべてにおいて最も高く評価された。

ビルは地上19階、地下4階。明治通りと渡辺通りに寄り添うような外壁と、自然光を採り込む開放的なファサードが印象的だ。グリッド部分の鉄の素材感は、西鉄が鉄道会社であることからインスピレーションを得た。ホテルゾーンにあたる上層階に木を取り入れたアーバンルーフを設置することで、建物全体の統一感を演出する役目も果たしている。

永井さん
永井さん

西鉄福岡(天神)駅で電車を降りると、車やバスが走る渡辺通りのにぎわいを感じる。横断歩道を渡ってビルに入り、スカイロビーまで上がると、ビジネスパーソンや買い物客がそれぞれの時間を過ごす光景が広がって、カフェからはコーヒーの香りが漂ってくる。KPFの設計・デザインから、そんな未来の光景を思い描くことができました。

フロア構成

デザインの目玉は、天神交差点を一望する九州最大の「スカイロビー」。その上階には、1フロア1,400坪と西日本最大規模の広さを有するハイスペックオフィスが入居。18・19階はホテルゾーン、地下2階から5階はショッピングゾーンとなっている。

スカイロビー

永井さん
永井さん

2009年に天神明治通りエリアで掲げたビジョンは「アジアで最も創造的なビジネス街」をつくることでした。しかし、スペックだけが優れたビジネス都市になるのは絶対に避けたい。お店や文化的な施設も共存する「働きたいまち」にすることが重要だと僕たちは考えていました。ビジネスパーソンも地元住民も観光客も。さまざまな人が行き交う“まちの共用部”が新しいビルには必要だ。そうした思いから6・7階の「スカイロビー」が生まれました。

■スカイロビー <6・7階>
多様な人・モノ・情報が行き交う「創造交差点」のシンボル。打ち合わせができるラウンジ空間やカフェ、コワーキングスペースを配置し、人々が自由に行き来できる設計が採用されている。緑を感じ、開放感あふれる新しい複合ワークプレイスだ。現在、世界トップクラスのイノベーションキャンパスを運営しているCICと検討を進めている。

  • 6-7F スカイロビー イメージ
  • 6-7F スカイロビー イメージ
  • 6F 多目的ホール イメージ ©Hiroshi Nakamura & NAP
  • 7F イノベーションキャンパス イメージ
  • 7F イノベーションキャンパス イメージ
  • 7F イノベーションキャンパス イメージ

<7階>
●イノベーションキャンパス(プライベートオフィス・コワーキングスペース・会議室・アメニティスペース) ●ウェルネスルーム(ジム・シャワーなど)


<6階>
●パブリック(コワーキング)スペース ●カンファレンス(大ホール・小ホール) ●バンケット ●コンビニ ●カフェ

オフィスゾーン

■オフィス <8~17階>
西日本最大規模である1フロア1,400坪、国内最高水準である3メートルの天井高。外気を取り入れることのできるダブルスキンを採用する。

環境に配慮した最先端のテクノロジーを導入することによって、DBJ Green Building認証のプラン認証で最高位のファイブスター、国際的な環境認証であるLEEDの予備認証でGOLDを取得。いずれも九州の賃貸オフィスでは初。

  • オフィスEVホール イメージ
  • オフィスインテリア イメージ

商業エリア

まちの人々や観光客を取り込むのは、地下2階から5階の「ショッピングゾーン」。あえてビジネスと商業が共存する道を選んだことが、「福岡らしさ」につながるはずだ。

永井さん
永井さん

商業スペースは福岡に暮らす人々が最も行き来することになる場所。地元に暮らす一人として、にぎわいの場をつくることを第一に考えました。ECで何でも買える時代、また移り変わりの激しい時代、この場所だからできることは何だろう。

目指すゴールは、日常の生活をもっとクリエイティブにすること。気軽に立ち寄れて、居心地がいい。新しい発見やアイデアが生まれるスペースにしたいと考えました。

■ショッピングゾーン <地下2階~地上5階>
福岡やアジアのテイストを取り入れた、文化とカルチャーの発信地。食の都・福岡ならではのフードゾーンや新業態、旗艦店などが登場予定。

宿泊者交流型のライフスタイルホテル

18・19階のホテルの運営を担当するのは、国内外で宿泊施設を運営する「Plan・Do・See(プランドゥシー)」。内装デザインは、ウェスティン都ホテル京都の数寄屋風別館「佳水園」(京都府・東山区)の改修や、2022年1月に開業したレイクビューリゾート「界 ポロト」(北海道・白老温泉)などの仕事で知られる「NAP建築設計事務所」が担当する。

  • ロビー ©Hiroshi Nakamura & NAP
  • オールデイダイニング ©Hiroshi Nakamura & NAP
  • ルーフトップバー ©Hiroshi Nakamura & NAP
  • シェフズスタジオ ©Hiroshi Nakamura & NAP
永井さん
永井さん

「Plan・Do・See」は都市の特徴を生かした空間づくりで多くの実績があり、高い評価を得ています。内装デザインに中村拓志氏率いる「NAP建築設計事務所」を選んだ決め手は、まちと人に寄り添う姿勢と想いに共感したからでした。
ホテルは究極の「オフ」の場所でもありますが、いかにリアルな体験ができるかが重要だと思っています。まちの空気やライフスタイルを体感でき、記憶に残る空間を目指しました。

和の要素をデザインに取り入れた客室は全室バルコニー付き。窓を開けて外に出たら、爽やかな風が舞い込んでくる。まちの雰囲気を五感で感じていただきたいですね。

  • 客室書斎 ©Hiroshi Nakamura & NAP
  • 客室寝室 ©Hiroshi Nakamura & NAP

■ホテルゾーン <18・19階>
人と人との出会いや交流といった体験そのものが、ホテルを訪れる目的となるハイクオリティなライフスタイルホテル。外気浴のできるテラス付サウナや中庭に面したスパ、ラウンジのほか、博多湾の眺望が広がるレストランも併設する。

「(仮称)新福岡ビル」は現在建設中で、今年度内に地下工事が完了。2024年12月に竣工予定で、2025年春に開業する計画だ。商業ゾーンのリーシングやオフィスゾーンのテナント情報などは今後も「エヌカケル」で発信予定なので、引き続きお楽しみに!

◆「福岡ビル」について詳しい歴史は「福ビル街区建替プロジェクト」ホームページにて公開中(https://www.nishitetsu.co.jp/new_fukubiru/

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